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6-1 エルライト領上陸作戦

 本国を出港して約3週間。そろそろ目的の大陸が見えてきてもいいはずだ。私の名前はジン。尊敬する魔人、ニルヴァーナ=クリスタル様の下でエレメント第2混成魔人部隊、通称ニルヴァーナ軍の第1部隊隊長を務めている。我が軍の総数は約4万。これは他の国を侵攻するにあたってかつてないほどの規模であり、北部や東部ですらこのような大軍勢で移動をしたことはない。今回、このような事態になっているには理由がある。


 まず、本国の南に魔力量の少ない土地があった。名前はヴァレンタイン大陸というらしい。古代、我ら魔人族に負けた愚かな人類が逃げ込んだ場所だ。現在魔人族の大陸で生き残っている人類は我々魔人族の奴隷として生き残っているに過ぎない。労働力としては魔物の方が力が強く使い勝手がよいのであるが、船をはじめとして製造業においては人類が秀でているために主に我ら魔人族の物資の生産に従事している。それ以外の最後まで抵抗した奴隷たちの生き残りが住む大陸で、魔力量が少ないというのであれば特に旨味があるわけでもない。いままで放っておかれたのはこのためだ。


 しかし数十年前から情勢が変わる。我々のエレメント帝国が力をつけ始めたのだ。この帝国は強大な魔王の下で瞬く間に大陸の中で版図を広げていった。そのため南側に侵攻していた部隊は海まで到達し、その先にはヴァレンタイン大陸があったという事だ。本腰を入れて攻めたわけではない。何年かに1回程度の遠征部隊が組織され、周囲の島などの占領を行うようになった。しかし、人類は思った以上に抵抗してきた。


 数年前、南東に「ヒノモト」という国が生まれた。そこの魔王は強いわけではなかったが、不屈の闘志で周辺の国々を併合することに成功する。そのうち、エレメントと境界を接したヒノモトはその得意とする海上作戦でエレメントの軍を退けてしまった。奴らは海賊だ。こちらが攻めていっても、すぐに逃げてしまい、島を占領しても補給が足りず帰還せざるを得なくなってしまう。非常にやりづらかった。


 そんな中でヴァレンタイン大陸を利用することが思いつかれる。ヒノモト攻略の補給基地としてはちょうど良い位置にあったからだ。急遽第4混成魔人部隊がたいした下準備もなく派遣された。虎の子の単眼巨人を率いた部隊が遠征したため、ほとんどの幹部が楽観視していたらしい。しかし、結果は惨敗。その後も数回侵攻するが最終的に遠く遠征しているのが災いしてほとんどの部隊員が帰還することはできなかった。


 これに魔王様が激怒した。そして、今回我らニルヴァーナ軍が最大戦力で侵攻を行うという事になったわけである。



「あれは・・・」

ヴァレンタイン大陸に近くなった頃、空のかなたに何かが見えた。

「鳥・・・にしてはでかいか。」

それはすぐに大陸があると思われる方角へと消えていった。

そして次の日、ついに我々は大陸を見る事となったのである。完全に待ち受ける人類の軍隊と共に。


「海岸線沿いに待ち伏せされているがこれから我が軍は上陸作戦を行う。第2、第3部隊は前面に出てそれぞれ上陸しろ。抵抗が予想される。多少の損害はでるが物量で押す作戦しかないだろうな。」

ニルヴァーナ将軍の命令は絶対である。数千の人類軍が海岸線沿いに布陣しているがこちらは4万である。恐れる物は何もない。

「突撃!」

第2、3部隊が上陸を開始する。指揮官はヨーヘンとザグレだ。二人ともそつの無い良い指揮を執る。総軍2万の船が上陸へと向かう。海岸からは破壊魔法を中心とした抵抗が見られるが数が数だけに数千では勢いをとどめる事は出来ない。少しずつ、上陸しては陣地を構築する部隊が増えてきた。

「上陸成功か。ここにいる部隊が人類軍の過半数だとすれば今後楽なのだがな。」

前もって調査してある人口から推測すると多くてもこの倍はいないはずである。しかし、思ったより抵抗がさほどではない。


「ヨーヘン、ザグレともに部隊の過半数を上陸させました。続いて第4軍も上陸いたしますか?」

「いや、奴らを蹴散らしてからだ。」

「はっ、了解しました。」

第2,3部隊の上陸が進む。この時、大陸の奥の方から何かが飛んできた。その数はだいたい20に及ぶ。当初、それが何かわからなかったために対応がかなり遅れることになる。


「ワイバーンです!」

飛行物体の正体は人類の使役するワイバーンだった。こちらは対空手段として魔物の怪鳥フェザーを使役しているが、飛び立たせるのが遅れてしまう。仕方がない、対空的に破壊魔法で対処するしかなかろう。

