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3-4 はじめての共同作業

 それから一週間ほど、ヘテロはフェンリル騎乗に関して訓練をしてくれて帰っていった。その間もセーラとは同室だったがヘタレすぎて特に何もなし。むしろフェンリルを24時間召喚し続けているために2人と2匹で一つの部屋のようになってしまっている。

 セーラも俺の召喚したフェンリルに乗って動くことが多くなるために一緒に訓練を受けてもらった。さすがにシルフィードが誇る騎士団アイシクルランスの一員だけあって、すぐに騎乗にも慣れた。対して俺は……


「くそう、なぜ耐えられん!」

 どうしても落馬、いや、落狼してしまう事が多い。

『主よ、内腿で挟む筋力が足らん』

「分かっとるわい」

 いくらミスリル製とはいえ金属のフルプレートは重い。視界も兜で塞がれる。

「ホープさん、焦らず行きましょう。あなたはすでにこの世の誰よりも強いんですから」

 セーラ、マジ、女神。

「しかし、そろそろ落馬も少なくなってきましたし、気分を変える意味でも依頼を受けに行きますか」

「そうだね。そうしよう」


 この辺りのギルドでBランクと言えばどんな魔物の討伐が多いのだろうか。

「Bでしたらレッドボアとかが一般的ですかね」

「ああ、あれ旨いよね。よく爺が一人で狩ってきてたから牡丹鍋にして食べたよ」

「さすが鬼のフランですね……」

「さて、何にするか……」


 ギルドにフェンリルで乗り付け、玄関から入る。フェンリルに騎乗した2人のうち、一人はミスリル製のフルプレートであるし後ろは絶世の美女だ。注目されないわけがない。

「おい、あいつ今噂の黒狼の騎士じゃねえのか?」

「ああ本当だ。あいつだよ」

「俺この前草原であいつが特訓しているのを見てしまったんだ。狼の背中からすごい勢いで飛んで槍で突く技なんだが、あの速さは人間業じゃない」

 やめて、それカーブで遠心力に耐えられず吹っ飛んでただけだから。

「いつも謎の美女を連れて人生勝ち組じゃないか」

「お前、あんな巨大な狼を手なずけるんだから、努力も半端ないんだと思うぞ。まず大陸中探さないとあんな種類見つからない」

 ええ、素材屋に売ってました。

「ホープさん、ホープさん。あの人さっき私の事謎の美女って言ってました。きゃー美女ですって」

「セーラさんはどう考えても美女ですよ」

「またまた、ホープさんはお上手ですね」

 さて、何が依頼に出ているのかなと。

「この辺りが無難じゃないかしら、レッドボアの群れの討伐とかロックリザード変異体討伐」

 自然体で俺らの会話に混ざるお義母さんことニア=チャイルド。

「う~ん、なぜSランク任務をギルド長自ら持ってくるのかが謎ですが、お久しぶりです。お義母さん」

「今、Sランカーが少なくてね、お願いできないかしら」

「お母さん、目立つ事は避けるようにって言ったでしょ」

「大丈夫よ、依頼はBランクに下げて、報酬も少なめにしておくから」

「報酬が少ないのはだめじゃない」

「残りはあとで部屋に取りに来てね、用意しとくから」

「分かりました、お義母さん。頑張ります」


 さて、思わぬ展開だったが、お義母さんの依頼だ。頑張るとしよう。

「すいません、母が迷惑をおかけして」

「いやいやセーラさん、むしろ受領できない高ランクの依頼を受ける事が出来たんだ。結果オーライだよ」

 レッドボアの群れは霊峰アダムスの麓、ロックリザード変異体はそこからさらに山を登ったところだ。

「フェンリルたちなら、今日中に到着できそうだね」

『問題ない』

「じゃあ、一応野宿の準備をして行きますか」

「それでは商店街のほうへ行きましょう」

 フェンリルに乗っているとどこ行っても目立つ。もう慣れた。

「すいません、寝袋2つと野宿に必要そうな物ください」

「おおぁ!? なんだ、兄ちゃんのオオカミか? すごいな」

「あぁ、驚かせて申し訳ない。それで、2人分の野宿セットを」

「ああ、すまない。それだったらこれがお勧めだ。テント一つに寝袋二つに簡易調理用の鍋とコンロ、意外と重宝するのがこの携帯スコップ。テント設置の際にもトイレの際にも土を掘った方がいいからな。伸縮自在の持ち運びに便利な道具だ。あとは使い捨て用の布がたくさんあれば色んな所を清潔に保てるが……。水や火種は携帯するか? 魔法でなんとかするか?」

