5-6 譲れない思い
ここはシルフィード領シルフィードの町の郊外にある草原。氷の塊やら、爆発の跡、消し炭になった草が至る所にある。さらに目の前にはなにやら、やりきった感を醸し出しぶっ倒れている魔王。そして般若のような顔のジギル=シルフィードに呆れ顔のフィリップ=オーケストラとその部下たちに捕獲された俺。
ドウシテコウナッタ?
事の起こりはシルフィードの町のクラブハウスサンドが旨い店でアイシクルランスの連中とともに飯をくっていた時に変な奴に絡まれたのが始まりだった。着物というか浴衣というか、あまり見ない服装をしていたそいつは、自分の事をヒノモトの国の魔王だと言った。
「ハルキ=レイクサイドに聞きたい事があった。ジギル=シルフィードでも良かったが。しかし、こんな所でできる話じゃない。確実に周りに誰もいないことを確認できる場所に移動したいが、どこかあるか?」
少し面倒くさい気もしたが仕方ない。俺たちはその自称魔王と3人の部下達と共に郊外の草原まで移動した。領主館の中と言えども誰が聞いているか分からないし、この自称魔王が信用できる相手ではなかったため領主館に迷惑をかけるのもためらわれたからだ。こっちにはお義父さんこと、マジシャンオブアイス、ロラン=ファブニールがいる。ちょっとやそっとの集団じゃ襲うにも襲えないシルフィード領が誇るアイシクルランスも一緒だ。襲えるものなら襲ってみろい。
「ここなら、誰も聞いてないだろう。見える範囲では誰もいない。」
強めの風が吹く中、魔王は言った。
「エレメントの軍団をどうした?クロス=ヴァレンタインに聞いても来ていないの一点張りでどうしても把握しているようには思えん。ならば、現場のお前らが上層部に秘密で何かをした可能性がある。特にお前にはそれができそうだ。」
あー、3か月ほど前のあれね。たしかにエレメントが襲ってくるぞぉ!って、わざわざ恩着せがましく騒いでたのに、結局来なかったことにされちゃったわけで。スマヌ。
「全滅させた、と言ったら?」
「お前らに損害がでたという気配が全くないぞ。メノウ島に配置させてた諜報員からも特に戦闘の記録は上がってきていない。一度だけお前らレイクサイド召喚騎士団の上層部が全員で訓練に出かけたことがあったが、戦った跡は見られなかったと聞いている。」
やっぱり、メノウ島にも諜報員がいたんだね。そして、戦闘後に腹いっぱいで倒れてるのを見て訓練と勘違いしたか。
「だが、こっちとしてはエレメントの船団を壊滅させてもらってたら、ありがてえんだよ。なにせ、消息の消えた50隻のエレメント軍がうちの国を襲う可能性があるかと思うとどうしても警戒態勢を取らざるを得ん。まあ、エレメント本国では軍が綺麗さっぱり消えちまって大騒ぎだがな。船団の一部が漂着したなんて噂もある。」
まあ、ちょっと同情はする。もう3か月前の話だし、攻撃方法をばらされなかったらいいか。教えてやろう。
「詳細は教えられないが、あいつらは1隻残らず沈めた。次来ても同じ結果だろうな。あ、クロス宰相には言うなよ。ばれたら面倒だ。」
「やっぱりかよ!理由は分からんが、状況から考えるとお前らが何かしたとしか思えんかった。まあ、これでうちの国も少しは息が付けるってもんだ。少し安心したぜ。」
「そりゃ、どうも」
「あー、安心したら腹が減ってきたぜ。ラーメン食いてぇ。」
「だけど、こっちにはラーメンなんて売ってないしな。」
「贅沢は言わんからインスタントでもあればよかったのにな。」
「インスタントだったら俺はシーフードの奴が・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「「お前日本人か!?」」
「ハルキ様、ニホン人ってなんですか?」
「魔王様、私どももニホンなる人種を知らないのですが?」
