2-2 世界樹の村
「そうは言ってもいきなり純人と同じようには生活できるわけがない。大森林は表面上はレイクサイド領に併合という形を取るが、どちらかと言うとレイクサイド領の属国となるような位置でスタートさせよう。それには王がいる。大森林代表だ。行政や騎士団の形成も必要だし、世界樹の村を発展させなきゃならない。」
ハルキはそう言った。やっぱり、こいつは本質の見える男だ。信頼できる。
「それで、その代表にはいろんな仕事がある。」
まあ、そうだろう。大森林を統括するような人物だ。かなり負担があるに違いない。俺もできる限り協力するとしよう。
「しょっちゅうレイクサイド領主館にも来てもらわないといけないし、戦いの際には獣人を率いて騎士団とともに加わってもらう必要がある。」
うむ、できれば若く皆を引っ張っていける人物がよい。
「というわけでビューリングよろしく。」
・・・は?
「ふふふ、死なば諸共、お前もハタラケ。」
ドウシテコウナッタ?
後世の歴史家は語る。「大召喚士」ハルキ=レイクサイドはもともとの二つ名は「紅竜」だったと。これは彼が若い時分に得意とする召喚獣から名づけられたものであるが、後々それ以上の召喚獣を多用するようになり、ふさわしくないと言うことで「大召喚士」にいつしか変わっていったのだった。ハルキーレイクサイドの部下の武将には主に召喚騎士団を始めとして8名の有名な者たちがいる。そのうちの一人に「獣王」ビューリング=ブックヤードがいた。彼は大森林に住む獣人たちの王として君臨し、ハルキ=レイクサイドよりブックヤードの姓を授けられ貴族として扱われたという。その信頼は後から加わったにも関わらず古参の騎士団にも劣らないものだった。
「待て!なんでよりによってブックヤードなんだ!」
「文句あるのか!」
「あるわい!もっとマシなのを考えろ!」
「ブックヤードのどこが変なんだ!俺が偽名でよく使う由緒正しい姓じゃないか!」
「だからだ!こんな姓いらん!」
「お前獣人代表なんだから姓が必要なんだ!あきらめろ!もう登録しちゃったし。」
「なっ!?まじか!?」
世界樹の村の建設が急ピッチで進められている。もともと魔喰らいが更地にした部分だ。区画整理を行うのも簡単で、レイクサイド召喚騎士団の暇だった・・・待機を命じられていた団員が全て集められ、ゴーレムやらノームの召喚を行い、将来的にかなりの人数が収容できるように村の周囲に塀を張り巡らせていく。獣人のもともとの慣習にしたがった樹の上の家は利便性と建築のしにくさから不採用とした。塀があれば魔物にはある程度対処できるし、そのためにも騎士団の設立が必要だ。
農地を作るかどうかで意見が分かれた。採取と狩猟のみで生きてきた獣人にとって農業は未知の分野である。農地の管理なんてしたこともなかった。毎回、レイクサイドから穀物を輸送してくるという案もあることにはあったが、基本は自給自足したほうが良い。試験的に少しだけ農地を作り、やってみるという妥協案にとどまったが。
それをハルキに相談したら、農地よりも道路を作った方が良いと言われた。今の樹海の行き来は非常に危険であり、荷馬車も通れない部分が多い。それを道路を開通させる事で穀物を輸送してしまおうという考えだ。これからば大量の穀物を持ってくる事ができる。その代わり穀物と交換できるものを村で作るのだ。それは狩猟で得た肉を加工した物でも、森で採取した珍しい物でもいいだろう。
「各集落に道が通ったら、そのうち色んな人がここに来る事になるだろうな。」
ある程度村の土木事業が終わったら、ゴーレム部隊をそちらに回してもらおう。それにしても召喚騎士団の連中はあっちのテントでお茶してるから、一見さぼっているようにどうしても見えてしまうな。
「レイクサイド領に率いていく騎士団の選定も必要だ。それぞれの集落に触れを出そう。」
