4-2 アイオライの戴冠式
現王アレクセイ=ヴァレンタインの容体が思わしくないらしい。ウォルターの仕入れた情報によるともともと高齢との事もあり、本格的にアイオライ王太子への継承を考える時期にきているとの事。現在はタイウィーン=エジンバラが摂政代理として政治を取り仕切っているが、アイオライ王太子が王になればジギル=シルフィードが摂政に正式に就任する予定だった。
「よりによって、この忙しい時期に・・・。」
レイクサイド領は改革が始まって以来の人手不足だ。大森林の併合と開発に伴う人員が全く足りていない。騎士学校からの生徒の合宿には本当に助けられている。絶対にその事は態度には示さないけれど。
「王が逝去されたとしたらヴァレンタインには親父に行ってもらおう。ただでさえ召喚士が足りてないんだ。」
「断る。」
「おい、親父。皆忙しいんだ。仕事しろ。」
アラン=レイクサイドはレイクサイド領の領主である。ここ数年は完全にハルキ=レイクサイドに経営権を乗っ取られてお飾りになっているが。
「いやじゃ、この前のクロス=ヴァレンタインの時もそうじゃったが、わしは王都に行っても役に立たん。お前が行け。わしはロージーと一緒に領地に残るでな。」
前回、王都ヴァレンタインに行ったのはエレメント帝国侵攻の後だった。前線で活躍したハルキ=レイクサイドの代わりに王都ヴァレンタインで先勝パレードに参加したわけであるが、その際にクロス=ヴァレンタインからの嫌がらせをさんざん受けて、しかもことごとく悪い方向へと作用したために王都ヴァレンタイン恐怖症になってしまっている。
「それにもうわしなんぞいらんじゃろ。そうじゃ!わしは引退することにしよう!夢の隠居生活じゃ。」
「親父がいらないってのはそうかもしれんけど、引退なんて許さんぞ!そんな事したら俺が領主になってしまうじゃないか!」
「いいじゃろうが!領民全員がそれを望んどる!わしも含めて満場一致じゃ!」
「それ、俺がカウントされてねえ!というか、領主なんぞになったらおちおち逃亡もできないじゃないか!」
まさか天下の大領地レイクサイド領の領主と次期当主の会話とは思えない内容である。
「決めた!わしは引退するぞ!おぉ!ウォルター、いい所に!わしは引退しようと思う。領主はハルキじゃ!」
「あ、こら親父!」
「分かりました。それでは本日をもって領主をハルキ様とする手続きを致しましょう。すでに用意は数年前からしてありますので、特に準備はいりませんよ。あ、パーティー開きましょうか。」
「おいこら!ウォルター!待て!」
「皆の者!アラン様が引退されてハルキ様が領主となられた!触れを出せ!アラン様の気が変わらぬうちにだ!!急げ!!」
「・・・なんじゃろう、この納得いかない感じは。」
「まてぇ!ウォルター!!」
レイクサイド領のアラン領主が引退、ハルキ=レイクサイドが正式に領主となる。ヴァレンタイン大陸はこのニュースでもちきりとなった。遂に大召喚士「紅竜」ハルキ=レイクサイドが領主となると。レイクサイド領はこれで安泰だ。この数年餓死者を全く出していないヴァレンタイン大陸でレイクサイド領の経営はある意味ヴァレンタイン王国の経営にも直結している。農業から始まった産業、物流、商業、全てにおいてレイクサイド領は他領地を導く役割をするまでにのし上がっていた。しかも次期王であるアイオライ王太子はハルキ=レイクサイド領主と昵懇の間柄であることは有名である。アレクセイ=ヴァレンタイン王の病状が良くないのではという暗いニュースが飛び交う中で、国民はハルキ=レイクサイドの領主就任を歓迎した。
「領主命令だ。親父行って来い。」
結局、アラン=レイクサイドが前領主として王都ヴァレンタインに行くことになったのは別の話である。
翌月、アレクセイ=ヴァレンタインが崩御した。アイオライ=ヴァレンタインが王として即位する事になった。さすがに即位式には出席しなければならない。