やべえ、こっちきてから一番びっくりした。こいつ、魔人族のくせに日本人だ。俺と同じ境遇じゃないか。初めて会った。
「ちょ、ちょ、ちょっとセーラさん、俺はこいつと二人きりで話があるんで。あ、お義父さんたちも向こうで休んで来たらど、ど、どうですかね。」
「あ、ラミィ、ちょ、ちょ、ちょっと俺もこいつと二人きりで話す用事があったんだったわ。そ、そ、そちらの人たちと一緒に向こうのほうで休憩してこいよ。」
挙動不審な人物が2人。明らかに周囲から怪しまれているが、説明したところで納得はしてもらえないだろう。それに頭がパニックで一旦冷静にならないといい感じの言い訳も思いつかない。
「ハルキ様、明らかに怪しいですけど、とりあえず2人きりでお話がしたいんですね?分かりました。私たちは向こうで待ってますから、お二人で話してきてください。」
セーラさん!やっぱり俺は君がいないとダメみたいだ。
「おい、まさかこんな所に日本人がいるとは思わなかったぜ、お前も気づいたらこっちに転生してた感じか?」
「うん、気付いたらこっちで16歳だった。」
「俺は斉藤哲也、○×大学工学部の大学生だった。今年で27歳になるはずだがな。」
「ああ、俺は川岸春樹、○×大学附属病院の外科医だ今年で37かな。」
「おっさんじゃねえかよ、しかもお医者さまか。」
「お医者さまとか言うなよ、それにおっさんじゃねえ。妻子はいたけど。」
「そ、そうか。家族と別れて来てんだな。同情するぜ。」
「まあ、さすがにもう会えないだろうな。会えても19の若造になってしまってるし、分かってもらえるかどうか。」
テツヤは魔人族に転生したらしい。生き残るためにまわりの魔族をぶっ倒していたら、いつのまにか魔王にまでのぼりつめてしまったそうだ。
「でも俺はもともと人間だろ?だから、どうしてもヴァレンタインの連中が気になってしまってな。今回もエレメントが大軍勢の準備をしてたからさすがにまずいと思って警告をしたんだ。まあ、ヒノモト自体もヴァレンタインがエレメントに組み込まれたら危なくなるっていう側面もあったんだが。」
意外といいやつかもしれない。
「魔人族ってな、見た目がこんなのばっかだし、ものすげえ戦闘狂が多いんだよ。もともと、喧嘩とか全然だめなほうだったんだけどよ、こっちのテツヤの人格に引っ張られてかなり喧嘩っ早くなっちまった。」
「・・・俺もこっち来てからやたらメンタル弱い。」
川岸春樹は面の皮が厚かったからな。このメンタルの弱さはハルキ=レイクサイドのせいだ。そうだ、そうに決まっている。
「しっかし、本当にここで仲間に会えるとは思わんかった。クロス=ヴァレンタインは俺らにはあんまりいい顔してくれないけど、お前がいるなら大丈夫そうだな。ヒノモトは少なくともレイクサイド領とは友好関係でいるとしよう。」
「ああ、それは助かる。そのうちクロス宰相にもなんとか仲良くできるように説得してみよう。」
がっしりと握手をして、レイクサイドとヒノモトの友好は成立した。
「ところで、さっき挙動不審な俺らの気持ちを汲んで、場を治めてくれた女性はハルキの部下か?いや、美人だと思ってさ。魔人族ってなんか仮面みたいな顔とかゴリラみたいな女しかいなくて・・・。だから、ヴァレンタインと同盟をとか思ったわけじゃないんだけど、まあ、日本でも彼女なんていた事なかったし・・・。」
「ああ、あれは妻のセーラだ。」
「・・・・・・妻?妻子は日本にいたんじゃなかったか?」
「まあ、こっちでもっかい結婚した。ハルキ=レイクサイドとしては初めての結婚だけれど。」
あれ?テツヤがワナワナしている。どうしたんだ?
「・・・・この・・・・。」
「ん?どうしたんだ?」
そしてバッと顔をあげたテツヤは広範囲爆発呪文を放ちながら叫んだ。
「リア充爆発しろぉぉぉぉ!!!!」
以上がこれまでの経緯だ。分かってもらえると思うが俺は悪くない。