「ああ、水とかは魔法でなんとかします。使い捨て用の布はたくさん欲しいですね」

 この世界にはティッシュがないからな。トイレのあとももちろん布だ。

「ああ、旅の最中には体が汚くなってしまうのは仕方がないが、できるだけ清潔に保つことは重要だ。入れ物はどうする? 馬というか兄ちゃんの場合は狼か、それに括り付けるタイプの鞄にするか、自分で背負うタイプにするか?」

 これは悩みどころである。召喚獣は24時間召喚していない可能性も高いのである。しかし、重いのは鎧だけで十分だ。

「括り付けるタイプをお願いします」

「じゃあ、これがお勧めだ。できれば両サイドに同じ重さになるように入れてくれ。馬というか狼のバランスが崩れるからな。全部で銀貨1枚と銅貨8枚だ」

「はい、じゃあこれ。ありがとうございました」

「ああ、ありがとうよ。また来てくれよな」

 宿に持って帰るとセーラが鞄の補強をしてくれた。

「どうしても買った物では強度が足りない物も多いですからこうやって補強するんです」

 裁縫もできるなんて、いいお嫁さんになれるよ。他にも足りない物を買い込んで、明日に備えることとなった。



「フェンリル一号、俺はやはりヘタレなのだろうか」

『うむ、主は発情しているのか? 主ほどの者ならば求愛すればどんなメスでも一発だろう』

『まあ、人間の事はあまり分からんが他の連中に比べるといざという時の求愛が足らんのだろう』

「二号まで、そういう事を言うか……」

 夜中、セーラが寝ている横で眷属に恋の相談をする召喚士なんていねえよな。



 翌日、俺たちは霊峰アダムスの麓に向けて移動した。フェンリルに固定した荷物は鞄の強度が上がっていた事もあり、かなりの速度を出しても外れることはなかった。調子に乗っていたら昼過ぎには麓の村についてしまった。

「こんな事だったら、さっき昼食をとらなくても良かったですね」

 そんなことないよ、セーラの手料理おいしかったよ。干し肉の刺身と水魔法のミネラルウォーター。


「さてさて、話しを聞きに行こうか」

 町でもあんなに目立っていたわけで、フルミスリルでフェンリル騎乗の冒険者が村長宅を訪ねると、すぐに人だかりができ始めた。

「依頼を受けてきたホープ=ブックヤードです。レッドボアの群れの情報を知りたいんですが」

 フェンリルから降りて、村長宅に入る。依頼の受諾表をみて、村長はかなり緊張した面持ちだ。受諾表にはSランクって書いてあるからね。

「はい、依頼を受けていただきありがとうございます。レッドボアはここから東の草原地帯で大発生中でして、例年の10倍以上の数が確認されています。最近ではこの村の近くにも頻繁に顔を出すようになり……、ただこの村にはレッドボアを討伐できるほどの冒険者はあまりこないものですから、シルフィードまで依頼させていただきました。まさかこんなに早く来ていただけるとは」

 東の草原ね。

「では、今すぐ向かいますんで」

「今すぐですか、ありがとうございます」

「今日はみんなで牡丹鍋を食べましょう」

「へ?」

「レッドボア、おいしいですよ」

「ホープさん、そればっかりですね」

 今日は日が落ちるまでに帰ってくる予定なので野宿セットは村において行くこととする。宿の手配をお願いして俺たちは東の草原へとフェンリルを走らせた。


 小さい森を抜けると村長のいう通り一面の草原が見えた。左には霊峰アダムス。かなりきれいな景色だ。

「景色が綺麗ですね」

 セーラほどじゃないけどな。

『主よ、さっそくだ』

 1キロ程度先にレッドボアがいた。体長3mくらいある。それも2匹。

「行きますよ、ホープさん!」

 フェンリル2号がセーラを乗せてレッドボアへ一直線だ。何で魔力でつながってないのにあんなに息ぴったりなんだろう。

「1号! 俺たちも行くぞ!」

 ミスリルランスを持ち直す。今回の目標はフェンリル以外の召喚なしでの戦闘だ。フェンリル騎乗に必要なのは専用の鞍だ。これはヘテロに取に行かせた。左手で手綱を持ち、右手でランスを持つ。フィリップなどの猛者は手綱を持った左手にバックラーまでつけている。実はワイバーン騎乗もやっている事は同じだ。