「十分引きつけて、各々破壊魔法で対処せよ。」

この指示は結果的に最悪だった。20匹のワイバーンのうち、およそ半分の10匹ほどが上陸した第2、3部隊を無視して後方の船団に向かったのだ。しかも破壊魔法の届きにくいかなりの高度を維持したまま。

「何?何を考えてる?」

向こうも高度を下げなければ破壊魔法を打つことも当てることもできない。捨て置くべきか、怪鳥フェザーで追い払うべきかを考えていたが、敵の術中にはまったようだ。


 それはゆっくりとした動きだった。不意に高度を下げたワイバーンがいたかと思うと、破壊魔法が届きそうになるすれすれの距離まで下りてきたのだ。何隻かの船の射程距離に入る。特にあそこは第4部隊隊長のランタスの旗艦を中心とした精鋭部隊だ。その後ろにはこの4万を支える補給艦が多く従っている。他のワイバーンもだいたいその辺りを狙って降り始めた。しかし、思いもよらない事が起こる。


 ズガーンと爆音が生じて、ランタスの旗艦が一撃で沈み始めた。甲板をぶち抜いたのは土の巨人だった。高度をふいに下げたワイバーンの近くに現れ、そのままの大質量の落下によって船はなす術なく破壊された。魔人族はほとんどがその魔力のせいで召喚獣と契約することができない。たまに人間の中に妖精を召喚する奴らがいたが、あんなに巨大なものを召喚するなんて当時は思いもしなかった。突然、出現して船を破壊する土の巨人だ。混乱しない方がおかしい。他のワイバーンの周囲にも土の巨人が空に現れては補給船を中心に沈めていく。後方に待機している100隻のうち、10隻ほどがそれぞれの一撃で沈んだのだから何が起こったのかが分からなかった。しかし、ランタスをこんな戦いで失う事になろうとは!?

「あれは何だ!?ええい!」

ニルヴァーナ様までもが状況が理解できないようだ。そうしているうちに、我が旗艦にもワイバーンが近づいてきた。

「させるか!!」

ふいに出現した土の巨人に向かって破壊魔法を唱える物、槍を投擲する者など多数いたが何せ5mを超える土の塊だ。失速するほどまでいかない事が多い。しかし、この船は第1部隊旗艦、将軍ニルヴァーナのおわす船である。こんな事で撃沈されてたまるか。

「ふん!!」

少々もったいなかったが、愛槍を投擲し土の巨人を打ち砕いた。船に届かず近くの海に破片が沈んでいく。愛槍は諦めるしかないだろう。

「よくやった、ジン!」

「はっ、しかし次がいつ来るか・・・。」


 5隻の戦艦と20隻の補給船が沈み、ワイバーンたちは上陸した部隊の方へと帰って行った。すると海岸線沿いに巨大なドラゴンやら氷の巨人が出現しだす。上陸したばかりの部隊が背後から襲われてかなりの被害が出そうだ。最終的にはドラゴンや氷の巨人を討ち取る事が出来たようだが、それらは消えていった。つまりは魔人族のしらない召喚魔法なのだろう。さっきの土の巨人も召喚魔法に違いなかった。

「これは、思ったより厄介な相手やもしれん。数だけで単純計算はできん。」

下唇を噛みながらニルヴァーナ様はおっしゃった。

「ジンよ、後手に回ってしまったが怪鳥フェザーの部隊を展開しろ。そして第1、第4部隊も投入。全力で上陸をする。補給船が思ったよりもやられた。短期である程度の領域を占領する必要があるぞ。」




「撤退だ!急げ!」

こちらは海岸防衛線。当初の予定通り、後方の補給船を叩くまでの時間稼ぎが終了し、全軍が撤退の方向へと向かっている。

「ジンビー=エルライト殿。殿は我らレイクサイド召喚騎士団が務めます。」

アイアンゴーレムを2体召喚したハルキ=レイクサイドが撤退部隊に指示を出していく。

「おお、ハルキ=レイクサイド殿か。任せても良かろうか。」

レイクサイド召喚騎士団のアイアンゴーレム数体の壁が撤退する軍に安心感をもたらす事は確実だった。

「ええ、エルライト領に上陸される策を受け入れてくださったのですから、この程度の事はこちらが負いましょう。」

「ふむ、策を聞いた当初は葛藤も多かったが、あの大軍勢を見た後ではそなたの言う通りだと分かる。存分に暴れられるがよかろう。」

「ありがとうございます。ですが、ここで損害を出すつもりもありませんよ。」



 ニルヴァーナ軍の上陸作戦は形の上では成功し、布陣した大軍勢はエルライト領の海岸線沿いを占領した。しかし、この上陸作戦で約8000もの魔人族が戦死し、補給船の多くが海に沈むこととなった。

これはハルキ=レイクサイドが描いた作戦通りの結果であり、ニルヴァーナ軍はまだそのことに気付いていなかった。



本当は戦記ものが書きたかったんです。ここまでの設定を妄想していたらこんな長さになってしまいました。そして、戦記ものには程遠い流れになっていくような気が・・・。

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