4-3 道路建設とその見返り
アイオライ王の戴冠式の式典が終わり、宴が1週間以上続いた。こんなに盛大におこなった王は初めてだろう。というよりも財政面で無理だったはずだが、ヴァレンタイン王国は建国してからもっとも潤っている時期に入っている。それもレイクサイド領を中心とした農業改革に伴う物流の改善と、ヒノモト国との貿易が最も影響している事は間違いない。魔人国の侵攻もあったが、犠牲はあまり出ておらず、人口も増え続けている。食糧事情も改善された。
「次は王国全体の事も考えてもらわねば困るんだけどな。」
アイオライ王の執務室。アイオライ王と宰相のジギル=シルフィードとに攻められているのはハルキ=レイクサイドである。
「え?おれはただの一領主なんで、王国なんて規模のでかい話はちょっと・・・。」
「無駄だ。貴公が宰相をするはずのところを私に押し付けているのだから、このくらいの要望は聞いてもらうぞ。」
悪い顔で微笑んでいるジギル=シルフィード、後ろではアイオライ王もにやにやしている。
「でも、うちの領地も人がいないんですよねー。学生までこきつかってる状況なのにー。」
「収穫までは待ってやろうではないか。今年の冬が楽しみだな。」
計画というのは、ヴァレンタイン王国各地につながる道路建設である。荷馬車がストレスなく通ることのできる石畳を各領地につなげようと言うのだ。今現在は大森林からレイクサイド領主館を通り、スカイウォーカーまでの大きな道路はあるが、他の領地につながっている道路は存在しない。
「あれは召喚士のゴーレムでもなければ作るのはしんどいからな。レイクサイド領から召喚士を派遣してもらえるとありがたい。」
「うっ、で、ではスカイウォーカーからヴァレンタインを通ってエルライト領につながる道を・・・。」
「それでは貴公の領地からヒノモト国に輸出する穀物の道路を建設するだけではないか。もちろんシルフィードにもエジンバラにもフラットにもつながる道路をつくってもらうぞ?」
「ジ、ジギル殿?なにゆえに我がレイクサイド領がそれをせねばならんのですか?人いないんすよ?足りとらんのです。」
「はははっ、セーラを紹介したのは誰だったかな?借りを返してもらってもかまわんよ?それにこの前も我が領地でホープ=ブックヤードなる冒険者が魔物の乱獲を行っておってな、今後禁止にしてやっても良いのだが、怪鳥ロックはシルフィード領が一番発生頻度が多いしな、セーラの好物の怪鳥ロックは。はははっ。」
「卑怯な!セーラさんの好物である怪鳥ロックを獲れなくなったら、どうやって機嫌をとればいいんだ!?」
「はははっ、うちの領地にはクレイジーシープもよく発生するしな。たしかあれの香草焼きは昔からセーラの大好物だった。君の行きつけのクラブハウスサンド屋で、特別メニューとして使っているのも知っているぞ。あれは旨かった。」
「むむむっ。ジギル!俺は食べてないぞ!」
「ちょっと、アイオライ王は黙っててください。あとでうちの料理人に再現してもらいますから。」
「絶対だぞ!」
「はいはい。さあどうする?ハルキ=レイクサイド領主殿?」
「ぐぬぬぬ・・・。」
結局レイクサイド領は収穫祭の後に召喚騎士団を派遣して全国の道路建設を行う事となった。
これにより国内の物流はさらに加速して改善を見せることになる。中には大型の馬車を使用して大量の物資の輸送を行う業者まで出てくることと、物流が加速することによって道路の近辺が発達し、そこを利用する客目当ての宿や店が増えることとなった。それによって人気のない場所も減り、治安は回復傾向にあるという。魔物はともかく盗賊が出ることはめったになくなった。町に仕事があふれており、どこでも人手不足なのだから盗賊なんていう効率の悪い職業はやる意味もないのだろう。治安が改善したことによりアイオライ王の名声はより高まっていく。だが、それはもう少し後の話だ。
「一応、レイクサイド領として見返りは求めますよ。これでも領主になっちゃったんで。」
「ふむ、当然だろうな。」
「では、・・・。」
レイクサイド領レイクサイドの町。ハルキ=レイクサイドは全国の道路建設と引き換えに王都やシルフィード領からの技術提供を要望した。特に金属加工などに優れているドワーフや薬学の知識があるエルフなどの亜人が秘匿してきた分野の技術である。そのほとんどは提供できないと言われる事柄であったが、それでも今後の事を考えると技術開発は欠かせない。絶対的に必要となってくるのは魔道具の開発である。
これによって数十人の技術者がレイクサイド領へと派遣される事になった。レイクサイド領の人間に技術を提供する事、それが彼らの任務となる。受け入れに当たって、ハルキ=レイクサイドは彼らのために宿舎や講義をする建物などを建築させた。これがのちにレイクサイド大学校と呼ばれ、国の中での開発一手に担う研究機関となるのだが、今は単なる宿舎と講堂である。
「図書館とかも作りたいな。でも羊皮紙や木簡だけだとかさばるし、紙は開発されてないしな。」
紙の作り方なんて難しすぎてよく分からない。現在書類として使っているのは布か木簡だ。書類用としての木簡はできるだけ薄く削るようになっていて問題なく使えるのだが、なにせ重い。こういう文化的な所も推進させていかないと文明は発達しないのだろう。だが、そんな文明の発達は人の一生くらいでは進むはずがないのだ。ある物を使っていく、それしかない。
新たにできる魔道具開発局にはすでに数名の技術員が就任している。今後も様子を見て増やしていく予定だった。
「あの召喚遺跡で使われていた魔道具を研究してみたいな。」
以前、ヒノモト国レイル諸島で発見された古代遺跡。中には自動で召喚獣を召喚する魔道具が設置されてあった。
「そういえば、あそこには日本語が書かれてたんだっけ?」
ヨシヒロと書かれた日本語。テツヤはあれに対して無言を貫いていた。もしかしたら、ハルキに言えない事があったのかもしれなかった。
「今度テツヤに会ったら聞いてみるか。あの時はアイオライもいたからあまりきちんと話せなかったし。」
提供された技術はなかなかのものだった。すぐにレイクサイド領でも実践できるものも多く、将来的にはかなりの利益になったに違いない。やはり、知識には価値がある。それに、1か月もすると技術提供のために訪れていた技術員たちの中に、レイクサイド領を気に入って定住を希望してくる者たちが出てきた。ヴァレンタインとの兼ね合いもあるが、基本的にはこれを了承し、引き続き技術提供および後進の育成をおこなってもらう事とした。もう少し、きちんとした組織にしたほうがいいかもしれない。学ばせる人員も若年者から希望を募ることになった。
レイクサイド領の改革もそろそろ終盤である。衣・食・住が満たされ始めたために文化にまで手を出せるようになった。あとはこれを維持する事が大事だ。
「たしかに、そろそろ国全体の事を考える必要があるのかもしれんね。」
厄介ごとはジギル=シルフィードに任してあるが、力のあるものはその責任も大きいものである。自由気ままな次期当主でいられた時期もすぎてしまった。
が、しかし。
「あとは任せた!イツモノヨウニ!」
ここに、逃亡癖の治らない領主が存在した。




