5-2 魔王アルキメデス
魔王つっても所詮は1人の魔人族だ。テツヤを見てれば分かるけど、どんなチートスキルがあったとしても大勢で囲んでフルボッコしてやれば最後はなんとかなるさ。損害は出るだろうけどね。
そう思っていた時が私にもありました。
「こいつはやべえぞ!!」
ウインドドラゴンからの超高度クレイゴーレムの投下。エレメント魔人国がゴーレム対策をせずにやってくる事を把握した俺は、港からでた瞬間に合わせて奴らの船を沈めに行った。先手必勝である。意外にも先陣の船の数は多くなく、10隻ほどの船団が出てきているのを確認し沈めにかかる。こちらはウインドドラゴンに3人の召喚士に一応シルキットを護衛でつけてきている。魔王がいたところで船が沈めばさすがに死ぬだろう。ちょうど旗艦と思われる船も把握した。まずは確実にこいつを沈めておこうか。クレイゴーレムの召喚を開始する。3対のクレイゴーレムが超高度から相手の旗艦めがけて落下していった。クレイゴーレムが船の甲板を貫通し、中に水が入って沈没する・・・はずだったが、結果は違った。
まず、落下していったクレイゴーレムが爆発飛散した。
「なぁっ!?」
そして旗艦から1人の魔人族がこちらに飛んでくる。・・・飛んでくる!?
「はーはっはっはっは!意外と早く襲ってきたなぁ!俺様が魔王アルキメデス=オクタビアヌスだ!」
なんだその物理学者みたいな名前は!?
「貴様ら人類はすでに神に見放された!俺様みずからが滅ぼして進ぜよう!」
そういうと魔王アルキメデスは破壊魔法を繰り出す。ウインドドラゴンで回避しようにもめちゃくちゃ量が多い。
「フレイムレイン!」
シルキットの得意技である多方面同時爆炎魔法「フレイムレイン」で迎え撃つが、威力が違う。かなり押され気味だ。
「こいつはやべえぞ!」
回避に次ぐ回避、そして距離を取らざるを得ない。
「何だ?逃げるのか!?」
「逃げねえよ!戦略的撤退だ!」
とりあえず逃げよう、これは本当にまずいぞ。対処できないレベルの個の武勇じゃないのか?
「はっはっは!俺様完全勝利!!」
「だから負けてねえ!」
まずいまずいまずいまずい、あの船の速度だとあと数日でフラット領にたどり着く。
「どうすればいい?あいつ規格外だ。うちの規格外よりも規格外だ。」
ああ、何言ってるのか分からんくなってきた。一旦落ち着け。
「超強力な破壊魔法の使い手相手に、どうしたら勝てるのか?ちなみにそいつは飛行の魔法を使えます、と。あ、駄目だこれ。どうやっても被害出るわ。」
「ハルキ殿、我がアイシクルランスの集中攻撃でなんとかならんか?」
そういえばジギルたちと会議中だったな。忘れてた。
「「氷の雨」は一点集中型なので飛行を使える相手にはちょっと狙いが定まりにくいかと。」
そう、いつもこっちがやってる事だけど、超速度で飛行していると狙いが定まりにくい。単純な破壊魔法では当てるのが困難だ。それをあの魔王は物量でカバーしてきた。
「せめて、飛ばなければ対処法もあったんだけど・・・・・・飛ばなければ?」
いや、なんかダメな気がしてきた。こんな発想では越えられないような気がする。
「諜報部隊からの連絡では先陣は貴公らが確認した10隻らしい。その後に50隻ほど出航したみたいだが。」
後ろの50隻を先に叩いてもいいんだけど、それだど確実に被害が出る。やっぱり、被害なしで戦うのは無理なんだろうか。どうしても身内が死んでほしくないという欲求に逆らう事ができないのは日本人だからか?
