1-5 目覚める力に期待されるもの
海辺の集落は俺たちを受け入れてくれた。
「こっちも人手が必要だったんだ。気にするな。それよりもそちらの村は気の毒だったな。」
村で防衛面でのリーダーを務めているのはカイトという名の男だった。非常に破壊魔法の扱いに長けており、多くの魔物を狩ってきた事のある男だ。船にも乗る。俺はこの男に魔物の狩猟について行かせてもらうよう頼み込んだ。村でする仕事をのうち、最も重要な役割の一つだ。
「テツヤも魔物の狩猟をしたいのか。いいぞ。その代わり、命の保証はできないからな。」
俺には次元斬がある。そして、日本での知識もある。もう、身内が死ぬのはごめんだった。できるだけの事をしていた。
この村も年々魔物の強さが変わってきており、苦しめられていた。
「北の方から来る魔物が強いんだ。もしかしたらお前らの村を襲ったやつらも北から来たのかもしれないな。」
この大陸の北には魔人族の集落はないとされている。山を越えて、さらに北に行くとそこは魔喰らいの領域とよばれる荒野が広がっており、溢れんばかりの魔力とそこに住む魔喰らいが全てを喰らいつくすと言われていた。あまり、北に行く奴がいないために真相は分からない。魔力が強くなればなるほど魔物も強いからだ。
「北で何かあったのかな?それで魔物の住処が移動していきているとか。」
結局、俺にはこの原因は分からずじまいだった。
「シン、ラミィ、俺たちは強くならなくちゃいけない。」
俺はシンとラミィに強くなる事を提案した。ライクとバルトが死んだ今、俺が2人を導く必要があったし、3人で協力しなくちゃならない。それには自衛の手段は必要だ。
「レベルを上げよう。それが最も強くなりやすい方法だ。」
だが、レベルの上げ方は魔物と戦う以外には分からなかった。
「といあえず、ラミィは機会があれば積極的に回復魔法と補助魔法を村の皆にかけるんだ。シンと俺は魔物の狩猟に同行させてもらおう。」
次元斬がある俺はいいとして、シンは少なくとも魔物の狩猟ができるようにならなくちゃいけない。そうでなければ生き残れないと思った。
それから、俺たちはできるだけレベルを上げる事を目標に生きた。ラミィもすぐに狩猟についてこれるようになり、海辺の村の食糧事情は俺たちの活躍でかなり良くなったと言ってもらえた。だが、俺の理想にはまだ足りなかった。
「カイト、話がある。」
ある程度信用を勝ち取っていた俺の話をカイトは聞いてくれるようになっていた。今、狩猟に行く際にたまに犠牲者が出る。特に海での漁の際には船が転覆する事もあった。単純に力をためる事を目標としてきた俺たちだったが、村人に犠牲が出るたびにこれでいいのかと思わずにはいられない。なぜなら、ここの村人も単純にレベルを上げるだけの事しかしていなかったからだ。
「狩りの際の装備に問題があると思う。特に船だ。」
魔人族にありがちな単純な力比べでの評価。腕っぷしと魔法の技術だけで優劣が決まる。兵法や軍略などの話がほとんど出てこない。ましてや、装備の問題にまで言及した奴なんていなかった。元・人間としては違和感しかない事であるが、魔人族としてはこれが普通だった。
「例えば、網だとか、船が転覆しないようにする工夫だとか、いろいろ考えてもいいと思うんだ。任せてもらえたら狩りの成功率が上がると思う。」
海の魔物を取り逃がす事も多かった。返しの突いた銛を綱に結んでおくだけでも違うのではないかと思う。魔物のほとんどは空気呼吸だったが、中には水中でも呼吸ができるのか海中に逃げ込む奴もいた。
「少しずつ、まずはこの村を変えていこう。」
気付くと、俺は村の若者から慕われる存在となっていたらしい。漁に出ると必ず魔物を狩って帰り、特に犠牲者がほとんどいないという事がどういう事かは当事者たちがよく知っている。
「本当にお前が来てくれてよかった。」
カイトはそう言ってくれた。ここは何としても守りたい。そう思った。そのころにはシンもラミィも笑う事ができるようになっていた。
数年して、ラミィも成人した。俺は20歳になっていた。
「テツヤ!大型の魔物がこっちに向かっているらしい。見たことのない奴だ!」
物見櫓からの警報があったらしい。すでにこの村は俺が要塞化させている。少々の魔物ではびくともしないはずだ。塀の上に設置した投網装置が、堀の中で動きにくくなっている魔物を絡めてしまえば俺の次元斬でどんな奴だって斬ることができる。いつもはグレーテストボアなどの大型の魔物ですら問題なく処理できていた。
「急いで皆を壁の中に入れるんだ!決して無理するんじゃないぞ!」
壁の外で作業をしていた奴らが門まで走ってくる。魔物はどっちだ?
