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召喚士されし者 78・あり得ない邂逅

もう、振り返らない。ミスしたって突き進んでやる。前だけ見て、生きていきますとも。


(;・∀・)まぁ、見直すの恐いだけですけどね。(また、誤字発見(泣))


読んでくださる皆様、ありがとうございますです。

 

 虫強ぇ。



 それが、ロワの呼び出した黒い虫がワイバーンを片っ端から食らい尽くしていくのを見て思った感想だ。


 俺を乗せたロワが空中を漂いながら王笏を振るう。それに従うように黒い虫の群が街を駆けずり空を舞う。ワイバーンにしろ犬擬きにしろ、魔物と言う魔物を餌として片っ端からモグモグ。

 軽くホラーな光景だ。味方で良かったよ、こいつ。


 ロワが放った虫達は彼の眷属[アゥトルムセクト]。これらはロワの魔力により形作られた命無き従僕、血の流れぬ魔力生物である。二匹いればゴブリンを瞬殺する位の強さを持っているんだとか。

 因みにこの魔力生物、一匹残らずロワと感覚共有をしているらしいのだ。視角聴覚は勿論、嗅覚、触覚、味覚にいたるまで全てをだ。


 それを聞いた時、俺はもう、その事について考えるのを止めた。

 数百万の虫と感覚共有とか、考えただけで頭パーンてなるわ。

 脳みそ溶けてしまうわ。


 と言うか、魔力から生物を造れる辺りから、こいつオカシイとは思っていたが。恐らく、俺が召喚した中で一番オカシイ奴だわ。IQとかヤバイ事になってそうだ。きっとIQオバケだこいつ。


 心の中でロワをIQオバケ呼ばわりしていると、不意にロワの王笏を持つ脚が止まった。


「王ヨ。魔物ノ処理ハ終ワッタゾ。」

「ん?そうか、シェイリア達いたか?」

「アア、見ツケタゾ。今ソチラニ向カッテイル。タダ、一ツ気ニナル、妙ナ者達ガイルノダ。」

「気になる?」


 このIQオバケにして気になる事?叡知がどうの言ってるIQオバケが?

 何だか嫌な予感しかしない。


「エラク化物染ミタ人間達ガイルノダ。我ノ眷属達ヲ歯牙ニモカケナイ強者達ダ。其レガ、何故カ町民ラシキ者達ヲ殺シ回ッテイルノダ。」

「?野盗か?火事場泥棒とか?」

「イヤ。盗ミヲ働イテイル様子ハ無イ。故ニ妙ナト。王ノ探シテイル、シェイリアト呼ブ少女モ其ト交戦シテイル所カラ、王ノ味方デハ無イ筈ダ。ドウスベキカ?」


 野盗ではないのか・・・・ふむ。


「取り合えず、シェイリアの元へと急ぎで向かってくれ。状況が分からないから、その化物人間は放置でいい。見張りだけしといてくれ。」

「良イノカ?我ガ虫デ牽制シナケレバ多クノ町民ガ死ヌゾ?」

「んー?そう言われてもなぁ・・・・。」


 俺にどうせいと言うんだ。

 メイドさん曰く、俺が寝込んでいたのは丸三日程。この間に色々あってこうなってるとしたら、それなりの事情がそこには在るのだろう。


 魔物に関しては、俺に対して敵対行動をしてきたから問答無用に排除させて貰ったが、その化物人間に関してはよく分からない奴でしかないのだ。


 もし、その化物人間が魔物を先導しているなら話も変わるが、ロワの話からはそう言った言葉は未だ無い。シェイリアと敵対してると言うが、事情が分からない。下手に手を出して、ちょっと喧嘩してただけです、とか言われたら目も当てられない。


