1-7 不法投棄計画
ほとんど木の原型はとどめていない。周囲の木々もなくなって、枯れた土地が広がっている。中心にはうごめく黒い・・・何というか。魔喰らいは世界樹を喰らっていた。
「なんだこいつは!?」
真っ黒なアメーバ状の何か。本当に何かだった。大きさは大型の獣ほど。これは何だ?
「テツヤ、これが魔喰らいか?」
「わからん!魔喰らいの姿に関する記述なんて知らねえよ!」
「まあ、これが魔喰らいであろうがなかろうが、世界樹をこんなにしちゃってくれてるわけでさ。とりあえず、狩るか?」
そうだ。世界樹を喰らうなどと許される事ではない。
「ハルキ!テツヤ!全力で行くぞ!」
しかし、その瞬間、あれから黒い触手がものすごい速度でワイバーンに絡みついた。
「やばい!離脱しろ!」
あわてて落ちるハルキとテツヤ。落ちざまにテツヤの次元斬があれを襲う。俺はもう一体のワイバーンから降りると全身に力を込めた。獣化のスキルを使う。全身の筋肉に血が流れ、膨張しだすのが分かる。この時の感触は好きだ。かっと激情が走り、獲物の認識をする。そう、こいつは、いや、これは獲物だ。背中は友が2人いる。俺なんかよりもずっと強い友だ。安心して任せられる。さあ、狩るぞ。狩りだ。あれは獲物だ。狩る!!
「ずああぁぁ!!」
渾身の一振りだ。鍛えぬいた肉体から繰り出される。しかし、それはぐにゃりと曲がると俺の一撃をかわした。そして、そっと手に触れた。
「ああああぁぁぁ!!!」
右手に激痛が走る。あれが手に触れただけなのに、まるで右手が干からびていくようだ。すぐに手を引き、距離をとるが、握っていたはずの剣がない事に気付いた。いつの間に手放して、いや、右手が思うように動かない。戦士であり狩人である俺の右手が。
「ビューリング!一旦ひくぞ!次元斬も効かねえ。意味が分からん!」
テツヤが叫ぶ。魔王の次元斬はすべてを空間ごと切り裂く絶対のスキルだ。それが効かない?
「ウインドドラゴン!」
乗っていたワイバーンはこれに喰われた。友が新たに巨大な風竜を召喚し、俺の左手をつかんで上に乗せる。
「戦略的撤退ってやつだ!負けじゃない!」
そう言う間にもそれは風竜を喰おうとする。風を操り、それを退けると風竜はその場から高く上昇した。いつの間にかテツヤも後ろに乗っている。
「とにかく、一旦レイクサイドに戻るぞ。あれはまずい。ビューリングの手も治さないといけないしな。」
まさか、ハルキ=レイクサイドとテツヤ=ヒノモトが組んで手も足もでないとは。
「ハルキ様!何があったんですか!?」
レイクサイド領主館に戻ると、俺の右手をはじめとしてテツヤがボロボロになっていたりしていたために異変に気づいた多くの人間が集まってきた。
「フィリップ!今すぐ出撃できる人間をリストアップしろ。少なくともフェンリル召喚ができるものとその後ろに乗ることのできる破壊魔法担当だ。いや、回復担当も挙げろ。それに誰かビューリングの右手を見てやってくれ。同じような症状を見たことがあるものがいたら最優先で俺のところに来させろ。爺!騎士団から身体能力の特に優れたものを選べ、魔力は考慮するな!ヒノモト国の人間はいるか!?魔喰らいについての伝承をまとめてもらって報告しろ。」
ホープがあっという間にハルキとして振る舞う。やはり、ハルキ=レイクサイドだ。
「一刻を争う。下手したら大森林がなくなるぞ!部隊長と騎士団の主だったものは緊急会議だ。テツヤも参加してくれ!会議が終わり次第、ジギル=シルフィードにワイバーンを飛ばせる用意をしておけ!」
「おお、お医者様が前面に出てる。」
「テツヤ、オイシャサマとはなんだ?」
「ああ、何というかな。ハルキのもう一つの人格というか性格というかなんと言うか。いつも見ているヘタレハルキじゃなくてさ。」
「ふむ、やる時はやる男という事だな。それをオイシャサマと呼んでいるのか。」
「ん~、ちょっと違う気もするけど、まあいいか。」
すぐに回復魔法を得意とする騎士が俺のところに来た。治療をしてもらっている間にテツヤはハルキたちと会議に行ったようだ。
「これは・・・いままでこのような症状は見たことがありません。」
