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3-3 おかあさん

 セーラの母親はシルフィードのギルド長らしい。名前はニア=チャイルド。セーラは俺の正体を伏せたまま、昇格試験を受けて欲しいと言ってきた。さすがにFランクではどこもいけないとの事。せめてBランクがなければ霊峰アダムスの山頂への入山許可が出ない。


「ハル……ホープ様でしたら余裕ですわ」

もう完全にばれている。しかし、ジギルの奴にアイアンゴーレムとレッドドラゴンの召喚を禁止されているので、昇格試験なんて無理だといったが、フェンリルで十分だと力説している。


 仕方ないので、昇格試験を受けることにした。相手はAランク冒険者2人。この戦いによってどの程度の実力かを測って、ランクをつけるそうだ。審査員はニア=チャイルド直々に採点するらしい。お義母さんにいいところを見せねば。

「はじめっ!」

 アークエンジェル3体とフェンリルの同時召喚、フェンリルに騎乗し後方に下がり、アークエンジェルを冒険者にぶつける!と、思ったら

「それまで!」

 攻撃が始まっていないのに、終了を告げられた。あれ?

「ちょっとお前たち、集合」

 お義母さんが怖い顔している。セーラはなぜかあきれ顔だ。

「いいか、今見たものは忘れろ。噂が流れたらギルドの資格をはく奪するぞ」

 Aランク冒険者2名が脅迫されている。

「さてと、どういうことか説明してもらいましょうか?」

 いい笑顔なんだけど、怖い。


 ギルド長室。綺麗に掃除されてて、使う人の心を映し出しているようですね。お義母さん。

「さて、単刀直入に言うと、何が目的なのかしら」

「ええと、お母さん、ホープさんはねある目的に希少な素材を集めてて、霊峰アダムスにも入りたいからBランクの資格がほしいなっと」

「そうなんです、お義母さん。実力が足りてないのは分かっているんですが、どうしても欲しい素材がありまして。それがないと命に係わるんです」

 もう、アイシクルランスの氷の雨から俺を守ってくれるのはコキュートスだけなんだ。

「なぜ貴方も私の事をおかあさんと呼んでいるのか理解できないのだけれども」

 はぁとお義母さんがため息をつく。疲れてらっしゃるのなら肩でも揉みましょうか。

「セーラ、任務なので言えないのは分かっていますが、この方はつまりはそういうことですね」

「ええ、お母さん。任務なので私は詳しい正体は知らされていませんが、おそらく間違ってないと思います。赤い感じです」

「やはり赤い方ですか」

 なんの話をしているのだろうか。赤?

「まさか、セーラほどの優秀な騎士がたかだか貴族の護衛なんていったいどういう事かと思っていましたが、これは納得を通り越して娘の護衛をしていただいているようなものですね。完全にあなたでは力不足です」

「うう、お母さんもそう思いますか」

「お義母さん、よく分かりませんが僕は娘さんの護衛でしたら命をかけてやりますよ」

 セーラは優秀ですよ。

「まあ、話は分かりました。とりあえずBランクのギルドカードを発行しましょう。実力的にはSを超えてますが、目立つ事はしたくないみたいですしね」

「ありがとう、お母さん」

 ありがとうございます。お義母さん。

「ついでにあなたにもBランクを上げます。同じランクの方がなにかと都合がいいでしょう。これを持って手続してきなさい」

「はーい」

 セーラがギルド長室を出ていく。

「お母さん、ありがとう」

 出ていく際にセーラはお義母さんへ一言。なんてかわいいんだ。


 お義母さんはこちらへ向き直る。

「ええと、ハル……ホープ=ブックヤード様でしたね。娘をよろしくお願いします」

「お任せください、お義母さん。娘さんは僕が命にかえてでもお守りします」

「それでは娘は任務失敗してしまいますね」

「はははっ、そうですね」

「あと、これは依頼なのですが……」

 ん?

「もし、ハルキ=レイクサイド様にお会いすることがあればこうお伝えください。人類を救っていただきありがとうございました。あの戦場には夫も、娘もいました。私が今日こうして笑っていられるのはあなたのおかげです、と」

「分かりました。依頼の報酬はお義母さんの笑顔というわけですね」

「ふふふ、お義母さんと呼ばれるのは悪くないですね。あなたならアイシクルランスの「氷の雨」を防げるかもしれませんよ」

 よっしゃ~!! 好感度良さげ! そしてその話有名なんだ!?



