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繰り返す悪夢

 悟の脳内でフラッシュバックしたように、タクヤンの失踪動画の映像と音声が再生された。

 動画の冒頭で、彼は言っていた。


「今回は、視聴者の方からのリクエストで。××県某所の山中に来ております」


「視聴者『異世界少女』さんから頂いた情報によりますと・・・」


 また、あることに気が付いた。

 かおりんのメールアドレスの@の前部分は、「parallelworld」。

「パラレルワールド」=「異世界」と変換は可能だ。


「異世界少女」=「かおりん」が同一人物で、タクヤンに情報を提供した人物で間違いないだろう。


 かおりんは、目を閉じてすっと深呼吸をした。

 黙祷を捧げるかのようにしばらくの間、彼女はその場で立ち尽くしていた。

 悟は彼女の横顔をじっと見つめていた。暑さで少し汗をにじませたその顔は、どこか遠く儚い存在のように感じられた。

 かおりんは、悟の方に振り返り、少し微笑むような困ったような顔をして言った。

「出来れば、悟くんについて来てほしい。でも、危険な目に合うかもしれない」

「・・・覚悟はしてます。行きましょう。」


 二人は、再び車に乗り込み、目的の村へと続く道を進んだ。

 先ほどまで走っていた旧道と比べ、路面が大小の砂利で凸凹している。軽自動車のため、悪路の走行で車内は振動で揺れ、車酔いしそうだ。万が一、タイヤがパンクでもしたら引き返せなくなるだろう。


「かおりんさんは、3年前にこの村の存在をすでに知っていたのですか?廃村探索募集のお知らせでは、最近になって村のことを発見したような書かれ方でしたが・・・」

 かおりんは、運転しながら、片手で自分の眉間をギュッとつねり、一瞬、目を瞑った。

「夢を見るの」

「夢?」

「小学生の時から、同じ夢を繰り返し、見続けている」

「寝ている時の夢ですか」

「そう。1週間に1回だったり、3ヶ月に1回だったり、その夢が出て来る間隔は、バラバラだけど、同じ夢の繰り返しだったり、夢の続きが進んだりして、10年くらい見続けているの」

「不思議な体験ですね。どんな夢なんですか?」


「家で一人で留守番をしているとね、ものすごく背の高い黒い人が、家の周りをぐるぐると回っていて、背が高いから、窓の欄間越しに顔がチラッと見えるのだけど、男か女か分からない顔をしている」

「・・・怖いですね」

「その黒い人は、家の入り方を探しているみたい。それで、最初の2〜3回の夢は、ぐるぐる回っているだけで、途中で夢から覚めるの」

「僕も夢は見ますけど、何回も同じ夢を見た事はないですね。忘れてるだけかもしれませんが」

「それでね。何回目かの夢で、ついに、黒い人が家の玄関の引戸の前に立っているわけ。夢の中の家は、古い家で引戸の扉も薄い曇りガラス1枚だから、ぼんやりと全身のシルエットが映っているの。身長は2m以上あって、真っ黒な法衣を着て、ずっと直立した姿勢で立っているのよ」


 かおりんは前方を注視しながら運転を続けているが、話す声が若干、震えてきている。

 悟も緊張で唾をゴクリと飲み込んだ。


「現実には住んだ事のない古い家にいるのだけど、何回も同じ夢を見るうちに、居間や台所、お風呂やトイレとかも、どこに何があるか分かるようになったわ。自分の部屋には、二段ベッドと机が置いてあって、誰か兄弟がいる設定みたい。実際は、一人っ子なのだけど」

「すごくリアルな夢ですね」

「ここまでで、たぶん10回以上、この夢を見ていたと思うわ。そして、ある日の夢を境に、黒い人が家に侵入してくるようになる。玄関の引戸を開けずにスーッとすり抜けてくるの」


 いつの間にか、二人を乗せた車は、停車していた。

 かおりんはハンドルから手を離し、額に手を当て記憶を思い起こすような仕草をしている。

 外は、虫の鳴き声がうるさく響いているが、車内は時間が止まったように、静かに感じられた。

 悟は、深呼吸をし、かおりんの次の言葉を待った。


「私は、夢の中で何回も殺されてるの」


「夢の中の私は小学生くらいで、黒い人が侵入してきたら、恐怖で身動きが出来なくなって、夢なのに吐き気をもよおすくらいの恐怖感で全く抵抗できなくて、首を絞められて殺される」

「殺されて、どうなるんですか・・・?」

「そこで目が覚めるわ。そして、同じように殺される夢を何回も見続けるうちに、変な話だけど、恐怖心が和らいでくるの。ああ、またこの夢か。また、黒い人が来て私は殺されるんだな、と先が読めるようになってくるわけ」

「それも、すごい話ですね」

「何年にも渡って同じ夢を見続ける内に、夢の中の私は小学生のままだけど、現実の私は高校生くらいに成長していた。そして、ある日の夢から、黒い人と対決するようになったの」

「どうやったんですか」

「台所にあった包丁を使って黒い人と戦った。何回ももがいて、それでも何回も殺された。ただ、抵抗を重ねるたびに黒い人が徐々に弱体化していってるように感じられた」


 悟は、かおりんが包丁で、人間とも化け物とも分からない黒い人と戦っているイメージが出来なかった。

 ただ、夢の話とはいえ壮絶すぎて、10年間もこんな夢を見ていたら、精神がやられてもおかしくない。


「今も黒い人の夢を見るんですか?」

「ううん、最後に見たのは高3の夏、その夢で私は、黒い人からの呪縛を解くことが出来たと思う」

「どんな夢だったんですか」

「最後の夢で、私は黒い人と戦わずに、トイレの窓から家の外に逃げ出した。最初、夢を見始めた頃は、恐怖で体を動かせないほどだったけど、50回くらい同じ夢を見ていたから、最後の方は、現実と同じくらい夢の中でも動けるようになっていた」

「・・・50回もですか」

「黒い人は、家の中で私を探していたから、気付かれずに逃げることが出来たの。それまで、私は家の外には出た事がなかったから。家の外は、他にも民家があって山の中の小さな村だったけど、人の姿は無かった」


「そして、村の外れまで逃げてきたところで、標識があって村の地名が分かったの」


【 新 谷 玄 石 地 区 】



「そこで目が覚めて、それ以来、4年ほど悪夢は見ていないわ」

「インパクトのある夢ですね。かおりんさんがそんな経験をしていたなんて」


 悟は、興味深くかおりんの話を聞いていたが、この夢の話と、これから向かう廃村が何かリンクしているような気がして、非常に胸が締め付けられるような嫌な予感がしていた。







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