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2-7 ジギルの葛藤

 私の名前はジギル=シルフィード。大領地シルフィード領の領主であり若干29歳の自他ともに認めるイケメンだ。


 我がシルフィード領は代々ヴァレンタイン領の隣ということもあり、中央ではかなりの権力を有する大領地である。私が21歳のころに父が急逝した。それから8年かけてシルフィード領を治めてきた。軍事改革も私が推し進めたことであり、我が騎士団の中でも「アイシクルランス」は氷属性の破壊魔法に特化した攻撃集中型部隊である。

 前々回の魔人族侵攻の際は大いに活躍し、それまで我ら人類がかなり苦しめられていたギガンテスとよばれる単眼の大巨人の形をした魔物の軍勢に対して多面的集中砲火、通称「氷の雨」を加える事により容易に撃破することができるようになっていた。


 今回の魔人族は学習能力があるらしい。大型の魔物ではなく、機動力に特化した部隊を送ってきている。特に破壊魔法を得意とする魔人族部隊は厄介だ。我が「アイシクルランス」も活躍はしているが、細かく数が多い敵はあまり得意としていないのは事実である。広範囲爆撃魔法による戦法を開発する必要があるな。


 そして、今回の戦闘はもしかしたらまずいのかもしれない。普段、あれだけ戦闘狂が多く犠牲も厭わない戦いで有名なフラット領の連中が今一つなのだ。ジルベスタは名将といっていい人間だと思っていたが、年には勝てないか。特にバカ息子の部隊を掌握しきれていないなんて論外だ。

 打開策が思いつかない間にも敵はメノウ島から多くの軍勢を投入してくる。あんなに戦略的に重要な島に常駐軍を置かないなんて、何を考えてるんだ?


 我らの方の援軍ももうすぐ到着予定との事。明日にはスカイウォーカー領から次期当主が騎士団を率いてやってくるし、明後日には今話題のレイクサイド領から召喚騎士団がやってくるという。ただ、正直な話、スカイウォーカー領の騎士団は弱兵ではないが数が少ない。レイクサイド召喚騎士団は未知数ではあるが、所詮召喚魔法使いだ。あまり戦力的にはあてにならないな。ここはヴァレンタインから新たに騎士団の派遣を急がせた方が良さそうだ。


 そうこうしているうちに魔人族の連中が上陸を始めた。あそこはジンビー=エルライトの管轄だろうが、エルライト領は大丈夫なのか?これは完全に陣形に楔を打たれた形になってしまった。場合によってはフラットまで引くことを考えた方がいいかもしれん。「アイシクルランス」であそこの尻拭いをしてもいいが、損害が馬鹿にならないな。どうすべきか・・・。


 私が悩んでいると遠くの方で獣の泣く声のようなものが聞こえてきた。その後によく通る事で名乗り上げた騎士がいる。レイクサイド召喚騎士団だと?来るのが早い。というか、あれはなんだ?・・・・・・。



 レッドドラゴンなんて初めて見た。今回の魔人族の編成にとっては天敵のような個の武力で次つぎと敵を薙ぎ払った光景は人類が救われた感動とともに久しく忘れていた嫉妬の感情をよみがえらせた。あれが欲しい。あれを超えたい。いや、今は人類が救われた事を喜ぼう。

 海岸防衛戦はあっけなく終わった。レイクサイド召喚騎士団のことはその後だれとも面会しないハルキ=レイクサイドのちょっとかわった噂とともに防衛軍のなかで話題に事欠かなかった。私も面会を希望したが、黒色のオオカミに騎乗した部隊長にすげなく断られてしまった。体調が悪いと言っていたな、レッドドラゴンの召喚で無理をしたんだろうか。まさか、噂話を聞いてふて寝しているわけないよな・・・。なぜか陣地のいたるところにレイクサイド召喚騎士団の召喚した召喚獣がいて、睨まれているように感じる。私はまだ何も言ってないぞ。


 次の日のメノウ島奪還の作戦会議にはハルキ=レイクサイドも出席していた。顔を隠せるマスクをしているためにあまり印象は分からない。昨日聞いた噂では貴族院成績事件の張本人だそうだが、そんな奴がレッドドラゴンを召喚して人類を救い、ここに出席できるわけがない。何かの間違いだろう。

 フラット領のバカ息子が会議の邪魔をしている。ジルベスタは何をやっているんだ?イラついた表情で睨んでやっていると、なんとジルベスタがハルキ=レイクサイドに対して謝罪したではないか。これは面白い。その後のハルキ=レイクサイドの立案もかなり現実味を帯びていていい作戦だったと思う。ただ、あれは上に立つものが提案する作戦ではない。まだまだ若いということか。


 奪還作戦は非常に上手くいった。前回の戦いで我が「アイシクルランス」にこっぴどくやられた連中は大型の魔物を用意していなかったためにレッドドラゴンに対抗することができなかったようだ。しかし、上陸後にハルキ=レイクサイドを褒めに行ってやったら、全く調子に乗ってないどころか次はこの作戦は通用しないことを理解していやがった。年下に追い抜かれそうになって焦る老人たちを笑って生きてきたが、奴らの心境が今ならよく分かる。これはまずい。これからの時代はレイクサイドだ。実は食糧問題など内政の分野ではレイクサイドはすでに他領地を大きく引き離している。軍事が数年で良くなるとは思っていなかったが、この次期当主が率いれば今でも大領地といい勝負をするのではないか?実際、アイアンゴーレムを駆使した陣地建造は大きな武器だ。


 本気でハルキ=レイクサイドの暗殺計画を考えていると、向こうから「お願い」をされた。よし、貸しができるならばそれでもよい。とりあえず聞いてやろう。

 何て事のない単純な事だと思ったが、それは私の予想をはるかに上回る厄介なものだった。

2章終了しました。

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