 ギルドを出ると夕方だった。近くの飲食店に二人で入り食事をとる。なんて幸せな時間なんだ。

「ではホープ様、今後の事を話し合いましょう」

「まってセーラさん、その前に俺はただのホープ=ブックヤードだ。セーラに様をつけて呼ばれるような存在じゃない」

 未来の旦那候補だからな。現在、絶賛立候補中。

「そうでしたね、ではホープさんとお呼びすればいいですか?」

「うん」

 なんだ、この幸せな感じ。御飯が旨い。

「ではホープさん、今後の事を話し合いましょう。まず、ホープさんは並外れた召喚魔法の使い手ですが……」

 そんな褒められても、うれしすぎるっ!

「他がほんと駄目ですね」

 ……ちーん。

「あ、先ほどハイ・ステータスさせていただきましたが、レベルとMP、召喚魔法に関してはもう天才を通り越して英雄の領域です」

 英雄! 君だけの英雄でも構わないよ。

「ですが、アイアンゴーレムやレッドドラゴンを封印されるとなると、比較的中型の召喚獣をメインに使うことになりますね」

 そうね。

「中型の召喚獣で周りを固めてもいいのですが、それでも召喚数がふえて消費魔力的に効率が悪いです」

 そうですね。だから召喚魔法は人気がない。

「そこで、近接戦闘を取り入れるのがいいと思います」

 近接戦闘か、でも運動は苦手なんだよな。

「特にワイバーンやフェンリルにまたがるレイクサイド召喚騎士団はシルフィード領の女騎士の間でも非常に人気があり……」

「やる!」

 セーラに気に入られるためなら頑張るよ!

「そうと決まれば……」


 その後、ジギルの館を訪問し通信用魔道具でレイクサイドに連絡を取る。宛先はヘテロ。文面は『今すぐミスリルプレート一式とミスリルランスを持ってこい。ないならお前のをよこせ 明日の9時までなら待ってやる。分かっているだろうな』だ。差出人は分からないはずだし、これでヘテロ以外に俺の居場所が伝わるはずがない。


 翌日、町はずれの草原に2人は来ている。昨日はセーラと同じ部屋に泊まるという夢の世界だったため一睡もしていない。安宿からちょっといい宿へと変わって広めのツインで一泊だ。へたれすぎてなんもできてないし、いまだに興奮してて睡魔すら襲ってこない。

 少しするとへろへろと飛ぶワイバーンがやってきた。8時45分。まあ、許してやろう。

「マジで勘弁ッス」

 目の下にクマができたヘテロが言った。

「こう見えてもいちおうそこそこ偉いんスから」

「ああ、降格希望というわけだな。一兵卒から出直してこい」

「いや、なんでもないス。こちらお届け物ッス」


 ドワーフ特性ミスリルプレートとミスリルランスを受け取る。

「あのう、もしかしてこちらの方はレイクサイド召喚騎士団第5部隊長のヘテロさんではないですか?」

 セーラがこちらへ来る。

「自分を知ってるッスか? そういうあなたはもしかしてシルフィードアイシクルランスのセーラ=チャイルド様ッスね。うちの騎士団でもシルフィードに舞い降りた奇跡って有名でした」

「そんな、おおげさな」

「いえいえ、自分もそう思うッス………は、ハルキさま? 顔が怖いッス」

「俺はハルキではない、ホープ=ブックヤードだ」

「う、すんません、ホープ様」

「用事が終わったのなら帰れ」

「そんな、レイクサイドから不眠不休で来たんスよ。ハル……ホープ様があんな伝言するから自分がホープ様の居場所を知ってることが皆にばれそうで大変だったッスから」

「そうですよ、ホープさん。お疲れのようですし、ゆっくり休んでいただきましょう。それにヘテロさんといえば、メノウ島掃討戦でフェンリル騎乗で大活躍された方ですし、ホープさんもフェンリルの騎乗を教えてもらえばいいんじゃないですか?」

 そういえば、こいつフェンリルに乗りはじめてそこそこ経ってるな。掃討戦も行かなくていいって言ったのにフィリップとウォルターと3人で暴れてたらしいし。

「まあ、そうだね。では、ヘテロ、教えろ」

「分かったッスよ。ところで、なんでホープ様はセーラ様と一緒にいるッスか?」

「護衛兼監視だ。ジギルがうるさいから仕方なくいてもらっている」

 セーラに聞こえないようにこそこそ言ってみる。

「……ハルキ様、分かりやすすぎッス。シルフィードの領主に手玉に取られてるッスよ。まあ、気持ちはわかりますッスけど。失恋には新しい恋って言うッスもんね。まあ、安心したッス。あ、ヒルダの結婚式は滞りなく終わったッス。酔った勢いでハルキ様が失恋旅行に旅立たれたってばらしたら騎士団連中には大うけでしたッス。新郎は真っ青になってるし、ヒルダは早く言ってくれればよかったのにとか言ってたッス。フラン様は泣いてました。アラン様はちょっと怒ってたッスけど」

「よおし、今日は模擬戦をしようか。どちらかが死ぬまでだ」

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