「んー、じゃぁ牽制しといて。あ、ロワ。その化物人間は殺す気になったら殺せるのか?」

「ヤッテ殺レヌ事ハ無イ。王ガ望ムノデ在レバ、是ガ非デモ殺シ尽クソウゾ。」

「じゃぁそれで。━━━さぁ急げ、急げ。シェイリアに話を聞くぞ。」

「ウム。シカト我ガ背ニ掴マッテイルガ良イゾ、王ヨ。」


 ロワは王笏を振るうと、黒の塊達が散々になって街に向かっていった。






 ロワに股がる事5分程。

 闘技場付近に訪れた俺は探していたシェイリアを見つけた。 


 シェイリアとロイド、それに加えユミスの姿が見えた。ラーゴの姿は無い。


 それに対する者は灰色のマントをした強そうな男だった。

 でも、ただの強そうな男と言うだけでは無さそうだ。なぜなら、気配を読むのが苦手な俺がヤバイと思う程、異様な雰囲気が男の周りに漂っているからだ。


 本能的に敵である事を察した俺はロワと目を合わせる。


「王ヨ。気ヅイテイルカ?アレハ厄介ナ者ダゾ。」

「分かってる。あのままシェイリア達に任せるのはヤバそうだ。━━━━ロワ!」


 俺の言葉に一もニもなくロワは王笏を振るう。

 ロワの王笏が向けられた男の足元に、黒い虫が渦を巻き吹き出す。魔物を食らい尽くすアゥトルムセクトの群だ。

 それだけで終わるとは思えず、次の手をロワに命令する。


 虫の王であるロワの力の本質は虫を操る事では無い。


 魔力生物を産み出す程の叡知こそ彼の本質。

 魔力を手足のごとく操り、その身に蓄えた叡知を遺憾無く発揮する事。それこそが虫の王にして叡知の王ロワ・イゥベズ・レィープの持つ本質。能力の全てだ。


 その叡知の一端、魔導の知がここに放たれる。


「深淵ヨリ暗キ闇。我ガ導キヲ見ヨ。我ガ祈リヲ聞ケ。カ細キ我ガ胎動ヲ標ニ、我ガ前ニ死ノ化身トシ顕現セヨ[ヲワァ・ゼ・ガ・ドルゥゼン]。」


 王笏の周りに赤く妖しく光る魔方陣が現れる。


 そこから溢れ出す13の黒手。

 おどろおどろしい雰囲気を漂わせてながら、その黒の掌から血のように赤い瞳開かせた。赤い瞳に映るのは勿論、灰色マントの男だ。


「逝ケ。」


 ロワの言葉を受け、13の黒手が音を置き去りにする速さで男に迫る。

 空気を切り裂く黒。

 13の死の矢。



 一撃でも当たれば必殺とも成りえる最上級闇魔術の攻撃。その降り注ぐ死の矢を、灰色マント男は見上げる事も無くかわした。黒の河となったアゥトルムセクトの群を蹴散らしながらである。


 かわされた黒手が地面に突き刺さっていく。

 蜘蛛の巣状の罅が地面に刻まれ、破片が飛び散る。


「逃ガサヌ。」


 ロワの言葉に沿うように、男の足元から地中を突き進んだ黒手が矢の如く跳ね上がる。

 男はもっとも速く迫った一本の黒手を紙一重で避け、残りの矢をかわす為にその場から飛び退く。


 黒の河は殆どが塵に変わり追撃は出来そうに無い。だが男を捉えられず宙に投げ出された黒手は直ぐ様に切り返し、飛び退いた男に向かった弾け跳ぶ。

 黒の線が男の周りを飛び交うが、やはり一発も当たらない。


「掛カッタナ。」


 不規則に飛び交っていた黒の線が次第にその範囲を狭め、さらに渦を巻くように男の周りを跳び始めた。

 黒手の跳ぶ速度はさらに上がり風を捲き込み漆黒の竜巻とかした。


「潰レルガ良イ。」


 漆黒の竜巻が渦を巻きながら地面にむかい捩り潰れていく。

 落とされた漆黒の衝撃を受けとめる筈の地面は、その衝撃に耐えきれずクッキーのように砕け、竜巻に捲き込まれた瓦礫は砂に変わる。


 その凄絶な光景を横目に、俺はシェイリアの近くに降ろして貰った。


「ユーキ様!」


 シェイリアが俺に抱きついてきた。

 ちょっと勢いがありすぎるタックル気味の抱きつきで、色々圧迫された。受け止めた俺の口から「うごぉ」と変な声が出る。

 それでもシェイリアは俺を抱き締める手を緩めない。抱き締めたまま「良かった、良かった」と安堵の言葉を零していた。


「おちび!」

「ユーキ!」


 少し遅れてロイドとユミスも来た。

 ふむ。なんか3人共少しやつれてるな?


