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1-1 潜伏活動

 後にアイオライ=ヴァレンタインの治世と呼ばれるヴァレンタイン王国の繁栄の時代。それまで魔人族の侵攻の度に多くの損害を出してきた人類にとって、エレメント魔人国を撃退し完全とも言える平和を勝ち取った初めての時代でもあった。アイオライ=ヴァレンタインはこの功績によってのちの歴史家からは最高の名君との評価が高く、それを成し遂げたジギル=シルフィードやルイス=スカイウォーカー、タイウィーン=エジンバラなどの名領主が名を連ねているが、その中でも異彩を放っているのが「大召喚士」ハルキ=レイクサイドである。


「で、結局はもう一度道路建設に駆り出されるというわけで。」

「ハルキ様、仕方ないッス。これも王国のためッス。」

「あー、新年あけたってのに、なんでフラット領にいなくちゃならんのか・・・。」

レイクサイド召喚騎士団は各領地をつなぐ道路建設に舞い戻っていた。全国が魔王アルキメデス=オクタビアヌスを打ち倒し、エレメント魔人国からの脅威を取り去ったヴァレンタイン軍に喝采を挙げている中、今日もクレイゴーレムが石を運ぶ。

「人使いが荒すぎる。」

「そッスね。さすがにそう思うッス。」

「では、後は任せた!イツモノヨウニ!」

「ああっ!自分だけ卑怯ッス!」

レイクサイド召喚騎士団は平常運転である。



 というわけで、俺はホープ=ブックヤード。ただのAランク冒険者だ。イツモノヨウニ逃走中である。だが、至る所にウォルター配下の第2部隊がひしめくこのヴァレンタイン大陸。どこに逃げても見つかってしまうのではないか?ふふふ、そうでもないぞ。俺の潜伏技術をなめてもらっては困る。うふふふ。

「よくもまあ、そんなに悪知恵が働くものだよ。」

今回は偽名であるホープ=ブックヤードのさらに偽名を使って・・・。

「それも単なる偽名だよ。」

俺の名前はジェイガンだ。

「よく分かんないけど、ばれてもしらないからね。」

「はい!テト隊長!」

「・・・はぁ。」


 レイクサイド召喚騎士団第4部隊。領主ハルキ=レイクサイドが失踪する直前に彼らに下した命令は、「各地の冒険者ギルドを回り、魔物の素材の確保をする事」であった。4人程度で1組を形成し、それぞれの領地をめぐり魔物の討伐を行って素材を集める。ハルキなどからしたら面白い任務なのであろうが、仕事としてやれと言われるとかなり過酷な部類に入る。そのため第4部隊は対魔物に関する特化部隊として一目置かれている。

 今回の班編成に関して部隊長テトは実力がほぼ同じになるように手配をするとともに新人の育成にも気を配った。というかそれは強制だった。

「レイラ、リオン、僕らの班には本日から新人が入る。教育してやってくれ。」

レイラはあのレイラである。リオンは今年で21歳になる3年目でやや実力は劣るものの、将来を有望視されている召喚士であった。

「新人?テトちゃんの班に入れても教育にならないんじゃない?」

「そうですよ。テト隊長がほとんどやっちゃうじゃないですか。」

「・・・ああ、そのことだけど。今回は特別にSS級を狙いに行くことになった。それに天災級の魔物がいる情報があれば積極的に狩りに行く。」

「天災級!!??無理でしょ!?」

「何を考えてるんですか!?そんなのハルキ様でもいない限り勝てっこないですって!」

「いや、大丈夫だ。なんとかする。おい、ジェイガン、こっち来て。」

不服そうな2人を無視してテトがジェイガンを呼び寄せる。パイロットゴーグルにレイクサイド騎士団の装備、短く切って茶色に染められた髪に無精髭。普段使わない剣を佩いていて、ぱっと見たところではハルキとは分からない。

