3-6 頭ぐりぐり
「デレデレしすぎッス。ヒルダにばらすッスよ。」
開口一番それか。ヒルダは幸せになっただろうか。いや、ヒルダの夫は優秀だから幸せに違いない。名前忘れたけど。
「だいたいハルキ様はなんでまだこんな所にいるんスか?」
それはシルフィード領との友好のためだ。セーラと結婚すれば両領地にとってとても強いつながりができるじゃないか。シルフィード領は大領地だ。
「レイクサイドには仕事が山積みッス。今年も収穫祭に出ないつもりッスか?ハルキ様が戻らないとフィリップ様の独壇場ッスよ。」
まだ帰るわけにはいかない。フィリップには早く嫁をもらわんと、王都ヴァレンタイン上空で嫁募集の垂れ幕をつけたレッドドラゴンを召喚すると言っておけ。
「そんなに結婚したいんなら正式に申し込めばいいじゃないスか。天下のレイクサイド領次期当主、紅竜ハルキ=レイクサイドの求婚を断る女なんていないス。」
いや、まだ俺にはその資格がないらしい。
「なんスか、その資格て。」
それはだな、
「アイシクルランスの伝家の宝刀、「氷の雨」を単身で防ぎきる能力が必要なんだ。」
「意味わからんス。」
セーラが護衛兼監視の報告書を出しに行くと言うのでちょうどヘテロが定期的にやってきている日にしてもらった。さすがにセーラは2号を置いて行ったので、今日はヘテロと共に2人と2匹で近くの飲食店で飯を食っている。
「おい、あれ黒狼の騎士じゃないか、フルミスリルじゃないけど。あんな顔してたんだな。」
「隣にいるのはいつもの謎の美女セーラじゃないな、どっかで見たことあるけど。」
「おいおい、まさかあれレイクサイド召喚騎士団のヘテロじゃねえか?」
なんでこいつといると正体がばれそうになってるんだ?アイシクルランスのセーラの方がここじゃ有名だろうに。ああ、こいつ全身ミスリル装備だ。しかもマントにレイクサイド領のマーク入ってる。
「ヘテロっていうと、鉄巨人フィリップ=オーケストラに次ぐ戦績をだした「フェンリルの冷騎士」ヘテロだろ?」
なんだ、その二つ名は?厨二病が蔓延している。
「平民出身にも関わらず、ハルキ=レイクサイド以外には何があっても従わない鉄の意志を持ち、戦い方は冷酷無比、メノウ島奪還作戦で殲滅した魔人族は数知れず。ヘテロのフェンリル3体召喚には味方ですら戦慄したと言われている。命令は何があっても必ず遂行し、ハルキ=レイクサイドに面会を申し込んだジギル様もフラット領のジルベスタ=フラットですらもヘテロに追い返されたことがあるらしい。」
何してたの!?お前!?
「今は全国をその召喚したワイバーンで飛び回り、ヘテロの情報には一言千金の価値があるとまで言われている王国の重要人物だよ。」
「でも、なんか黒狼の騎士に対しては腰が低そうだぞ。」
「意外とあの狼はフェンリルだったりして。」
「ばか、そしたらどんだけ魔力いると思ってんだ。常に召喚し続けるなんて並みの魔力じゃできないぞ。」
「だから、黒狼の騎士の正体はハルキ=レイクサイドだったりしてな。」
ぶぼぉ!!?
「ちょ、汚いッス!?」
「ああ、すまん。」
「そういえば、頼まれてた件ッス。ヒルダが調べてくれたッス。」
資料を受け取る。これはコキュートスに関する資料だ。
「なになに、やはりシルフィード領にはコキュートスに関する伝承が多く残っているみたいだな。・・・ほう霊峰アダムスの近くのエルフの集落にコキュートスを祭る村があると。」
「今度は何してるッスか?」
「ああ、「氷の雨」を防ぐには氷の大精霊を召喚すればいいんじゃないかと思って。」
「・・・さすがハルキ様ッス。スケールが違いすぎて、自分みたいな凡人には思いつかないッスよ。」
「だろ?」
「いや、呆れてんス。」
「・・・・・・・。」
その日、レイクサイド召喚騎士団第5部隊隊長、フェンリルの冷騎士ヘテロが街中でヘッドロックをかけられ、頭をぐりぐりされてたという噂が流れ、後日レイクサイド領から鬼のフランを隊長とした調査団が押し寄せてくることになるが、その時にはホープとセーラと、むりやり連れていかれたヘテロはエルフの集落へと旅立った後だったという。
「ハルキ様、やばいッス。フラン様にばれたっぽいッス。」
エルフの集落に行く途中に、俺は食事中の茶碗をおとしてしまった。今、ここは樹海のど真ん中であるが、携帯用でないコンロに大きな鍋、各種揃った食器にテーブル、椅子、大きなベッドが存在する素敵空間である。ついでにヘテロという名の給仕も無料で雇っている。すべてヘテロのワイバーンに括り付けた大型輸送用コンテナ、通称「小屋」に入れた家具だ。滑らないようにそれぞれ床に固定されている。この小屋を作るのに数日掛かったが、有り余るヘテロの財力とヘテロのゴーレムを駆使した労働力で作り上げた。
