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5-3 戦略的撤退

 接近戦も得意な魔王アルキメデスに小手先の技は通用しないようである。

「総員、砦まで撤退だ!」

こうなったら本気の本気でガチンコだ!!砦上空まで追ってきた魔王を迎え撃つ。

「出でよ!コキュートス!!」

「レッドドラゴン!」

「おいで、リリス。」

俺とフィリップ、それにテトが最強の召喚獣を召喚した。

「はーはっはっはっ!!面白い!」

アルキメデスもやる気だ。この3人を抜けるものなら抜いてみるがいい。


 リリスの氷魔法が飛び交う。コキュートスの作り出した氷の塊も空から降り注ぎ、海と海岸はあっと言う間に氷点下の世界に変わってしまった。後続の船が凍ってしまった海で進めなくなる。破壊魔法などで氷を割って進むようだが、時間稼ぎは成功したようだ。魔王は後続と分断された。

 レッドドラゴンがその巨大な爪で魔王を引き裂こうとする。

「はっはっはっは!」

氷魔法を避けつつレッドドラゴンの爪を大剣で受け止めた魔王は爪を跳ね返すように距離を取るとレッドドラゴン目掛けて破壊魔法を繰り出した。

「食らうがいい!!」

大量の爆発系破壊魔法がフィリップのレッドドラゴンを襲う。

「はあぁぁ!!」

負けじと魔力を送り続けるフィリップ。着弾し続ける破壊魔法を耐えるレッドドラゴン。

「・・・隙を見せましたね。」

いつの間にか後ろに回っていたリリスが魔王アルキメデスに闇の魔法をかけた。

「グラビティ!!」

悪魔系召喚獣特有の闇魔法、その中でもさらにレアな重力を操る魔法だ。初めて見た。

「よくやったよ!リリス!」

アルキメデスの飛行魔法が効果を発揮できなくなり、地上に落下する。身体の動きも制限されているみたいだ!

「くっ、長くはもちません。」

アルキメデスが抵抗しようと動く。

「今だ!騎士団突撃!」

まずはコキュートスが殴りつける。さらに騎士団が破壊魔法をありったけ唱えた。レッドドラゴンもファイアブレスを浴びせかける。

「ぐおおお!!」

お、効いてるみたいだ!

「攻撃の手を緩めるな!」


 数分間、全員が力の限りを尽くして魔法を攻撃した。既に砦の北半分は地形から変わってしまっている。

「やったか!?」

フィリップぅ!!それは言ってはならないやつだぁ!

「ふっふっふ、はっはっはっは!残念だったな!」

「グラビティが切れました。これ以上は押さえられません。」

まじか!!?これを耐えきるのか!?

 よくみると魔王アルキメデスの周囲には強力な補助魔法のバリアが張られている。

「障壁魔法がそんなに強力だと!?」

「テト、あれは違う。」

信じられないが、そうじゃない。

「ハルキ様!一体何が!?」

「障壁魔法を展開している魔王にもわずかにダメージが入っている。あれは何度も破られる度に張り直したんだ。」

「なっ!?そんな、どれだけの魔力があるんだ!?」

障壁魔法は他の魔法に比べて、非常に魔力を使う効率の悪い魔法だ。それに魔王アルキメデスはこれまでに大量の破壊魔法を使っている。毎回、野菜の星の王子並みの連続破壊魔法だ。俺はなんとなく、気づいてしまった。

「はっはっは!さすがはハルキ=レイクサイド。俺様の秘密を見破ったか!」

「フィリップ、皆に撤退命令だ。」

「はっ、分かりました。」

これは根本的に考えを改めねばなるまい。

「魔王アルキメデス、お前、スキル持ちだろう?」

「ふっふっふ、その通りだ。俺様は神に「無限魔力」のスキルを授かった!この力でお前ら人類を滅ぼすために!」

やはり魔力が尽きることのないスキルか!?しかし・・・。

「神だと・・・?」

「そう、神だ!ヨシヒロ神はお前ら人類に加護を与える事はないだろう!」

「ヨシ・・・ヒロ・・・神?・・・ヨース・フィーロ神か!?」

「よりによって神の名前の正確な伝承すらできん種族に未来などあろうはずがないわ!!」

ヨシヒロだと!?古代遺跡のあの名前と関係があるのか!?いや、今はそれどころじゃない。戦略的撤退だ!魔人軍も上陸を開始してしまっている。この状況でメノウ島を防衛するのは不可能だろう。


 幸い、この魔王アルキメデス、話に夢中でこっちがこそこそ撤退の準備しているのに気づいていない。魔王ってのは馬鹿しかいないのか?