どうやら回復魔法でも治らないらしい。全く感覚がなく、やせ細った右手を見下ろす。痛みがないのが幸いか・・・。だが、二度と剣は握れないだろうな。
「少なくとも、できるだけの事はやってみます。」
その騎士は回復魔法をできるだけかけてくれた。すると、少しだけ腕が元の大きさに戻ろうとしているように見えた。しかし、そこまでだった。
「力及ばず、申し訳ない。」
「いや、獣人の俺にここまでしてくれるなんて感謝しかない。それに戦士が戦いで傷ついたのだ。悔いなどあろうものか。」
友と戦い、傷ついたのだ。それに、今はそれどころではない。魔喰らいは大森林の魔力を帯びた木々を喰らい尽くそうとしている。
仮説は立てた。あとは証明だけだ。会議が終わり、俺は皆にそれぞれの役割を通達した。
「今、魔喰らいは大森林の中央部にいる。その周囲の木々を喰らうまでは移動しないと思っているが、実際にはどうかわからない。ただ、ウインドドラゴンほどの速度で移動できるわけではないという事と、移動はできなくても射程範囲に入ればワイバーンの速度を超える触手での攻撃がある。」
魔喰らいは行ってみればスライムとかアメーバみたいな魔物だった。多分、知性はない。ただし、真っ黒。まじで気持ち悪い。
「やつは魔力を喰う。いろいろ試してみたが、魔力で作られた破壊魔法の氷や召喚されたワイバーンなんかはあっという間に喰われた。その変わり、ビューリングの鉄製の剣は避けたんだ。テツヤの次元斬は特殊魔法だから喰われたと考えていいと思う。」
「それでか!!俺に切れないものがあったのかと思ってへこんでたぜ!」
「それでだな、・・・おいビューリング。やはり回復魔法ではだめだったか。」
ビューリングの右手は枯れ果てたままだった。若干良くなってるか?あまり変わらない。
「ああ、無理みたいだ。」
「よっと。」
枯れた右手を触って魔力を流してやる。するとみるみるうちに右手が元の太さに戻った。
「おお!!」
「さすがハルキ様!」
「ホープ、いやハルキ・・・俺はもうすべてを諦めようとしていた。本当にありがとう。お前と友でいられた事を光栄に思うよ。」
いやいや待て待て、真顔で言うなし。
「これは魔力を喰われたんだ。だから魔力を補充してやっただけ。つまり魔喰らいはその名の通り魔力を喰う生物だ。物理攻撃には対処できないはず。それでもあの触手攻撃とかはかなり厄介だ。だからこそ皆のちからが必要・・・・・・だ?・・・いや待てよ。」
「よっしゃ!俺が切ってやる!」
いや、お前の次元斬はオートで出るスキルだから。お前役に立たないから。というか、いままで大勢で物理攻撃を加える必要があると思っていたけど、・・・あれ?そんな危険な事する必要ないんじゃね?
春樹人格が消えてハルキ=レイクサイドがしゃしゃり出てくるのが分かった。
「ああ、ちょっと今までのなし!!」
「「えええぇぇぇ!!!」」
「はい!レイクサイド召喚騎士団集合!ワイバーン使えるやつ手を挙げろ!はい!それ以外解散!」
これは、いけるかもしれない。
翌日、大森林中央部で周囲の木々を喰らっていた魔喰らいは、超がつくほど大きな網を作ったレイクサイド召喚騎士団が魔喰らいの触手の射程圏外の両側から一斉に引き、あっと言う間に絡め取ってしまった。魔力を帯びていない縄でできた網を魔喰らいは喰らう事が出来ず、網の隙間から出ようとする前に魔力を帯びていない大きな麻袋に詰め込まれた。魔喰らいは力そのものが強くなかった事、魔力を帯びたものを喰らう事はできても、魔物の骨や甲羅など魔力を帯びていない部分や帯びていても土や岩などすべてを喰らう事はできないという仮説に基づいた考えだった。ハルキ=レイクサイドは友人に、その網の使い方を「ソコビキアミ」といったらしいが、理解できたのはテツヤ=ヒノモト魔王だけだったという。
そしてハルキ=レイクサイドはつぶやく。
「これ、捕まえたはいいけど、どうしよう?エレメント帝国あたりに捨ててきてもいいと思う?」
「お!いいんじゃねえか?できるだけ北側にしてくれよな!」
第2部1章が終了です。第2部の下地を作る事が目的でしたが、意外にもビューリングの位置が難しい。




