2-7 神に見放された男たち
これは完全な嫌がらせだ。どういうカラクリでこんな事ができるのかどうかなんて全く理解できないが、レベルを1ではなくて貴族院卒業時点の2にする時点で、俺をおちょくっているとしか考えられない。
「ソレイユ、この事は絶対に他言無用だ。カーラにも言うな。」
「りょ、了解しました。」
そして、ステータスに中にコメントを残すなよな。これじゃ、ハイ・ステータスする度にこのコメント読まれるってことだろうが。
しかしレベル2か、・・・すでにレベル160を超えててMP8000オーバーだった俺が・・・レベル2か・・・。・・・あ、もうだめだ・・・死のう。
この世界でレベル100超えてるのは俺と爺とテツヤくらいの物だろう。お義父さんですらレベル90くらいって聞いたことがある。テトとフィリップがもう少しで100に到達できたらいいな、くらいで高レベルは極端に少ない。爺は異常だし、テツヤはチートだ。あ、俺も異常だったのかも。
つまりはまたしてもあの魔力枯渇ギリギリの農作業をずっーーーーとしなければレベルが元に戻る事なんてないし、すでにもう一回やれと言われても心がポッキリ折れててやる気なんてでるわけがない。
そして重要な事に今になってようやく気が付いた。
「召喚契約が全部解除されちまってる!」
がっでむ!あいつ俺のあいでんてぃてぃを奪っていきやがったのか!?ノーム召喚くらい残しておけよ!どうすりゃイインダヨ!?これから!ってそうなるように仕組んだのか。性格悪すぎだろ!これなんて無理ゲー?縛りプレイにも程があるぞ・・・もはや阿斗ちゃんプレイじゃないか。・・・あれ意外と得意だぜ、俺。阿斗ちゃん分かんなければググってね。
少し、落ち着いた。こんなに落ち着くなんてこっちの世界にきてから初めてかもしれん。俺は今から阿斗ちゃんだ。となればやるべき事は見えてくる。
「フィリップぅ!フィリップを呼べぇ!」
「という事で、後は任せたイツモノヨウニ。」
「レベル2ですか・・・?召喚もできなくなるなんて・・・。」
「フィリップよ、そんなに落ち込む事はない。これは想定内だ。俺がいなくなったあとのシミュレーションは嫌というほどお前たちに課してきた。今日、この時のためだ。俺が死んでいない事を喜んでくれ。」
「ですが!」
「皆には呪いを受けて一時的に召喚ができなくなったとでも説明しよう。それよりも、俺係を作ろう。」
「ハルキ様係ですか?それは・・・?」
「召喚できなくなったからな。ワイバーンに乗っけてもらわにゃどこにも行けない。戦闘にも加われない。俺は後方の安全な執務室から指示を飛ばすだけだ。執務室の名前は成都と呼ぶことにでもするかな。」
「途中からおっしゃっている事の意味が分かりませんが、今後もハルキ様の指示を仰ぐ事ができるように召喚士でサポートをすれば良いのですね?」
「その通り。そしてこれは他言無用だ。他の者で知っているのはハイ・ステータスをかけたソレイユのみ。」
阿斗ちゃんプレイの基本は自分が動かない事だ。自分が何をやってもどうせ失敗する。優秀な部下を手足のように使ってやりたい放題だ。
しかし、たとえレベルが下がったとしてももとに戻す努力はしたほうがいいだろう。
「ノーム召喚の素材を持ってきてくれ。」
ソレイユに言ってノーム召喚契約に必要な土の魔石と羊皮紙を用意する。
「我契約を望むもの也、我が魔力にて現れたまえ ノーム」
さすがにレベル2でもノーム召喚くらいはできる。
「あなた様とはすでに契約が結ばれております。二重契約はできません。」
ふっと消え去るノームの長。・・・なんだって?
