1-5 決してサボっているわけではない
今年になってようやくフィリップがクレイゴーレムの契約に成功した。必要召喚レベルは70だと判明し、他の連中はまだ無理だということが判明した。しかし、フィリップもMPが足りないためにあまり長時間の召喚はできないようで、まだ大がかりな土木工事を始めるには時間がかかりそうだ。
領地経営は順調である。多くの移民が入るようになり人手不足も解消されてきている。中でも亜人を代表してドワーフが何人も来てくれたことが大きい。彼らの鍛冶の技術で道具の性能が向上し、さらに作業効率が上がった。クレイゴーレムの力を利用して遠くの石切り場から大量の石材を輸送しているが、その際の石切りの道具の生成など非常に役立っている。このまま色々と事業を拡大していこう。
召喚をここまで多くの事業に使用するにあたって、フランをはじめとして情報規制をかける部隊を設立していた。この土地で多くの召喚魔法が事業に使っているのをできるだけ他の領地にばれないようにするのを仕事とする部隊である。しかし、去年の増収などを考えると、それも限界がきているようだ。
「よし、方針を変えよう」
全国で不遇な召喚魔法使いを召喚士としてレイクサイド領へと招く計画を立てることとした。いままで情報規制をしていた部隊をそのまま全国へ派遣し、できるだけ多くの召喚士を勧誘するのだ。そうすることで他の領地で同じことをしようとしても数年遅れてしまう状況が作り出せるはずである。教師をしてくれる人物も呼びたい。
「ウォルター」
召喚騎士団の一人であるウォルターは平民の出であった。
「今、お前は召喚騎士団の中で2番手だが、今後召喚士を招くとフィリップとの間に来る可能性がある。特に貴族がいた場合はお前の下につけるわけにはいかない。これは仕方のない事として了承してほしい」
「めっそうもございません、ハルキ様。私どもをこのような地位につけてくださっただけでも過分なお心遣いであります」
ウォルター以下の3名の同じく頷いている。
「いま、ノームの召喚数は何体だ?」
「17体です。無理をすればもう2体はいけるかと」
「そうだな、魔力量を上げるためにもせめてあと1体は召喚しておけ」
「了解いたしました」
配下のノーム召喚数と召喚レベルの上がり方が俺に比べると遅い気がする。まあ、フィリップは順当だとは思うが。
「フィリップ、いまやってる治水事業が終われば領主館周囲の町と近隣の領地との間に交流専門の町を建設しようと思っている。移民をはじめとして多くの人たちがここまで来なくても良くすることで我が領地の秘密を守るとともに物流の効率化を図る事業だ。どうしてもクレイゴーレムの手がいる。魔力量を上げておけ。ウォルターたちも早くクレイゴーレムと契約できるように自らを磨いておくのだ」
「はっ!」
いつの間にこんな集団になったのだろうか、頼もしいかぎりである。
本日は治水工事に来ている。メンバーは俺、フィリップ、ヒルダの3人だ。他は畑仕事をさせている。
ここの川は数年に一回は氾濫を起こすとのことで前々から問題にはなっていた。しかし、そんな治水工事をする金などなく、泣く泣く大雨の時には畑の被害を覚悟で避難させていたのである。昨日の間に大量の石材と土砂をゴーレムで輸送してあるので、あとはこれで堤防をしっかり作っていくのだ。対岸よりも大きめに作れば万が一氾濫が起きても対岸側へと水が溢れ、畑が浸水することはなくなるだろう。後々ため池なども造設した方がよいかもしれない。
俺とフィリップはクレイゴーレムを、ヒルダはノームを召喚し工事を開始する。他にも何人も人員を雇ってはいるが、工期が短いために費用は微々たるものである。2体のクレイゴーレムが次々と石材を運び土手を作っていく。石材の間には土砂を入れ、ノームたちがそれを固めていく作業だ。召喚士たちは特設テントに座って作業をのんびり眺めながらお茶をしている。実際は大量の魔力を搾り取られるために、かなりきついのであるが、傍からみているとサボっているようにしか見えない。
「近隣領地との交流のための宿場の件だが」
魔力を使いながらでも会議ならできる。そのためここにはフランもついてきていた。
「なにか目玉となる施設があっても良いかもしれんな」
前世でたまに読んでた異世界ものではこういう時は大概、温泉かカジノである。しかし、温泉もカジノも知識のない俺には作る事も想像することもできない。ほとんどがチート能力を持っている上にさらに知識チートまであり、好きな事をしまくっていたと思うが、そんなもの、俺にはない。もともと持っていた医学の知識は回復魔法のあるこの世界では無用のものだし、回復魔法の資質なんぞない。他にも手押しポンプだとかの設計図を簡単に書いてるやつもいるが、そんなもの何も見ずに描けるか?無理だ。つまり、知識チートすらない。転生の意味ないじゃん。どうしよう俺。
「学校や図書館でも良いかもしれんが、今の状態で作れるとは思えんし」
だいたい、税収が増えたとは言え所詮弱小領地なのだ。少なくともこの召喚士事業が軌道に乗って、俺が召喚しなくてもいいくらいにならないとだめだろう。何年かかるんだ?
「あのう、ハルキさま」
「なんだい?ヒルダ」
「交流宿場もよろしいんですが、物流の効率化をはかるのであれば、輸送に関してできる事はないでしょうか」
「なるほど!輸送……、道路だ!」
たしかに今の領地を移動するさいに使っている道は全く整備されていない。領主館から宿場まででも道路ができていれば馬車であっという間に物や人を運ぶことができる。
治水工事はその日の昼過ぎには終わってしまった。何故か3体目のクレイゴーレムが出現したのだ。俺が超高級なMP回復ポーションを一気飲みしていたのに気づいていたのはフランとヒルダだけだった。
領主館周辺と宿場をつなぐ道路に採用したのは石畳だった。これで雨がふってもぬかるんだ道を通る必要がなく、迅速に物を運ぶことができる。さらに領主お抱えの鍛冶屋職人たちに頼んで、効率のより馬車を作るように指示しておいた。車軸を金属製にしたり、車輪を改良したり、いろいろと考える事があるようで企画や発明はこちらとしてもやってもらいたい事である。とりあえずは乗り心地無視の耐久性アップを目標とした馬車を作ってもらうことにした。これから大量の農作物を生産し全国に売りつけるつもりなので、少なくとも宿場町までの輸送はスムーズにしてもらいたい。
ゴーレムとノームをフル活用して道路を作ったら他の村からも要望が来た。すべての村に道路をつけることはできないが、石切り場をはじめとして資源が出るところは優先的に輸送を改善していこうと思う。