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1-4 残された想いを分かちあって

グロ注意報

 2人での旅は意外にも楽なものだった。それもそのはず、もともと見張りはライクと2人で交代で行っていたし、成人したてで狩りにも連れて行ってもらえなかったシンと成人していなかったラミィをかばいながらの旅だったからだ。食料もなんとかもらう事ができたし、それに目的がはっきりしている旅であったために心が折れる事はなかった。

「この様子だと来た時ほど時間はかからないだろうな。」

ライクの言う通りだと思う。俺は次元斬を使いこなせるように魔物の襲撃の際には積極的に戦う事とした。この力があれば、自分もライクも守る事ができる。そう考えるとありがたかった。問題は攻撃が当たらない場合だ。動きが遅い魔物を狩るのは楽だった。しかしシルバーファングなどの俊敏な魔物になるとなかなか当たらない。

「当たりさえすれば!」

焦りが余計に狙いをあいまいな物にする。まだ未熟者だという事を実感させられた。

「それでも、1人で魔物を狩れる事はすごい事だ。あの集落に戻ったらお前は皆を守って食い物を獲ってくる事ができる。胸を張れ、お前がいなかったら俺はここにはいない。少なくともシンやラミィは救われた。」

ライクはそう言ってくれた。ライクを支えるつもりが、精神面ではライクに支えられっぱなしになっているのに気付いた。この力のせいで増長していたのだろう。


 シンの言葉がよみがえってくる。そうだ。笑おう。村の皆が助かるんだ。バルトが生きた意義も出てくるんだ。これでいいじゃないか。俺が斉藤哲也だったという事は今は考えなくてもいいじゃないか。

「早く、村に行こうぜ。皆の顔が見てみたい。」

ライクもうなずいてくれた。旅は順調だと思っていた。ライクも笑っていた。



 絶望というのは、思ってもみなかった事だからこそ訪れるのだろうか。いや、頭では考えないようにしていた。可能性は十分にあったはずだが、考えても何もできない事は明白だった。それは考えているのと同じなのだと思うが、頭で拒絶することで現実から目を背けていたのだと思う。


 ようやくたどり着いた頃には、村が壊滅していた。至るところに、仲間の血肉が散らばっている。ろくな建物もなかったので隠れる場所もなく全滅したのだろう。今まさに仲間の遺体を食い散らかしているのが大型の狼の魔物だった。シルバーファングよりも3倍はでかい。単独でこの村を全滅させる事ができるほどなのだろうか。仲間の死の絶望よりも、己が生きる事ばかりを考えていた。

「テツヤ、お前は逃げろ。俺が足止めをする。ラミィを頼んだぞ。」

ライクが刀を振りかざしてオオカミに斬りかかっていく。


 正直、体が動かなかった。目の前でライクが食われる。持っていた刀は吹き飛び、ライクの断末魔とともに俺の足元に突き刺さった。

「生きるために戦え。」

ライクの刀がそう言っている気がした。それで動けるようになった。

 槍を投擲する。次元斬が乗った槍はライクに食いついているオオカミの右足に当たった。だが、かすり傷なのだろう。身をひるがえしてライクを咬みちぎったオオカミはこちらを向いている。すぐにでも襲い掛かれそうだ。人の体はあんなにも柔らかいものだったのだろうかと思う自分を意識していた。

 地面に刺さったライクの刀を抜く。不思議と軽い。刀を振ったことはないが、使い方が何故か分かる気がした。

「来いよ!」

オオカミに向かって吠える。頭をかがめて踏み込むと、一瞬でオオカミが間合いを詰めてきていた。すれ違いざまに刀を横に振りぬく。肉が斬れる感触が手に伝わってきたが、同時に右足に咬み付かれたようだ。たまらず転倒した。口の中に土が入ってくる。自分の状態を確認すると、足の先から血が垂れている。靴が壊れたらしい。それでも足はつながっていた。

 振り向くと、オオカミの巨体が地面を這っている。負傷した足を引きずって、後ろから刀で背中を突きさした。何回も何回も突き刺す。ライクの、村の皆の分まで。



 気が付くと、オオカミの魔物は死んでいた。何回刺していたのかは分からない。そしてライクと村の皆も一人残らず・・・。

 右足の負傷の手当てをする。靴はもうだめだ。脱ぐしかない。足の痛みがかなり強いが、どうでもよかった。一人、村に取り残された俺はひと時の間、生きる目標を見失っていたのだと思う。一通り、村を見て回った。生存者は、いなかった。


「帰ろう。今の俺には帰る場所がある。」

食料を持ち出し村を後にした。仲間の遺体から靴を剥ぐ気にはなれなかった。遺体を埋葬したかったが、いつまた魔物が襲ってくるか分からない状況で危険を冒すわけにいかず、泣く泣く放置する事にした。

 すぐに雨が降り始める。これから海の集落までは何日かかるのだろうか。寝ている間の見張りもいない。たどり着くのは困難だろう。それでも、シンが、ラミィがいる集落を目指す事しか考えられなかった。何も考えずに、ただ、歩く。負傷した足の痛みも、石を踏んだ時の足裏の痛みも、のどの渇きも、呼吸の乱れも、関係ない。ライクが連れて行ってくれた所に、バルトが守った人たちの所へ、村の皆の希望のもとへ。



 翌日には負傷した足に力が入るようになっていた。

「生きろ、という事か。」

自分の槍はオオカミとの闘いで折れてしまった。今持っているのはライクの刀である。その後、一人で進む俺をちょうどいい獲物と思ったのか、シルバーファングが2匹ほど襲ってきた。あの巨大なオオカミに比べれば、こいつらの動きは遅い。数日前まではまるで対応できなかった魔物に一撃を入れるのはそう難しいものではなかった。

「ライク、どうだ!俺は生きるぞ!」

答えてくれる人はいない。それでも前に進む。


 海の集落についた頃には体はむしろ回復していた。何故かは分からない。ただ、生きる事を目的とする俺には都合がよかった。

 ラミィもシンも泣き崩れた。それでも、この集落が無事で、帰る場所があって良かったと思った。ラミィは俺だけでも生きていてくれてありがとうと言ってくれた。

「これからは3人で生きていこう。あいつらの分も笑えるといいな。」

皆の分も笑って生きるんだ。そしてテツヤとして、生きていこう。そのためには斉藤哲也の知識は全て使うつもりでいる。今度は間違えない。大切な物は俺が守ろう。



テツヤ 17歳 男性(魔人)

Lv 42

HP 910/910   MP 330/330

破壊 26  回復 9  補助 11  召喚 1  幻惑 2  特殊 23

スキル:次元斬(特殊系統、全ての物質を空間ごと切断する)

    剣豪(戦闘において剣の使い方が上手くなる)

    金剛(強靭な防御力を誇る肉体を手に入れる)

    自己再生(徐々にHPが自動で回復する)

    不屈(敗北を糧にして強くなる)

    ヴェノム・エクスプロージョン(特殊系統、広範囲の爆発系魔法)


仕事の合間に書いてると、逆に仕事がはかどる不思議

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