「それはまずいですね。ホープさん。でも、なんでホープさんはフラン様からお逃げになってるんですか?」
先ほどまでヘテロは近くの集落まで通信用魔法具の確認で離れていた。
「そ、それはある目的のために・・・。」
「最初、ハルキ様は失恋旅行中だったッス。」
「な!?ヘテロ!てめえ!!?」
「まあ、そうだったんですか。」
「でも、もう大丈夫ッス。ただ、フラン様に捕まると強制的にレイクサイドに帰んなきゃなんないスから、今の目的が果たせないッス。」
「今の目的はコキュートスでしたね!」
「そうッス。そのコキュートスが必要なのはアイシクルランスの「氷の雨」を・・・・」
「ノーム!あいつを拘束しろ!」
100匹を超えるノームがヘテロを押しつぶす。
「ぶわっふ!これは洒落になんないッスよ!」
「なんでアイシクルランスの「氷の雨」がここで出てくるんですか?」
「ん~、なんでだろうね~。俺には分からないや。」
「それよりも、ホープさんが失恋したという相手の事に興味があります!」
やめて!もう堪忍やでぇ!
「いや~、ハルキ様のノームは普通のノームより力強いんスよね。実際、今でもあの攻撃にどう対処すればいいか思いつかないス。」
「そろそろエルフの集落じゃないか?」
小屋を下ろしてフェンリルで集落に近づく。門番が最初あわてていたが、フェンリルの上に人間が乗っていたために攻撃はされずにすんだ。
「ホープ=ブックヤードと言います。集落の長はおられるか?」
エルフの集落は人里離れた場所に隠れ住むように形成されていた。これは昔からある差別が原因でできるだけ純人に近づかないように生きているのだという。
「純人が何の用だ?」
村長の家に通された3人はあまり歓迎されてないようだ。
「フェンリルの召喚は久しぶりに見た。おぬしが2頭を召喚しているようだな。もう1頭とは魔力の質が違う。」
「さすが、エルフは魔法には詳しいですな。」
「実は魔法だけではない。人間社会の事も知っておらねば生きて行けまい。」
「まあ、そうだと思います。ところで、ここに来た目的なんですが・・・。」
「基本的に我らは純人には協力せん。例外はあるがな。それに、偽名をつかった客を信用せいと?」
「ほう、なぜ私が偽名だと?」
「このような辺境の人里であろうが情報は必要だ。人間社会に我々の協力者が何人もおる。最近の純人や純人に協力するものは召喚魔法を好まぬ。ましてや、あのようなフェンリルを召喚できるものなぞ、エルフの中でも数えるほどしかおらんはずだ。」
「それで?」
「お主がもし、わしの思う人物であったならば協力せんこともない。魔人族に大陸を蹂躙されてはわしらも困るでな。」
こいつら、裏ではジギルたちと協力関係にあるのか。ふむ。
「まあ、ばれているようだけど、ちなみに誰だと思っているか確認してもいいか?」
「紅竜。」
「まあ、そうとも呼ばれているな。誰にも言うなよ。」
「・・・孫には自慢してもよいか?」
「・・・・・・。」
コキュートスに関しての情報は手に入れることができた。毎年、祭壇を作って祭っているそうだ。祭壇に供えるものは「霊峰アダムスの万年雪」「氷の魔石」「ロックリザードの皮」「怪鳥ロックの羽」だそうだ。ただし、本来の儀式は怪鳥ロックの心臓で行うとのことで、契約の儀式には心臓が必要ということが予想された。
ホープ=ブックヤード(ハルキ=レイクサイド) 18歳 男性
Lv 69
HP 890/890 MP 1660/2720
破壊 2 回復 1 補助 8 召喚 141 幻惑 3 特殊 0
スキル:逃走
眷属:ノーム(召喚3維持2)
ウィンディーネ(召喚100維持20)
サラマンダー(召喚100、維持20)
ファイアドレイク(召喚200、維持25)
アイアンドロイド(召喚150、維持30)
フェンリル(召喚300、維持30)
アークエンジェル(召喚700、維持80)
クレイゴーレム(召喚1000、維持100)
アイアンゴーレム(召喚1200、維持120)
ワイバーン(召喚800、維持60)
レッドドラゴン(召喚2000、維持200)
セーラ=チャイルド 18歳 女性
Lv 39
HP 1440/1440 MP 860/860
破壊 46 回復 42 補助 47 召喚 1 幻惑 19 特殊 2
スキル:氷の加護
眷属:ノーム(召喚3維持2)