「よぉ。少しやつれてんなぁ、大丈夫か?心配かけた・・・のか?かけてたらごめんな。」

「心配なんかするかよ。おちびの事だ、直ぐに━━」

「そうだよ!心配したんだからねユーキ!急に倒れちゃうし、目が覚めないし!」

「ちょ━」

「大変だったんだからね!シアは一日中目が死んでるし、熊みたいにウロウロ廊下をさ迷ったりしてさ!ロイドはロイドで怪我が治りきってないって言うのに無理して屋敷を飛び出すし、借りを返すとか格好つけて襲撃者を探しにいったり!止める人がいなくて本当に大変だったんだからね!あたしはあたしで、父上の代わりに街の混乱を抑える為に色々やってるって言うのにさ!もぅ、皆勝手にし過ぎだよ!ラーゴも、家の門下の連中も、街のボンクラ連中も、皆して騒ぎが大きくなるまで放って置いてさ!馬鹿ぁ!皆して馬鹿ぁ!ついでにユーキも馬鹿ぁ!」


 おぉ、なんか色々あったらしいな。

 やつれてるのも、そのせいなのか。


 でも、まぁ。


「おら。」

「いっつぅ!?」


 僅かに動かせる足で脛を蹴りあげておく。

 ついでに馬鹿とはどういう了見だ、おい馬鹿ぁ。


 どうやらそれなりに心配をかけていたらしい。

 まぁ、そうだよな。

 三日も寝っぱなしだったんだもんな・・・・・・。


「シェイリア、心配かけてごめんな?」


 シェイリアは一度鼻を強く啜ると、顔をあげた。

 目が少し赤い。目元も少し赤くなっている、擦ったのかもしれない。


「いいえ。その、私が、勝手に心配しただけですから。」


 そう言って俺に笑ってくれた。


 シェイリアのお蔭で少し和んでいのだが、それを邪魔するように「王ヨッ!!」と、ロワの声が掛けられた。それは酷く、焦ったような声だった。


 どうしてロワがそんな声を上げたのか、それは直ぐに分かった。


 振り向いた先、ロワの魔術でクレータ状に地面が抉れているその場所に男が平然と立っていたのだ。服装こそぼろ切れになっていたが、目立った外傷は見受けられない、ほぼ無傷の状態でだ。


 男は辛うじて引っ掛かっていた上着を剥ぎ取る。

 露になった男の半身は鍛え上げられていた。

 容赦も手加減も慈悲も無い程に鍛え上げられた、人間と言う種の限界を突き詰めた極限の肉体だった。


「━━━シェイリア、あいつ何なんだよ?この三日間、何があった?」


 どう見ても普通じゃない。

 そこいらにポンポン湧いていていい奴ではない。


「ユーキ様、あれは━」


「レイベウロスだよユーキ。」


 シェイリアの言葉を遮ってユミスが言った。

 レイベウロス?誰?


「キリシマ拳術開祖にして、本当の武神。レイベウロス・キリシマ。」


 はぁ、開祖ねぇ。

 は?開祖っ??開祖っつった!?

 フューズベルトの爺いがそんな話してたが、キリシマ拳術が生まれたのは何年前とかそんなレベルじゃ無い筈だろ。

 目の前の男が開祖だって言うなら、話が噛み合わない。


 俺はまじまじと男を見つめた後、シェイリアに向き直った。


「何があったんだよ、マジで。」


 どうやらこの三日間、相当に大変だったみたいだ。

 聞いといて何だけど、聞きたくねぇ。


 そんな事を思いながら、俺はシェイリアの顔をじっと見つめた。聞きたくない三日間を聞く為に。

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