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3-5 運転手

 東の海を越えていくと、そこには一隻の船がいた。全長は50mに届くかとどかないかの大きさで、この世界の物にしてはやや大型だ。そして特徴的なのは、帆船ではないという所だ。ある程度近づいたので速度を落とす。するとなんとか会話ができるようになる。

「動力源は魔道具から得ているんだ。せっせと魔石を狩るのが大変だけどな。」

テツヤがそう説明する。なるほど、魔石から動力を得ることで地球でいうエンジンを作り上げたのだな。

「甲板は情報提供用のワイバーンが乗り降りできるように頑丈に作ってある。いつかウインドドラゴンが乗るかもしれない設計にしておいた。」

かなり広めの甲板には特に物が置かれておらず、言うなれば空母を思い出させた。

ここはヒノモト国、レイル諸島沖。エルライト領から東に300km以上行ったところにあるヒノモト国の玄関ともいうべき島々だ。エレメントの大陸からも近いためにヒノモト国の精鋭が集まる場所でもある。

「たしかに船で来ようと思ったら時間がかかりすぎるな。」

後ろにアイオライ王子が乗っている。もう一人は爺だ。

「そうなんだよ、まあでもさすがに食糧は船で運ぶけどな。ジンビー=エルライトも港を使えってうるさいし。最近はレイクサイドのワイバーンに乗せてもらう事が多いな。ウインドドラゴンはさらに早くて楽だぜ。」

いつの間にあいつらを使ってたんだよ。どうりでちょくちょくレイクサイドにやってくると思った。

「さあ、降りるか。皆お前らに会いたがっている。」

しかし、ちょっと待って。

「ところでなんで俺なんだ?」



 レイクサイド領での大収穫祭が終わると、領民はそれぞれの家に帰っていった。これから冬支度が始まるのだ。収穫祭で売る食料品などを詰め込んでいた荷馬車に家に籠っててもできる仕事の材料を買い込んで帰る、毎年おなじみの光景である。

「数年前は、こんな光景が毎年続くとは思いもよりませんでしたな。ほっほっほ。」

「そうなのですか。私はレイクサイドの奇跡が起こってからのレイクサイド領しか知りませんからな。」

領主館のベランダでフランとダガーが仲良くお茶をすすっている。

「いやあ、アイオライ様についてこっちに来て大変でしたが、それなりに収穫もありました。」

「ほう、収穫ですか。」

「ええ、お互いのためになる収穫と信じておりますよ。」

「しかし、坊ちゃまはそんな役職がお似合いになる人ではないのですがね。」

「!?気付いておられたか?」

「鎌をかけてみました。ほっほっほ。」

「これは、やられましたな。」

「レイクサイド領民としては願ってもない事ですし、坊ちゃまにはそれを実現するだけの力が備わりました。しかし、小さいころから坊ちゃまをみてきた爺としては、坊ちゃまが望まない世界に引かれてしまうというのは複雑なものです。もともと、坊ちゃまは権力だとか政治だとかそういう物には全く興味を示さない人でしたのでな。」

ダガー=ローレンスは、アイオライをハルキ=レイクサイドの力で王に、そしてハルキ=レイクサイドを宰相にと考えていた。

「ハルキ殿の事は調べれば調べるほどわからなくなります。ただ、どのような壁でもどうにかして越えていくことのできる人、そういう印象ですね。本人は迷惑だと言うでしょうが。」

「なかなか、坊ちゃまの事が分かっておいでですな。ほっほっほ。」

「当時のパーティーが全滅して人生の目標を失った鬼のフランがまた生きる目標を得て暴れていると聞いたもので、かなり興味はありましたよ。なにせ、あの頃のあなたはそれこそ私の目標でした。ところが、実際再会してみたら、往年の実力を取り戻すどころか、別人かと思うほどに鍛え上げられている。口調まで変わってしまって・・・。人に仕えるなんでできそうもなかったあなたが、何があったのかと思ったら、あのハルキ=レイクサイド様に会ってなんとなく分かりました。」

