2-4 蹂躙と玉砕
俺は今、猛烈に後悔している。召喚騎士団の計画に乗せられて調子にのってレッドドラゴンまで召喚してしまい、どう考えても戦争へ行かなければならなくなったのだ。しかも思い出すとめっちゃ恥ずかしい。
「まあまあ、そんなに落ち込まないでくださいッス。恰好よかったですよ」
うるさいヘテロ、お前がはやくレッドドラゴンと契約してくれれば俺は行かなくて良くなる。急げ。
「坊ちゃま、契約の素材は非常に貴重なものでした。当分は手に入りそうにもありません」
じいまで裏切るか。
「か、感動しました。まさか私のアイアンゴーレムが小さく見えるなんて」
最近ストーンゴーレムとアイアンゴーレムの同時召喚を可能にしたフィリップ将軍様である。いつの間にか騎士団まで掌握するとはどういう事か。というか早く泣き止め。
「一生ついて行きます」
ウォルターよ、むさくるしい男はいらない。
「わ、私も一生お供いたしますよ」
ヒルダ、誤解を招く言い方はやめてくれ。
「僕もドラゴン召喚したいです」
実はフィリップよりも魔力量が多くなっているテト。君はほんとに将来有望だよ。代わってくれ。
「一部の情報ではハルキ様を早めに次期当主にすることでレイクサイド領が、引いては王国全土が潤うと言われておりまして、アラン様には暗殺の可能性が……」
この怖い事言ってる人はフランが騎士団を叩き直すために呼んだマクダレイ=モスキートさんだ。ある日突然、鬼のフランから脅迫状が届いたそうで、「今すぐレイクサイド領へ来て騎士団の練兵に協力しなければ地獄の底まで追いかけてでも殺すのでお願いします」と書かれていたらしい。じいはお願いしているでしょうと言っていたが、あれは完全な脅迫状だ。
まあ、落ち込んでいていも仕方がない。
「集合は明日の早朝、ウォルター、ヒルダは騎士団とともに兵士を連れて通常行軍。フィリップは爺をワイバーンに乗せて、テトとヘテロは騎士団から破壊魔法が得意な奴を一人ずつ引き抜いて俺と一緒に先行する。マクダレイさんはここで父上と叔父上をよろしくお願いします」
ええい、なるようになれ。
先行組はその日のうちにワイバーンでフラット領へと入った。フラットの町はまだ戦火に巻き込まれておらず特に被害はないが、戦時中ということでかなりピリピリした空気を感じる。夜も遅かったためにほとんど何もせずに宿で一泊した。
翌朝、徒歩で町を離れると前線へ向かう途中でそれぞれワイバーンを召喚させた。俺はもちろんレッドドラゴンだ。MP回復ポーションも忘れずに飲んでおく。
「さて、派手な登場となるぞ」
前線はほぼ海岸線だった。戦端は開かれており人類側は少し押されているがなんとか崩壊せずに堪えている。そこそこの損害が出ているか……。
魔人族は船で上陸を試みる者や、大型の魔物で乗っているものもおりさまざまであったが、双方とも数千の軍勢がぶつかり合うというのはものすごい迫力だった。戦争で死者を見るのは初めてであり、嘔気が襲ってくるがなんとか飲み込んだ。
「フィリップと爺は後方にあるジルベスタ=フラット殿の本営へ行き、我々が味方であるという事を伝えて来い。他の二組は空から破壊魔法を降らせるんだ。ある程度遠くからでも構わない。魔法や飛び道具に気をつけろ」
フィリップのワイバーンが本営へと向かう。双方、すこしずつだがこちらに気が付いた兵士たちがいるようだ。
「レイクサイド召喚騎士団参上ッス!!」
ヘテロの怒号が崩壊寸前だった人類の陣営の士気を上げることに成功する。援軍、それも伝説のレッドドラゴンを始めとして三体の竜が魔人族に襲いかかっているのだ。
「レッドドラゴンよ、敵を蹴散らせ」
『承知した』
魔人族の破壊魔法が飛び交う中、レッドドラゴンのファイアブレスが右から左へと薙ぎ払われる。そこに残るのは消し炭のみ。取りこぼした魔人は二組のワイバーンの上から発された破壊魔法で仕留められていく。俄かに人類陣営が士気を取り戻し、その日の戦闘は昼前には大勝利で幕を下ろした。
戦闘が終わったため、俺は速攻で帰ろうとした。こんな場所に長いは不要だ。初めての戦争、魔人とはいえ人殺しで気分も悪い。それ以上にここに滞在したくない理由がある。
しかし、この戦闘の功労者である俺たちを兵士たちは歓声で向かい入れてくれて、帰るに帰れない状況となってしまっていた。
「噂に聞こえたレイクサイド召喚騎士団とはここまでのものだったか」
「召喚騎士団に加え、レイクサイドは鬼のフランも派遣してきたらしい」
「鬼のフランと言えばかなり前とはいえ人類最強の称号を持った男ではないか!」
「ハルキ=レイクサイドの影武者といわれるフィリップ=オーケストラとともにスカイウォーカー領で魔物を根こそぎ殲滅したという……」
「勢いのある領地にはやはり人材が集まるのか」
「ハルキといえば貴族院成績事件の……部下に恵まれたな」
「あのレッドドラゴンはやはり筆頭召喚士フィリップ=オーケストラに違いない」
…………やっぱり帰りたい。
「ちょっと、あいつらワイバーンの爪で引っかけて、上空散歩に連れて行ってもいいっスか?」
ヘテロよ、たのむからやめて。
本営に帰るとすぐに宿舎が用意されたそうだ。こんなもん用意してないで殲滅戦に加われよ。召喚獣を還し、宿舎の本営に先行部隊全員を集める。
「いまから重要な指令を出す。これは俺の命と同価値と思え」
ゴクリと皆の唾を飲む音が聞こえてきそうだ。
「おれ、もうやだ。寝るから誰も通すなよ。明日になったら帰る。あとはよろしく」




