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動画投稿者失踪事件

 タクヤン(本名:木野本卓也)は、日本各地の廃墟探索動画をインターネット上で公開する人気投稿者である。彼の動画(通称:タクヤン・Xフィルム)は、投稿サイトで常に上位にランクインしており、廃墟探索ブームの火付け役の一人と称されている。

 タクヤンの動画は、ライブ配信でのいわゆる心霊スポットの探索が中心となっており、中途半端を嫌う彼の性格から、「心霊スポット潰し」(本人談)という、やり過ぎた行為(不法侵入や破壊行為など)が一部の視聴者の注目を集めたが、現地住民とのトラブルをしばしば引き起こし、社会的批判を浴びることも多かった。そんな彼の知名度が飛躍的に高まったのが、最後の投稿となった「タクヤン失踪動画」である。


 現在もタクヤン失踪動画は、とあるサイトで視聴可能になっている。髪を金髪に染め一つ結びにしたヘアスタイルの若い男性の軽快な声で、その動画は始まる。


「えー、心霊廃墟バスターズ・タクヤンです。現在は、20××年×月×日午後3時です。今回は、視聴者の方からのリクエストで、××県某所の山中に来ております」


 彼は、鼻筋が通った整った顔立ちだが、耳にピアス、髪も生え際が黒くなった金髪で、自由きままな生活をしている風貌である。機材が詰め込まれたバックパックを背負っており、屋外でのライブ配信も彼一人でこなしているようだ。


「視聴者『異世界少女』さんから頂いた情報によりますと、この先に、地図に載っていない廃村があるようです。かつて、住民が不可解な集団失踪をしたという不気味な噂があるということ、そして、そのことが世間一般には知らされていないので調べてほしいとのことです。それでは、早速、探索に行ってみたいと思います!」


 画面に映る風景は、薄曇りの天候のせいで、全体的にどんよりと重々しい。雨が止んで間もないようだが太陽が出て来る様子は無く、周囲は霧が渦巻いており、視界も良くない。山を切り拓いてできた平地は、行く手を阻むように雑草が伸び放題になっている。

 彼は、子どもが隠れる程の長さの雑草をザザッザザッと音をたててかきわけ、道なき道を分け入っていく。ぬかるんだ地面に足を取られるせいか、時折、映像が激しくぶれる。


「えー、開けたところに出て来ました。あっ、なんだアレ?」


【絶対にこれより奥に立入らぬ事】


「警告看板があります。誰が立てたのか分かりませんが、どうやら、この先に何かあるのは間違いないようですね」

「うわっ!!」


 突然、タクヤンは看板から飛び上がるように後ずさりし、画像が左右に大きく乱れる。看板の足元の草むらに何かが隠れているのが見える。


「いやー、びっくり。草葉の陰にお地蔵さんがいました。首筋と背中に一気に鳥肌が立っちゃいました。ゾワゾワします。トラップ地蔵ですね」


 看板の手前で、映像はズームアップされる。画質はあまり良くないが、遠方に二階建ての民家が10軒ほどあるのが分かる。屋根は赤茶色に錆び付き、外壁は黒い染みに覆われ、長い年月放置された廃屋のようだ。玄関扉には木の板が打ち付けられており、外から侵入できないようになっているが、窓ガラスが数カ所割れており、そこから内部の様子が覗き込めそうである。


「ここは、静寂に包まれております。自分の歩く音以外、何も聞こえません。遠くに民家があるのが確認できますが、ここから見てもかなりぼろぼろです。誰も住んでいないと思われます。もう少し近付いてみます」


 タクヤンはゆっくりと様子を伺いながら民家のある方へ進んで行く。村の周囲は、灰色の枯れ木に檻のように囲まれている。若葉が芽吹く季節にはまだ早い。


「建物の基礎だけ作られて放棄された区画もあります。なぜ、今はこの村に誰もいないのでしょうか。あっ!」


 タクヤンの驚きの声と共に、突然、映像が一つの民家にフォーカスされる。開け放された窓から、風にあおられたように、白いカーテンが渦を巻いてはためいている。


「見て下さい!!あそこの民家の窓のカーテンが、引きちぎられそうな程、ぐるぐるとはためいています。そんなに強い風が吹いていないのに、異様な光景です!」


 タクヤンの注意を惹くかのように、カーテンは異様な動きを続けている。彼は、その一軒の民家に吸い寄せられるように近づいていく。

 枯れた植物の蔓が巻きついた民家の前のブロック塀には、表札をはめこむための窪みがぽっかりと空いている。空き家なのは間違いない。もちろん、人の気配はない。

 黒ずんだ外壁のモルタルは無数のひび割れが入っており、玄関扉と一階の掃き出し窓は、ベニヤ板で覆われている。


「えー、これまで、数多くの廃墟を探索してきた俺が、正直びびっています」

「びびっているというか、気持ちではなく、体が思いっきり拒否しているというか・・・」

「何・・か、嫌なものが、迫って、きているのに、恐怖で体が、言う事を、聞かなくて、ここを、動け、ない、感じ、です」

 急にタクヤンの口調がたどたどしく、声がかすれ気味になる。お腹から声を絞り出して懸命に話している感じである。民家と塀の間の砂利道に、白や黄色の花を付けたスイセンが整然と並んで咲いている。まるで、ここだけ誰かに手入れされているようにすっきりしている。スイセンは、タクヤンを手招きするかのように、ゆらゆらと花冠を揺らしている。


「ああ」


「モ メ ダ ウ ダ コ コ キ テ ニ ハ イ ナ ケ ッ カ タ ツ テレ イ レ カ ル」 


 彼の声は明らかに抑揚がおかしくなっており、カメラのマイクの調子が悪いのか、最後の方は何を言っているのか分からない。

 瞬間、ザザッと映像にノイズが走り、場面が切り替わる。撮影用の機材が地面に落下したのか、天地が逆になったままの状態で、定点カメラのようにどんよりとした曇り空を映している。

 数秒後、映像がブツッと途切れ暗転する。



この動画は、人気動画投稿者・タクヤンがライブ配信中に放送事故を起こしたとして、視聴者によって、瞬く間に拡散された。このため、サイトのアクセス数が急上昇し、一時的にタクヤンの名前は、ビッグデータの注目ワードになるほどであった。

 当初、この動画について、単なる機材トラブルであるとか、視聴者の恐怖心を煽るための過剰な演出行為(自作自演)だと非難する者もいたが、この日を境に、彼のブログや動画投稿など一切の活動が止まっており、その理由は明らかにされていない。

 順調に人気を伸ばしていたタクヤンの突然の活動停止は様々な憶測を呼び、インターネット上では、彼の安否についての話題で持ちきりとなった。間もなく、彼の家族が捜索願を届け出たため、警察による公開捜査も行われ、その模様はテレビでも大きく報道されたが、消息がつかめないまま、未解決の失踪事件として、3年の月日が経過している。


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