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廃村探索・参加者募集

 今、中高生の間では、「廃墟探索」がブームになっている。「人気動画投稿者・タクヤン失踪事件」以降、マスコミ報道の過熱化も相まって世間の注目度も高まっており、「廃墟による地域活性化」や「危険な廃墟の取り壊し」などの議論も活発に飛び交うほどだ。

 高校三年生の芹沢悟の趣味は、インターネットを通じて廃墟マニアが集うコミュニティで交流することである。彼にとって、独特の雰囲気を持つ廃墟は、受験勉強の不安やいらだちを忘れさせ、好奇心を満たしてくれるユートピアであった。

 このコミュニティは全体で10人足らずの小さなもので、メンバー内で自由に雑談をするのが日課となっていた。高校生の悟は最年少で、他のメンバーは中年サラリーマンや定年退職したおじさんなどずっと年上ばかりである。コミュニティの主催者「かおりん」は女子大生で、メンバー内では、悟と一番年が近かった。


【廃村探索・参加者募集!】

 神隠し伝承が語り継がれる××県の某地域にある廃村探索。

 大学での研究の傍ら、地図上に存在しない廃村を発見しました。

(あの「タクヤン失踪事件」の解明につながる可能性もあり?)

 山中の徒歩移動あるため、体力に自信のある方向きです。

 尚、3〜4名程の少人数で決行するため、参加者は先着順で決めさせて頂きます。

 詳しくは、下記のメールアドレスまで。(かおりん)


 parallelworld@XXXXXXXX

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 初夏のある日、かおりんから、コミュニティのメンバーあてに廃村探索の案内が通知された。

 悟は、ちょうど夏休み中ということもあり、受験勉強の息抜きと高校生活の夏の最後の思い出作りを兼ねて、この企画への参加を二つ返事で決めた。もし、公開捜査が続いているタクヤンの消息がつかめれば、クラスで注目を浴びるかもしれないし、女子大生のかおりんと実際に会ってみたいという浮ついた気持ちも少なからずあった。


 廃村探索当日。

 悟は、早朝から都内の自宅を出発し、バスと電車を数回乗り継ぎ、片田舎のとある駅に到着した。

 電車からプラットホームに降り立つと、強い陽射しに照らされて、悟は立ちくらみした。長距離の移動で、彼は思いの外、体力を消耗してしまっていた。視界の先の老朽化した駅舎が蜃気楼のようにゆらゆらと歪んで見えた。

 駅には売店や自販機がなく、待合室にベンチが1列あるだけで、駅員すらいない。真夏の正午にも関わらず、駅舎内は薄暗くひんやりしている。壁にかかった時計の秒針の音が響くほど静かで、まるで外界と隔絶された空間にいるかのようだ。

 昨晩、悟はかおりんから、参加者が彼とかおりんの二人だけになったと聞かされて、廃村探索への迷いが生じていた。あのタクヤンが失踪したかもしれない場所へ女性と二人だけで行くのは、さすがに不安であった。


 正午過ぎ、悟が待合室のベンチに座っていると、駅舎の前に車の止まる音が聞こえた。彼が駅の出入口から外の様子を窺うと、軽自動車から女性が降りてくるのが見えた。

 淡い色合いの「山ガール」風なアウトドアファッションの女性で、身長はやや高くスレンダーで姿勢が良く、髪をサイドテールに結っている。彼女は悟と目が合うと、ぺこりとおじぎをし、一呼吸おいて声をかけてきた。


「あの〜もしかして・・・悟くん?」

「はい。そうです。かおりんさんですか?」

「実際に会うのは初めましてだね。かおりんです。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、すみません。よろしくお願い致します」


 悟は、ひとまず主催者のかおりんと出会えたことに安堵した。彼女が予想以上に綺麗な女性だったので、少し気恥ずかしくなった。


「悟くんはここまで、電車で来たの?」

「あ、はい、そうです」

「この駅、電車の本数が少なそうだから、帰り時間に気をつけないとね。今日のことは家族に言ってあるの?」

「親には友達と遊びにいくと伝えています」

「そう、じゃあ大丈夫かな。でも今日は謎の廃村を探索するから、もしかしたら、帰れないかもしれないわよ〜」

 かおりんは、悟をからかうように言った。気さくで明るく接してくる彼女を見て、さっきまで不安に感じていた気持ちがどこかに消えてしまった。


「この先にお店があったから、そこで腹ごしらえと作戦会議してから行きましょう」

 彼女の運転する車の助手席に乗って、悟は田畑が広がる旧道の景色を眺めた。時折、対向車とすれ違うが、歩いている人はほとんどいない。まばらに点在している民家は瓦屋根の和風建築のものが多く、茂っている樹々の種類も悟の住んでいる街のものとは、少し違うように思われた。


「今日は参加者が私たち二人だけになっちゃってごめんね」

「皆さん、都合が悪くなったんでしょうか」

「NさんとKさんが来る予定だったけど、急に仕事や用事が入ってしまったみたい。二人とも社会人だし家庭持ちだからね」

 参加予定だったメンバーは、登山やスキューバダイビングなどのアウトドア好きなおじさん達である。万が一、山中の廃村探索で不測の事態が起きた時、彼らがいてくれればかなり頼りになっただろう。女子大生のかおりんと高校生の悟だけで、今日は無事に過ごせるだろうか。


「例の村は、ここからどのくらいかかるんですか」

「村の手前までなら、車で大体1時間くらいかな」

「そこからは車を降りて山中を歩きですね」 

「私も行くのは初めてだけど、安心して。これでも大学で『限界集落』について研究していて、全国の田舎の村をフィールドワークで訪れているし、山の歩き方も知っているのよ」

「僕は予習のつもりで、ネットで廃村探索動画をたくさん見てきました。『タクヤン・Xフィルム』とか『廃墟探検隊』シリーズとか」

「私もよく見てるよ。ちなみに、今日の目的地は、タクヤン失踪動画が撮られた村の可能性が高いわ」

「まじですか。よく調べられましたね。どんなところ何ですか」

「明治時代に当時の役人が国土調査をした際に、どういうわけか一部の地域を禁足地にしていたの。でも、戦後になって禁足地が一般に解放され、ニュータウンの開発計画ができたりしたみたい。でも結局、計画が途中で中断されて、寂れてしまったみたい」

「もともと、禁足地だったんですか」

「そう。どんな理由で禁足地にしていたか、それが分からないのだけど」

 かおりんは何か遠い記憶を探るようにつぶやいた。二人を乗せた車は、山中へ続く旧道を奥へ奥へと走っていった。

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