表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/114

5-1 侵攻対策会議

 ヴァレンタイン王国には昔からの宗教が存在する。ヨース・フィーロ教である。これが興ったのが数千年前と言われており、魔人族の誕生よりも前である。

 絶対神ヨース・フィーロは人の形をしていたとされる。亜人たちもいなかった時代に魔物が世界に溢れ、これに対抗する力として魔法を人類に授けたのがヨース・フィーロ神だと。彼は永遠の命を持ち、人類の危機に駆けつけてくれると信じられていた。


「最近、人類の危機ってないんだよね。あってもハルキ=レイクサイドがなんとかしてしまう。すごいよね。」

レイクサイド領レイクサイドの町。1人の男が屋台で飯を食っていた。黒目黒髪、すらっとした長身だが、体格がいいわけではない。誰が聞いているわけでもないが、独り言を続ける。

「さすがにさ、ちょっと頭おかしくなってくるよ。こんな事になるならやめておけば良かったかもね。」

飯を食い終わり、その男は立つ。

「もう、1万年か。先生に来てもらってホント助かるよ。他のメンバーはあっさり死んじゃったしね。刺激がないのも困ったもんだ。テツヤも頑張ってるかな?でも、あいつはやっぱり単純すぎるね。」

ぐっと背伸びをして溜息をつく。

「さあ、たまには面白い事でもしようかな。見てるだけじゃつまらなくなってきたしね。意外と先生ならなんとかしてくれそうだ。」

そういうと男は右手をかざした。

「コンソール。転移。」

ふっと次の瞬間に消えてしまう男。誰もその事に気付く暇すらなかった。



「神託が下りました。」

アイオライ=ヴァレンタイン現王はヨース・フィーロの使者と面会している。内容はヨース・フィーロ神からの神託受諾の件についてである。

「この数百年、ヴァレンタイン王国が始まってから神託というものを聞いたことがある者はいないと聞いている。何故それが神託だとわかったのか?」

「神官全員が聞きました。それこそ修行中の者も含めてすべてです。」

「内容は?」

「魔人が攻めてくるため、気をつけろと。それに今回は神のご加護を授かるわけにはいかないそうです。」

「神の加護か。具体的にどういった加護があったりなかったりするか聞いてみたいものだ。」

アイオライ王は神託の内容を信じるつもりはなかったが、ヒノモト国からもたらされた情報ではエレメント魔人国に侵攻の準備がありそうだという事が分かっている。収穫期がすぎて全国の道路建設が開始されたこの時期に騎士団の収集は避けたい所だ。

 神官を下がらせ、宰相ジギル=シルフィードと相談をする。

「どう思う?」

「神託が本当かどうかは分かりません。ですので、あえて最初からなかったものとして考えるべきかと。そこでヒノモト国からの情報を整理すると警戒しないわけにはいかないでしょうが。」

「やはり、そうなるよな。」

「最悪の場合道路建設を先送りにしてでもエレメント魔人国の侵攻備えなければならんでしょう。少なくともハルキ=レイクサイドには伝えておかねばないけません。」

「またハルキが文句言うだろうな。」

「でしょうね。」



「ふっざけんなー。」

フラット領フラットの町。道路建設で何でローエングラムの所に来なきゃならんのかが分からんかったが、人手が足りてないから俺もクレイゴーレム召喚して物資の輸送を手伝っている。そこにジギルからの使者だ。エレメント魔人国が攻めてきそうだから道路建設を続けるかどうか話したいと。王都ヴァレンタインに来いと。なんてやる気をなくすニュースなんだ。


「ええい、もうフラット領の道路建設は中止だ。未来永劫にやめてやるぅ!撤収するぞ!フィリップ!」

ローエングラムがとばっちりを受けるのはアイオライとジギルが悪いんだ。文句ならあいつらに言え!

 撤収の挨拶をするのはちょっとあれだったんで、フィリップに任せて王都ヴァレンタインに乗り込むこととした。10人の第1部隊とともにワイバーンで王都へと向かう。

「しっかし、この時期に攻めてくるってのはいただけない。」

そうなのだ。エレメント魔人国の侵攻があるというだけでまずい状態に陥っている。

 何故なら、前回および前々回はゴーレム空爆でやつらを叩いていた。基本的に空爆に対してあいつらは対抗手段を持っていなかったはずなのだ。だから、今回また攻めてくるという事がその対抗手段を開発したという事に他ならず、それが単純にゴーレムを叩き落とせるすごい奴が出てきたというだけでもこっちの攻撃手段のもっとも効率の良かった物が封じられてしまうのだ。魔王でも出張ってくるつもりか?


