2-4 深紅の後継者
やばい。これはやばい。今、俺は猛烈に後悔している。
天災級の魔物、朱雀に遭遇した俺はとっさにテトたちを逃がして最悪の事態に備えることとした。テトたちは俺の切羽詰まった声を聞いて、泣く泣くエルライト領の方面へと飛んで行ったのは確認した。すでにもう見えない距離である。
男なら一度は、「俺は後から必ず追いつく!お前は先に行け!」ってセリフを言いたくなる厨二病に罹患しても仕方がないよね。調子に乗ってました。すんまそん。今は後悔してる。
朱雀はかなりでかかった。ウインドドラゴンの約2倍のでかさだから半端ない。顔なんて俺よりもでかい。一飲みで幾多の魔物や魔人族を喰らってきたのだろう。今回は魔力の溢れる光の柱に吸い寄せられてきたはいいが、俺たちがそれをふさいでしまったものだから、近くにいた魔力の塊のウインドドラゴンを餌にしようとしたに違いなかった。ウインドドラゴンで対空戦を行うが、いかんせん分が悪い。
朱雀はかなりでかかった。それこそ、口の中に召喚してやったアイアンドロイドがちょうど気管をふさぐくらいに・・・。結局、朱雀は墜落してのた打ち回った後に数分で窒息でお亡くなりになった。戦闘時間数分って、それでいいのか?
「今から追ったら追い付けるかなぁ・・・?」
しかし、あれだけのセリフを吐いておいて、約15分後にもう一度顔を合わすのは恥ずかしい。それに、朱雀の素材もちょっと欲しかった。羽毛をむしりむしりしながらアイアンドロイドに持たせていく。中には近くの蔓を取ってきて籠を編んでくれるアイアンドロイドまでいるものだから、こいつらは優秀だ。
大量の羽毛と、くちばし、尾羽くらいしか取れなかったが、こっちとしてはものすごい大きな荷物になってしまった。肉は・・・諦めよう。
気道をふさがれ、のた打ち回った朱雀が破壊した森林の跡が痛々しいが、うちの領地でないから、まあいいか。非常事態だし、こいつのせいだ。俺は悪くない。
ふっと気を抜いたら、破れたマントが視界に入った。・・・だめだ・・・死のう。
次の日の朝までフェンリルの上でふて寝した。俺を慰めてくれるフェンリルが3体も召喚されているけど、気にするな。
しかし、俺は猛烈に後悔することになった。
やべえ、生存報告してねえや。俺、死んだことになってるに違いない。気分は朝早起きしてテスト勉強をする予定だったのにぎりぎりまで寝てしまった学生だ。やっちまった!
おそるおそるエジンバラの町へ帰る。絶対にテトたちに怒られるから、帰るのも遅くなっちゃった。ウインドドラゴンで視界に入った魔物たちを後ろから掴んでは上空へ上がりフライアウェイ!を繰り返してたら結構な時間がかかってる。すでに昼過ぎだ。絶対、みんな心配してるけど、怒られるのが嫌でどうしても早く帰れない。ううう、なんで?俺、領主なのに・・・。
そうだ!こんな時に優しくしてくれるのは聖母ヒルダだ!そうと決まれば、こそっと第3部隊に紛れ込んでヒルダに事情を説明して皆との間に入ってもらおう。うん!我ながらナイスアイデアである!
