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1-1 召喚とはなんぞや

 16歳の誕生日を終え、俺は前世の記憶を取り戻しつつある。あの科学文明が非常に発達した世界の記憶があって、この世界の記憶も混合されていて、非常に混乱中である。しかし、ここは前向きに考えることが必要なのではないか。とりあえず半日ほど落ち込んでみてからそう考えた。


 我がレイクサイド領はこの国家におけるもっとも重要でない田舎領地の一つである。あるのはだだっ広い大自然のみであり、領民の数や町など他領地に比べると非常に物足りないものがある。父である領主アラン=レイクサイドは平和主義が売りのどこにでもいそうな凡庸領主であり、我がレイクサイド領の特産物は特にない。


 人がいないのであるから税収も酷いものであり、騎士団の育成に金をかけられないから魔物の駆除も微妙となり治安もあまりよくないとの評判である。とる物も少ないから盗賊なども少ないというのがまだ救われているところなのであるが……。


 成人した領主の一人息子として、この状況をなんとかしないといけないのであろうが、今のところ八方塞がりの状態である。そして俺、ハルキ=レイクサイドは優秀とは言い難い人生を送ってきていた。


 貴族の子供たちは10歳から15歳までほとんどが王都ヴァレンタインの貴族院へと通う。王族まで通う貴族院には全国から優秀な教師が集められ、日々将来を担う貴族の教育と次世代のための研究がなされていた。そこに俺も通っていたのだが成績は散々なもので、周囲からも馬鹿にされる毎日を送っていた。王子や王女、宰相の子供などは派閥を作り将来に政治を担う際の側近を育てるのであるが、俺にはどこからも声がかからず。地味な5年間を過ごしたのである。いや、本当は地味じゃなかったけど、ちょっとした事件も起こしているけれど、今思い出すとまた1日起き上がれなくなるから止めておく。


 魔力量や資質なども他の生徒と比較して突出したものはなく、剣術や体術に秀でているわけでもなかった。貴族院を卒業した際の成績表をアランが焼却し、誰にも見られないようにしたのは正しかったと思われる。ちなみに母は俺が幼いころになくなっているが、父に再婚の意思はなさそうだ。


 しかし、16歳をすぎて成人の儀が終わったころに俺は前世の記憶を取り戻した。前世では外科医として勤務していたぐらいなので、成績が悪く落ちこぼれた記憶なんて一つもない。川岸春樹はハルキ=レイクサイドのことが非常に嫌いだ。そして二人の記憶が統合された今、俺は焦りと共に今までを取り戻す必要を感じている。


 まずは、知識の再取得だ。

「じいっ! 爺!」

 俺はフランを呼ぶことにした。フランは我がレイクサイド家の執事であり今まで教師でもあった人物だ。非常に教える事が上手いが、そのフランをもってしてもハルキは勉強が好きにはなれなかった。しかし、今の俺は違う。命の危機すら感じている。

「爺、魔法の講義をしろ。まずは復習からだ。俺を全く魔法を知らない子供と思ってやるのだ」

 いきなり呼ばれたフランは驚愕の表情だ。

「坊ちゃま!?」

「坊ちゃまはよせ、俺はもう成人だ。資料室へ行くぞ。筆記具を用意しろ」

 急に勉強をやる気になった俺を前にフランは感無量のようだ。まあ、いままでのハルキとは違うのだよ。

「かしこまりました、爺が全身全霊をかけてお教えいたしましょう」

 そこまで力を入れすぎるとうっかり寿命が来そうなので、まあ気楽にやってほしいものだが……。


 それから俺は毎日フランの魔法の講義を受けることとした。

 この世界の魔法は数種類の系統を持っている。

破壊魔法:火や氷、雷などの超常現象を引き起こして対象を破壊する系統

回復魔法:傷や病気を治癒させる奇跡の系統

補助魔法:対象の変性や強化を行う系統

召喚魔法:異世界の使者を召喚する系統

幻惑魔法:対象の精神に影響を与える系統

特殊魔法:他の系統にない現象を起こす系統


 だいたいこの6系統に分類される。特殊魔法はほんとにレアなためにかなりお偉いさんの家系にたまに現れる程度でほとんどの人が使えないが、他は訓練次第でなんとかなるそうだ。ただし、資質が影響されるために不得意な系統を頑張って習得しても上達は遅いとのこと。また、魔力自体の量によっても魔法の強さが変わってくるため総魔力は多ければ多いほど良いとのことだった。魔力が最も増える時期は子供のころ、俺はすでに成人してしまったので子供に比べてこれから魔力が伸びる割合は少なくなるという。何てことだ。

