4-6 暗黒の闇と慈悲無き叫びの使者の召喚の儀式とその代償
「ヘテロと一緒で、お前は俺に帰れと言わないんだな。」
「フィリップの奴も言ってたけど、俺たちはハルキの好きなようにさせるのが仕事だからな!」
帰れと言われないとなんか寂しい気もする。
「お前らに迷惑をかけすぎるのもなんか悪いとは思ってるんだけれどもね。」
逃避行はライフワークになってしまっている。
「それに、いざという時は引っ張ってでも連れて帰るさ!ジジイのように詰めの甘い事はしねえよ!はっはっは!」
爺、そろそろ引退か。
ここはエルライト辺境の草原。カーラの新武器の試し切りに「クレイジーシープの討伐」に来ている。羊とはいえ、やたら強いAランクの魔物だ。
「おい!見ろよ!すげえ切れ味だぜ!」
クレイジーシープを見事討伐してはしゃいでいるカーラ。
「当たり前だぜ!何せヘボい素材ばっかだったから鍛冶屋に裏から手を回してアダマンタイト製の剣に交換させたんだからな!ハルキのパーティーになるならその程度の武器じゃ目も当てられねえ!」
「小声で喋るんなら口調を戻せよ・・・。」
「無理だ!俺にはそんな器用に切り替えする術は持ってねえ!我慢しろ!」
アダマンタイトはアダマンタートルというSランクの魔物の背甲から手に入る。今のカーラには少し厳しい。
「ところでハルキ、気づいてるか?」
「ああ、後方に4人、右に2人、左に3人だな。前方にはいない。・・・ってワイバーンが言ってる。俺には全く分からん。」
「よし、それじゃここは俺に任せてもらおうか!奥方様とあいつらをワイバーンで上空に避難させて、ついでにお前も上に上がっとけや!」
なんで俺がお前呼ばわりなのに、セーラが奥方様なんだよ。
「カーラ!ソレイユ!乗れっ!」
ワイバーンを飛ばす。俺の乗ってるワイバーンはもちろんセーラを回収だ。前方へ回避した俺たちの後に9人の黒いローブをつけた集団が現れ、ストロングを囲んだ。
「ちぃ、ばれていたか。やはり一筋縄では行かぬか。」
「よい、こいつだけでも片付けよう。」
黒ローブたちがじりじりとストロングとの距離を詰めだした。得物はやや長めの短剣である。もう片方の手から破壊魔法を繰り出すのだろう。詠唱を開始しているやつもいる。
「なめてもらっちゃ困るな!」
ストロングが叫ぶ。
「ストロング=ブックヤードが命じる!我が呼びかけに応え地獄の深淵より這い上がれ、暗黒の闇と慈悲無き叫びの使者よ。冷酷なその力と技を我に見せつけるがよい、来たれ!アークデーモン!!!」
詠唱が長すぎて、その間に破壊魔法を2,3発食らっているぞ。しかしも何、その厨二病。
ストロングの前にアークデーモンが召喚される。9人は少しつらいだろうから、俺もストロングの後ろにアークエンジェルを召喚してやった。詠唱時間の関係で同時召喚したかのようなタイミングになった。
「なっ!同時召喚だと!しかし、その組み合わせは不可能なはずだ!」
「もしや契約時にデーモンとエンジェルをねじ伏せるほどの魔力を込めたか!?」
「あっちは影武者でこっちが本物という事はないか?」
「いや、あちらもワイバーン2体同時召喚をしている。しかも尾行中ずっと召喚していたことも考えるとあちらが本物で間違いないだろう。こいつは名のある幹部と見た。」
黒ローブたちに動揺が走る。エンジェルとデーモンは同時に契約する事ができない特殊な関係だ。どちらかと契約すると片方は契約に応じなくなる。
「襲う相手を間違えたな!覚悟するがいい!」
ストロングが抜刀して、先頭の黒ローブを切りつける。おい、召喚獣使わないんかい。