「テツ兄!でかいよ!あんなオオカミ見たことない!」
シンが叫んだ。オオカミ?でかい?嫌な予感がよぎる。
「あれじゃあないだろうな・・・。」
俺らの村を壊滅させたオオカミ。あのデカさと俊敏さならこんな壁はらくらく飛び越えてしまう。背中に汗が落ちるのが分かった。いつもの程度の魔物なら俺がいなくても対処できる。最悪を考えて行動しろ。
「俺も壁の上に上る!そいつが壁を飛び越えないように槍を構えてろ!」
壁の上で待機していた奴らに指示をだした。門の所ではカイトが数名と一緒に待ち構えている。
「カイト!門を閉めるんだ。戦うな!」
壁の上に上ると、年をとった魔人族の一人が腰を抜かしていた。
「て、テンペストウルフ・・・、なんてこった!」
やはり、あの時とおなじ大型のオオカミだ。テンペストウルフと言うのか。物見櫓や壁の上に陣取った仲間たちが破壊魔法をテンペストウルフめがけて飛ばしている。だが、テンペストウルフはなんなくかわすと集落のほうへと凄まじいスピードで突っ込んできた。
下を見ると門が閉まっていない。カイトたちはテンペストウルフを迎え撃つつもりだ。
「やめろ!カイトォ!」
もう、身内は殺させない!俺は門の上から飛び降りた。
『爆ぜろ』
心の声が聞こえた。魔力が勝手に俺の体の周りから周囲の空気へと導かれていく。テンペストウルフの周囲が赤く染まる。これを飛ばせばいいのか?
必死の思いで魔力の操作を行う。全然だめだ。耐えられない。俺の魔力がテンペストウルフを包み込み、我慢できなくなると同時に爆発した。いきなりの周囲の空気の爆発にテンペストウルフの足が止まる。目の前でスピードを殺されたテンペストウルフめがけて、必死で刀を振るった。何千回、何万回と練習した次元斬だった。
真っ二つにされたテンペストウルフを見て、集落の皆が歓声を上げる。
「テツヤ、その力は・・・天性のスキルだ。」
スキル?これがか?俺はお前たちを守りたかっただけなんだがな。
後日、カイトの勧めでハイ・ステータスを受けた俺はこの力が次元斬とヴェノム・エクスプロージョンという今まで聞いた事のないスキルだと言う事、他にも多くのスキルを持っている事を教えてもらった。
「テツヤ、お前は魔王になるべき存在だ。」
魔王?魔王ってあれか?勇者に世界の半分をくれてやろうとするあれか?
「こんな村で終わるような奴じゃない。東の大陸へ行け。そこには魔人の王国が多数存在する。」
しかし、俺の答えは決まっていた。
「お前らが全員ついてきてくれるんならな。」
テツヤ 20歳 男性(魔人)
Lv 66
HP 1330/1330 MP 620/620
破壊 45 回復 12 補助 16 召喚 1 幻惑 2 特殊 61
スキル:次元斬(特殊系統、全ての物質を空間ごと切断する)
剣豪(戦闘において剣の使い方が上手くなる)
金剛(強靭な防御力を誇る肉体を手に入れる)
カリスマ(仲間の信頼がUP)
自己再生(徐々にHPが自動で回復する)
不屈(敗北を糧にして強くなる)
ヴェノム・エクスプロージョン(特殊系統、広範囲の爆発系魔法)
それは魔王ではない、竜王だ。




