席替え
今日から5月が始まる、高校2年の5月だ。今日は俺の学園生活の全てを決めると言っても過言ではない。
いや過言すぎた。来月の6月までの学園生活をかけた勝負の日、そう、「席替え」の日だ。
ある者は好意を抱いている子の隣を取ろうと、ある者は仲のいい友達で集まりたいと、ある者は居眠りしても気づかれにくい後ろにいきたいと願い、黒板に書かれた席とそれに当てられた数字を凝視し、くじを引いていく。
黒板には、数字が書かれた6×6の36個の四角と1番上に教卓と書かれた四角があった。席の1列目の左、窓際から順に廊下側の右へと1〜6を振り分け、同じように2列目の左から順に7〜12と割り振られ、全部で6列あり36まで書いてある。つまり一番後ろの窓際は31である。
俺の狙いはこの「31」だ。なぜならなんかかっこいいからだ。一番後ろに座り、クラス全体を眺め、時に窓の外を見る。おれの日常は繰り返しでつまらないなどと達観する。痛いやつ?そうおれは痛いやつなんだ。でも表に出すことはない。むっつりスケベの痛いバージョンだ。そしてむっつりスケベでもある。この世に人の心を読むことができる人間がいれば俺は捕まっているかもしれない。
まぁそれは冗談として、一番後ろの窓側は人とのふれあいが一番少ないと言える。それを何で好むかって?そう、俺には友達という友達がいない。友達の作り方を忘れてしまったのかもしれない。中学生の時は無意識にあんなに簡単にできていた友達がこんなに難しいと思わなかった。友達を1人でも作ればあとは芋づる式でできていくのかもしれないが、その1人目がなかなか作れない。まぁ、友達がいないのは高校1年生の時のあの出来事も関係しているのだが。しかし、俺は決してイジメられてはいない、嫌われてはいない。「孤高の狼」なのだ。
そろそろ俺がくじを引く番だ。4月に名簿の順番で配置された今の席、黒板に書いてある数字で言う「8」の席を立って教卓へ向かう。かなり序盤で回ってきたため、俺の狙っている31番はまだ出ていない。
教卓の上に、数字がかかれているだろう何回も折り曲げられた紙がばらまかれていて20個以上ある。
パッと目についた紙を取った。
(これだ!!)
折り曲げられた紙をゆっくり開いていく。こういうのはすぐ開けるとがっついているみたいで恥ずかしい。
席なんてどこでもいいような顔で余裕を持って開く。しかし心が焦っているのが俺にはわかる。どんな折り曲げ方をしたのか、左の数、10の位の数字だけが先に見えた。
3だ!!
「さ、さんじゅう、、」
声に出ていた。一度息を吸う。
目は3の数字の右側を離さずに、持病のドライアイなど忘れてじっと見ている。
そしてついに俺の5月の行方が決まる。
6
「36!!!」
36の席は
一番後ろの廊下側、ドアが開いて人が入ってくるたびにビクビクしなきゃいけない「狼殺し」の席だ。