「ジェイガンです!よろしくお願いします!」

「ふーん。テトちゃんが言うから入れてあげるけど、足引っ張んないでよ?」

「私はリオン。呼ぶときは先輩をつけて呼んでね。」

「・・・分かりました!レイラ先輩、リオン先輩!」

「ふふん。」

「・・・・・・いや、まあ、うん。後悔しないでね。」



「それじゃ行くよ!とりあえずはエジンバラ領の冒険者ギルドにそこそこのSSランクが出たらしいから向かうとしようか。」

「テトちゃん、ウインドドラゴン召喚したら?」

「だめだ、これは修行もかねているから皆ワイバーン召喚して。」

「え!エジンバラ領までワイバーンで行くんですか?魔力足りるかなぁ。」

「つべこべ言わない!ほら行くよ!」

4体のワイバーンが空を飛ぶ。なぜか、レイラが怪訝な顔をしている。

「ジェイガン、なんかあんたのワイバーン。肌艶がよくない?」

もちろんジェイガンのワイバーンには通っている魔力が違う。完全にテトを上回っている。

「そ、そうですかね?あ、自分先輩たちみたいに上手く召喚できなくて・・・。」

「まあね、ワイバーン召喚は経験が必要だから。」

「うー、きつい。魔力がたりなくなりそう。ジェイガン、大丈夫なの?」

リオンはエジンバラ領まで魔力が足りそうにない。

「自分大丈夫です。なぜか魔力量だけは多めらしいんで。でも使い方が先輩たちに比べると全然。」

「・・・・・・全然、次元が違うんだよね。」

テトがぼそっと言った言葉は風で誰にも聞かれていない。


 結局リオンは途中で魔力が尽きそうになってレイラのワイバーンの後ろに乗ることになった。

「うう、すいません、レイラ先輩。」

「まあ、仕方ないわね。それにしてもジェイガンはここまで大丈夫なんて結構魔力があるわ。」

「魔力だけですが。」

「・・・・・・うそつけ。」

「テトちゃん、何か言った?」

「何も言ってないよ。それに任務中にちゃん付けするなとあれほど言ったでしょ?」

「ごめんごめん。」

規律が緩んでいるとハルキは思ってしまう。

「今回の任務は特にびしっと厳しく行くからね。次にちゃん付けしたらレイラ1人で討伐に行ってもらうよ。」

ハルキの前という事もありテトちゃんは必死である。

「わ、分かりました。テトty・・・テト隊長。」



 エジンバラ領エジンバラの町。ハルキにとって初めての町である。

「ほらジェイガン。宿屋を予約してきて。それに人数分の食事も確保するのよ。」

「はい!リオン先輩!」

「あ、ちょ・・・まあ、うん。そうだね。分からなかったら言いなよ。」

「なんでテトちゃ・・・隊長はジェイガンには優しいのよ?」

「そんな事ないよ!」

「では行ってまいります、テト隊長!」



 それなりのランクの宿を取り、昼食のレストランのおすすめを聞く。2、3か所良さそうな所を聞いてみて、自分の好みも合わせて第一希望を決めておく。

「そういや、ジェイガンでギルドカード作ってないな。」

あとで冒険者ギルドに顔を出すだろう。その時にFランク申請でもするか。さくさくっと仕事を終わらせて宿に戻ると皆はまだ荷物の整理中であった。

「あんた、ジェイガン、早いわね。」

「ちゃんとご飯のところ聞いてきた?」

「あ、ここなんかどうですかね?少し良いところらしいですけど、揚げ物の定食がおすすめらしいです。安いのが良ければこっちが大衆食堂みたいで、宿の人に味は保証してもらいました。夜はここの隣の酒場でもご飯食べれるらしいです。」

研修医時代の下っ端働きなめんなよ、このくらいできるさ。

「・・・・・・ちゃんとできたんだ。」

こら、テト!お前は上司をなんだと思ってる!

「じゃあ、まだ先輩たち荷物の整理ありそうなんで、ちょっと冒険者ギルドでギルドカード申請してきていいですか?」

「あ、待って、ジェイガン。それは明日皆で行って、リオンもついでにBランクもらっちゃおう。」

おおう、リオンも持ってなかったんかい。

「分かりました。」

ふっ、暇だな。というか、テトは1人じゃ何もできないんか?レイラがほとんど手伝ってるじゃないか。これは後で再教育が必要とみた。

「ふ、普段は1人でやれるもんね!」

うそつけ。



「ウォルター隊長へ連絡を。テト隊長の班の到着を確認しました。今のところエジンバラ領でハルキ様は確認されていません。」

「了解した。しかし、今度はどんな悪知恵を働かせてるんだ?」


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