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6-2 罠

「まただ!ワイバーンが見えたぞ!者ども起きろ!」

「対空魔法の準備を、それ以外の者は散開せよ。」

「怪鳥フェザーはどうした!?」

「くっ、これではどちらが攻めているのか分からんではないか!」


 エルライトの海岸に上陸して3日が過ぎた。かなりの損害をだして海岸に上陸し、なんとか布陣した我らを襲ったのは初日に多くの船隻を沈めた20騎のワイバーンによる高度からのクレイゴーレム召喚による攻撃だった。今度は船を狙う必要もないのか、破壊魔法の届かない高度からの無差別降下により、着弾と同時に陣営のど真ん中にクレーターができるほどの衝撃が起こる。敵は執拗に補給部隊を狙ってきており、補給を固めていた1日目にはかなりの損害が出てしまった。翌日からは補給物資は各部隊毎に置いてあるので固まって損害が出るわけでもなかったがその分迅速な行動ができなくなっており、この陣地に張り付けられている事も事実であった。

 我らの怪鳥フェザーによる対空部隊は100騎を超えていたはずだが、敵のワイバーンほど洗練された動きをみせる事もなく、翌日の襲撃の際に現れたものすごい速度で飛行する巨大な竜にほとんどが討ち取られてしまった。対空部隊を殲滅させられた我々は、射程範囲に入るワイバーンを魔法で撃ち落とすのを試みることしかできず、敵のワイバーンの損害はまだ数騎しか出ていなかった。


「やつらは捨て置く。上陸の際のように200名が一つの船に乗っているならまだしも、地上で散開していれば損害も大したことない。その前に王都ヴァレンタインを落としてしまえば奴らとて立ち枯れることだろう。もちろん、対空魔法の準備は怠るな。見たところ、そんなに数がいるわけではない。1匹1匹集中的に落としていけば我らの物量に勝てるはずもない。物資がなくなる前にヴァレンタインを落とすことこそ重要と思え。」

そんな中ニルヴァーナ様の命令が下った。




「空爆に全く反応しなくなってきた。対空魔法も洗練されてしまってすでに3騎6名が命を落としている。唯一、対空部隊はほぼ全滅させることができたのが救いだな。」

ここはヴァレンタイン軍独立遊撃部隊の隠し陣営。主力であるシルフィード軍およびレイクサイド軍、スカイウォーカー軍の指揮者が集まっている。

「物資の輸送を先送りしよう。どうせ、無視して本隊を突いてくるに違いない。思ったより対応が早かったな。さすがに帝国の将軍というのは優秀か。」

ジギル=シルフィードはあごひげを触りながらつぶやいた。彼に髭が生えているのを見るのは初めてであるが、何でも似合ってしまうのがこの男である。

「次は精鋭のみで奇襲をかける。ウインドドラゴンの後ろにフィリップとテトとシルキットが乗れ。シルキットは補助防御で召喚士の防御を行うのと、近づいてくるやつを撃ち落とす係だ。奴らの本営のど真ん中にコキュートスとレッドドラゴン2体が現れればそれなりの損害は与えられるだろう。」

ハルキ=レイクサイドはこの数か月、人が変わったように激烈な案を出すようになっていた。

「しかし、第1部隊のジンには気をつけろ。前回レッドドラゴンを強制送還させたのも奴だったろう。あの強靭な身体能力でウインドドラゴンを狙われるとたまらん。」

「分かっている。深入りするつもりはない。今回の奇襲はあくまでも時間稼ぎにすぎず、戦力の逐次投与をするつもりではなんでな。できればあいつを討ち取りたいが、今の所決め手に欠けるな。ルイス殿、物資の輸送隊の指揮を任せれるか?予定を繰り上げてこの地点まで輸送すれば本隊の撤退にも役立つ。」

「分かりました。すぐにでも出発しましょう。」

「助かる。」

「ヒノモトより、追加の補給船団を補足し撃退したとの情報が入っています。」

ちょうどウォルターが入ってきた。

「よし、これでさらに時間稼ぎに意味が出てくる。」



 ウインドドラゴンが最大戦速で飛行する。こうなると後ろに乗っている者の声が聞こえないどころか、後ろを振り返る事もきつい。エルライトの海岸線が見え始めると、そこに集まった大軍勢がこちらの姿を見つけて俄かに動き出すのが分かった。クレイゴーレムの投下を警戒して散会しているのだろうが、こちらが思い通りに動くと思ったら大間違いだ。

