1-3 世の中金だっ!
新たな眷属を仲間に入れて、護衛の数はぐっと減った。ウィンディーネとサラマンダーを1体ずつ召喚するといっぱいいっぱいで夜は還して寝ることもあった。しかしそれも何日かすると1日中召喚できるようになる。順調に魔力量は上がっているようで何よりだ。
「じい、そろそろ次の段階へと移りたいのだが……、どうした?」
フランの顔がおかしい。なにやら思いつめたような顔をしている。
「坊っちゃま、いえ、ハルキ様。じいはもはやこれまでのようです」
なんと! 昨日まであんなに元気だったのに。領地のはずれで暴れまわってたレッドボアを一人で仕留めてきたはずだったのに! もしや、昨日の戦闘で傷を負ったか? しかし、昨日の牡丹鍋は旨かった。
「じい! 大丈夫か!? 今すぐ医者を呼んでやるからな!」
「はて、なんのことでしょうか。体は十分元気でございます」
あれ? 違うみたい。
「体がつらくてここまでというわけではございません。実はもう私ではハルキ様を導くことができないのでございます」
「ど、どういう事だ、じい?」
「もはや、私が知りえた召喚魔法に関する知識は全てハルキ様にお伝えいたしました。この家の蔵書もすべて読まれてしまわれた以上、して差し上げる事がないのでございます」
今にも泣きそうな表情でフランは語っている。なんだ、そんなことか。フランは召喚魔法を全くと言っても使っていなかったし、この家の蔵書なんてほとんどないに近い。こんな事は想定内だ。
「そういう事か。だが、それに関しては案がある」
ふふふ、現代日本の知識を持っている俺は無敵に近い。まあ、今回は日本の事は全く関係ないのであるが。
「教師を雇おうと思う」
「教師でございますか?」
「そうだ。召喚に秀でた魔法使いをうちに招待するのだ。それでいろいろと教えてもらえばよい」
フランはあまりよい表情をしていないが、教師さえ招くことができればあとはレールの上を走るのみよ。魔力がある程度まで上がれば俺が周りになめられる事はないし、そうなれば領地経営もしやすくなるというわけだ。
「そうと決まれば教師を招いてもらうように父上にお願いしようではないか」
「だめだ」
しかし俺の直訴はアランによって即却下されてしまった。
「なぜだ親父! いや父上! 俺はもっと魔法を学ぶべきなんだ」
「都合の良いときだけ父上と呼びおってからに……。よいか、教師として魔法使いを招く金がどこにあるというのだ。お前を貴族院に入れるのにずいぶん金を使ったというのに貴族院にいる時はなにもせんで……ぐちぐち」
やばい、アランの目がマジだ。これは困った。このまま3種類の眷属のみで召喚を伸ばしていく方法もないわけではないが、できればいろいろな召喚獣を眷属としたい。しかし、どちらにせよアランから金を巻き上げて教師を招待する案は今のところ困難だ。戦略的撤退を行う事としよう。
気晴らしに領地を散歩する。お供はもちろんフランだ。今日は護衛として騎士団からフィリップという若い騎士が付いてきている。フィリップはうちの領地で数少ない貴族の息子でうちの領地で数少ない騎士団に所属している。フランは昔騎士団長をやっていたそうで、フィリップはがちがちに緊張してついてきているようだ。ちなみに20代前半で結婚はしていない。
「むう、世の中金か。しかし、どうするか……」
何か考えねばこの領地の将来がまずいというか俺がまずい。この前、生産の報告の資料をみていたが、経営がまるでなっていない。素人目に見てもこのままだと数十年後には人口が減って大変なことになる。せっかくの大自然が全く活用されていないじゃないか。アラン死なないかな。
ふと前を見ると多くの農民が畑を耕しているところに出た。現代日本を知っているとかなり雑に作られている畑ばかりで、畦道もまっすぐではないし水路もきちんとひかれているわけではない。作物の植え方もまちまちで、これでは効率のよい収穫など無理なのだろうなと思う。働いている農民の顔は疲れており、税で半分程度を奪われてしまうと生活していくのがいっぱいいっぱいなのだろう。
