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2-2 己の未熟さ

「ハルキ様がいない!?どういうことだ!」

 エジンバラの町に到着した一行を待ち構えていたのは、魔物の襲撃で疲れ果てたエジンバラ騎士団であった。先に到着していたはずのハルキ=レイクサイドおよび第4部隊テト班3名は数時間前に魔物たちの動向をさぐるために偵察に出て以来帰ってきていない。

「30分で戻ると言われたのですが・・・。」

エジンバラ騎士団の団員を責めてもどうしようもなかった。領主がいなくなった今、全権は筆頭召喚士フィリップ=オーケストラが担う。あまりにも予想外の事態であったが、何故か領主不在の状況を訓練でもしていたかのようにレイクサイド召喚騎士団は動き出す。まるで、年に数回は領主がいなくなっているのではと思わせる動きだったと、後日エジンバラ騎士団団長ニコラシカ=マルタンは語ったという。



 私はレイクサイド召喚騎士団筆頭召喚士フィリップ=オーケストラだ。現在、かなりの想定外の事態に陥っている。ハルキ様がこんな非常事態に行方不明になるなどと、前例がない。

「騎士団は何日遅れで到着する?」

レイクサイド騎士団団長シルキットの率いる部隊は数日遅れでここエジンバラの町を目指し行軍中のはずだ。その後ろにはスカイウォーカー騎士団とシルフィード騎士団がついてきているはずである。援軍の量と質は問題ないだろう。ただ、ここの状況があまりにも想定外だった。


 敵は魔物たち。それも同種の魔物の群れではなくて、ありとあらゆる魔物が人類を敵とみなし、集団で襲ってくるというのだ。中にはSランクやAランクの魔物も多数いて、人類が1人で太刀打ちできるような状況ではなかった。すでにここエジンバラの冒険者ギルドは非常事態を宣言しており、冒険者のパーティーがむやみに討伐に行かないように手配されている反面、騎士団に協力すればそれなりの報酬がもらえることとなっており、冒険者でのみ構成された義勇軍が結成されている。


「とりあえず、所詮は魔物とは思わない方がいいのだろう。エジンバラ騎士団が弱いわけではないのは周知の事実だ。」

 これはもはや戦争なのだろう。かなりの損害を出しているエジンバラ騎士団を見て、不安がよぎる。だが、筆頭召喚士として皆の前で不安な顔など見せるわけにはいかない。

「ハルキ様がご無事かどうかを考えるよりも、ハルキ様のお考えを予想するのは無理だという考えで行動したいと思う。あの方がみすみすやられるとは思えん。」

 実はかなり不安である。ハルキ様がおられなくなったら、レイクサイドの将来はどうなるのであろうか。私がしっかりしなければ。だが、大丈夫だ。こういう時のためにもハルキ様はご自分がいなくても運営できるようにレイクサイド召喚騎士団に日々訓練を施されてきたのだから。

「いまさらハルキ様不在にとまどう我々ではない。と言うよりもむしろよくある事だ。」

 だが、こんな非常時にはハルキ様は率先してわれわれを導いてくださっていた。どこかでハルキ様に頼りきりだった自分がいる。これはハルキ様から課せられた試練だ。フィリップ=オーケストラよ、この試験を見事に乗り切ってみせるのだ。ハルキ様が帰られたときに、笑顔で迎え入れられるように。


「フィリップ様、肩の力を抜きましょう。やる事は決まっているはずです。」

「ああ、ヒルダ。とりあえずは情報収集だ。闇雲に出陣するわけには行かない。第5部隊から偵察隊を派遣してくれ。今度の相手は魔物だ。いつも以上に慎重に行う事。」

「了解ッス!すぐに派遣するッスよ!」

「第1部隊は町の防衛だ。魔物が襲撃してくることを想定するのと、エジンバラ騎士団の生き残りが帰ってくるかもしれん。第3部隊はエジンバラ騎士団の治療にあたってくれ。第4部隊と残りの第5部隊はいつでも出撃できるように待機。後続の騎士団との連絡も絶やすなよ。」

 しかし、すぐにエジンバラの町に魔物の集団が迫っているという連絡を受けた。

「飛べる魔物がいるかどうかの確認をしろ。いればまず最初にそいつをワイバーンの部隊で仕留めろ。第1部隊はゴーレムで防衛だ。急げ!」

エジンバラの町の門の上に立つと遠くに魔物の集団が見えた。数にして数十匹はいるだろう。それぞれ、かなりの巨体を誇るSランクやAランクの魔物だ。数で攻めてこないという事を考えるとかなりの違和感を感じる。もしかしてこいつら魔物を使役している存在がいるかもしれない。統率が取れ過ぎていた。

「アイアンゴーレム!」

第1部隊でアイアンゴーレムを5体召喚する。これでこの町を攻撃する事ができる戦力はほとんど存在しない。たとえそれがSランクの魔物数十匹でもだ。

「ワイバーン部隊より連絡!飛行できる魔物はいないようです!」

「よし、ならば話は簡単だ。我らだけで追い返すぞ!」


 15人編成の第1部隊がそれぞれアイアンゴーレムの他にアイアンドロイドや黒騎士の召喚を始める。総勢50体の召喚獣が隊列を組み、魔物たちを迎え撃った。

 対する魔物はグレードデビルブルの群れが多めであったが、他にもBランクのキラーエイプやロックリザード、ワータイガーなどというSSランクの存在も確認できる。総勢80匹といったところだろう。

