ここから
全体的に薄暗いイメージで進みます。
部屋を明るくして離れてみてね。
さて、ここで昔話をしよう。
あるところに壮大な山々に囲まれた、小さくも美しい国があった。
そのほとんどが緑でおおわれており、レンガ調の街並みと調和のとれた景観をしている。
レッヒェルンというその国では資源が豊富で、特に国境にある鉱山からとれる宝石などを使用した装飾品の製造がたいへん盛んであった。
そんなこの国を当時治めていたのはゴルドラン15世陛下といい、歴代でも1,2を争うほどの鬼才だ。
近隣の国との紛争が一区切りついたころ、年頃を過ぎてもいまだ独り身であった陛下が隣国へ訪問した際に
夜会で出会った姫に一目惚れをし、猛アピールの末彼女を正妃へと迎え入れたというのは有名な話だ。
陛下が正妃へと迎えた姫はたいそう美しく心優しい人物であったがそれと同時に
病弱で、陛下の世継ぎを産むどころか妊娠することすら難しい状況であったため、
陛下は彼女の命には代えられないと、新しく2人の貴族の令嬢を娶り子供を作る。
2人の王妃はほとんど同時に男児を産んだため、王位継承の第一位は第二王妃との間の息子が持つこととなった。
生まれた二人の王子たちは王族が受け継ぐと言われている金の瞳をそれぞれ右目に持って生まれた。
それから5年ほど経ったある日、正妃の懐妊の報告が全国へと発信された。
陛下はたいそう喜んでおり、さっそく第二王妃、第三王妃との関係を白紙に戻すことを決めた。
二人の王妃も事前に了承済みであったのとそれぞれがさっぱりした性格であったため問題なく離縁となった。
幼かった二人の子供はよくわからないままの別れとなったためそこだけ、少しのトラブルがあったが
城にはまた、昔のように陛下と正妃、そしておなかの子供とで暮らすようになった。
順調に何事も進んでいたはずだった。
ある日正妃が食事中に突然倒れるという事件が起きる。
理由はもともと体が弱かったところでの妊娠による大きな負担。
医者は、母体のためを思い子供の中絶を進めてきたが、正妃は泣きながらそれを拒絶した。
陛下は日に日に弱ってゆく正妃を見てとても心を痛め、何かいい方法はないのかと必死で探し
とうとうとある一族までたどり着く。
その一族は不思議な力があり、どの様な怪我や病気もその力で治すことができるというのだ。
陛下はすがる思いで自らその者たちの土地を訪れ、正妃を助けてほしいと頭を下げた。
しかし、一族の長である者は重々しく首を横に振るばかり
正妃とお子、どちらかしか助けることはできない、そして呪い(まじない)をしても本当に助かるという保証はどこにもない。
そういった内容だった。
正妃はその話を聞いて静かに笑うと優しく大きく膨らんだおなかにそっと手を当てた。
数か月後、王城の一室で一つの元気な産声と、悲しみに満ちた泣き声が響きわたった。
そして時期を同じくして、一つの集落がこの国から姿を消した。
ひっそりと、誰にも知られることのなく。
ーーーーーーーーーー
馬の嘶きと蹄の音が軽快に森へ響く。
栗毛の輝く馬が、緑の生い茂る木々の間を一匹の狐を追いながら颯爽と駆けぬけ
その背に乗る人物のプラチナの髪が揺れて太陽の輝きを美しくまとっている。
軽い抜けるような発射音とともに鋭利な矢が狐すれすれで地面へと突き刺さった。
そのまま狐は高く茂みを飛び越えどこかへ去ってしまう。
艶やかなその唇から細く息を吐きだすと、馬首を翻し森を抜けた。
森を抜けると草原が広がり、その先に大きな屋敷が見える。
草原を区切る柵の程近くに木製の大きなベンチがあり、そこには一人の青年が腰掛け読書をしていた。
馬を近くまで走らせ、馬上から青年に声をかける。
「アル、アルバート!」
その声は流水のように涼やかに耳に届いた。
