1-3 リオンの師匠
私の名前はリオン。栄えあるレイクサイド召喚騎士団第4部隊であり、テト隊長班に所属するエリートである。正確にはエリートだった・・・かな。
数日前に我が班に1人の新人がやってきた。そいつの名前はジェイガン。いっつもパイロットゴーグルをつけてて、茶髪に無精ひげの男だった。あまり好みではないタイプね。
テト隊長はその新人をこの班に入れることとしたらしい。新人教育だって。でも、私みたいなエリートならまだしも、こんなさえない無精ひげを入れて仕事が務まるのかどうか不安だった。テト隊長はそんな事お構いなしにこのジェイガンを採用した。
任務はエジンバラ領でのSSランクの討伐だった。私のレベルは33。SSランクなんてまだ無理に決まっている。もうちょっと教育というものを考えてほしい。しかも今回は新人のジェイガンがついてきている。テト隊長のような天才ならまだしも、ワイバーンの召喚ですら普通の召喚ができずに色がなんか変だ。こんな奴がいたら足を引っ張るに違いないよ。かなり不安になってきた。それでもテト隊長ならなんとかしてくれるのかな?
ジェイガンは下っ端らしく、パシリにも嫌な顔一つせずに応じた。意外にもやることが早い。むしろ、その様子を見ていたテト隊長の機嫌が良くないようだけど、私たちが新人の時はめちゃくちゃ冷たかったのに、なんでこいつには優しいの!?なんか釈然としない物を感じるよ?
もともと、私はペニー副隊長に召喚の素質を見出されて第4部隊に所属となった。同期では私が一番レベルが高いし魔力も多いはずだ、いや、ユーナの方が多いかもしれないけど。さすがにエジンバラ領までワイバーンで来るのはしんどかったけど、それでもかなりの距離を飛んでこれたし、3年目にしては優秀だと思う。ジェイガンが最後までワイバーンに乗っていたのがむかつくけど、あいつはちゃんとした召喚ができてないしね。
翌日の討伐任務の前にギルドカードを作ってもらった。Bランクだって。私ならもっと上のAランクでも行けるのに。まあ、実績がないから仕方ない。これから積み上げていくんだから!
大峡谷レクイナラバはすごく綺麗な所だった。雄大な大自然とはまさにこの事を言うんだろう。まさかここであんな事件が起こるなんて思いもしなかった。
ワイバーンで右側の崖をずっと飛んでいくと、いきなり丸太が飛んできた。崖のところにゴールデンキラーエイプがいて、こっちを威嚇してる。なにあれ?めっちゃでかいよ。それにこんな大きな丸太を投げるなんて信じられない。でも、もっと信じられない事が起こった。それは次の瞬間、その猿が自分の糞を投げてきた。信じられない!なんて汚いことするの!?
そして、その糞はジェイガンの顔面に炸裂した。相当臭い。とっさに「臭っ!!近寄らないでね!!」って言っちゃったけど、仕方ないと思う。
でも、もっと驚いたことはその後に起こった。プルプルと怒ってるジェイガン。まずはウィンディーネで顔を洗ってる。ちょっと、かなり可哀想だけど笑ってしまう光景だった。だけど、あの猿はさらに糞を投げてきて、ジェイガンがそれにキレた。
「・・・・・・・・・死ねやぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
召喚される恐怖の代名詞レッドドラゴン。テト隊長を除けばハルキ=レイクサイド領主とフィリップ=オーケストラ筆頭召喚士しか契約できていないという最強の召喚獣の一つ。ゴールデンキラーエイプに向けて放たれたファイアブレスはあの猿を森ごと焼き払った。だって、3体も召喚するんだもの。
つまりはこういう事だ。ジェイガンは、・・・実はハルキ=レイクサイド領主だった。そう分かってしまうと、顔についたゴールデンキラーエイプの糞をタオルで拭っている姿も恰好よく見えてしまう。私って男を見る目がなかったのかな?
「レイラ、お前は魔力が足りなさすぎる。隊の副長としての規律の重視もできていない。本日よりフラット領へ急行し、第5部隊の下に配属変更だ。そこで工事現場でクレイゴーレムの召喚契約が結べるまではノーム召喚を魔力が尽きるまで行え。クレイゴーレムの召喚が可能になれば引き続き土木工事に加わるように。ステータス上MPが2倍になるまで帰還を禁じる。あと、この事は他言無用だ。しゃべったらどうなるか分かってるだろうな。」
「ひゃ、はい!」
「リオン、お前はまるでだめだ。召喚士の心構えから叩き直してやる。これから個人指導に入る。」
ハルキ=レイクサイド様の個人指導!?なんて幸運な!
と、思ったけどこの数日間の事を思い出してしまった。私、領主をパシリに使ったのね。私、終わった。
それから、地獄の訓練の日々が始まった。
まずは討伐任務。それもSランクを中心に。討伐目的地までは私の召喚した3体のワイバーンにそれぞれが乗っていく。すぐに魔力の尽きる私の腰には大量の青い汁が・・・。討伐中もワイバーンは還す事を許されない。基本的には24時間連続召喚できるようにとの事。ワイバーン3体を!?
そして討伐の戦闘にもふつうに加わらされ・・・。というか他の2人が攻撃するとあっという間に終わるから、私の限界ギリギリまで2人は高見の見物ですよ!
宿に帰ると疲労困憊ですぐに就寝・・・中にも、ステータスで計算されたギリギリ量のノームやら他の召喚獣やらを召喚しっぱなし。魔力が枯渇している状態がふつうって、どういう事なの!?
だいたい、朝起きると何がしかの素材が集められてた。私が死んでる間にテト隊長が探してくれているらしい。なぜか青い汁の調合までやってくれている。夜中にエルライト領まで往復してたって本当?私の眷属はどんどん増えていく。
今までの訓練が訓練ではなかった事に気付き始めたのはこの頃だった。魔力の総量もそうだけど、召喚レベルが尋常じゃないほどの勢いで上がっていく。でも、もっと驚いたのはハルキ=レイクサイド様の召喚のタイミングが絶妙という事にようやく気付いた時だった。ハルキ様の召喚はたまに絶大な魔力量で力押しする時もあるが、基本的には私でも可能な範囲の召喚だった。ただ、その使い方が違いすぎて、その成果は天と地ほども差がある。テト隊長が食い入るように見つめている召喚は特にノームとかアイアンドロイドの召喚の時だった。あれは、奥が深い。
「テト、リオン。そろそろ俺はハルキに戻るぞ。」
数週間後にハルキ様はそう言った。あとでテト隊長が教えてくれたけど、セーラ様が恋しくなったんだって。それを聞いた時に、ものすごい嫉妬を感じたけど、私じゃどうしようもないよね。第2夫人ってどうなのかな・・・。
ハルキ様はそう言った日にはウインドドラゴンでレイクサイド領へと帰ってしまった。
「リオン、僕らも帰ろうか。」
「はい、テト隊長。」
「じゃ、後ろに乗せてもらうよ。」
「了解です。」
レイクサイド領へ向けて最大戦速で飛行する。着くのはあっという間だ。
私はこの数週間で3人目のウインドドラゴンと契約した召喚士にまで成長していた。




