3-7 怪鳥と大精霊と身内の襲撃と
「セーラ様の前ではヘタレなのに、ああいう場ではめちゃ強気ッスね。」
うるさい、黙れ。
「いえいえ、ハルキ様とっても格好良かったですよ。」
おっ!セーラには好感触!というかいつの間にかホープじゃなくなってる。
「それにしても怪鳥ロックってどこにいるッスかね。」
いま、俺たちは怪鳥ロックを探して霊峰アダムスの山頂に向かっている。もはや正体がバレているため3人ともワイバーンに乗っている。ちなみに俺はセーラと二人乗り。
「ロックリザードの皮はこの前の討伐したやつが残ってたはずだし、氷の魔石も問題なし。あとは怪鳥ロックの心臓とアダムスの万年雪か。ロックリザードの皮と羊皮紙をこっちに持ってきた方が雪が解けずに済みそうだ。」
「ういス、そしたら自分が取りにもどるッスか?」
「そうだな、よろしく。」
「了解したッス。では後程あの集落で待ち合わせるッスよ。」
「ああ、明日までに頼むな。」
「げぇっ!?間に合わないッス!!」
ヘテロと分かれてアダムスの山頂付近をぐるっと回る。万年雪はたくさん見えるけど、今採取しても溶けてしまうだけだから準備が整ってからだ。
「おそらく、生息しているとすれば、この辺りなんだが・・・。」
山頂を通り越して、裏側の急斜面地帯に差し掛かる。実はシルフィード領はかなりの面積があるため、この先は我がレイクサイド領に隣接している。このままセーラを連れて凱旋したらどうなるだろうか。
『主よ!上だ!』
不意にワイバーンから敵襲を察知した意志を受け取る。気付かないうちに大きな影の中に入ったようだ。しかし、ここは霊峰上空。影ができるとすれば・・・。
「思ったよりもでかい!」
怪鳥ロックが上空からワイバーンを襲おうとしていた。
ヘテロッス。ここはシルフィードの宿ッス。今、自分は人生最大の危機を迎えているッス。
「さて、では説明をしていただきましょうか?」
鬼のフランの異名は伊達じゃないッス。まさか自分の召喚したフェンリルよりも足の早い人間が存在するとは思わなかったッス。
「まず、ハルキ様がいままで何をされていたか。今どこで何をされているか。簡潔に答えなさい。」
フェンリルで逃げれないからワイバーンに乗りかえて空に逃げたはずなのに、あの跳躍力はなんスか?あんな上空から蹴り落とされて、アイアンドロイドの召喚が間に合わなかったら死んでたッス。しかもあいつらめっちゃ硬いから受け止められた時に背骨が折れるかと思ったッスよ。
「ハ、ハルキ様は戦争直後にここシルフィード領に来られたッス。おそらく、フラン様をエルライト領辺りで撒いたって言ってたッスから。自分はなんとなくそんな気がしてここの町を張ってたらシルフィードの町はずれの草原でようやく捕獲できたッス。」
「なぜ!?その時に連れて戻らなかったのですか?」
ひいぃぃぃぃ!ペンドラゴンしまってくださいッス。
「ハルキ様はヒルダの事が好きだったッス。戦争の帰りにヒルダが旦那さんと仲良くて、それを聞かれたフィリップ様が今度結婚する予定だなんてハルキ様にばらしちゃったもんスから。ハルキ様あんなに頑張ったのに他の貴族にディスられて疲れてた所に失恋なんてしたもんだからかわいそうだったッス。」
ヒルダ!ヒルダのせいでもあるんスから、照れてないでフラン様を止めて!
「それで!?今は何をされてるんでしょうか?」
「い、今はセーラ様と一緒にコキュートスの契約素材を集めてるッス!」
「コキュートス?」
お、フラン様の勢いが止まったッス。これは助かるかも。
「そうッス!4大精霊の一つコキュートスッス。この前ヒルダに調べてもらった奴ッス。」
「ああ、あれですか。霊峰アダムスに住むエルフの集落にコキュートスを祭る部族がありましたね。」
「それッス。今、その集落から帰ってきた所ッス。氷の魔石とロックリザードの皮が宿に置いてあるから取りに来たッス。」
「・・・それで、そのセーラ様という方の説明と、コキュートスとの契約のいきさつを続けなさい。」
あ、これまずいかもッス。ジギル=シルフィードにいいように転がされてるから・・・。
「セ、セーラ様はジギル様がハルキ様の護衛に付けたアイシクルランスの騎士ッス。騎士団の人気者で、セーラさんと結婚する人はアイシクルランスの氷魔法集中砲火型戦術「氷の雨」を単身で防げないとジギル様に認めてもらえないッス。ですので・・・ハルキ様は・・・コキュートスなら行けるとか・・・なんとか・・・、ちょっと!なんでヒルダまで機嫌が悪くなってるッスか!?テト!?笑ってないで助けるッス!!」
「ぶえぇっくしょん!!ううっ!寒気が・・・。」
なんか誰かが噂している気がする。
「防寒具持って来ればよかったですね。」
霊峰アダムス山頂。怪鳥ロックに襲われ、逃げ回っていたワイバーンが
『主よ、正直私では荷が重い。』
