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2-3 セーラさんのマントと赤い鳥

 エジンバラ領、大峡谷レクイナラバから続く山脈に魔物の鳴き声が響く。大量の発生した魔物がひしめく山脈で、この部分だけが魔物の侵入を許していない。

「・・・もうだめだ。・・・死のう。」

がっくりとうなだれながらも周囲に黒騎士を5体召喚しているのはハルキ=レイクサイド領主である。召喚された黒騎士たちは襲いかかってくる魔物を次から次へと屠っており、召喚主には一歩たりとも近寄らせていない。中にはSランクのモンスターもいるみたいである。

「ハルキ様、もう帰らないとフィリップたち着いちゃうよ?エジンバラの人にも30分で帰るって言ったのに。」

付き添っているのはレイクサイド召喚騎士団第4部隊隊長のテトだ。

「・・・いい、フィリップたちなら大丈夫だ。エジンバラ騎士団と違って魔物の対処は完璧なはずだから。俺は帰れない。もう、だめだ。」

「そんな事いっても、魔物の量が半端ないよ?」

「・・・知らない。・・・死のう。」

「はあ、だめだこりゃ。」

その間にも魔物の屍は1頭また1頭と増えている。集団で一気に襲いに来ないから黒騎士だけでも対処できるのだろう。そうこうしているうちにリオンのウインドドラゴンが帰ってきた。

「テト隊長!周囲の魔物の量が多すぎて、ウインドドラゴンだけじゃ対応できません!」

「すこしでもいいから減らしておいてくれ!無理はしないように!レイラも手伝ってね。」

「はい!了解です!」

ウインドドラゴンが暴風とともに去っていく。周囲に魔物の気配が尽きることはないが、ここまで到達できる魔物などいない。



 さかのぼる事2時間前。

「なんだ?この魔物の量は!?空から見ても明らかに増えてるじゃないか!あそこにもいる!あ、あそこにも!」

「ハルキ様ぁ、これは異常です!こんなに数がいたらいくらエジンバラ騎士団でも・・・。」

ウインドドラゴンにはテトをはじめテト班のレイラとリオンが乗っていた。召喚しているのはリオンである。

「これはまずいな。討伐もそうだが、発生の原因を特定しなければヴァレンタイン大陸はひどい事になるぞ。」


 大峡谷レクイナラバをさかのぼっていくと、その先の山脈に一筋の光の柱が立っているのが見えた。かなり遠いがウインドドラゴンでなら行けなくもない。

「リオン!あそこに何かが光ってる!行ってみてくれ!」

「はい!了解です!」

リオンのウインドドラゴンが低空飛行から高度を上げる。光の柱が立っているのが見えるのはレクイナラバを超えてさらに行った所にある山脈の中腹だ。

「あれが、何か関係しているような気がする。」

 魔物たちもその方角から来ているように思えた。しかし、いままで見ただでも数百を超える魔物が北へ北へと進んでいる。すべてを討伐するには冒険者のパーティーがいくらいても足りない。それにいままでのように1匹か1種類を相手にすればいいのではなくて数種類が同時に襲いかかってくる。発生源があるのならば早めに叩いておく必要がある。


「ハルキ様!あれを!」

光の柱に近づくと、そこには大きな穴があった。確実に中から魔物が出てくる。それも高ランクのものばかりだ。

「とにかく塞ごう。」

超高度からクレイゴーレムを投下する。光が出ている穴に直撃し、クレーターを形成して穴は塞がれた。だが、まだ少し光が漏れている。

「よし!降りて穴をふさごう。」

ウインドドラゴンが穴の近くに着陸する。着陸前に黒騎士5体を召喚して周囲の魔物に対して警戒も怠らない。クレーターには近寄らず、森の中に着陸する事になったウインドドラゴンから降り立つハルキ、テト、レイラの3人。リオンは引き続きウインドドラゴンに騎乗して周囲の偵察に戻るのだ。

「さあ、ゴーレムを召喚して・・・・びりぃっ。」

着地した際に繁みに引っかかってたハルキのマントがほんの少し破れる。

「あ・・・セーラさんにもらった誕生日プレゼントのマントが・・・。」


 そして今に至る。



 テトが召喚したクレイゴーレムが光の穴を完全に埋めたのは数分後だった。しかし、ハルキ=レイクサイドが立ち直ったのは数時間かかっている。いや、正確には立ち直っていない。ウインドドラゴンまで歩いて乗ってくれただけだ。