獣人の集落にはそれぞれ戦士たちがいる。ビューリングももともとその戦士だった。彼等は平時は狩りをしてすごしているが、戦争の際には戦士として戦う。少量であるが、前回のエレメント軍の侵攻の際にも獣人代表として数名とともにビューリングも参加した。
「俺がレイクサイド領に行っている間に村の建設を任せる人物も必要だな。」
行政担当も必要である。特に世界樹の村は早めに建設してしまった方がいい。ここは大森林の中央部にあるためにどの集落からも交流がある。ここの村を中心に道路を建設していけば、いままで移動も難しかった大森林はさらに発展するようになるだろう。しかし、ハルキは「自然をむやみに壊すような事はするな。意外とバランスよく成り立っている。道路を通す際にも無理に壊して通してしまうのではなくて、迂回してもいいところは迂回させたりすればいい」と言った。森林を壊さないというやり方には賛成だ。
数週間経って、騎士団の招集に応じてくれた獣人たちが村に集まってきた。その中で最も強かったものを騎士団長に任命した。名をガウという。ガウは犬型の獣人だった。レベルも70を超えているそうだ。頼もしい。俺も負けてられないな。
次に行政担当を任命した。獣人の国の宰相といったところか。鳥型獣人のインクがこういう仕事が得意そうだった。俺がいない間にある程度の権限を与えて、村の設立を召喚騎士団とともにやってもらおう。ほとんどはハルキの用意した村の設計図に沿って、ゴーレムとノームがやってくれるから間違い様がないはずだ。俺でもできたんだから。
「ガウ、そろそろレイクサイド領主館へ行こうと思う。騎士団は何名ついてこれそうだ?」
「村の防衛に数名残すとして、狩りもしなきゃならんから、・・・だいたい20人だな。」
「では、その20人とともにハルキに会いに行こうか。」
「了解、大将。」
20人の騎士団をひきいてレイクサイド領主館へと旅立つこととした。しかし、皆俺よりも強いんじゃないか?獣人として、少し不安になってきたぞ。
数日かけてレイクサイド領主館が見えてきた。
「ここにも何度も来たな。これからもっと増えるんだろうか。道路ができたらもっと早くなるぞ。」
「道路?なんだそりゃ?」
「石畳の道だ。森の中に開通すれば集落まで荷馬車が通るようになる。ほら、この周辺にはたまに道路が通っているぞ。」
「おお、これか、そりゃすげえな大将。やっぱすげえよ大将。」
「俺がすごいんじゃない、ハルキがすごいんだ。」
そうなんだ、俺は全然だ。召喚騎士団の連中の気持ちがよく分かる。こんな状態で自分を卑下するなといわれても仕方ない。無理だ。
「いや、殿様もすげえけど、それでもそんな殿様と友達だっつう大将はすげえよ。」
「・・・ガウ、たまにはいい事言うな。」
「たまじゃねえ!」
「はっはっは、それではその殿様に会いに行くとしようか。」
奥方様にもお会いできるのが楽しみだ。今回は部下として会うから失礼のないように気をつけねばならんな。
レイクサイド領主館ではテトがお茶を飲んでいた。相手はヘテロだ。
「昨日世界樹の村に行ってきたんだよ。ビューリングは騎士団引き連れてこっちに来ている最中だったから会えなかったけどね。」
「そうッスか。じゃ、こっちで会えるッスね。」
「うん、それはいいんだけどさ。召喚騎士団の新人たちがさぼり気味だったから一言、言っちゃったんだよ。あいつら、ゴーレム2体とノーム1000匹でなんとかしようとしてたんだけど、あの人数で。」
「な、なんて言ったッスか?」
「お前ら全員よりハルキ様一人の方が召喚量多いって。とりあえず僕もワイバーンやめてれっどらで帰ることにしてみたりして。えへへ。」
「・・・。」
「それからあいつらポーションがぶ飲みしてたよ。ようやく自覚というものが芽生えてきたかな。これで世界樹の村の建設も問題なさそうだよね。」
「・・・テト、怖いッス。」




