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5-6 ジギルとテツヤの心配

 フラット領フラット海岸防衛戦の中盤は中央の戦いであった。ヴァレンタイン軍右翼が快進撃を続ける中、左翼は防御態勢を取り耐え続けている。宰相ジギル=シルフィードはタイウィーン=エジンバラの戦術を正確に読み取り、エレメント軍の包囲網を完成させるつもりでいた。それを遂行するには一つの障害がある。エレメント軍主力中央の将軍ゼロ率いる第1混成魔人部隊精鋭の撃破が必須であった。


「魔王は義理の息子に任せて、私は魔人族の将軍で我慢することにしましょう。実は趣味なんですよ、将軍討ち取るのが。」

 マジシャンオブアイス・ロラン=ファブニール。先のエレメント軍侵攻の際にニルヴァーナ=クリスタルを討ち取った人類最強の氷魔法の達人である。彼の率いるアイシクルランスはシルフィード騎士団の布陣の中に散開した形で配備されている。この不規則なアイシクルランスの配備にも混乱をきたさないのがジギル=シルフィードが鍛えに鍛え上げたシルフィード騎士団であり、そのアイシクルランスの得意戦法が一極集中型の氷魔法攻撃「氷の雨」である。

 数人が一塊で騎士団の各所からある一点のみに攻撃を集中させる。むしろ平地での戦いよりもゲリラ戦を得意とするのがアイシクルランスだ。今回は6か所に配備させた彼らが、6方向から氷魔法を打ち続ける。その威力は人類最強騎士団の呼び名にふさわしいものであり、6本の氷の線が交差する「死の点」、この標的を最初に位置づけるのがロラン=ファブニールの「氷の槍」だ。この攻撃が成功するとそこ目がけて「氷の雨」が炸裂するようになっているのに、初撃で死ぬ敵が多い。空を切る「氷の雨」、しかし誰もそれには突っ込まない。


「あれはいつ見ても槍じゃないと思うんだが。どっちかというと氷山とかが正確な表現だと思う。」

ビューリング=ブックヤードは第5部隊とともにレイクサイド獣人騎士団を率いて遊撃隊として待機中だった。ここにはもちろんヘテロ=オーケストラもいる。レイクサイド騎士団団長の「破壊の申し子」シルキットはシルフィード騎士団とともに最前線だ。

「ロラン様も十分な規格外ッスからね。」

「昔、ハルキが同じ魔法を使ったことがあったな。あれはどっちかというとトゲで間違いないと思ったが。」

「ハルキ様は召喚ができればいいッス。他はむしろダメダメッスから、皆がついて行くんスよ。」

「確かに、そうだな。」


 主力同士の激突は激しいものだった。たまに「氷の雨」が戦場を走る中、前線では防御を得意とする魔人族の部隊が中心になって防御態勢を取っている。中央はこちらが撃滅せねばならないために突撃が敢行された。さすがに防御態勢の部隊を突破するのは難しいかに思えたが、ある一点が崩れ始める。

「フレイムレイン!」

シルキットの多方面炎系爆発魔法が魔人族の一画をえぐり取った。魔王アルキメデスに押されたとはいえ、単独で魔王とやりあえたのは実はシルキットとリリス、コキュートスしかいない。後者2名はもちろん召喚獣だ。

「深く突き進めぇ!」

周囲の魔人族が次々と爆発していく中、フランやマクダレイが斬りこむ。それに続いてレイクサイド騎士団が楔を打つように魔人族の陣営に食い込んだ。


「はははっ、レイクサイドの召喚できない方もやりおるわ!」

ジギルに随分と失礼な名称で呼ばれたレイクサイド騎士団たちであったが、この数年で飛躍的に実力は増している。

「「レイクサイド!レイクサイド!レイクサイド!」」

中央軍の反対側はアイシクルランスの「氷の雨」が集中的に走り、ほぼ崩壊寸前となっていた。

「いまだ!突撃せよ!」

ジギルの号令で中央軍が突撃を開始する。それを合図に遊撃部隊がフェンリルに乗って後方からやってきた。

「ヘテロ殿!1匹融通してもらえんか!?」

「ロラン様、どうぞッス。自分たちと一緒に突っ込むッスか?」

ヘテロがフェンリルをもう1体召喚し、それにロランが騎乗する。鞍もないのに安定しているところがさすがである。

「よかろう!アイシクルランスは引き続き攻撃だ、指揮は任せたぞ!ヘテロ殿、それでは行こうか。」

「了解ッス!突撃するッスよ!目標はあの・・・なんだったッスか、忘れたけど偉そうな奴ッス!!」

「ゼロな。将軍の。」

「そう!ビューリングの言った奴ッス!行くッスよ!」


 フェンリル騎乗の遊撃隊が中央軍のそれこそ中央に突貫を仕掛ける。先頭は「フェンリルの冷騎士」ヘテロ=オーケストラ、「獣王」ビューリング=ブックヤード、レイクサイド獣人騎士団団長ガウの3人だ。