エジンバラの町の近くまではウインドドラゴンで帰ったが、そのまま帰るとばれるのでワイバーンに切り替える。朱雀の素材も隠しておこう。あとで取りに来ればいい。セーラさんにもらったマントは破けてしまったので、たたんで荷物にまとめてある。パイロットゴーグルをしっかりつけると、誰か分からんだろう。マント以外はレイクサイド騎士団の標準装備だしな。どうせたくさんの召喚騎士団の連中がワイバーンで乗り降りしてるはずだから、1人くらい増えても関係ない。それとも徒歩で帰るか?いや、それだと門番に質問とかされるかもしれんから、やっぱりワイバーンだ。
召喚騎士団の宿舎近くにワイバーンで降りる場所はあった。ヘリポートならぬワイバーンポートだな。ゆっくりとこっそりと降りる。すると、なにやら騒ぎになっているようだ。たくさんの召喚士たちが集まっている。これはチャンスだ。今のうちに紛れ込んでしまおう。
「見損なったッスよ!!」
ヘテロが叫んでいる。珍しい。あっ!殴った!殴られたのはテトだ。歯を食いしばって、でも号泣してる。後ろでレイラとリオンが何もせずに立っている。フィリップが後ろからヘテロを羽交い絞めにして止めた。
「どうして置いてきたッスか!?ハルキ様を身を呈して守るのが自分らの職務ッス!」
「・・・僕らは・・・それまでの戦いで魔力が尽きてたんだ。魔力のないお前らは足手まといだと言われた。実際、ハルキ様にとって僕らは足手まとい以外の何物でもなかったから・・・。僕らはいない方がハルキ様が助かると思った。」
そんな事ないよぉ!!テト、大の大人がそんなに泣くもんじゃありません!
「ヘテロ隊長!違うんです!テト隊長は残ろうとしたんです!でも私が逃げるように説得したんです!」
レイラ!それが正しいぞ、領主命令だしな。
「関係ないッス!隊長はテトッス!責任はテトにあるッス!」
それも正論だ・・・。
「レイラ。ヘテロの言うとおりだ。僕らは・・・僕は・・・ハルキ様を見殺しにしたんだ・・・うっうっ。」
テトが泣き崩れる。そして殴ろうとしていたヘテロも泣き崩れる。周囲の皆もうなだれてしまった。男2人に号泣され、そこまで想っていてくれたかという思いと、こんな所に出て行けるはずがないという焦りが頭の中で交差する。
「フィリップ様に、伝言があります。」
「・・・なんだ?」
フィリップも静かに泣いていた。
「自信を持て、と。」
「!?・・・そうか・・・。」
フィリップが遠くを見つめて黙ってしまった。
「騎士団と領地はお前らに任せた、と。朱雀の討伐には、テツヤ様を頼るようにと。あとは、・・・聞けませんでした。最後にハルキ様を見たのは、朱雀と戦っていたウインドドラゴンにまたがっておられた姿でした・・・。」
「ハルキ様の・・・意思を継ごう。・・・お前は、深紅の後継者・・・だろう?」
「!?・・・はい!僕は「深紅の後継者」です!この二つ名は誰にも譲りません!僕は!「深紅の後継者」なんです!」
「立つッス。今、やれる事をするッス。俺は朱雀の討伐に向かうッスけど、テトはどうするッスか?」
「行くよ!僕が絶対に仇を取るんだ!テツヤ様にだって譲らない!僕が!僕が!」
も、盛り上がってるッス・・・。
おっと、こんな事をしている場合ではない。ヒルダの所に行かなければ・・・。
「あ?ジェイガンか?」
宿舎を回ったところで声をかけられた。こいつは・・・第4部隊副隊長のペニーじゃないか。俺がハルキだってこと知らなかったっけ?そういや、教えてないな。
「やっぱり、お前もテト隊長たちと先行してたんだな。今はテト隊長たちは帰ってきたばかりでヘテロ隊長に絡まれてるぞ。たしかにハルキ様を見殺しにしたなんて、・・・俺も今回はテト隊長をかばう気にはなれないな。ここにいるってことはお前は別行動だったのか?」
へ?どういう事だ?・・・そうか、ジェイガンはテト班だったな。先行部隊だったから一緒に行ったと思われたのか。
「もしかして、お前も置き去りにされたか。まあ、しょうがない事もある。テト隊長たちもおそらく心配してるぞ。そうだ、俺がついていってやろう。」
待て待て!いらん事するな!手を引っ張るんじゃない!そっち行くと皆いるって!あぁ!!
この後どうなったかはご想像にお任せしたい。
最近はステータスを表示してません。絶対に必要ではないというのと、めんど・・・物語にステータス面のみの矛盾点が出たりするためです。