「突進は危険だ、まずは避けろ」

『承知』

 一号がレッドボアの突進を左側に避ける。ものすごい力が加わって振り落とされそうになるが、太ももで踏ん張って耐える。レッドボアとすれ違いざまにミスリルランスを突くわけだが、こんな状態で狙いが定まるわけがない。背中をなでるように切っただけでレッドボアには特にダメージはなさそうだ。

『主よ、しっかり捕まっているのだ』

 一号が跳躍し、レッドボアの背後を取る。その跳躍で俺も飛んでいる。なんとか振り落とされずにすんでいるが。レッドボアの後ろ脚に一号が噛みついた。たまらず転倒するレッドボア。おいおい、レッドボアよりフェンリルが強いじゃないか。立ち上がるが、後ろ脚の負傷でロクに走ることの出来なくなったレッドボアを翻弄しながら、隙を見てはミスリルランスで突いていく。かなり時間はかかったが、最終的にレッドボアは動かなくなった。


「そんなに落ち込まないでください」

 今、俺は現実に打ちのめされている。実は戦闘開始直後、2号とともにもう一頭のレッドボアに向かったセーラはすれ違いざまに右前足を長剣で切断。転倒したところを2号が喉笛に噛みついて、戦闘終了。と瞬殺していた。

 その後は血抜きと毛づくろいをしながら俺の戦闘をぼんやりと眺めていたらしい。というか、2号は毛づくろいの必要ないだろ。


「俺ってなんのために生まれてきたんだろうか。何やってもダメだ」

 今は2匹のレッドボアがあまりにもでかすぎるためにクレイゴーレムに運搬させている所だ。

『主よ、主はその魔王にも匹敵する魔力があるではないか』

『そうだ、主よ。誇ってよいのだ。我らにみなぎるこの魔力を見ろ』

 1号よ、2号よ……クレイゴーレムまで親指立ててくれている。

「そうですよ、ホープさんはホープさんらしくて良いんです」

 セーラが優しい。まるで聖女様だ。


 クレイゴーレムがレッドボアを持ってきたので村中大騒ぎだった。指定されたところにレッドボアを置いてクレイゴーレムを還す。フェンリルは24時間継続のままだ。

「まずは2頭討伐してきました。明日また討伐に向かいますね。あ、ホープさんは放っておいてあげてください」

「……どうせ俺なんか……」

 村では牡丹鍋の用意が始まってるらしい。旬の野菜を入れた鍋は調味料こそこちらの世界のものだが、おいしかった。

「ほらほらホープさん、ホープさんのおかげでとれた猪肉ですよ。おいしいですよ」

「うん、セーラさん。おいしいよ」

 さすがにフルミスリルで御飯は取れないから脱いでいる。俺があまり体格がよくない事に村人が驚いて、さらに俺がへこんでいる。

 こうして初めての依頼はほろ苦いものとなったのであった。


ホープ=ブックヤード(ハルキ=レイクサイド) 18歳 男性

Lv 68

HP 870/870   MP 1240/2640

破壊 2  回復 1  補助 7  召喚 139  幻惑 3  特殊 0

スキル:逃走

眷属:ノーム(召喚3維持2)

ウンディーネ(召喚100維持20)

サラマンダー(召喚100、維持20)

ファイアドレイク(召喚200、維持25)

アイアンドロイド(召喚150、維持30)

フェンリル(召喚300、維持30)

アークエンジェル(召喚700、維持80)

クレイゴーレム(召喚1000、維持100)

アイアンゴーレム(召喚1200、維持120)

ワイバーン(召喚800、維持60)

レッドドラゴン(召喚2000、維持200)


セーラ=チャイルド 18歳 女性

Lv 37

HP 1320/1320   MP 840/840

破壊 46  回復 39  補助 43  召喚 1  幻惑 19  特殊 2

スキル:氷の加護

眷属:ノーム(召喚3維持2)

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