「それでは坊ちゃま、いえ、ハルキ様の系統の資質を見てまいりましょう」

 フランが魔法を唱える。

「すべてを見透かせ ハイ・ステータス」

 ハイ・ステータスは対象の状態を覗くことのできる補助魔法だ。自分の状態あれば一段階低いステータスの魔法で十分であるが、俺は補助魔法はからっきしである。

「むむむ……」

 フランの表情が暗い。原因は分かっている。

「ハ、ハルキ様のステータスはこちらです」


ハルキ=レイクサイド 16歳 男性

Lv 2

HP 80/80   MP 50/50

破壊 2  回復 1  補助 1  召喚 7  幻惑 3  特殊 0

スキル:なし


 はっきり言って、カスである。分かっていたがそれでもひどい。ちなみにフランは破壊系統、回復系統、補助系統が80を超えるLv75の猛者だ。HPも高齢であるにも関わらず2400をかるく超えている。

「才能はほぼないか」

 笑える。しかし、この程度で諦めるならば大学受験などできなかったはずだ。そして俺は領主の息子であって冒険者ではない。ある程度の腕っぷしがあれば他は人を雇えば良いのだ。

「唯一、使えそうなのは召喚魔法のみか。それもレベルが低くてまだ使えたものではないが。じい、召喚 魔法のもっとも初歩的なものはなんだったか?」

「はい、ノーム召喚でございます」

「それなら貴族院のころに習ったな。まずは召喚魔法を伸ばしていくとしよう。召喚魔法について簡単に説明してくれ」


 フランの解説によると召喚魔法は異世界からの使者を召喚する魔法だ。召喚の際に消費するMPと召喚状態を維持するMPがあるために他の系統と比べてあまり使い勝手の良くない魔法なのだそうで、非常に人気がない。一般的な使い方は、維持のMPが必要となるために召喚して戦闘が終わったらすぐに戻すという使い方のようだ。ちなみに俺のノームの召喚費用はMP2であり、1時間召喚でMP1持って行かれる。


「また、魔法の基礎的な知識として魔法は成功することで初めて経験値を得られます。ノームなどの低レベル召喚では戦闘が終わるまで生存していないことも多く、召喚獣は召喚者の盾にならないといけないために経験値が入りにくい魔法として有名です」

 なるほど、戦闘終了時に経験値が入るためにレベルが上がりにくいのだな。それが召喚が不人気な理由なのだろう。


「試しにノームを召喚してみるか。一応貴族院で召喚に必要な契約は済んでいるからそこは問題ないとして……」

「はい、ただし召喚の目的が必要となるでしょう。今、戦闘は行われていませんので他の目的で呼び出す必要があります」

「補助魔法や回復魔法は戦闘時でなくても経験値が貯まるのにな」

「それは補助魔法や回復魔法が戦闘以外にも使うことができるからでしょう。破壊魔法は非常に強力ですが、何かを破壊しなければなりませんからな。貴族院の裏にも破壊魔法訓練用の崖があったと思います。私が知っている崖と違って、今では歴代の学生の破壊目的に使用されてもっと大きくえぐれていることでしょう」

「なるほど」

 たしかに目的が必要だ。ただ、何かを達成すればよいのならばなんでも良いのではないか? たしか貴族院での召喚契約の際は召喚と維持の魔力と引き換えに「ノームができる範囲の事柄」だったはず。できるだけ幅広い契約内容を心がけろと教わったが、召喚獣によっては契約内容が多岐に渡ると契約してくれないものもいると言ってたっけか。よし。


「契約により我が前に現れたまえ ノーム」

 2匹のノームを召喚する。成功だ。MPが4減ったのだろう。魔力が流出する感じがする。

「俺を護衛しろ」

 目的は護衛だ。これならば目的を達成できるはずだ。声は聞こえないが承諾の意思が魔力を通して伝わってくる。

「ほほ、護衛ですか。それならばもしかしたら経験値が入るかもしれませんね」

「ああ、おそらく今はMPが46になってるから明日の朝まで維持できるな」

「召喚魔法の人気のなさはその魔力量の計算にもあります。気付いたら維持に足りなくなっていたなんて事もありますので十分注意してください」

「分かった」


 極微量の魔力がノームたちに流れているのを感じながら、本日は魔法書を読んで知識を蓄えることとする。他にも多くの召喚獣を従える必要があるため、召喚の儀式に必要なものを集めなければならない。今日は早目に寝ることとしよう。ノームの護衛に守られながら、これからのレイクサイド領を考えているとあっというまに睡魔に襲われた。


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