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6-3 アウトオブなんとか

 いやいや、待て待て。一旦落ち着こう。俺は何をしているんだ?いや、落ち着け。

「迎え討てぇ!アイシクルランス!!」

「今日こそ討ち取ってやる!」

「させぬわぁ!!」

アイシクルランスと敵の魔獣に乗った部隊が鉢合わせしたらしい。お義父さんの超特大の氷魔法が炸裂したりしている。いや、今はそれどころではない。一旦モチツケ。


 この数ヶ月、俺は俺でなかったと言うか俺は俺だったんだけど俺は俺でないから、俺なわけで。ええい、分からん。

 整理しよう。俺はハルキ=レイクサイド、レイクサイド次期当主だ。前世は川岸春樹であったが、この世界に転生してきた頃は川岸春樹の記憶に乗っ取られた形で領地改革を推し進めて・・・。

「ハルキ=レイクサイド!!ここでお前を討ち取れば、我らが勝利に・・・。」

「うるさい!ちょっと忙しいから黙ってろ!」

 突っかかってきた魔人族をアイアンドロイド召喚で魔獣の足を絡めて転倒させる。たまらず魔獣から落馬した魔人族の胸をタイミングよくミスリルランスで一突きだ。フェンリル騎乗中だからかなりの力が槍に加わる。


 さて、話を戻そう。俺はこの数ヶ月、焦りからかハルキ=レイクサイドの人格を封印して川岸春樹の人格が全面に出ていたらしい。平和な日本からきていた川岸春樹は気持ちが荒み、ようは精神を病んでいたのだろう。その封印されていたハルキ=レイクサイドの人格がさっきの衝撃で復活というか覚醒というか、したらしい。いや、ちょっと待ってね。

「ハルキ殿!貴公!よくやった!」

「ハルキ様ぁ!!」

「うおぉぉ!やったッス!」

ちょっと、皆うるさい、今考え中。フィリップなんで泣いている。


「ジンはハルキ=レイクサイドが討ち取った!エレメントよ!死にたくなければ引っ込んでおれ!」

「やっぱりハルキ様はすごいよ!!」

だから、爺もテトもうるさい。

 それで、今までやってた事を考えるに、ようはあんなの俺じゃないよ。俺にあんな酷い事をさせるなんて、エレメントの奴らは自業自得だ。俺は悪くない。俺は悪くない。


「ジン様の仇ぃ!せめて貴様だけでも打ち取り・・・なぁ!?」

邪魔すんな、ちょっと黙ってろと言っただろうが。ノーム召喚でそいつらの視界を奪う。1人に1体のお得な召喚だ。一瞬の硬直にこそ価値がある。そして、数秒後にちょうど超高度に召喚しておいたクレイゴーレムが着弾して俺に襲い掛かろうとしていた残存部隊の多くを肉の塊に変えた。


 数秒間敵も味方も言葉を止める。そして・・・

「うおおぉぉ!瞬殺ッス!!」

「あぁーー!!ハルキ様ぁぁ!!恰好いいぃ!!」

「なんて奴だ!!味方でも恐ろしい!」

「引けぇ!引けぇ!命を無駄にするなぁ!」

だぁかぁらぁ!うっさい!黙ってろぉ!考え事してるの!


 しかし、そんな中一つの疑問が俺の心を占める。

「あんなギスギスした態度なんて取ってたら、セーラさんに嫌われちゃうんじゃないか!?」

こうしちゃいられない!一刻も早くセーラさんの元へ!とりあえず一番速いのはあれだ!

「ウインドドラゴン!!」


 フェンリル騎乗を止めてウインドドラゴンに代える。近くに魔人族の部隊がいたがそこにいる奴らが悪い。衝撃波でぶっ飛ばす。下手したら2000程度の部隊のほとんどが吹き飛ばされているが知ったこっちゃない。


「セーラさぁぁぁん!!!ウインドドラゴンよ!全力で飛べ!!」

完全に足止めくらった魔人族の連中にアイシクルランスとレイクサイド騎士団が襲い掛かりもの凄い勢いで討ち取って行くが、今の俺はそれどころじゃない。

「ハルキ=レイクサイドに続けぇぇ!!!」

「今が好機だ!」

「レイクサイド!!レイクサイド!!」

「ハルキ様!ハルキ様!」


 しかし、今日はいつもの奇襲と違ってセーラさんが一緒についてきている事に気づいて、すぐ引き返す事になってしまった。あんなに急いでウインドドラゴンで出ていったのに、めっちゃ恥ずかしいんですけど。




 俺は死ぬのだろうか・・・。約30年間、ニルヴァーナ将軍の下で戦ってきた。魔王様もニルヴァーナ将軍も俺を重宝してくれて、期待にも応えてきたつもりだった。

 最後の相手はなんと人類だ。魔人族であり、精鋭を自負しているこの俺を討ち取る男が人類だなんておかしな事もあるもんだ。さすがはニルヴァーナ様がお認めになり、部下に欲しいと言った男だけある。

 長年連れ添ってきた俺の側近も、俺の仇を討とうとして目の前で殺された。あんなに呆気なく死ぬなんて、分かっていたはずなのに、理解できていなかったのだな。意識が朦朧とする中、俺の鍛えに鍛えたはずの部隊があっと言う間に討ち取られていく。

 出会い頭に指揮を執れるめぼしい武将を全て叩きつぶしておいて、あとは巨竜の衝撃で全体に混乱を招き、止めはゆっくりと軍を使って刈り取る。文句のつけようのない用兵だ。長年戦場に生きてきたが、これほど理にかなった作戦を見たことがない。

 個の武勇でも、用兵でも、完全に俺の負けだ。意外と気分は悪くない。戦場に散るのは望んだ事だったじゃないか。惜しむらくは、この生涯最高の好敵手とニルヴァーナ様がこれからどのように戦い、どちらが勝つかを見れない事だ。


 徐々に意識を保つのがつらくなってきた。貫かれた胸から大量の血が出ている。得意の槍で自分が最後を迎えるなんて・・・光栄・・・だ・・・・・・。



「え?俺がジンを討ち取った?」

「貴公・・・やはり異常だ。理解できん。」

「そうですよ、ハルキ様。アウトオブ眼中な雑魚でも一応向こうの指揮官なんですから。」

「いや、セーラさん。さらっと酷い事言わなかった?」

「実際、酷い事したのは貴公だ。武人に対して無礼にもほどがあるぞ。」

「ん~。そんな事言ったって・・・」

独立遊撃部隊の士気は最高調となっているにもかかわらず、なぜか説教を受けながら行軍することになってしまった。まあ、セーラさんに嫌われてなかったからよしとしよう。




耐えられんかったです・・・スマヌ。

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