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召喚士されし者 7・鉛のけつ持ち剴甲虫ムゥ様

  鉛色の剣が空を走る。


  音を置き去りにした剣は騎士達に向かうが、前衛騎士は盾を使い斬撃をいなす。アルディオの背後に回った騎士がすかさず斬りかかり、アルディオの背に薄く傷がつく。


  アルディオは騎士達を振り払うように剣を横に振る。

  一斉に騎士達は距離をとり剣の間合いから離れ、アルディオの剣はなにも捉えず振り切ってしまう。すぐさま剣筋からもっとも離れた騎士が攻撃態勢を整える。


  「息をつかせるな!絶対に油断はするな、一撃で持っていかれるぞ!細かく突いて的を絞らせるな!」


  バンクードが叫び、騎士達は一子乱れぬ動きでアルディオとの交戦を続ける。


  一太刀、また一太刀と騎士達はアルディオの身体を斬りつけていく。


  対してアルディオの剣は誰一人として掠りもせず空を斬る。


  誰がどう見ても騎士達の優勢と映っただろう。





  「勝てんな、これは。」


  俺はアルディオと騎士達の戦闘を眺めていた。


  ここに駆けつけた当初、すぐさま戦いを仲裁しようと思っていたのだが、相手のなりを見てピンときた俺は様子を見ることにした。

  後についてきたシェイリアに聞いて見ると、彼らが本物であればこの国の騎士であるそうだ。

  これを聞いた瞬間、俺は実験をする事を決めた。


  アルディオには部外者が町に侵入した場合、殺さず捕らえるよう命令はしてあった。


  命令上「殺さず捕らえる」事になっている、半分本気のアルディオがどこまでやれるか試そうと思ったのだ。


  結果はこの通りだった。10人の統制のとれた兵士相手には手こずり勝てない、と言う結果だ。

  もちろんアルディオが本気でやれば皆殺しは難しくないだろうし、このまま持久戦にもつれこんでも、決定的なダメージを与えられない兵士達に勝ち目は無いだろう。


  しかし、条件次第では無敵と思っていたアルディオもこうなる事がわかったのだ。今後はこの経験を糧に上手いこと召喚獣を扱っていかねばな。


  俺は気持ちを入れ換え、事にあたることにした。

  彼らが何を思ってここに来たのかは知らないが、これ以上痛めつければ交渉も難しくなるだろう。 

  相手がただ敵対的で脳足りんならいいのだ。このままボコボコにしてす巻きにして、ポイするだけだ。

  しかし、見たところ知性を感じるし統制もとれているのだ、交渉くらいは出来るだろう。やり過ぎてはいらぬ敵対心を持たれても面倒なだけだ。


  「ボコボコにはしましたけど、貴方はいい人だとわかったので仲良くしましょう」と言われ差し出された右手に、能天気に握手をする者がいるだろうか。いないだろう。 


  そんなわけで、俺はこの状況を無傷のまま終らせる事が出来る、うちの真打ちを召喚する事にした。

  「危ないから後は俺に任せて、隠れてていいぞ、シェイリア。」


  「いえ、大丈夫です。自分のことは自分で何んとかします、お気になさらずユーキ様。」


  むぅ。この子、日増しにグイグイ来るようになったな、こっちが彼女の本来の姿なのかもしれないな。泣いていた彼女を見たのが、何だか遠いあの日に感じる。最初は僧侶のヒロイン系かと思ったけど違うな、完全に違うな。どっちかって言ったら女戦士の従者系だなこの子は。


  「わかった、せめて俺から離れないようにしてくれ。」

  「はい!」


  俺は手の平に魔力を集中し魔法陣を展開する。


  「来い、剴甲虫ムゥ!」


  光りと共にムゥが手元に召喚される。俺の腕にプニプニとした手と腹で一緒懸命しがみついてくる。モシャモシャと口を動かし物言いたげに俺の顔を覗いてくる姿が可愛い。


  「ひぃ!?」

  シェイリアの小さい悲鳴が聞こえる。まぁデカい芋虫だもんな。


  「心配するなシェイリア。こう見えて無害だし可愛いぞ。」


  「・・・そうなんですか。・・・・・へぇ。」


  そう言いながらシェイリアはちょっぴり距離をとる。

  そんなに逃げんでも。


  「ムゥ頼むぞ、あの騎士達を動けないようにしてやれ!」


  ムゥは口から黄色い糸を騎士に吹きかける。騎士達は突然の糸の雨に「うわぁ」とか「ぐわぁ」とか言いながら地に伏せていく。

  ムゥの吐く糸には様々な効果を付与することが出来る。今回ムゥに出して貰ったのは麻痺の糸だ。これに触れると一定時間身体の自由を奪う事ができるのだ。勿論効き目に個人差はあると思うが3分程度は効果があるはずだ、俺は3分だった。


  「さて落ち着いてもらったところで、お話しと行こうか。」


  俺とシェイリアは騎士達へと歩きだした。






  それから数十分後。町の中央に位置する仮町長室テント内で、騎士バンクード、ユーキを含めた町の代表者三名がテーブルを囲み話し合う姿があった。


  今回起きた事件の事を町の代表者達が話し終えると、バンクードは一息つきように出された水に口をつける。


  「そうであったか。」


  小さくもはっきり聞こえる声でバンクードは一言だけ発すると、俺の方へと身体を向ける。


  「召喚士ユーキ殿、我々に代わって町を救ってくれたこと、まず礼を言わせてもらう。ありがとう。」


  バンクードは身を乗り出して右手を差し出す。俺はバンクードの雰囲気に尻込みしつつ、差し出された右手と握手を交わした。


  「本当に感謝する。ありがとう。・・・ところでユーキ殿、お訊ねしてもよいか。」


  「は?・・・えっと何ですか?」


  「先程の騎士は貴女の召喚獣だと聞いた。それに先程抱かれていた虫も召喚獣なのであろう。あれ程の召喚獣を、二体同時に使役する貴女は何者だ、良ければ師をお教え願いたい。」


  バンクードが握った右手に僅な力を込めてくる。顔を見ると少年のようにキラキラした目が俺を見ていた。


  おお!?まずったか?

 この世界に来てから3日、シェイリアからこの周辺地域について聞いていたが、魔術や召喚術に関してはさっぱりのままだった。

 どうやら俺がやった事は凄い事らしい。国に目をつけられると面倒だな。

  心の中で軽く身震いをして俺は答える。

  「も、申し訳ない。師の名は言えないんです。ただ俺の召喚術に興味を持たれたことは嬉しく思います。努力したかいがありました。」


  俺が笑顔で返すとバンクードはうんうんと満足そうに頷き、握っていた手を離し立ち上がる。


  「魔導を進む方には様々な誓約があると聞きます。此方こそ無礼な質問謝罪しよう、申し訳ない。さて、我々は今回の件を報告する為、一旦ナダの街に帰らなければならない。町の復興に手を貸せぬこと誠に申し訳ない。代わりと言う程の物ではないのだが、僅かばかりであるがコレは復興の足しにしてくれ。」


  バンクードは自らの腰に付いていた汚れた小袋をテーブルに置く。ガシャっと置かれた小袋はそれなりに入っているようで横に座っていた代表者の一人がゴクリと唾を飲んでいた。


  テントを出ようとしたバンクードは一度振り返り俺に視線を向ける。


  「ユーキ殿。もしナダの町を訪れる事があれば、是非私を訪ねてくれ。此度の礼、しっかりとさせてもらう。」


  「まぁ、機会があれば・・・。」


  生返事をした俺にバンクードはにっと笑い「待っている」と一言言うと、すぐにテントを出ていった。



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