序章
今の俺の名前はハルキ=レイクサイド。現在16歳だ。
レイクサイド領と呼ばれる辺境の一領主の息子であるわけだが、前世と呼んでよい物なのかは分からないが、何故か前世の記憶がある。前世は川岸春樹という日本のある大学病院勤務の外科医だった。最後に残っている記憶は他学部の研究者にモニターになってほしいと言われ、CTのようなスキャン装置に入ったことだが、その後はよく覚えていない。気が付くと苗字がレイクサイドという16歳に若返っていた。ぼんやりとそれまでの16年間の記憶があるのが非常に違和感を感じるところであるが、現状どうしようもないのだろう。
この世界のことを少し説明しよう。だいたい文明は中世から発達しておらず、不便な世界である。歴史は意外にも長く、最古の記録は1万年以上昔にさかのぼる。一般的に知らされている記録でもっとも重要なものは約1万年前に世界に魔力が溢れた事だ。それは突然に起こった。溢れた魔力は人間に超常的な力をもたらし、それは魔法と呼ばれた。不可思議な力で様々な事ができることは非情に喜ばれ、それまで慎ましく生きてきた人間は魔法の力で繁栄すると思われた。
しかし、魔力は人間に恩恵ばかりをもたらしたわけではなかった。各地に突然湧きあがる魔力スポットから魔力をもとにした生き物が創られたのだ。人間たちよりも力が強く、中には魔法を操る物や人間にも劣らない頭脳を持つものまでおり、それらは魔物とよばれた。魔物の出現で人類はそれまで生活していた土地を追い出され、魔力の少ない土地で生活をすることを余儀なくされた。人間たちはいままで同族で争いを行っていたが、形の上では一致団結し今の王家のもとで一つの国家を形成した。現在は一つの大陸のなかでその国家が繁栄しているが、それ以外の魔力の豊富な大陸では魔物によって人類は駆逐されてしまっている。
それから約3000年たった後、さらに一つの事件が起こる。突然、人類の中に現在は獣人だとか亜人だとか言われている人種が現れだした。犬や猫に近い獣の外見に似ている獣人やエルフ、ドワーフとよばれている亜人たちである。当初、人類はそれらを人類と認めなかったため、なんとか生き残った獣人亜人たちは比較的差別の少なかった大陸の西部の森林地帯で暮らすようになった。いままでの人類は自分たちの事を純人と呼び、現在でも獣人や亜人に対する差別はなくなっていない。しかし彼らはそれぞれ純人よりも得意とする分野も多く、身体能力ならば獣人が、魔法であればエルフ、鍛冶や生産業であればドワーフがとそれぞれの文明を確立させていった。
さらに4000年がたち、今から約3000年前に最後の事件が起こった。それは魔人とよばれる人類の誕生である。彼らはいままでの人類から生まれたわけでなく、魔物の中から誕生したと言われている。ほとんどが意志をもたずに獣のような本能のみで生きていた魔物たちの中で、統率された文明を構築した彼らはあっという間に魔物の大陸を支配した。魔力が強く魔物を支配することのできる魔人族は人類にとって脅威でしかなく、一部奪還していた魔大陸はあっという間に魔人族のものとなり、彼らの王は魔王と呼ばれた。
この3000年で、人類は大きく人口と生息地を減らしている。人類のいる大陸は魔力がやや少なめであるために魔人族にとって支配する価値のない土地と呼ばれている。そのため現在は大規模な侵攻はなく、この1万年を過ごすことができていると考えられていた。
ついに始めてしまいました。作者もメンタル弱いんでお気を付けください。