「うおおおお!!!」

ビューリングとガウが獣化スキルを駆使しながら敵陣を駆け巡る。ヘテロの槍が振り払われるたびに魔人族の首が舞った。

「将軍ゼロ!お命もらい受ける!!」

本陣にマジシャンオブアイスの「氷の槍」が降り注ぐ。それも5回ほど。

「させるか!!」

ゼロも炎系魔法で対抗してきた。周囲の護衛もかなりの魔法の使い手のようだ。圧力が半端ない。「氷の槍」が防がれる。

「ハルキ様に教わったッス!召喚魔法は使いようってぇ!!」

将軍ゼロの親衛隊とレイクサイド遊撃隊(+ロラン)の衝突が一瞬膠着したかに見えた。だが、「フェンリルの冷騎士」ヘテロ=オーケストラは「大召喚士」ハルキ=レイクサイドの弟子の1人だった。

 召喚したのはクレイゴーレム。ゼロのすぐ近くに召喚されたクレイゴーレムは「氷の槍」を防ぐほどの破壊魔法で瞬時に破壊される。飛び散る泥の塊、視界が一瞬塞がる。

「よそ見が命取りッス!」

死角からゼロに噛みつくファイアドレイク。とっさに出した炎系破壊魔法はファイアドレイクには効果がない。

「ぐあっ!」

腕に噛みつかれて体勢が崩れるゼロ。そして・・・。

「終わりッスよ!」

ワイバーンから遠心力をつけて跳躍したヘテロの槍がゼロの右腕を貫いた。吹き飛ぶ右腕、血が噴き出る。

「まだだ!」

残った左腕で破壊魔法を唱えるゼロ。しかし、暗くなった視界を覆っていたのはマジシャンオブアイスの「氷の槍」だった。


 ずどぉんという音とともに絶叫するゼロの親衛隊。生き残りをヘテロが刈っていく。

「いい所取られたッスぅ!」

腹いせに吹き飛ばされる生き残りの親衛隊。これで完全に中央軍の指揮系統は機能しなくなった。

「突撃ぃ!!」

ヴァレンタイン中央軍が完全に押し込む。混乱したエレメント中央軍は後方まで突き抜けたレイクサイド遊撃隊とに挟撃される形で殲滅されていった。


「将軍を討ち取ったのはロランか。だがヘテロ殿たちの活躍あってこそだな。それに数だけみればシルキット殿がもっとも多く敵を討ったらしい。」

ロラン=ファブニールの報告を聞きながらジギル=シルフィードは中央軍の責務はなんとか果たしたと少しだけ安堵していた。

「だが、魔王がどう出るかだな。ハルキ殿次第という事か。」

そこにヴァレンタイン軍本営に現れる男。

「おう、後ろで見てたけどよ。これは完全にお前らの勝ちで決まりだな。」

テツヤ=ヒノモト。ヒノモト国魔王にして次元斬の使い手である。

「テツヤ殿か。まあ、軍の戦いはなんとか勝ったがな。正直な所、魔王はどうすればいいか分からん。今はハルキ殿がなんとか抑え込んでいるが・・・。」

「あん?魔王っつってもハルキがいればなんとかなるだろ?ハルキは俺より強いぜ。特に集団戦なんて手も足も出ねえ。」

「魔王アルキメデス=アクタビアヌスは「無限魔力」のスキルをもっているそうだ。遠くから見たが、あれはやっかいだぞ。尽きる事のない魔力で最大火力の破壊魔法を連発してくる。」

「そんなん、聞いたことねえぞ!?魔王アルキメデスはバリバリの接近戦タイプのはずだ!魔喰らいを倒せたのもあいつが物理攻撃に特化してたからだ!」

「何?では今まではそのスキルを隠していたという事か?」

「それは分かんねえけど、だけど、無限の魔力なんて対処しようがないじゃねえか。1人いればヴァレンタイン軍全軍を相手にできるぞ!」

「実際、メノウ島では1人でレイクサイド騎士団を突破した。」

「まずいじゃねえか!」

「ああ、非常にまずい。だが、どうしようもなかろう。エレメント軍を壊滅させ、奴も帰らざるを得ない状況に陥らせる事しか、現時点ではできないと見ている。」

「なん、・・なんてこった。じゃあ、押さえてるといっても、もしかしたらハルキ達は・・・。」

「その可能性も十分に高い。今は無事であることを祈るだけだ。足止めはできても倒す事など不可能だからな。」



 そしてそこに飛行魔法で飛んでくるボロボロの魔王アルキメデス。心なしかその表情は泣きそうである。左翼と中央軍が完全に崩壊したエレメント軍を見て、右翼本営付近へと下降していった。その後ろからはレイクサイド召喚騎士団のワイバーン部隊が見えた。

「こらぁぁ!!待てぇぇぇいぃ!!!」

 戦闘のウインドドラゴンに乗ったレイクサイド領主。右翼に降りた魔王アルキメデスの迎撃の破壊魔法をするすると回避しながら叫んでいる。


「・・・やっぱり、異常だ。予想外すぎる。」

「・・・まあ、ハルキなら、結局はああなるよな。・・・心配して損した。」


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