しかし黒ローブたちはアークデーモンとアークエンジェルを警戒してストロングを囲むことができない。俺はアークエンジェルに攻撃を命じた。
ストロング=ブックヤードもといウォルターの武器はいわゆる日本刀もどきである。長めの短剣では分が悪いはずだが、そこは破壊魔法を駆使して距離をとる戦法のようだ。しかし、ストロングは破壊魔法を上手く躱し、あっという間に距離を詰める。刀による刺突はそうそう防げるものではない。
「愛刀「黒狼妖変化」による刺突!技の名を「黒牙突」!!」
いや、いちいち紹介せんでいい。
そうこうしている内に、アークデーモンも攻撃体勢へと移っていく。アークエンジェルとアークデーモンが戦場を舞い、1人また1人と黒ローブを屠っていった。
「くらえ!「落雷斬」!!」
ただの袈裟斬りだ、それ。
「こいつらは魔人族だな!頭の角がその証拠だ!」
黒ローブ達の正体は魔人族だった。かなり破壊力の強い破壊魔法の使い手だとは思ったが、そういう事だったのか。アークエンジェルもかなりてこずったしな。俺たちが下に降りていたら足手まといになっていたに違いない。
「全部倒したから情報がとれなかったじゃないか。」
「すまんハルキ!気づいたら全員斬っちまってた!普段はこういう事はないんだが!不覚!」
ノリノリで戦ってたもんな、お前。
「しかし、お前がそんなに強いとは思わなかったよ。」
「はっ!フランのジジイやマクダレイに鍛えられたからよ!何度も死ぬかと思ったけどな!」
それは可哀想に。
「あと、ハルキの心配は大丈夫だったようだぜ!俺の部下が後方で待機してたこいつらの仲間を2人確保したとよ!」
気づいたらノームが1匹手紙を持ってきていた。
「隊長と違って、しっかりしているな。」
「そうだぜ!うちの組織は下が働いてるから、上はフラフラしてても構わないんだ!」
いつもお世話になっております。
カーラたちが降りてくる。
「こいつら何なんだ?いきなり襲ってきて!」
さて、どういう風に説明しようか。
「カーラ。ちょっと待て、詮索は禁止だ。追手の話も聞いていたじゃないか。」
お、ソレイユが話が分かる。
「それに、こいつらはどう見ても魔人族だ。ハルキが襲われるっていうのはそういう事だ。」
「え?分かんないんだけど?」
「分からないなら、それがいい。これ以上の詮索はだめだ。」
これはソレイユにはばれてるね。
「ソレイユ、これからどうする?」
ばれている以上は俺らと行動を共にすると命の危険があるという事も分かっただろう。
「このままハルキ達に付いて行ってはダメだろうか?色々考えたが、俺も男に生まれた以上、これは千載一遇のチャンスだと考えてる。もちろん、迷惑になるならあきらめるが。」
「なんの話!?」
「カーラには後で俺が話をする。絶対に情報は漏らさせない。いいか、カーラ。ちょっと黙っていてくれ。ハルキ、いやハルキ様。俺を部下に加えていただけないだろうか。」
真剣な眼差しのソレイユと今までそんなソレイユを見たことのなかったと思われるカーラの表情。ここまで腹をくくって頼まれると断れるわけないじゃないか。
「セーラさん、いいかな?」
「いいのではないでしょうか?」
「ハルキ!俺の部隊が今人手不足なんだ!くれよ!」
ストロングうっさい、だまれ。やらん。
「では、我が手足となって働く事を許そう。働きに期待している。」
「はっ!」
ソレイユが跪く。
「わ、私ももちろんソレイユについて行くよ!」
理解できていないカーラも見よう見まねで跪いてきた。
「おい!ハルキ!」
「ウォルター。今後ストロングは禁止だ。」
「かしこまりました、ハルキ様。これ、思った以上に体力を消耗します。」
「・・・・・。」
ストロングは書いてて疲れます。