使われていない畑もあり、昔とちがって人口が減り始めているのがよく分かる。
「使われていない畑か……。人が足りないのだな……」
人が足りなければ、人を呼ぶか効率を良くしなければ生産量は上がらない。しかし、この領地はどちらもできていない。
「人が足りなければ……。金が足りなければ……」
その時、俺に神が舞い降りた。
「そうだ! じい!! 今すぐ帰るぞ!」
俺は領主の館へ走った。川を大きく迂回しなければいけない場所であったが、そこは召喚魔法を使い、大量のノームを一時的に召喚し、組体操で橋を作らせる。できたノーム橋を全力疾走だ。後ろからフランとフィリップが付いてきているが、すぐに維持魔力が足りなくなって橋が消滅し、まだ渡り切っていなかったフィリップが落ちる音が聞こえてきたが関係ない。
「金がなれけば稼げばよい! じい! いまある領地内、特に館周辺の畑と領民の戸籍のリストを持ってこい!」
この地を農業王国へとする計画を思いついたのはこの時であった。将来、この国家においてレイクサイド領ほど豊かな土地はないと呼ばれるための歴史的第一歩であった。
「騎士団から5人ほどまわせ、別に優秀でなくてもよいが、召喚魔法に資質のあるやつだ。いや、待て。騎士団ではなくて幼年院を卒業したてのやつでも構わん」
俺は今、金儲けの計画を立てている。計画の全貌はこうだ。まず、領地内の畑の状況を確認する。人手が足りない部分のうち、人間しかできない仕事とノームでもできる仕事を分ける。ノームでもできる仕事はすべてノームにやらせることで、効率よく生産性をあげるという計画だ。それには俺をふくめて大量の召喚魔法使いが必要だが、うちの領地にいるわけがない。しかし、今回俺が魔力を高めた方法を用いれば数か月でノーム10匹を24時間召喚し続けることのできる召喚魔法使いの出来上がりだ。召喚魔法は戦闘魔法という固定概念をくずしてやればこういった方法はすぐに見いだせるのである。1年もすれば教師を招く資金はすぐに貯まるだろうと楽観視している。
人手が足りていない畑はすぐにリストアップされた。手始めに館周辺の畑のほとんどにノームを派遣する。あまりにも暇になった領民は他の仕事をしてもらう。農業以外にも狩猟や製作など仕事は山ほどあるのだ。どうしても人間の力が必要な大がかりなものを除いて、除草作業や土を耕すことに始まり、畑に区画を整備して畦道と水路を新たに作ったり統合したりする作業まですることができる。24時間召喚し魔力を注いでいるため、寝ている間に大きく畑が変わっていることもしばしばだ。
領民たちはあっという間に終わってしまう作業に当初はびっくりしていたが、それにも慣れ始め他の生産性の高い仕事を始めることによって現金収入を得た。これで生活がぐっと楽になり、数ヶ月経った今では領民からの評判はうなぎのぼりである。税収が上がることで俺に入ってくる金も増えるという寸法だ。もちろん、行商人を含めて他の領地にはこのことが漏れないように対処済みだ。真似されては困る。他の領地に関連したやつが来るたびにノームが還ってしまうため、領民の態度が悪い。行商人が「儲かるけど居心地が悪い」と言っているらしい。
ノーム召喚の担当者も増えた。現在は5人ほどがそれぞれ10匹以上のノームを常時召喚している。常時召喚のため、魔力は上がり続ける。それでさらに召喚できるノームが増える。派遣できる畑が増える。いい循環だ。この半年で俺の召喚数も30を超えた。つまりMPは1500まで上がっている。自己研鑽と資金調達を両立した最高の計画だ。
ハルキ=レイクサイド 16歳 男性
Lv 32
HP 420/420 MP 1300/1520
破壊 2 回復 1 補助 1 召喚 74 幻惑 3 特殊 0
スキル:なし
眷属:ノーム、ウンディーネ、サラマンダー