3-2 責任ってなんなんだ?
スカイウォーカーの町での冒険者生活が始まった。Bランクになってまず受けた依頼はグレーデビルブル・・・ってなんでさ!これSランクでしょ?
「まあ、お前さんならできるさ。」
レンネンさん!僕たちをこき使うつもりだ。だって顔が笑ってる!
「それに依頼にはちゃんとBランクになっている。金額もBランクだ。」
それはダメでしょうが!
「さすがにダメか。じゃあ差額はあとで俺の所に取りに来い。もちろん依頼達成してからな。」
そういうと悪い顔をしたレンネンさんはギルド長の部屋に帰って行った。
まずは依頼をこなす事にしよう。文句はそれから言えばいいよね。
「前、ハルキ様が逃亡した大森林で召喚を使わずに戦ってたんだって。ビューリングが言ってた。」
「なんで?ハルキ様から召喚をとったら何も残りそうにないのにね。」
ユーナ、ハルキ様馬鹿にすると怒るよ?
「まあ、他に何もないのが嫌だったのかもね。」
今の僕がそうだ。召喚を破られた僕はマデウに叩きのめされた。あの屈辱は忘れない。
「召喚の他にも何か自分の武器になる物があればいいのに。」
「・・・んー、そうかな?」
グレートデビルブルの生息する所はここから歩いて1日、馬車で半日、ワイバーンで30分だった。召喚は使わないと思っていたけれど、こんなところで現実を突きつけられるとは思わなかった。
「ど、どうしようか。」
「テト!あまり悩まない!私がワイバーンに乗せてあげるよ!」
これでいいのかな?まあ、時間の節約はいい事だ。僕たちはユーナのワイバーンで狩りに行くことにした。
「いたぁ!グレートデビルブル!」
30分もワイバーンを飛ばしているとすぐに奴は見つかった。草原を疾走中で非常に目立ってる。
「行くよっ!」
ワイバーンから降りると僕は剣を片手に破壊魔法を詠唱する。
「いでよ!フェンリル!」
ユーナはフェンリルの召喚で戦うようだ。だけどグレートデビルブルにフェンリルで太刀打ちできるのかな?そう思ってる間にも突進してくる。僕の唱えた破壊魔法はかすり傷にもならなかった。
「げっ!やばいかも。」
突進をなんとか避けて剣で斬りつける。腕にしびれが残ったけど、皮1枚しか斬れなかった。
「これは・・・本格的にやばめだなぁ。」
ユーナのフェンリルもほとんどダメージを与えられていない。それどころか、突進をくらって強制送還されてしまった。
「ぐぬぬ・・・。」
結局、グレートデビルブルは黒騎士召喚で倒した。召喚に頼らずに戦いたかったけど、Sランクはちょっと無理があった。ユーナは召喚で戦っていたけど全然歯が立たなかった。
「やっぱり、テトはすごいよ。」
違うんだユーナ。すごいのはハルキ様で、僕はその後ろをついて行ってただけなんだよ。だから、「後継者」なんだ。開拓者じゃない。
「お!もう討伐してきたのか?さすがだな。」
その日の夕方にグレートデビルブルをワイバーンを使って直接ギルドまで運んだ。レンネンさんは成功報酬をきちんと払ってくれて、喜んでた。前回討伐にむかったパーティーは怪我して帰ってきてたんだってさ。
「あのう、お肉を分けてください!今日はこれでお料理します!」
ユーナがグレートデビルブルの肉をもらっている。僕は素材も肉もいらないし料理できないから、全部売却で構わない。
「魔物の料理は美味しいですから!」
それはレイクサイド領にいればよく分かるよ。収穫祭前にはそのせいで各地の領地を飛び続けたからね。アイオライ王太子のせいで。
夕食はグレートデビルブルの肉を使ってユーナが作ってくれたビーフシチューだった。宿の調理場を借りて昼過ぎから煮込んだシチューの匂いが漂っている。
「奥方様に習ったの!秘伝のレシピってやつなのかな?すごいおいしいよ!」
たしかにめちゃくちゃ美味しかった。これならまた狩りに行くのもいいかもしれない。結構な依頼料ももらったし。たくさん作ったから、宿の他の客にも振る舞っている。宿の主人も美味しそうに食べてるね。
「ユーナはいい嫁さんになりそうだな!がはは!」
客の1人にからかわれるユーナ。すでに何人とも仲良くなってる。これはもうすでに才能とよべるほどのコミュニケーション能力だ。単純にすごい。ほんといいお嫁さんになりそうだよ。
「テト!また狩りに行こうね!」
皆に褒められてよっぽど嬉しかったのかな。
「うん、そうだね。また行こう。」
今日はこれでもいいや。でも、僕は別の力を手に入れないといけないんだけど。
その日の夜、僕はお酒を飲んでみた。普段はあんまり飲まないんだけど、なんとなくそんな気分だったんだ。依頼達成でお金に余裕があった事も原因の一つだけど。でもちょっと後悔。
「テトはね!召喚以外の力とか言っちゃってるけどぉ!テトはテトでいいのよぉ!」
まさかユーナが酒乱だったなんて・・・。人は見かけによらないね。
「召喚が破られたらどうするかってぇ!?そんなのハルキ様見てれば分かるじゃあない!次の召喚よぉ!」
あれ?意外といい事言ってる気がしてきたぞ?
「どうせ大森林で他の魔法を使ってた時も飽きたとかそんな理由にきまってんじゃない!あはは。」
なんとなくそんな気もしてきたよ。
「レッドドラゴンでだめだったらコキュートスってね、奥方様口説き落とした時のやり方がぁ!くぅー!私もされてみたいぃ!」
・・・そうか。そうだよね。うん。
「ハルキ様たち守りたかったらぁ、もっと強い召喚獣とかぁ、もっとハルキ様みたいに魔力込めるとかぁ、使い方を考えるとかぁ、いろいろやればいいのよぉ。苦手な魔法を訓練してる暇なんて無いぃって、ヘテロ様が昔言ってたッスぅ。受け売りッスぅ。」
向かう先が見えてきたよ!僕に必要なのは新しい召喚獣に、それを使いこなす技術に、忍耐力に、レベル上げに、いっぱいあり過ぎてどうしよう!悩んでる暇なんかなかったよ。
「ありがとう、ユーナ!なんか分かったよ!」
「そう?それは良かったぁ・・・。むにゃむにゃ。」
あれ?ユーナ寝ちゃいそう。
「さあ、今日はもう寝よう。明日、ちょっと考える事があるからさ!」
ユーナを連れて部屋に戻る。なんとか歩いてくれたからよかった。
「ちゃんとベッドで寝るんだよ?」
「ふあーい。」
僕は自分の部屋に帰ると興奮した気分だったけど、お酒の力もあったのかすぐに寝ることができた。久しぶりにぐっすりだった。幸せな夜だったよ。この時は。
「・・・・・・えぇ!!??」
朝起きた僕は状況が全く理解できなかった。起きたのは僕の部屋、僕のベッド。そして隣で寝てるユーナ。
「ちょ!ちょっと待て!なんで!え?」
僕の声に反応してユーナが起きる。昨日の服とは違ってパジャマに着替えている。
「・・・うーん、うるさいなぁ、・・・え?」
「え?」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・もう、お嫁にいけない。責任取ってね。」
マジで?マジなのか?ちょっと待ってよ。え?ほんとに?