なんて言うもんだからついレッドドラゴン召喚してしまった。心臓取り出さないといけないからファイアブレスを禁止したら、
『面倒くさい』
とか言って鳥の丸焼き作りやがった。中まで火が通っていなかったから良かったものの、れっどらの奴め・・・今度召喚したら文句言ってやる。
心臓を取り出すことができ、そのまま野宿してからようやくエルフの集落に帰る所である。
「ヘテロさん、もう着いてますかね。」
「まあ、多分着いてると思うけれども。」
まあ、ヘテロの事だ。抜かりないだろう。
しかし、集落に帰ってもヘテロは居なかった。そこにはロックリザードの皮と氷の魔石、羊皮紙、それに書置きが残されていた。
『ハルキ様 諸用ができましたので先にシルフィードまで帰ります。宿で待ってますので絶対に帰ってきてください。絶対ッス。 貴方の大切な部下 ヘテロより』
と書かれていた。
あ、これフランたち来てるな。当分、シルフィードには帰らないようにしよう。
素材を持って霊峰アダムスへと戻る。万年雪は集落からすぐの所に存在した。すべての素材を羊皮紙の上に乗せ、呪文を唱える。
「我契約を望むもの也、我が魔力にて現れたまえ コキュートス」
次の瞬間、日差しを遮るほどの巨体が現れた。全身を氷で覆われた巨人、氷の大精霊コキュートスである。大きさはレッドドラゴンよりも一回り大きい。アイアンゴーレム2つ分はあるかもしれない。
『人間に呼び出されたのは何年ぶりなのであろうか。』
「コキュートス、聞きたい事がある。お前には氷属性の破壊魔法は効果があるか?」
『我は氷の大精霊。氷属性の破壊魔法は効かぬ。』
「よし、契約を結ぼう。魔力と引き換えに何を望む?」
『我も世界に興味がある。できうる限りの事をしよう。』
「では、召喚と維持の魔力と引き換えにできる範囲の事柄で契約を結ぶ。」
『ああ、召喚されるのを待っておるぞ。』
「契約成立だ。」
「やりましたね!ハルキ様!」
「ああ、ありがとうセーラさん。ここまで頑張れたのは君のおかげだよ。」
「いえいえ、ほとんどハルキ様のお力ですよ。」
「帰ったら、君に伝えたいことがあるんだ。」
「・・・分かりました。お待ちしていますね。」
おお!?いい雰囲気じゃん!?こうなったら早く帰ろう!
貴族の求婚はまず本人たちの意志の確認ではなく、親もしくは領主の許可が必要となる。この許可を得たものだけが求婚してもよいというのがマナーらしい。今回はセーラの父親には面識がないためにまずはジギルに許可を求める事にしよう。
ワイバーンに乗って、まずはエルフの集落へもどる。本当はシルフィードに戻るべきなんだが、今は爺たちが来てる予感がするんだよな。邪魔されないためにはどうするべきか・・・。と、考えていると集落のはずれにヘテロの放置していった小屋が見えた。
「なんか、変だな。」
違和感を感じる。ヘテロならば、あんな感じに小屋を放置しておかない。持って帰れなくてももう少し綺麗に整えてるなり分かりにくい場所に移動させるなりしてから帰るはずだ・・・。つまりは・・・。
「やばい!上がれ!!」
間一髪、村長の家の屋根を足場に跳躍したフランを回避する。ワイバーンは上昇するが、フランの跳躍力は半端ない。再度こちらに向けて跳躍してきた。
「坊ちゃま!お覚悟ぉぉ!!」
ええい!こんな所で捕まってたまるかぁ!
「ノーム!」
10体のノームが綺麗にラ○ダーキック中のフランの関節にまとわりつく。
「ぐぉぉぉ!おのれぇぇぇぇ!」
ノームに巻きつかれた状態のフランはワイバーンに乗った俺たちに当たることなく、村のため池へと落ちていった。どぼーんという間抜けな音が後方より聞こえる。
「ハルキ様!お戻りください!」
「ハルキ様!行かせないよ!」
2体のワイバーンが後ろから襲ってきた。
「ヒルダ!?テト!?」
ぼそっとセーラが「あれがヒルダさんか・・・。」とか言ってるけど、それどころじゃない。
2体のワイバーンはなかなか速く、どうやっても撒くことができない。そのうち、ヒルダやテトの破壊魔法が飛んでくるようになった。あいつら、いつの間にワイバーン騎乗で攻撃なんて高等技術を!?
「ええい!アイアンドロイド!!」
アイアンドロイドを4体召喚する。それも2体のワイバーンの翼の付け根にそれぞれ1体ずつ。
「きゃー!」
「ちょ、待ってー!」
ワイバーンは翼の動きを制限され、錐もみしながら落ちて行った。
「達者でなっ!!」
危ないところだったが、なんとか切り抜けたようだ。
「ハルキ様~、大丈夫ッスか~?」
ヘテロのワイバーンが追っかけてきた。ワイバーンばっかだなおい。
「生きてたか。」
「もうダメかと思ったッス。ペンドラゴンが夢に出てきそうッスよ。」
「奴らはなんとかした。このままシルフィードの領主館まで行くぞ。」
「お供しますッス。」
ワイバーンよ!とばせっ!