安全のための帽子を脱ぎ捨てたその馬上の人物は、それはとても美しい容姿をした女性であった。
長いまつ毛がくるりと宝石のように美しく赤の輝きを放つ大きな瞳を囲い
つやつやとした唇の口角を緩やかにあげ青年へ微笑みかける。
アルバートと呼ばれた青年はゆるりと顔をあげると、女性とよく似た美しい相貌があらわになる。
しかしその瞳は彼女とは違い、サファイアのように神秘的な青の輝きを放っている。
「姉さま、落ち着いて。私は逃げませんから馬を小屋へ」
そっと本を閉じながら立ち上がり、屋敷に向かって声をかけやってきた従者へと馬を預ける。
白髪を緩く撫でつけた初老の執事はやれやれと首を振りながらぽつぽつと小言を漏らす。
「エレーナお嬢様、少々おてんばがすぎます。そのままではいつまでも社交でよい殿方と巡り合えません…ああ、お嬢様が婚期を逃されたらわたくしは…わたくしは…うう」
ちらりとこちらを窺いながら泣きまねをする執事に女性…エレーナは苦笑を漏らしながら肩をすくめアルバートのエスコートでベンチへと腰掛ける。
その動きは先ほどまで軽快に馬を走らせていたものとは違い、女性らしくしなやかなものだ。
「心配しないでルベルト、いつかはね、いつかは」
ひょいと肩をすくめて首を振る。
執事はそんなエレーナの仕草に、やれやれとため息を吐いてまたどこかへと下がっていった。
それを見送り、さっとアルバートの手を握ると、彼の持っていた本が軽い音を立て芝生の上に落ちる。
「聞いてちょうだいアル、ああ、今行われているウェルトン伯の社交なのだけれども、今晩の舞踏会へ一緒についてきてほしいの」
「舞踏会?姉さまが率先していこうだなんて一体どうしたのですか」
落ち着きなく手を上下に揺らしながら提案をするエレーナはさっと頬を赤に染めうつむいてしまった。
そんな彼女の様子を見たアルバートはきょとりと目を瞬かせて首をかしげる。
「もしかして、彼が参加されるのですか?」
「そう、そうなの…ウェルトン伯にどうしてもとせがまれたそうよ。だから、私居ても立っても居られなくて…」
赤くなった頬を両手で包み込みながら瞳を伏せる彼女はどこからどう見ても恋をする乙女で
アルバートはそっと微笑みを浮かべた。
「たしか書斎に伯からの招待状があったと思うから、今から返事を送ることにしますね。ダンスの相手の名前は自分で書きますか?」
「もう、アルったらいじわるだわ…。ええ、私が自分で書くわ」
ぷくりと愛らしく頬を膨らませるがすぐに破顔し、満面の笑顔になる。
幸せそうな姉の様子に自信もあたたかな気持ちになりながら、招待状に参加の旨を記入するため
二人は仲睦まじく屋敷へと向かった。
----------
きらきらとろうそくの明かりを包み込むのは豪奢な細工が施された美しいガラスのランプで、
その輝きに負けずとも劣らない美しい飾り立ての会場にはすでに大勢の紳士や淑女が集っていた。
それぞれが自分を一番美しく見せる衣装に身を包み、目当てとなる相手との会話に花を咲かせている。
大きなガラス張りの窓のそばにエレーナとアルバートはいた。
エレーナは鎖骨が大きく開いた淡い赤色のドレスで、その胸元にはシルバーを基調としたネックレスがあり、
中心には小ぶりのヴァイオッレトサファイアがあしらわれており白い肌を一層美しく見せていた。
アルバートも彼を連想させる青を多く使用した衣装で、ところどころに金色の細かな刺繍が輝いている。
その二人の現実離れした美しさに周囲の者はなかなか近づくことができずにいた。
「そろそろ主催のウェルトン伯が来られるけれど、『彼』はまだのようね…」
そわそわとエレーナは視線を巡らせるが、目当ての人物が見当たらず不安げな表情で
そっとネックレスの宝石へと触れる。