「アイオライが王になるんだ。セーラさんもロージー連れて行こうか。」
20体のワイバーンとハルキのウインドドラゴン、フィリップのレッドドラゴンが王都ヴァレンタインに飛んでいく。エンターテイナーフィリップが張り切っているようだ。今回は正攻法で編隊を組んで参上するのを計画しているらしい。
今回もレイクサイド騎士団の登場で王城は大盛り上がりだ。アイオライ王自ら出迎えに出てくる。
「ハルキ、よく来た。」
「アイオライ王もご健勝で。」
「よせ、お前は友だ。いつも通りの言葉づかいでかまわん。」
「公式の場でそんな事言ってたらだめでしょうが。」
「俺はすでに王だ。そのくらい許される。おお、セーラ殿も一緒か。ロージーがでかくなったんじゃないか?」
「アイオライ様、お久しぶりですね。」
「今の俺があるのはお前たちのおかげだ。父上は亡くなってしまったが、これからヴァレンタイン王国はさらに栄えねばならない。魔人族の侵攻もありそうだ。この前ハルキがさんざん打ちのめしたから当分はないけどな。」
「うっ、まあ、あれはやりすぎました。」
「はっはっは、それだけセーラ殿を想ってるという事だろう。王国としてはよくやってくれたと思っている。明日の戴冠式にはもっとも良い席をくれてやろう。」
「いや、いらないです。末席がいい。目立ちたくない。」
「ふっ、そうか。ならば好きな所を指定すれば良い。どうせ地位や権力には興味がなさそうだからな。料理は最高の物を用意させることにしよう。」
「ありがとうございます、アイオライ王。」
「まあ、堅苦しい所ではあるがゆっくりしていけ。」
翌日、アイオライ=ヴァレンタインの戴冠式が行われた。国教であるヨース・フィーロ教方式の戴冠式である。地球でいうキリスト教に近い。すべての領地から領主が参列しており、ヒノモト国からも魔王テツヤ=ヒノモトとその側近たちが参加していた。
「ハルキ、ようやくアイオライが王になったけど、近々エレメント帝国が軍の再編成を終わらせるみたいだからきをつけとけよ。」
「まじかよ、あんだけ痛めつけたのに・・・。」
「あそこの魔王が健在だからな。もともと魔物も強い地域だ。若い魔族が育つのも早い。俺ん所もまた小競り合いが始まってるからな。」
ヒノモト国もエレメント帝国の船を襲撃したり襲撃されたりが続いているらしい。
「まあ、とりあえず今日はアイオライの戴冠を祝ってやろうよ。」
「ああ、そうだな!式が終わったらとりあえず飲もうぜ!」
「ヨース・フィーロ神の名のもとに、汝を王とする事をここに宣言する。」
神官の宣言とともにアイオライの頭上に王冠が乗せられる。
「アイオライ=ヴァレンタインだ!本日より王となる!私は宣言しよう!この国を、さらなる栄光に導く事を!」
「「アイオライ王、万歳!」」
「「ヴァレンタインよ!永遠なれ!」」
「宰相はジギル=シルフィードに命じる。我を導け。」
「はっ、非才な身ではありますが粉骨砕身いたします。」
ジギルの宰相就任も発表された。参加者のほとんどはハルキが宰相になると思っていたようだ。どよめきが起こる。そのために領主となったのではなかったのかと。
場所を移して盛大な宴会が始まる。数百人規模の宴会である。そしてその面子は各領地の重要人物ばかりだ。
「なあ、ハルキ。ここを襲撃されたら、ヴァレンタインは終わるな。」
「やめろ、テツヤ。それはフラグだ。」
「俺、これが終わったら結婚しようと思うんだ。」
「相手がいないから死亡フラグになってない。」
「・・・ユーナは元気か?」
「テトと一緒に旅行中だ。諦めろ。」
「・・・飲もう。」
「そうだな、飲もう。」
フラグは回収されることなく、宴会は無事終わった。これからはアイオライ王の時代となる。少しはマシな世の中になればいいなと思うハルキであった。




