4-3 失墜のダガー
王都ヴァレンタインにやってきました。ワイバーンで王城に乗りつけるとものすごい目立ってしまうので、周辺の森で降りてから徒歩で歩いています。
「もうすぐ着くッスよ。」
お忍びで旅行するのも大変です。ハルキ様はお忍びの意味が分かっておりませんでしたが、こうやって地味な努力の積み重ねが大事だという事を教えてあげなくてはならないですね。はあ、ロージー抱っこしたい。
今日はどこかで宿をとって、まずはウォルターの部下の方とお会いする必要がありますね。
「あそこの宿がいいです。」
その宿はハルキ様たちと泊まったことのある、先勝パレードの時に客室から皆を眺めた事がある宿です。
「こ、ここは・・・トラウマ・・・ッス。」
ヘテロさんが青い顔になりましたけど、どうかしたのでしょうか?
「自分たちのふがいなさを再確認ッス。ええい、望む所ッスよ。」
そういえば、あのパレードでハルキ様が見つかるのを覚悟でフィリップさんを大笑いしてましたけど、その後誰にも怒られませんでしたね。なんででしょうか。
「奥方様。」
宿に入ってご飯を食べていると、隣テーブルの人に声をかけられました。この人がアレクさんでしょうか。
「こちらを振り向かずに、小さな声でお話し下さい。」
なぜかその人の声は小さいのによく聞こえます。こんなにここはうるさいというのに。
「ダガー=ローレンス殿との面談時間は確保してあります。まだ奥方様がお会いになられた事を知られない方が良い相手が多いものですので、このまま宿でお待ちください。今夜、お迎えに参ります。」
「よろしくお願いしますね。」
「第2王子派の連中がこそこそと動き回っています。タイウィーン=エジンバラは特に問題ありませんが、エジンバラが離脱していると知らない小領地郡の連中をはじめとして王家の直臣などもお気を付け下さい。では、これにて。」
その人はお勘定を払うとすぐに出て行ってしまいました。どうしましょうか。このまま宿で待つように言われたので、食事は続行で構わないですよね。
夜、アレクさんが宿の部屋にやってきました。
「馬車をご用意いたしました。お乗りください。」
宿の前には馬車が停まっていました。私とヘテロが乗り込みます。他の人は建物の周囲を警戒するようです。
「お久しぶりでございます。セーラ=レイクサイド様。」
馬車の中にはすでにダガー=ローレンス様がいらっしゃいました。今回の会談はこの馬車の中で行われるようです。
「この馬車は王都をぐるっと一周する予定です。盗聴の危険性がないためにこういう場所を用意させてもらいました。」
「分かりました。時間もないようですので手短にいきましょう。」
「ありがとうございます。では、セーラ様はすでにお気づきになっておられるでしょうが、私たち第3王子アイオライ派の人間は少なく、大領地の後ろ盾もほとんどないのが現状です。そこで、レイクサイド領に我々の後ろ盾となっていただき、次期王にアイオライ王子を推す手助けをしていただきたいのです。」
ダガー=ローレンスはアイオライ王子派の重要人物である。筆頭と言ってもよい。だが、宮廷内で権力を持つ類の人間ではなかった。
「クロス=ヴァレンタイン宰相が失脚し、旧クロス派はほとんどが第1王子か第2王子の元へと散りました。それに伴って2人の王子は後継者争いを加速させ、現王がご健勝であるにも関わらず水面下ではかなり激しいやり取りがなされています。」
「それはこちらでも把握しています。」
「われわれアイオライ王子につく者は確かに少数ですが、アイオライ王子は非常に優秀な方です。それに今勢いのあるレイクサイド領が味方してくれるとなれば、王位を目指すことも不可能ではありません。アイオライ王子が王になった暁には、ぜひハルキ=レイクサイド様を宰相に立て、お二人を中心にこの国を盛り立てていくというのが私の夢であります。」
「そうですか。」
ダガー=ローレンス様はレイクサイド領にいたころより痩せておられるようです。政争でやつれてしまったのでしょうか。王都に味方がいるとは聞いていません。
「なにとぞ、ハルキ様をご説得いただくのにお力をお貸し願えないでしょうか。」
この人が本気なのは分かります。いままで味方が少なかった事も影響しているのでしょう。少し不用心な気もしますが、悪い気はしませんね。
「分かりました。」
「!?・・・では!?」
「しかし、こちらからの条件があります。」
「なんでしょうか!?私どもでできることなら何でも致しましょう。」
やはり、少しこの方は政治には向かないようです。破壊魔法の達人が政治の場でも達人である可能性は低いと思っていましたが、これではアイオライ王子は即位後に苦労されることでしょう。
「まず、あなたがたアイオライ王子派の人間はアイオライ王子が即位された後に権力を握れるとは思わない方がよいでしょう。」
「・・・それは、どういう事でしょうか。」
「失礼ながら、脇が甘すぎます。私のような相手との交渉で言質をとられる場面が多々見受けられます。これでは即位後の混乱を招くだけです。あなたはアイオライ王子の側近ですが、政治の場面に口を出しにくい立場に収まるべきでしょう。」
「それは・・・分かりました。私自身もこの任が向いているとは感じておりません。」
意外と素直ですね。
「次に、宰相はジギル=シルフィード様でお願いします。」
「!?ハルキ様は?ご協力いただけないのでしょうか?」
「違います。ハルキ=レイクサイド様は宰相の任などで縛られるのを嫌いになられお方です。宰相をお願いするとなると、逆に逃げてしまわれるでしょう。」
「そう、なのですか・・・。」
「シルフィードに権力を渡しつつも裏でエジンバラにも考慮する。そしてエルライトとスカイウォーカーとをレイクサイドで結ぶ。これが私にできる最大限です。逆に言えば、あなたがアイオライ王子即位後の権力さえ手放してくれさえすれば、私はこれらの領地をすべてアイオライ派に変えて見せましょう。」
「そんな!ほとんどの大領地が!」
「可能です。すでにエルライト領とシルフィード領の2人の領主は私の提案に乗りました。スカイウォーカー領主も我が主人であるハルキ=レイクサイドの友人ですし、なにより我が領地からの食糧がなければ成り立たない構造をしています。エジンバラはちょっとした弱みを握っていますしね。」
「セーラ様!私の地位などは何でも良いです!ぜひ、アイオライ王子にお力をお貸し願えませんか!?」
「ダガー殿。声が大きいですよ。」
「こ、これは失礼を。」
「あなたにはアイオライ王の親衛隊を率いていただかなくてはならないのですから。もう少し落ち着いてくださいね。」
こうしてダガー=ローレンス様とは宰相をジギル=シルフィード様に、ダガー様はアイオライ王子の即位後に親衛隊隊長に、という約束ができました。
「では、アイオライ王子とハルキ様にはそろそろお帰りいただく必要がありますね。」
ちょうど、馬車も宿の前についたようです。
「今後もよいお付き合いができたらいいですね。」
さて、次が大問題ですが、まあ大丈夫でしょう。




