5-9 ま、真面目だと・・・!?
「レイクサイド騎士団、レイクサイド召喚騎士団、両方合わせて約700名です。」
「前回フラット領、エルライト領に集まった他領地の兵は全部合わせて約8千名でした。」
「対するエレメント軍は総軍9万と言われています。」
「ヴァレンタイン方面軍は前回は50隻1万の軍勢でした。」
「現在建造中のエレメント本国の船団の数は200隻、全てで4万程度の軍が輸送されると推察されます。」
「前回のヴァレンタイン方面軍は壊滅させられたと考えられているようです。数か月かかってエレメント帝国まで船団の残骸が漂着しました。」
「エレメント海軍の特殊部隊の存在を確認しました。いままで北部で戦っていた精鋭中の精鋭です。」
「エレメント北部軍にいた怪鳥フェザーの対空部隊の存在を確認しました。ワイバーンよりも小回りが利き、飛行時間もかなりのものがあります。」
レイクサイド領の諜報部隊とヒノモト国の諜報部隊の情報をまとめてみる。これはかなり厳しいかもしれない。
俺はハルキ=レイクサイド、レイクサイド領次期当主にして「紅竜」の二つ名を有する召喚士だ。収穫祭が終わったレイクサイド領で騎士団の育成に勤しむ優良次期当主である。
本来、この時期は趣味の逃避行を楽しんでいるはずなのだが、仕事をしているには理由がある。それは国の存亡がかかっているというかなり単純な理由だ。昨年攻めてきたエレメントとかいう魔人族の軍隊を完膚なきまでに全滅させてあげたら、向こうが本気になったらしい。まあ、ヒノモト国の諜報部隊の話を聞いていると、本格的な帝国主義の国らしく、徐々に版図を拡大しないと国が維持できない不良物件だという事が分かっている。いつかはうちの国に来たはずだ。
しかし、ここで問題な事が何個か現れてきた。まずは単純に国力が違うために軍事力の差で負けているという事。次に、うちの国、「ヴァレンタイン」は封建国家のため、領地ごとに統治が分かれているが、要するに指揮系統が違う一枚岩ではないという事だ。半年ほど前から、クロス=ヴァレンタイン宰相の直属諜報部隊がレイクサイド領に現れるようになり、排除しているがいくらでも湧いてくる始末だ。こんな事をしているくらいならば軍事力の拡大に力を尽くせと言いたくなる。
そんなだから、ヒノモト国魔王であるテツヤ=ヒノモトはヴァレンタインでなくレイクサイド領に情報を流してくるようになった。自分が素気なくしておいて、こっちと仲良くなったから嫉妬するとはクロっさんも器の小さい男である。
「シルフィード騎士団は防衛戦でこそ力を発揮すると思う。我々レイクサイド召喚騎士団が遊撃隊となり、敵を攪乱させよう。前回まではフラット領への侵攻だった。俺がエレメントであれば今度はエルライト領への侵攻をする。フラット領はこの前ジギル殿が完璧な要塞を作ったから、ジルベスタ=フラット程度でも初撃はなんとか持ちこたえるだろう。」
「貴公、たまに真面目になったと思ったら、言う事がかなり辛辣だな。口調まで変わっているぞ。」
現在、シルフィード領主館でジギル=シルフィード、ルイス=スカイウォーカー、ハルキ=レイクサイドおよびその側近で密談中である。うちから出席しているのはセーラ、フィリップ、フランだ。
「今までやれる事もやらずに生きてきた連中に合わせてなんぞしてられない。クロス=ヴァレンタインがいくら世間の評価が高いと言っても所詮旧世代の産物だ。正直な話、国を救ってやるんだから邪魔しないで欲しい。」
「ハルキ殿、我らスカイウォーカー騎士団はどうしても貴公らと比べると戦力が落ちる。レイクサイド領からの食糧輸送によって我らも潤うようになったが、それでもまだ騎士団の拡充を十分にできるわけではない。」
「ルイス殿、スカイウォーカーには食糧売買で培った輸送のノウハウがある。以前、町を訪れた際に見せてもらったが、あれはなかなかの物だ。特にあの輸送に使う荷馬車の分類が素晴らしい。我が領地でもすぐに真似をしようと思ったが、まだ全てには配備できていないな。俺は後方支援にスカイウォーカー領は欠かせないと考えている。それにそちらの重装歩兵部隊の防御力はあなどれん。」
実際、うちのレイクサイド領とスカイウォーカー領は相性が良い。使いようによってはかなりの力を発揮できるはずだ。
「総指揮はもちろんジギル殿だ。俺は竜撃隊を率いる必要がある。」
「貴公がそこまで焦っているのを始めてみた。」
そうだ。俺は焦っている。明らかにハルキ=レイクサイドは奥に引っ込んで、川岸春樹が全面に出てきている。だが、焦っているからと言って冷静でないわけではない。必要な事は全て準備しておくのだ。