ちょっと整理しよう。召喚契約は結ばれた。二重契約はできない。召喚契約はヨシヒロによって消されてしまった。・・・つまりはノーム召喚をはじめとして今まで召喚した事のある召喚獣はもう使えない。・・・ノーム召喚は行えない。・・・召喚レベルが上がることはないから他の召喚獣と契約する事もできない。・・・契約できないから召喚レベルは上がらない。・・・他の素質はからっきし。・・・詰んだ。
「というわけで、ハルキ様が治癒なさるまでは誰かがハルキ様の身辺について代わりに召喚をしなければならない。誰がいいと思うか?」
レイクサイド領のおもだった幹部が集まって会議中である。
「ハルキ様の身辺警護も含めると手練れが必要ッスね。ワイバーン召喚とフェンリル召喚も必須ッス。」
「移動の事を考えるとウインドドラゴンを召喚できるリオンが適任だが、今のハルキ様はそれを良しとしないだろう。」
「何故だ!?ウォルター!?」
顔を赤くして抗議するフィリップ。
「諸事情がありまして、リオンが係になるとハルキ様はフィリップ様の傍を離れようとしなくなりますよ。」
「なっ!?」
「それにリオンは第4部隊ッス。今回の魔物討伐には欠かせない人物ッスよ。」
「フライアウェイかなり有効だもんね。僕もよく使うよ。」
「ま、まあいいだろう。では誰が良いか?」
「それで?なんで会議の内容がそれなのに、お前が来るんだ?」
「僕も分かんないよ!でもどうせハルキ様が召喚できてもできなくてもウインドドラゴンの後ろ乗ってるだけだろうし、指示仰ぐには前線にいてもらった方がいいからって事でなぜか僕に。」
なにゆえにテト。部隊長じゃねえか。もっと、第1部隊のミアとか第5部隊のユーナとかかわいい所を期待していただけにショックがでかい。・・・いや、これは断じて浮気ではないぞ。
「じゃ、さっそく任務に行くからついてきてよ。」
「いや、立場が逆になって・・・。」
「ほら!時間ないんだから!」
「・・・あ、はい。」
くそぉ、レベル2は立場もレベル2か。夢の後方の執務室が・・・。
エジンバラの町の南西に魔物が集結しているポイントがあるそうだ。かなり強めの魔物がいるらしく、SSランクを1小隊で討伐するのは被害が出そうであるために、現在は監視にとどめているらしい。
「戦力にはならないが、ハルキ様もついて来られる!われらレイクサイド召喚騎士団の精鋭でもってこの集団を叩く。おそらく、ここにいるとされる人物が事件の首謀者だろう!」
この作戦には全ての部隊長と各部隊の精鋭、騎士団からもシルキットをはじめとして破壊魔法が上手い団員が多数加わっている。
「現在、魔物の数は100程度とのことだ。SSランクのワータイガーも確認されている。」
結構な数だ。各領地の騎士団が集結していなかったらエジンバラの町は壊滅していたに違いない。エルライト領は大丈夫だろうか。
「おい、いくら俺係とは言え、お前が本気出すには邪魔だから今回は他の奴のワイバーンに乗るぞ?お前も魔力を温存してリリス召喚くらいやれよ。」
「うん、分かったよ。」
「じゃあ、誰のワイバーンに乗ろうかなっと。」
結局、俺とテトは魔力温存のために第5部隊のやつに乗せてもらって戦場へかけつけることになった。
「ハルキ様を乗せるなんて光栄です!」
こいつは第5部隊のヨーレン。うるさい男だ。なんでこいつしか余ってなかったのだろうか。他の奴は騎士団の連中を後ろに乗せているというのに。
「ヨーレン!気を引き締めるッス!」
「ういす!ヘテロ隊長!」
「なんで俺がこいつの後ろでテトがヘテロの後ろなんだよ・・・。」
戦力的には正しい。俺はほぼ邪魔者扱いだ。だが解せぬ。俺領主。
「そろそろッスね。」
レイクサイド召喚騎士団による約40体で編成したワイバーン竜撃隊。中心にいるのはリオンのウインドドラゴンに乗った筆頭召喚士「鉄巨人」フィリップ=オーケストラ第1部隊隊長である。当然だ。総指揮官であるのだから。他意はないぞ・・・ぷぷぷ。
「あ~、あんなに固まってると目立つな~。」
前方の草原には約100体の魔物が集結していた。中にはギガンテスやワータイガーなどの大型の魔物も見受けられる。とりわけ目立っているのが中心に1頭いる黒色のドラゴンである。集団はゆっくりエジンバラの町の方面へ移動していた。
「あれは、なんてドラゴンかな?」
「あれはティアマトではないですか!!??伝説級の魔物に違いありません!!」
後から聞いたが、ヨーレンはいわゆる魔物マニアらしい。
「ティアマト?聞いたことないなぁ。」
「原初の時代に存在したとされる魔物ですよ!ランクにするとSS以上じゃないでしょうか!?」
本当にSS以上であるなら厄介である。そして、もっと厄介なのが、そのティアマトに人が乗っているのだ。
「貴様らはレイクサイド召喚騎士団か!!??」
ティアマトに乗った人物が叫ぶ。50代くらいのおっさんであるが、どっかで見た事のある衣装だな。そして特徴的なのはそのつるつるの頭ともじゃもじゃの髭である。
「人類は神に見放された!」
あ、そうだ。この衣装ヨース・フィーロ教の神官だ。
「私は神に選ばれた!ヨシヒロ神の加護のないお前らは私によって滅ぼされるのだ!」
やっぱり神楽の差し金か!そして俺はヨシヒロ神の加護もってるけどな。(笑)ついてるけど。
「この魔物を統べる力こそが神のおぼしめしである!!」
「おい、ヨーレン。声が届くところまで近づけ。」
「ういっす!了解しました!」
ヨーレンのワイバーンが俺をのせてティアマトに近づく。
「貴様はハルキ=レイクサイドか!?ヨシヒロ神に楯突く不届きものめ!このティアマトで滅してくれようぞ!神に見放された者どもは滅びるがいいのだ!!」
「うっさい!お前こそそんなに禿げ上がりやがって!髪に見放されてるのはそっちだろうが!!」
「これは剃っておるのだ!断じて禿ではない!」
「知るかボケぇ!!このハゲ!」
「ちょっとハルキ様、あいつ涙目ッスよ。それにこれから戦闘なんで空気読んでくださいッス。ヨーレンが落ち込んでるッス。」
あ、ごめん。ヨーレンも薄かったね。でも渋くて恰好いいと思うよ。
ハルキの口が悪すぎる