 心がささくれ立つのが分かる。明らかに自分に余裕がない。戦争とはこういう物なのだろうか。不安と焦りを自覚しながらも自分に言い訳しながら人殺しをするしかない。でなければ自分と大切な人を失うこととなるのだ。

 敵の陣営上空を飛行する対空魔法をよけながら衝撃派で攪乱し、ちょうど真ん中あたりでレッドドラゴンを召喚した。フィリップもレッドドラゴンを、テトはコキュートスを召喚している。

「落ちろぉ!」

奴だ、第1部隊隊長ジン。魔人族とは思えないほどの跳躍力でウインドドラゴンを貫こうと槍を繰り出す。間一髪、シルキットの炎系爆発魔法の連弾がジンを撃退に成功する。かなりの高度から降ちたが、あいつはこの程度で死ぬような奴じゃない事は分かっていた。反撃を警戒して高度を上げる。

「ジンがここにいるならば、他の場所は手薄だな。」


 眼下ではレッドドラゴン2匹とコキュートスが暴れまくっている。むしろジンがこちらに攻撃をしかけてくれたために、下の3体は苦戦せずに済んでいるようだ。しかし、敵の増援もかなりの数が来ていた。3人でMP回復ポーションを飲み、クレイゴーレムの投下を始める。レッドドラゴンたちを討ち取ろうと本営付近に集まってきた魔人族の部隊に直撃し、クレーターを形成した。しかし、さすがに3体もかなりのダメージを受け、すでにフィリップ召喚のレッドドラゴンはそろそろ強制送還されそうだ。

「ここまでだな、補給部隊を少し叩いたら帰還するとしよう。」

しかし、まだ3万弱の軍勢が残っていた。その後、補給隊と思われる物資を運ぶ部隊をウインドドラゴンで強襲し、物資の多くをシルキットの破壊魔法で焼き払ったが、全体から見れば微々たるものだったのだろう。3体の召喚獣が完全に強制送還された頃に、俺たちはニルヴァーナ軍の陣営を後にした。



「実にやり辛い。敵の指揮官は本質が見えていると思う。やはり、ハルキ=レイクサイドは侮れない人物であったか。ここまでの相手は北部にも東部にもいなかったな。是非部下に欲しい。」

ニルヴァーナ陣営。今回の襲撃でニルヴァーナ将軍の近衛からも損害がでており、なおかつ第1部隊隊長のジンが一時的に負傷したことで全体の士気の低下が認められる。

「しかし、それだけあちらには余裕がないのだな。冷静になればこちらの勝機が見えてくるもの。次辺り、敵の精鋭の侵攻があるやもしれん。」

やはり、ニルヴァーナ将軍は信頼できる上官だ。それが翌日に証明される事となった。



 翌日ニルヴァーナ軍が動き出した。それに呼応するかのように海岸線に残った部隊を襲うヴァレンタイン独立遊撃部隊。しかし、間延びしたとおもわれた軍編成はこの独立遊撃部隊を待ち伏せるかのように、本隊への接近を阻止する動きを見せた。

「ちぃ!!まんまとおびき出されたか!?」

「ジギル殿!ここの撃破にはどうしても時間がかかる!このままでは本隊が壊滅してしまう!一旦引こう!」

「それしかないか・・・。ええぃ!撤退だ。しかる後に本隊に合流するぞ!」

全軍騎馬か召喚獣で編成されている部隊の撤退は迅速だった。

「ニルヴァーナ!思ったよりもやる!」

「ジギル殿!これは少々まずいかもしれない!敵の待ち伏せに警戒を!」

しかし撤退する独立遊撃部隊の前に現れたのはジン率いるニルヴァーナ軍第1部隊遊撃隊だった。テツヤ=ヒノモトの軍が警戒していたエレメント帝国軍の最精鋭である。


真面目パートが続きすぎて作者の心が耐えられなくなりそうです。

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