「こちらの情報を見たら焦りもする。なにせエレメントは総軍9万、そのうちこちらに向かってくるのが4万だそうだ。」
「4万!?」
「そ、それは・・・。」
「だが、やってやれない事はないとも思っている。前回我がレイクサイド召喚騎士団50騎で壊滅させた数は50隻1万だ。ただ、今回奇襲空爆を行うとしても1万程度しか沈められん。レイクサイド召喚騎士団が完全に無力化した状態で3万の軍勢が上陸したらそれこそ国が亡ぶ。それに、対空部隊の存在も確認している。ヴァレンタイン方面軍として準備されているのが情報通り4万だとしたら従来通り海岸線沿いで迎え撃つのが定石だが、それでは数で押し切られてしまうだろうな。」
陣形を確立させながら、防御の補助魔法を張り、破壊魔法を斉射する従来の戦いの方法ではどうしても数による優劣を覆すことができなくなる。
「考えている策はこうだ。アイシクルランスを始めとするシルフィード騎士団とレイクサイド騎士団、スカイウォーカー騎士団の一部を主力とした本体とレイクサイド召喚騎士団で構成した遊撃隊、それにスカイウォーカー騎士団で編成した支援部隊。これで1軍を形成する。申し訳ないが、すべて職業軍人で構成し、一般兵士の入る余地はない。損害が出ることを覚悟してくれ。その約3000名の1軍で上陸した4万のエレメント軍をたたく。ただ、正面から衝突してもやられてしまうだろう。全て騎馬編成とし、神出鬼没の部隊として数回攻撃を加える。エルライト領の地形と下準備は収穫祭前に騎士団の一部を魔物を狩りに行くと偽り派遣したから終わっている。同時にヒノモト国に補給船を叩いてもらう。全軍で4万となると補給が生命線になるのでな。やらねばならん事はクロス=ヴァレンタインの石頭の説得だ。」
「たしかに、国の存亡がかかっている。このジギル=シルフィードがクロス宰相をなんとしてでも説得しよう。」
「上陸阻止作戦で損害を出すわけにはいかない。レイクサイド召喚騎士団は召喚士を安全圏に確保してから召喚による攻撃を加えるつもりだが、シルフィード騎士団はあまり前に出ないでくれ。一般兵士を犠牲にするしかないだろうな。せいぜい、上陸の邪魔をして時間稼ぎするのが関の山だろうがな。やつらとしても確実に4万が集結して戦うのは上陸の時だ。地の利があっても分が悪い。上陸後ならば4万は前後に間延びする。下手をすれば何隊かに分かれるやもしれん。エルライトからヴァレンタインまでは山岳地帯だ。ここでの戦闘を想定して準備を行う。」
できる事はやっておこう。できる事は。
そして新年が改まり、テトの成人の儀の最中にエルライト沖に向けて約200隻のエレメント軍が出発したという知らせがヒノモト国より届いた。人類にとって最悪の年が開始されてしまったのだ。
ハルキ=レイクサイド 20歳 男性
Lv 108
HP 1360/1360 MP 4330/4330
破壊 2 回復 1 補助 12 召喚 250 幻惑 3 特殊 0
スキル:逃避行・改(現実から目を背けて逃避行しても心が痛まない、改良版)
眷属:ノーム(召喚3維持1)
ウィンディーネ(召喚100維持10)
サラマンダー(召喚100、維持10)
ファイアドレイク(召喚200、維持15)
アイアンドロイド(召喚150、維持15)
フェンリル(召喚300、維持15)
黒騎士(召喚300、維持15)
アークエンジェル(召喚700、維持40)
クレイゴーレム(召喚1000、維持50)
アイアンゴーレム(召喚1200、維持60)
ワイバーン(召喚800、維持30)
レッドドラゴン(召喚2000、維持100)
ウインドドラゴン(召喚1900、維持120)
コキュートス(召喚2500、維持150)
セーラ=レイクサイド 20歳 女性
Lv 52
HP 1940/1940 MP 1120/1120
破壊 58 回復 51 補助 56 召喚 1 幻惑 21 特殊 2
スキル:氷の加護
眷属:ノーム(召喚3維持2)
テツヤ=ヒノモト 28歳 男性(魔人)
Lv 149
HP 5030/5030 MP 1920/1920
破壊 86 回復 44 補助 36 召喚 1 幻惑 2 特殊 131
スキル:次元斬(全ての物質を空間ごと切断する)
剣豪(戦闘において剣の使い方が上手くなる)
金剛(強靭な防御力を誇る肉体を手に入れる)
カリスマ(仲間の信頼がUP)
自己再生(徐々にHPが自動で回復する)
不屈(敗北を糧にして強くなる)
ヴェノム・エクスプロージョン(特殊系統、広範囲の爆発系魔法)
5章終了です。ようやくここまで来ました。