「ふむ、買い被り過ぎです。私は晩年を故郷のために生きるつもりでした。そのため騎士団に入団したら、それはもうひどくて。やる気をなくして引退してアラン様の執事になっていたのですよ。ハルキ坊ちゃまも貴族院ではそれはひどい成績でしたしね。このまま、何事もなく死んでいくのだと思っておりました。」

領主館の図書室で毎日本の整理をして、ちょっとした雑務の指示をメイドに出すだけ。たまにアランからお使いを頼まれるくらいだったという。

「それが、ハルキ坊ちゃまが成人した次の日から変わりました。これでもそこそこに自分に自信があったものでね。ですが、まずハルキ坊ちゃまにあっという間に抜かれました。当時の私ではクレイゴーレム2体は倒せなかったのですが、ハルキ坊ちゃまはあっという間にこれを召喚できるようになりました。」

「普通の人はクレイゴーレム1体でも倒せませんがね。」

「あなたなら行けますよ。ですが、もっと驚いたことに、ハルキ坊ちゃまの指導したフィリップやらヘテロやらが私を抜いていくのです。フェンリルに騎乗し、アイアンドロイドを数体引きつれていた小隊が全部一人の力なんですから。私はあの日の事は忘れようにも忘れられません。まあ、今ではやつらにも負けませんがね。・・・テトはやりようによっては少し危ういかもしれません。さすがにコキュートスは厄介です。」

「・・・要は今のレイクサイドには当時の鬼のフランを超える人物がかなりの数いるという事ですよね?」

「当時のまだまだ未熟者だった私ごときのレベルはいくらでもいるでしょう。もっともまだ私は未熟者ですが。」

ちなみにフランのレベルは123だ。

「やはり、ここに来て良かった。お力をかしていただけるでしょうか?」

「ハルキ様とアイオライ様次第です。坊ちゃまは御友人を裏切ったりしない方ですので。」

「それを聞いて安心しました。アイオライ様を頼みます。」

「王都へ帰るのですね?」

「はい、私どもの戦いは始まっております故。」



「で?なんでダガーさんが帰ってるんだよ?護衛は?」

「護衛はお前だ、ハルキ。」

「俺は護衛される側なの!だめでしょうが!」

「ほっほっほ、微力ながら爺がお守りいたしましょうぞ。」

いや、そういう問題じゃないから、じい。

「おお、鬼のフラン=オーケストラが護衛であればだれも文句ないだろう。それにダガーは忙しい。」

「俺も!忙しいの!この夏から秋にかけて溜りに溜まった仕事が!」

「フィリップとヒルダに聞いたら、すでにハルキがいなくても回るようにシステムは組み替えているから連れて行ってもいいって言っていたぞ。」

「うがー!っていうか、なんだ?その連れて行くって?どこに?」

「おお、セーラ殿。海産物のお土産は生だと傷んでしまうから氷漬けにしようと思うが良いか?それと今度来るときは王都に寄って妻もつれてくることにしよう。魔道具通信でプレジデント・キラービーの蜂蜜で作ったお菓子の事を言ったら、ぜひセーラ殿にお会いしてレシピを教えてほしいそうだ。」

「はい、いってらっしゃいませ。お待ちしていますね。あと、できたら魚系の魔物は血を抜いてから凍らしてくださいね。鮮度が格段に変わってきますので。」

「了解した。ではハルキをお借りする。さあ、ウインドドラゴンの召喚だ!」

「なんでじゃー!?」



そしてヒノモト国。

「いや、テツヤがヒノモト国の海産物は冬が旨いと言っておっただろ?」

「おうよ!最高だぜ!」

「ウインドドラゴンなら来るのも早いし、コキュートスなら土産を凍らせる事も簡単だ。」

召喚が簡単じゃねえよ。どれだけ魔力使うと思ってんの?

「実に楽しみだ。話に聞いたジャイアントニードルマグロの刺身が食ってみたい。」

「あれは魔石も取れるから獲ってくれるんなら大歓迎だぜ!」

「よし!着陸だ!」


もう・・・どうにかしてくれ・・・。


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