「もうー!!日が暮れちゃったじゃないか!」

テトが叫ぶ。さすがにリオンは長時間のウインドドラゴンが召喚できないためにテトが召喚している。クレイゴーレムも召喚したためにMP的には少しきつい。

「急げ!ウインドドラゴン!」

「ぎゃー!!」

急加速でウインドドラゴンから振り落ちるレイクサイド領主。

「なんでちゃんとつかまってないの!!??」

とっさに地面に着くまでにそれを回収する第4部隊隊長のウインドドラゴン。

「だって、マントがなかったら飛べないし・・・。」

「意味わかんないから!」

「僕の顔をお食べよぉ・・・。」

「さらに意味分かんないよ!!」



 行軍を続けるスカイウォーカー騎士団とシルフィード騎士団。

「ロラン様、魔道具通信でエジンバラの近況が分かったとのことです。ルイス様の近くまでお越しいただけませんか?」

「分かった、参ろう。ここはサイセミア様に任せるとするか。」

シルフィード騎士団アイシクルランスにはあのサイセミア=シルフィードが入団していた。セーラに振られたことによって何かが吹っ切れたのか、20歳になる前に頭角をあらわしたサイセミアはすでにアイシクルランスの分隊長を務めることができるほどにレベルが上がっている。父親はそうでもなかったが、さすがにジギルの従弟という評判だった。

「ロラン、いや失礼。任務中だったな。ロラン様、ここは私にお任せを。」

「うむ、行って参りますぞ。」

敬礼して指揮を引き継ぐサイセミア。ジギルに似ている金髪が意外と女性騎士団から人気が高い。当初はセーラの婚約者であったことを嫌がっていたロランであったが、最近になってサイセミアの事を見直し始めている。とは言え、娘をハルキ=レイクサイドに嫁がせた事に後悔なんて爪の先ほどもしていない。


「ロラン=ファブニール、参りました。それで、近況が届いたとか。」

ルイス=スカイウォーカー領主の顔が青い。

「ロラン殿、実にまずい事になっているらしい。大量の魔物の発生にエジンバラ騎士団は一旦後退を余儀なくされ、昨日偵察に出たハルキ殿がまだ戻って来ていないそうだ。」

「ハルキ殿が?何かの間違いでしょう?」

「現在はフィリップ殿がレイクサイド召喚騎士団をまとめてエジンバラの町に押し寄せてくる魔物を殲滅しているらしいが、数が多いとのこと。強行軍で援軍に向かわねばならん。」

「何が、起こっているのだ・・・?」



「なんだあれ!?」

ウインドドラゴンで帰還中の一向の視界に映る一つの影。全体的に赤く目立っているがその形は鳥が最も近い。そしてその物体も空を飛んでいる。

「・・・まさか、朱雀!?」

天災級と言われている魔物、そのうちの一画である「朱雀」。怪鳥ロックよりもさらにでかい巨体が空を覆い、その魔力を好む性質はどんな魔物ですら八つ裂きにするといわれている。光の穴から漏れ出る魔力に惹かれてきているのは間違いなかった。

「テト!逃げろ!」

ハルキ=レイクサイドがウインドドラゴンを召喚して乗り込む。対空戦をするつもりなのか、素早く携帯用の鞍もつける。

「ハルキ様!」

「魔力のないお前らは足手まといだ!」

先ほどまで死にたいと言っていた人物ではない、かなり焦っているのが分かる。すでに1本青い汁を飲んで容器は空中に投げ捨てた後だ。

「くっ、行くよ!みんな!捕まって!」

朱雀もこちらに気付いている。

「エジンバラ方面へは逃げるな!最悪こいつが追いかけてくるぞ!もし、俺が帰らなければこいつの討伐にはテツヤを頼れ!騎士団と領地はお前らに任せたぞ!フィリップに伝えろ!自信を持てと!」

「そんな!ハルキ様ぁ!!」

朱雀へと突っ込むハルキのウインドドラゴン。その巨体が小さく見えるほどに朱雀は大きい。魔力の塊である召喚獣に反応して朱雀もウインドドラゴンを狩るつもりだ。

「テト隊長!!急いで離脱を!エルライト領へ向かって!それからヒノモト国へ連絡を取りましょう!」

「ああ、分かったレイラ!・・・ハルキ様・・・。」

「・・・なんてこと・・・。」

テトたちが最後に見たのは壮絶な空中戦を行うウインドドラゴンとその2倍はある朱雀であった。


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