「第1部隊と接触するまでは待機だ、攻撃は指示を待て!」

先頭で突っ込んでくるのはグレートデビルブル10匹程度の群れだ。この突進でエジンバラ騎士団はかなりの被害を出したのかもしれない。

「レイクサイドをなめるなよ。」

グレートデビルブルたちの突進が1列にならんだ召喚獣たちに迫る。5体のアイアンゴーレムを中心に小隊を組んだ召喚獣たちがそれを迎え撃った。


 全く勢いを減らす事なく突っ込んだグレートデビルブルの大半はアイアンゴーレムによって吹き飛ばされる。だが、アイアンゴーレムの脇をすり抜けたグレートデビルブル達がアイアンドロイドをなぎ倒していく。一瞬にして乱戦に陥った戦端に後続の魔物たちが襲い掛かった。綺麗に並んでいた召喚獣たちは魔物と入り混じり合い、壮絶な殺し合いが始まっている。

「所詮は魔物だったか。それとも率いている者が未熟なのか。他の部隊は安全圏から破壊魔法などで攻撃しろ!魔力は温存しておけ!次があるやもしれん。」


 本来はフレンドリーファイアを回避するために用いられることのない策がある。乱戦で動けない魔物たちを召喚獣ごとゴーレム空爆で滅してしまえばよい。ただ、フィリップとしてはここの戦いの後に何が起こるか分からなかったために魔力を温存しておきたいという考えがあった。そのために魔物の戦力を見極める必要があったが、この第1部隊の編成した召喚獣たちと乱戦に陥った魔物の群れは徐々に数を減らしている。その原因がアイアンゴーレムを討ち取ることができる威力を持った魔物がいない事である。いくらアイアンドロイドや黒騎士を強制送還させても歯の通らないアイアンゴーレムがすぐ近くでその鉄腕を振るっているのだ。遠くからの支援破壊魔法も馬鹿にならず、乱戦の中では動きを止めることが命取りにつながる。ただ、魔物がそこまで考えているかどうかは不明だ。

「これで、少なくとも人員的な損害は出ないだろう。」

 完全に魔物を殲滅するまでには2時間ほどかかった。ワータイガーを仕留めるには追加の召喚が必要になったからだ。最終的に逃げようとしたワータイガーは第4部隊のペニーによってとどめを刺された。

 

 召喚獣を召喚する事によって出た損害は魔力の損失だけだった。こう聞けば非常に効率の良いものに思えるかもしれないが、実は魔力の損失率が半端なく悪い。本日は第1部隊は使い物にならないだろう。普段、かなりの訓練で他の魔法使いの何倍も総魔力がありレベルの高い召喚士たちはこの数時間の戦いで戦えなくなってしまったのだ。MP回復ポーションは実は高価なものなのであり、ハルキのような使い方ができる者は少ない。


「次が来たら第4、第5部隊が迎撃の主体となる。第3部隊も城壁に立ってもらわねばならんな。」

戦闘能力の少ない第2部隊は今回はレイクサイド領の防衛だ。

「今回のような襲撃があと何回くりかえされるだろうか?」

「1日に3回を想定しておけば、大丈夫でしょう。それ以上ならば人類は滅びますから。それよりも問題は規模です。今回は余裕をもって対処できる数でした。ですが、この10倍を超えると我々だけでは持ちませんよ。エジンバラ騎士団にも手伝っていただくのが筋ですし、やり方を考えた方が良いかもしれません。」

「ヒルダの言う通りだな。こんな効率の悪い戦い方をしていては、ハルキ様に怒鳴られてしまう。」

本日にあと3回では身が持たん。それに南方の状況を掴み、周囲の村々の避難を行おうとしているエジンバラ騎士団のサポートもしなければならない。

「ウインドドラゴンがいればな・・・。」


 私にはまだウインドドラゴンの契約ができなかった。

 召喚レベルは十分だと思うが、何が足りないのかは分からなかった。先日、第4部隊のリオンが契約に成功し、テトに続いて3人目のウインドドラゴンの契約主となった。ハルキ様に個人指導をしてもらったというリオンに嫉妬の感情を持ちつつ、自分の未熟さを呪い、またしてもMP回復ポーションをヤケ飲みしてしまったが、魔力の総量は上がっても使い方がうまくなったわけではなかった。召喚獣の使い方はテトが旨いし、ハルキ様はすでに芸術級だ。私は彼らをまねしようと思ってもできなかった。力不足を自覚しつつ、皆を率いる重責に耐えることしかできない。これではいけないと思う。そんな自信のなさがウインドドラゴンと契約できない理由なのかもしれない。

 今回の魔物討伐において、私は私の限界を超える。そして筆頭召喚士として自信が持てる自分を見つけたい。誰ひとり失うことなく、ハルキ様をお迎えするのだ。



 その頃、レイクサイド領主館、召喚騎士団資料室。事務員の会話。

「あれ?またハルキ様が契約条件の素材間違えて書いてしまってる。ここのウインドドラゴンの契約の素材が違ってるんじゃないのか?」

「本当ですね、これじゃいくらフィリップ様が契約しようとしても無理に決まってますね。帰ったら教えて差し上げましょう。」

 

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