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アラガヤクロイワ地区

 二人は空き地に車を止めて、放置されたままになっているRV車に駆け寄った。

 車内は誰もいないが、後部座席にブランド品のボストンバッグとノートパソコンやバッテリー等の通信機材が置き去りにされている。車の前面ガラスに貼られた車検ステッカーを見ると、有効期間が3年前の日付になっている。


「この車、タクヤンのもので間違いなさそうですね」

「公開捜査が始まった時、私はこの場所の情報を警察に提供したわ」

「でも、警察がここを捜索していれば、この車の存在に気付くはずです」

「・・・ということは、意図的に警察はここを捜査しなかった?」


「禁足地」という言葉が、二人の脳裏をよぎる。

 悟は、タクヤンがここに来た証拠としてRV車の写真をカメラに収めた。


 悟とかおりんは、廃村探索のための準備を整えた。

 トレッキングシューズに履き替え、帽子、グローブを装着し、リュックサックには水筒と非常食。

 さらに、かおりんは、護身用に折り畳みの万能ナイフも持って来ていた。

 

「一応、これも渡しておくわ」


 かおりんは、昼食に立ち寄った店の名刺を悟に手渡した。

 店名や店の住所・電話番号などが書かれている。


「店に置いてあったからもらってきたの。緊急時の連絡先に使えるかも」

「ありがとうございます。あのおじさん猟師だし、警察よりここの土地勘ありそうですもんね」


 一見すると、この30m四方の空き地が行き止まりになっていて、ここから先に進む道は見当たらない。

 長い間、人の手が入っていないせいで、村への道が草木に覆われて隠れてしまっているのだろう。

 タクヤンの動画では雑木林を抜けて村へと到達していたが、動画の撮影された季節は冬〜春の時期だ。今は真夏のため、周囲の景色が全く違って見える。


「どこから入ったらいいのかしら。あっ」


 一瞬、突風が起き、細かい砂利が巻き上がり、二人は目を押さえてうずくまる。


「大丈夫ですか?いきなりきましたね」

「目に砂埃が・・・。帽子も風で飛ばされちゃった」

「あっ、あんなところまで飛ばされてますよ」


 20m程先の林の手前に、帽子が転がっている。かおりんは、目をこすりながらゆっくり立ち上がり、足早に帽子を取りに向かった。


「あ!悟くん!ちょっと来て!」

「どうしましたか?」

「アレがある!夢に出て来た標識がある!」

「え!?」


 かおりんが指差す空き地と林の境界部分に、黒地に赤抜きで【新谷玄石地区】と書かれた標識が立てられている。標識のある方向には、獣道化した通り道のようなものが見える。

 かおりんは、恐る恐るといった感じで一歩ずつ標識に近づき、目を見開いて焼き付けるように、まじまじと見つめている。まるで、彼女にはそれ以外のものが見えていないようだ。

 そして、彼女は自身に言い聞かせるようにつぶやいた。


「アラガヤクロイワ地区・・・」


 悟は、標識の写真を撮った後、かおりんの様子が心配になって話しかけた。

「これ、『石』って書いて『イワ』と読むんですね。でも、さっきこの辺を見たときに、こんな標識あったかな」

「何か見えにくい配色の標識だから、気付かなかったのかも」

「どうやらここから入れるみたいですね」


 二人は、拾った太い木の枝で、所々で行く手を塞ぐ背丈ほどの高さの茎の植物をなぎ倒し、獣道をかき分けて進んで行く。暑さですぐに汗だくになってしまい、タオルで顔を拭きながらの作業は、なかなかの重労働だ。しかし、意外とコツをつかんでくると、順調なペースで進むことが出来た。


「あ、あの警告看板がありましたよ」

「やっぱり、タクヤンもここを通っていたのね」


【絶 対 に こ れ よ り 奥 に 立 入 ら ぬ こ と】


 タクヤンの動画に映っていた警告看板が二人の前に現れた。

 看板はペンキで手書きされており、長年、風雨にさらされて剥げかかっているが、今でも書いた人間の情念がこめられているようで異様な不気味さを感じる。

 悟は、繰り返し視聴した動画に出てきた看板の実物を目の前にして、少し感慨深い気持ちになった。

 看板の傍らには、石像がひっそりと佇んでいる。


「この石像は、道祖神ね。たぶん位置的に、村の境界を示しているんだと思う」

「ここから先が、村内ということですか。でも、ニュータウンを開発する時に、道祖神なんて建てるのでしょうか?」

「いや、逆よ。元々、ニュータウンを開発する前から、道祖神はあった。何かを外部から守るために祀られていたものだと思うわ」

「ということは、元々あった何か大事なものを破壊して、ニュータウンが開発されたということですか?」

「そういうこと。つまり、この道祖神からしてみれば、私たちは招かれざる訪問者ということだわ」


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