「ハルキ。」
そんな時にアイオライが言った。
「抱え込みすぎだ。お前一人で戦わなくてもいい。」
・・・ほう、アイオライのくせに。だが、ちょっと気分が楽になった。まるで今までは前回のエレメント侵攻の時みたいに春樹だけがでてきていたようだ。
「そうだな、ちょっと気分を変えてみるとしよう。」
昔、ゲームをやってた時はこんなシチュエーションでどうしてた?意外と正攻法で守ってたんじゃないかな?そのために、いままで鍛錬を行ってきたんだ。皆で力を合わせれば勝てない事はないはずだ。
「では、作戦なしで力と力の勝負と行こうか。メノウ島に戦力を集中させ、要塞化した島の防衛戦をしましょう。どんなに破壊魔法が強い奴でも、魔力が切れたらこっちの勝ちだから。」
メノウ島で勝負だ。
「テトを呼び戻せ、他の2人も一緒にだ。レイクサイド召喚騎士団のほぼ全軍をメノウ島に集中させるぞ。シルキット、これまでにない消耗戦になる可能性がある。フランもマクダレイも呼び寄せろ。少しでも戦力を集中させるんだ。」
レイクサイド領の戦力はメノウ島の最北に配備する。奴らが来た時に真っ先に迎撃するのだ。
「ヘテロ以外の第5部隊はアイシクルランスと行動を共にしろ。反撃のタイミングで彼らを乗せて攻勢に出るんだ。」
背後を守るのはシルフィード騎士団だ。アイシクルランスが第5部隊のワイバーンで反撃のタイミングを見計らう。
「もし、魔王が討ち取れたらフラット領およびエルライト領の騎士団と防御を交代しよう。召喚騎士団が回復したら空爆してやる。」
さあ、まずは魔王率いる先陣とガチンコ勝負だ。
「あれが魔王?」
「そうだ、よく戻ってきたな「深紅のむっつりすけべ」テトよ。」
「ちょっと!その二つ名は洒落になんないよ!やめて!」
魔王襲撃にテトたちが間に合った。ウインドドラゴンとの契約も無事にすんだテトは一回り大きくなったような印象を受ける。
「まあ、僕のリリスが倒してみせるよ。」
「僕のリリス・・・。ふーん。」
「だから!その意味深な言い方はやめて!」
冗談を言ってはいるがリリスには結構期待している。純粋に破壊魔法の打ち合いでアルキメデスとまともにやりあえるのはリリスだけだ。シルキットでもきつかったのだから。
「さあて、やりますか。」
「はーはっはっはっは!今日も俺様が勝つ!!」
アルキメデスは相変わらずだ。そして今回は初めから飛行魔法を使っている。
「あー、総員に次ぐ。あれが何言っても無視だ。相手にすると疲れるぞぉ。」
「くおらぁぁ!なんじゃそれは!どういう意味だ!」
「はいはい、打ち方はじめぇ!」
うん、いい具合に肩の力も抜けてる。レイクサイド騎士団による破壊魔法を魔王アルキメデスに集中させる。人数が人数だけに前回のシルキットの魔法を上回る威力だ。だが、魔王はそれすら対応できるようである。
「ふわーはっはっは!」
前回同様に多方面無差別に炎系破壊魔法を繰り出してくる。どれだけの魔力があるというのか?
人数で圧倒的に優位なはずのこちらが押され始めた。召喚騎士団たちがワイバーンに騎乗する。後ろに1人ずつ破壊魔法担当を乗せてほぼ全員が空へと飛び立った。できるだけ多方面から魔王を攻める作戦だ。
「はっはっは!甘い!甘すぎるわぁ!」
それでも魔王は対処してくる。尽きる気配のない魔力、どこまで規格外なんだ?
「くらえぃ!!」
巨大な炎が要塞の壁を吹き飛ばす。狙われたのが人でなくて良かったが、後続の魔人軍がそこから上陸できるようになってしまっていた。
「ちぃ!これならどうだ!打ち合わせ通りにいくぞ!」
「「はっ!」」
魔王アルキメデスの周囲の空間に、大量のノームを召喚する。それぞれが落下を始めるが、何匹かで一組を形成しており、がっちりと抱き合っている状態だ。
「は?なんだ?」
意図が読めずに困惑する魔王。しかし、その後の行動は予想外だったようだ。
「くらえッス!」
ヘテロ、フラン、マクダレイの3人が召喚されたノームを足場にして空中を飛ぶ。3方向から近接攻撃を受けた場合に魔王はどうするのか!?
「しゃらくさい!」
持っていた大剣を振り払う。達人級が3人がかりでも魔王に一太刀いれる事ができずにそれぞれ武器を受け止められるか躱されるかしてしまった。そしてフランに斬りかかる。
「ふん!」
受け止めた宝剣ペンドラゴンに亀裂が走る。フランはそのまま海へと落とされていった。召喚士のワイバーンがそれを回収する。
「なんて奴だ!接近戦も隙がない!」
これは、本格的にまずいかもしれん・・・。




