3-7 遺跡調査団
「これは俗に言うダンジョンというやつではなかろうか?」
レイル諸島の南の島で発見された古代遺跡。地下にかなりの空間があるというが魔物が発生しているために発見者はそれ以上は踏み込まずに魔王の指示を待っているらしい。
「アノ島ニ町ガアッタトイウ記録ハナイ。」
ジルによると、いままでレイル諸島にはあまり発達した文明がなく、ヒノモト国が開発した島々だという。ほぼ無人島ばかりの諸島で遺跡が発掘される事はめずらしい。
「見に行こうではないか!」
なんと、アイオライ王子!ダンジョンに興味があるか!?俺も日本人の男としてはダンジョンには非常に興味がある。しかし、現実にはむさくるしい空間でトイレも風呂もなくトラップとかを見破る技能もなければ食糧とかの事もあり、不安でいっぱいだ。しかし、入り口だけなら・・・。
「よし!行くか!」
テツヤも乗り気だ。仕方ない、ついて行ってやろう。準備は入念にな。
「なんだ、その荷物を持ちまくったアイアンドロイドたちは?」
レイル諸島南の島。古代遺跡が発見されたとされる島に俺たちは来ていた。参加するのは俺にアイオライ王子、テツヤ、爺の4人だ。ジルさんとかは仕事が忙しいみたいである。魔王の護衛はいらないのか?一番強いから魔王なのか。
俺たちの後ろには荷物を背負ったアイアンドロイドが4体。登山者みたいなバックパックにたくさんの荷物を詰めてきた。
「いや、だって、ダンジョンだよ。トイレも風呂もなければ食糧が足りなくなるかもしれないし。」
リレ〇ト使えないから準備は入念にせねば。松明もアイアンドロイドが持ってくれるしね。
「どんだけ規模のでかい遺跡なんだ?こんな小さな島にあるくらいだから半日あれば調査は終わるだろうに。」
「入ってみなきゃわかんないだろう?そのための調査なんだから。」
「まあ、そうだけど。」
テツヤを説得して遺跡に入ることとする。
「ふむ、食せる魔物がいるかな?」
アイオライ王子は平常運転だ。なんでこの人太らないんだろう?
遺跡の入り口の扉を開ける。石でつくられたその扉は大人数人がかりの力がないと動かせないほど大きなものだった。まあ、アイアンドロイドたちが開けたわけであるが。もちろん最近使われた形跡はない。下に続く階段を下りるとその先はかなりの面積の広間が広がっていた。左右と正面にそれぞれ通路があり、他の部屋につながっているようである。中央には魔物がいた。しかし、その魔物は完全に予想の斜め上だった。
「ゴーレム?」
いわゆるストーンゴーレムである。レイクサイド召喚騎士団ではフィリップが契約していたっけな?アイアンゴーレムの方が使い勝手が良いからあんまり活躍はしていないけど。しかし、これは召喚獣でなくて魔物らしい。周囲に召喚している本体は見当たらない。侵入者を排除するつもりだ。こちらへ向かってくる。
「とりあえず、斬るぜ。」
テツヤの次元斬がストーンゴーレムを切り裂く。どんな物質でも空間ごと切り裂くスキルは健在だ。
「しかし、なんでストーンゴーレムが・・・?」
斬られたストーンゴーレムは強制送還された。
「やっぱり、魔物じゃなくて召喚獣か。近くに本体がいるんじゃないかな?」
しかし、人の気配は全くしない。そもそも入り口があの扉だけであったら出入りしている形跡が全くないのである。他に出入り口があるのかもしれないが。
左右の部屋は物置のような部屋だった。ただ、あまり物は置いておらず、壺と甕があったのみである。気を取り直して正面の通路を進むと、扉が見えた。
「まあ、通常はこの先に何かあるんだろうね。」
「坊ちゃま、まずは私が扉を開けましょう。」
フランは元冒険者だ。こういう時にも頼りになる。
扉を開けると、さらに下に続く階段があった。幅がかなり広い。その先にさらに大きな扉がある。その扉を開けると先ほどの広場よりは小さいがそこそこの大きさの部屋だった。中央に祭壇のようなものが置かれている。そしてその上には1人の魔人族がいた。
「あれは?誰だ?」
声をかけようとすると、その他にも数名の魔人族が部屋の中にいたことに気付く。
「こいつらは!?」
そして、その魔人族たちはすべてすでに死んでいた。いわゆるゾンビである。
「死者召喚か!?」
死者召喚。かつて、レイクサイド領でも契約条件を調べている時に調査された事があった。死者召喚の契約条件はさまざまであるが、最も下位のスケルトン召喚ですら契約条件の中に人の骨が入っていたりなど、人道的にどうかと思う条件ばかりであった。調査したもっとも高位の召喚であるオーバーロードなどは友人の体の一部などというおぞましい条件であり、その資料を元となった本もふくめて焼却した覚えがある。死者召喚はレベルが上がるにつれて、人間社会では生きていけなくなるように設定されているようだ。ウォルターたちにも、見つけ次第焼却するように指示してあり、ヴァレンタイン大陸のほとんどでもはや消失させた知識である。
それを使う者が魔人族にいる。
「死者召喚とは言え、召喚獣には変わりない。各個撃破で問題なかろう。」
アイオライ王子は動じない。
「黒騎士召喚!!」
5体の黒騎士を召喚し、それぞれ迎撃する。死者召喚で復活した魔人族は破壊魔法までも使う。もともとの遺体が必要であるが、それだけに魔力が少なめで維持にもほとんど消費しないのが死者召喚の利点だ。しかし、ここで俺は違和感を感じた。
「魔力が・・・軽い?」
黒騎士を5体召喚しても魔力があまり持って行かれないのだ。試しにもう5体召喚してみる。
「やっぱり・・・。」
全然魔力を持って行かれない。この場所は何かがおかしいと思う。
黒騎士10体であっという間に召喚された魔人族は強制送還された。もともとここに迷い込んだ魔人たちだろうか。冥福を祈るばかりである。
「坊ちゃま、これが原因でしょうな。」
爺が指差した先にあったのは一つの魔道具だった。
「これは?なんだ?」
「おそらく、侵入者に対してトラップのように召喚を行う魔道具でしょう。先の広場のストーンゴーレムが侵入者を撃退し、倒された侵入者はこちらの部屋で死者召喚の礎にされていたのでしょうか。」
「あー、胸くそ悪い場所だな!」
テツヤもアイオライも眉間にしわが寄っている。
「しかし、警備が厳重にしては守る対象が見当たりませんね。あるのはこの壁画くらいの物でしょうか。」
祭壇のある部屋には3つの壁画がかざられてあった。ひとつは空から魔物たちが降りてくる絵、ふたつ目は人が召喚獣とおもわれる獣を手から出している絵、みっつ目がたくさんの獣をひざまづかせている人の絵だ。それぞれ数字がふってあるが、もしかしたら年号だろうか?
「この絵に何か意味があるのかもしれん。魔道具がなくなれば安全だろう。町にもどって調査団を派遣してもよいと思うが・・・・・・ハルキ、テツヤ、どうした?」
俺とテツヤはその壁画の下に雑に書かれた記号に目が釘付けになっていた。そこにはこちらの世界ではありえないものがあった。
『ここは召喚魔法のスポットのようなものとなってしまった。魔力がかなり少なめで召喚できる。まだ見ぬ同胞のためにここに記す 1122年収穫の月 ヨシヒロ』
と書かれていた、・・・日本語で。