そんな姉の様子に暖かい瞳を向け、アルバートはざわめきだす会場の入り口へと視線を向けた。
「そうでもないみたいですよ姉さま」
新たな参加者が数名、会場へと入ってきたようだ。
最初に姿を現したのはギラギラと輝く宝石をドレスいっぱいに散りばめ、豊満な肉体を惜しげもなくさらしながら歩く女性。
彼女は真っ赤に彩られた唇を突き出し会場の視線を一身に浴びている。
それなりの年齢であるのに舞踏会を楽しむために一向に結婚をしないことでとても有名な遊び人のマダムだ。
「リヴァルティー婦人は相変わらず輝いてらっしゃるね」
アルバートとエレーナは顔を見合わせ笑いあう。
その笑顔は二人とも年相応の愛らしいものだ。
ふと、彼女の陰から見えた姿にエレーナの瞳が輝く。
その人物は自身を囲む人々へ挨拶をしており、こちらに気付いていないようだ。
黒の髪を軽く後ろへと撫で付け、右目には銀の刺繡が施された黒革の眼帯、それに合わせて衣装も黒を中心にコーディネートされている。
眼帯をしているものの、整った甘い容姿をしており、彼を囲む人の壁も女性が多いように見える。
その様子を見てアルバートは心配になりそっとエレーナの様子を窺った。
しかしエレーナは彼がどんなに女性に囲まれていようと気にしたそぶりもなくただ熱を持ったうるんだ瞳で見つめている。
「姉さま、彼に挨拶をしに行きましょう」
まさに、恋は盲目だ。
苦笑しながらそっと手を差し出すと、エレーナは満面の笑みでうなづきその手を取る。
二人が歩きだすと自然と人垣が割れ、道ができた。
ゆっくりと目的の人物の近くまで行くと彼もこちらへ気づき、お互いに歩み寄る。
「ああ、彼は近々国王よりドルイドの城主を任されるとのもっぱらの噂よ」
「きゃあ、どうしましょう、まだご結婚されていないのが本当にもったいないわ」
そんな噂話が遠くに聞こえる中、ようやく対面することができた。
彼は手をつないで歩み寄ってくる姉弟をまぶしそうに瞳を細めて迎えてくれた。
「やあ、アルバート、エレーナ…会えてうれしいよ。二人はいつも美しいけど今日は一段とまぶしく見える。エレーナ、とても似合ってる」
「ふふ、ありがとう、あなたもとても素敵。私も会えてうれしいわ…」
「ヴィオル、あなたが眼帯をつけているのを初めてみました。とても似合っています」
ヴィオルは少しだけ照れたようにアルバートと握手を交わし、エレーナの手を取りその指先にキスをおとした。
三人の談笑する姿が一つの絵画のように美しく、その周囲には一定の距離を保って人垣ができ、彼らの再会を暖かく見守っていた。
「ところでエレーナ、君のお目当てはどなたかな?私が取り次いであげよう」
「まあ、…わかっているくせに…」
少々意地の悪い表情でのぞき込むヴィオルに、頬を赤らめたエレーナはサッとアルバートの背後へと隠れてしまう。
「ヴィオル、姉をからかうのはやめてください」
アルバートがくすくすと笑いながらそっとたしなめると、ヴィオルもくすくすと笑い、軽く服装を整えて姿勢を正す。
そっと身をかがめながら、アルバートの陰に隠れてしまったエレーナと視線を合わせるとその腕を差し出した。
「私と踊っていただけませんか」
ざわざわと周囲が歓喜と羨望に満ちた声であふれる中、エレーナは彼の腕に自分の腕を絡めて微笑みかける。
「喜んでお受けいたします」
いつの間にかウェルトン伯の挨拶が終わっていたようでタイミングよく音楽隊による演奏が開始された。
二人は会場の中央、ダンスエリアまで移動するとお互いを見つめ合いながら踊り始める。
その瞳はお互いに思う気持ちがこれでもかというほどあふれておりアルバートはそっと肩をすくめ
ため息を吐いた。
「やれやれ、二人ともあれで隠しているつもりなのかな」