「待て!何故ヨース・フィーロ神が、いやヨシヒロ神が人類を見限るんだ!?」

俺的にはあまり興味ないけど、あいつ喋りたそうだし、時間稼ぎだ!

「ふっふっふ、それはだな。」

「ハルキ様、全員ワイバーンに乗りました。後方の部隊はすでに撤退を開始してます。」

「よし、後方部隊は最短距離でフラットまで引け。ワイバーンに乗った奴らはあいつが追ってきた時を考えてまずは西に向かう。殿は俺だ。」

「・・・であるから、我ら魔人族が人類に代わり・・・。」

ぐびっと青い汁を飲んでMPを回復させて。

「・・・先月、俺様の前に現れたヨシヒロ神は・・・。」

「よし、フィリップ。総員離脱だ。」

全員が飛び立つ。幸いにも死亡したやつはいないようだ。

「・・・無限魔力のスキルは・・・って、おいこら!!逃げるな!最後まで聞いていけぇ!」

「うるさい!そこで一生喋ってろ!」

大量のノームを召喚して魔王アルキメデスの足を絡めとる。飛行魔法の邪魔をしつつ、時間差でノームを召喚しワイバーン達が安全圏に入るまでは足止めだ。

「なんだ、こいつらは!ええい、邪魔だぁ!!」

馬鹿みたいな規模の破壊魔法でノーム達が吹っ飛ばされるが、次の瞬間に同じ量のノームを召喚してやる。なんか、ちょっと楽しくなってきた。

「うぜぇぇぇ!!」

ふふふ、お前の無限魔力スキルと俺が買いだめした青い汁と、どっちが上か勝負だ!!・・・じゃねえ、もう皆見えないや。俺も帰ろう。

「そんじゃな!」

ウインドドラゴンを召喚して乗り込む。ノーム召喚は続けたままだ。


「待てやこらぁぁ!!勝負しろぉぉ!!」



 メノウ島はとりあえず手放そう。フラットの町まで帰ってきた俺達は緊急会議だ。無限魔力なんてチートスキルに対抗する必要がある。それに、後続の魔人軍もやっかいだ。

「魔王をどうにかしないと・・・。」

今までは1人の魔人に対して、その魔力が枯渇するようにという方針のもとに作戦を立てていた。つまり大前提が間違っていたのだ。これでは勝てるわけがない。みすみすメノウ島を取られてしまった。

「今の状況で魔王をなんとかできるとは思えない。せいぜい足止めがいい所だろう。」

俺を中心とした部隊で魔王を足止めする。そうすると魔人軍一万二千対ヴァレンタイン軍八千の海岸防衛戦になるわけか。足止めは非常に重要だな。勝てないまでも引き分けに持っていく方針とするしかない。

「久々のフラット海岸防衛戦だな、ジギル宰相の手腕が問われるぞ?」

「貴公、その作戦だとあり得ない量の魔力が必要となるぞ。」

「だから、レイクサイド召喚騎士団の精鋭たちはほとんどそちらに取られてしまう。俺の召喚だとなんとか1人で時間稼ぎはできても、他の連中だと2人がかりになるだろうしな。」

「それに、その後の魔王の処理はどうするんだ?」

「最悪、魔王以外が撤退せざるを得ない状況に持ち込めば、奴も帰らざるをえないだろう。できれば倒してしまうのが最もいいんだが。」

「なんてことだ・・・。」


 だが、希望がないわけではない。奴のスキルは無限魔力だと分かった。他のチートスキル持ってたら、自慢してるだろうしな。普通のスキルは何個か持ってそうだけど。



 こうして初戦はエレメント軍がメノウ島を制圧する事でで終わった。まあ、こちらは犠牲が出ていないし、戦略的撤退しただけだから敗北ではないけどね。


誰かが言った。この世界はの99%はバカか残念でできている、と。

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