 ヴァレンタイン王城に着く、中庭に降りてワイバーンから飛び降りる。本当はすぐにでもジギルに文句を言いに行くつもりだったけど、足首をひねったのでミアに回復魔法をかけてもらおう。

「ハルキ殿、来たか。」

「来たよ!人ん所の騎士団を振り回しやがって!文句の一つぐらい言わせろい!」

「すまん、それに関しては貴公の言うとおりだ。だが、攻めてくるのは私ではなくエレメントなのでな。」

「分かってるよ!」

まあ、実際はジギルを攻めても仕方がないのは分かってるんだけどね。どうしても誰かに文句言いたかった。

「それで、あいつら今度は空爆の対策してくるぞ。」

「それについての意見を聞きたくて呼んだんだ。まあ、立ち話もあれだし、アイオライ王も会いたがってる。食事でもしながら作戦会議といこう。」

「うー、分かったよ。」



「・・・と、まあそんなわけで神託を信じたわけではないのだが、ヒノモト国からの情報を考慮すると対策をしておかねばならんとの結論にいたったわけだ。」

なるほど、どちらにせよエレメント魔人国が攻めてきそうな雰囲気はあるわけだ。

「情報があいまいすぎるな。さすがにもう少し細かい情報が欲しい。」

「たしかにそうであるが、諜報部隊を送り込んでも純人だとすぐにばれてしまうからな・・・。」

「ふふふ、我がレイクサイド領をなめないでいただきたい。それはなんとかしてみせようではないか。」

「ほう!レイクサイド騎士団ならばなんとかできるのか?」

「方法は企業秘密だがな。」

この前ヒノモトで魔道具を買った店の商品を買い漁らせてある。その中で今まで不可能であった技術が開発されていた事によりつい先日実現に至った魔道具が存在した。


「ついに、純人でもこれをつけることにより魔人の魔力の波長にごまかせる魔道具を開発した!」

「おお!では、ついにエレメント魔人国に潜入ですね!」

「うむ!ウォルターよ!念願の敵国潜入だ。精鋭を送り込むがいい。あと、ヒノモト国にも手伝ってもらえ。さすがに文化とかでばれたりするのは下らないからな。」

「はっ!アレクに命じて専属部隊を編制します。」


 これでついにエレメント魔人国にも諜報部隊が入ることになった。いままで全くと言っていいほど不明だった帝国の動向が分かるというのは大きい。もし、侵攻の際に使う武器や戦略まで分かってしまうならば対策を立てることができる。これからは情報戦だ。どんな武器を開発したのだろうか、少し楽しみになってきた、来るなら来い!

 各地の領主も呼び出して現在開発できそうな大型の武器を想定した作戦会議が連日続けられることとなった。補助魔法増幅装置でバリアを張るだとか、怪鳥フェザーの大部隊を編制するとか、色々な意見が出た。中には再現不可能な意見もあったが、不可能である保証がない。なんでも意見は聞くべきだという事で、数百通りにも及ぶ可能性を検討した。相手の立場に立って考える作戦に、フラット領の弱点が見えたり、騎士団に足りない事を発見するなど有意義な会議であったが、相当にしんどかった。意外にもこちらから攻めるという意見が出てこなかったが、シミュレーションゲーマーとしては、攻めて行った方がこっちの資源に被害がでることもないし、食糧は十分にあるから攻める姿勢を見せるだけでも牽制になるのは分かっていた。ただ、日本人の春樹としては自分から侵略する事に少し抵抗感があったためにこの会議では提案しなかった。誰かが提案したら乗っかるつもりだったけどね。



 2週間後、第一報が入る。

「なんか魔王みずから乗り込んでゴーレムは撃ち落とす!って豪語してるみたいです。全く作戦とかなさそうな雰囲気ですが、これはまさか潜入がばれてますかね?」


・・・ある意味、魔人族をなめていたよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