あきれたように、だがどこか羨ましそうに秘密の恋人たちを見守るアルバートのそばに一人の女性が近づいてくる。
「お一人でしたらわたくしと一曲いかがですか?」
「えっ…」
驚いてそちらを見るとリヴァルティー婦人が扇で口元を指しながらウィンクをしていた。
テラテラと輝く唇が生々しく突き出されている。
瞬間、サッと青ざめさせたアルバートは、片頬を引きつらせながらも返答をする。
「え、遠慮します…」
----------
「ヴィオルと少し夜風にあたりながら歩いて帰るわ」
そんなエレーナの言葉でアルバートは一人馬車で館まで帰ってきた。
ヴィオルは領主にもなれるほどの実力を持っているので、ごろつきなどに襲われたらなどといった心配はしていない。
むしろ自分と帰るよりも安全だろうと快く姉を任せることができた。
遅い時間であるため使用人はみんな寝静まっており、お付きでともに舞踏会に行っていたルベルトのみが、主の衣装の着替えを手伝っていた。
「お嬢様はご自身が未婚の身であることをもっと自覚していただかなくては…」
「ふふ、ルベルト、そんなに感情的になるとまた知恵熱が出るよ。それに姉さまもちゃんとその辺りはわかっているからもう少し待ってあげてほしいな」
そわそわと落ち着かない様子で窓の外を気にするルベルトは薄々は察しているだろうが、二人の関係を明かしているわけではない。
そんな心配性な彼をたしなめながら自分も窓の外を眺める。
ろうそくのあたたかな明かりの隙間から、うっすらと室内を照らす月の光が青白く窓を縁取っている。
その光景をまぶしそうに瞳を細めながら見つめていたが、瞼を閉じ息を吐きだした。
「ルベルト、あとは一人で着替えるよ」
「よろしいのですか?」
「大丈夫、あまりにも月が美しいから少しだけピアノが弾きたい気分なんだ」
そういってルベルトを退室させると、部屋のろうそくを消した。
すると室内は月明かりのみで照らされ、全体が青白くうっすらと浮かび上がる。
ピアノの周囲だけがレースカーテンの隙間から直接斜光に照らされており、幻想的な雰囲気を作り上げている。
椅子に座り一音だけ弾くと、高く、澄んだ音が部屋に響く。
そのまま、瞳を閉じて一心不乱にピアノを奏で始めた。
流れ出した曲は高音でどこか不安に駆られるような旋律、しかし美しい音の羅列が聞く者の心をつかんで離さない。
しかし残念なことに、この場にはアルバートひとりしかいない。
いっそ病的にまで白く美しい顔に流れる汗をそのままにただひたすらに盤をたたいた。
高い位置にくくっている髪が彼の動きに合わせて波打ち、時にその顔にかかるも、何も感じていないかのように無心で音楽の世界にのめりこんでいった。
時折薄く開くその瞳からは透明なしずくがゆっくりとひとつぶ、ひとつぶと流れ落ちていく。
曲の終わりの音が音楽の余韻を残す部屋に静かに響いた。
少しの息切れ、小さな呼吸を一つしていまだ流れ落ちるそのしずくをぬぐうと。どこからか拍手の音が聞こえてきた。
「誰だ!」
椅子を引くことを忘れ荒々しく立ち上がると、大きな音を立て椅子が倒れたがそれどころではない。
月明かりだけになっている部屋の中、窓のそばのカーテンが風にあおられ一人の人物が佇んでいることに気付いた。
陰となっている壁から月光のもとに現れたのは笑顔の男。
黒い癖のある髪が風に揺られて、その隙間からのぞく瞳は赤と金のオッドアイ、どことなくけだるげな雰囲気が男の色気を倍増させている、まさに美丈夫だ。
その笑顔は無邪気といってもいいほど明るいものだったが、その目はアルバートを見下していてとても冷たい。
男はことさら明るい声でアルバートに問いかけた。
「やあ、はじめましてエーストリス家の若き当主、アルバート様。ご機嫌いかがですか?
わたくしごとで申し訳ありません、あなたの『世界と色』を、私にください」
「…え」
一瞬だった。
最後に見たのは目の前まで迫ってきた輝く男の指、そしてその奥で輝く歓喜に歪むオッドアイ。
激痛とともに訪れたのは長い長い暗闇の世界。
「あっあああああぁぁぁぁあああぁあぁああ!!!!」
-----------
どこまでも澄み渡る青空に真っ白に輝く太陽。
しかしその路地はそんな太陽の光も届いておらず、薄暗くじっとりとした空気を醸し出している。
そんな空気の中、その男は軽快な足取りで入り組んだ道を歩く。
片手はポケットの中へ、もう片方の手には大きな革のアタッシュケースを持っており、
それはとても使い込まれていることが一目でわかるほどしっくりとその手になじんでいる。
靴底が石畳を蹴る音だけがその空間に響いていたが、目的の場所についたのかその音がやんだ。
いくつかある家の裏戸とは違い、そのブラックブラウンの木でできた扉にはOPENの掛札が無造作に取り付けられ
扉の中央に取り付けられた小窓からはオレンジの明かりが漏れ出している。
さびた金色の取っ手を黒革に包まれた枝のような手がゆっくりと開けた。
扉を開いたとたんにふわりと金木犀の香りが鼻腔をくすぐる。
中はこじんまりとしていて、商品棚には数々の宝石が無造作にディスプレイしてある。
ろうそくの頼りない光をゆらゆらと反射させる宝石たちはどれも肌が粟立つほどに妖しい美しさをしていた。
そんな宝石には見向きもせずに窓際の豪奢な椅子に腰かける人物へと歩み寄る。
クリーム色の絹のような髪を背に流し、病的なほど真っ白な顔の中、その唇だけがうっすらと赤みを帯び
潤んでおり、やけに色香を放っている。
一見少女のようだが、首には喉仏があり、しっかりと男性であることがうかがえる。
そんな少年に歩み寄った男はゆっくりと口角をあげ、その手を口元へと運び指先にキスをする。
「ただいま。いい子にしていたか?」
「子供ではないと何度言えばわかる…。」
手を男から引き抜くとハンカチで拭い、ため息を吐く。
その動きは幼い容姿とは違ってやけに大人びている。
「…今度はどこへ行っていた?ディラン…」
少しだけ低くなった声に男、ディランはひょいと肩をすくめ少年の隣にあった木の椅子へと腰掛けた。
その細長い足を組み手袋を外しながらくつくつと喉の奥で笑う。
「どこへも行きやしないさ、ちょっと良いカモがいたんで宝石を売ってきたまでだ」
「その言い方はよせ…たとえカモだろうが客は客だ、金が出るうちは丁重にもてなせ」
「おお。こわいわい…くくっ」
少年は瞳を閉じたまま卓上にあるいくつかの宝石に手をかざし始める。
男性というにはあまりにも細く、女性というには少し節の目立つ傷一つない指が
まるで性行為を思わせるような妖しげな動きで宝石一つ一つを丁寧になぞっていく。
ディランは、組んだ足の膝に頬杖をつきその様子をつまらなそうに見ている。
やがて、一つの宝石の上でその指先が止まった。
そして少年は小さく眉間にしわを寄せると、静かに深呼吸をした。
「…ハーウェスト家の次男、エーストリス家の長男…どちらも少なからず王宮とかかわりがあり医学に通ずる家庭の息子か…。お前も諦めが悪いな…」
「お前に再び光を取り戻させるためならなんだってするさ。あいにく、あきらめるという言葉を知らないもんでね」
少しだけ傷ついた顔をする少年の手を引き、自身の腕の中に閉じ込める。
ほっそりした体を抱きしめながら、そのつむじに唇を当て、震えるように息を吐く。
骨がきしむほど強く抱きしめられ、少年はディランの肩でそっと瞳を開けた。
何も映さないこの世界でお前の存在だけがはっきりと見える。
地道に更新できたらと思っております。
応援よろしくお願いします。




