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召喚士されし者 6・アスラ騎士団

大陸ミドガルドの中央に位置する商業大国アスラ。周辺を4ヵ国に囲まれ幾つもの重要な街道を有しており、貿易の要所とされ今日まで繁栄を約束されてきた国である。


そのアスラ国南部に位置する、高さ10メートルの城壁に守られた城塞都市ナダ。辺りを草原に囲まれ二つの街道の交差点に位置するこの都市は、アスラ国に置いて商業的にも軍事的防衛拠点としても重要とされている都市である。


この都市に駐留するアスラ軍第2師団、通称「白馬」は、全師団の中でも最も規律を重んじる師団である。中でも師団長エル・リーベル・アノールは規律を体言したような人物であり、規律違反者は例外なく断罪すると言われ恐れられている。


そんな第2師団第3歩兵連隊兵舎で一人の男が大きなため息をつく。


「レイヴン大隊長、大きなため息をついてどうなされたのですか?」


レイヴンと呼ばれた男は尋ねかけた女性従士を見る。


「どうもこうもあるか。エビンス隊からの報告はまだ上がってないのか?定刻はもう過ぎてんだぞ。」


「まだ上がっておりません。」


「確かエビンス隊は、グローリの町までの巡回だったな?」


「そのように聞いております。エバーグリーン、エバーレント、グローリ、ユングの森までの巡回任務となっています。」


「・・・何もなけりゃ、帰って来てるよな?」


「はっ。仰る通りかと。」


ピシャリと女性従士に言われ、レイヴンは机に顔を埋める。それから恨み言をグダグダと流し始めた。


「だから俺はエビンスにはまだ早いと言ったんだ。いくら人手不足とは言えあんな素人(ぺーぺー)に分隊をやるべきじゃなかったんだ。それなのに議会のジジイの孫って理由だけで捩じ込みやがって、あの馬鹿が無事じゃなかったら俺のせいになるんだぞ糞が。あーあー頼むから連絡遅れてましたーとか、事故で連絡出来ませんでしたーって馬鹿面下げて帰ってこないかなぁーー。あーあーあーあーー。」


そんな様子にこんどは女性従士がため息をつく。


「レイヴン大隊長、それは無いと思います。エビンス分隊長は確かに経験不足とは思いますが、定時連絡を怠るほど間抜けとも思えません。何より定時連絡の放棄は規律違反以外の何物でもないはず。この白馬に所属する人間でその様な馬鹿をするのは、大隊長くらいなものです。」


「・・・お前馬鹿って、まぁいいか。エビンス隊には何かあったと見るべきだろうな。フローラ!帰還中のバンクード隊に至急連絡しろ。エビンス隊捜索の任をくれてやれ。気のいい連中だ、仲間の為なら喜んでやってくれるだろうさ。」


「はっ!!」


フローラ従士が威勢よく返事をし部屋を出ていく。


レイヴンは立ち上がり外の風景に目を細める。雲のないよく晴れた青空が広がっていた。レイヴンは胸のポケットにある煙草をとりだし火を点ける。


「空はこんなに青いのに、お先は真っ暗たぁ笑えんなぁ。」





大隊長から指示を受けたバンクード隊は、馬に揺られながらしかめっ面でエビンス隊捜索の為、エバーレントへ向かっていた。


「何が仲間か。俺はあのボンボンを仲間だと思った事はねえっつの。ねぇ隊長?」


一人の兵士が悪態をつく。


「・・・まぁ、そう言うなロッド。何かあったのかも知れん、困った時はお互い様だ。」


そうバンクードが言うと前を進む兵士も振り返る。


「そうだ隊長の言う通りだぞロッド。それに他の隊も此方に向かっているそうだ。貧乏クジを引いたのは我等だけでないのだから我慢しろ。」


「るせぇベック。お前だってあのボンボンの事は気にいらねえっつったろ。」


「勿論気に入らんさ。だがそれとこれは別だ。」


バンクードは口を喧嘩をする二人を見ながら小さくため息をつく。まぁ部下の憤りは当然なのだ。


第3歩兵連隊においてバーナー・エビンス程、嫌われている者もいない。

バーナー・エビンス、祖父にアスラ国議会員ハングル・エビンスを持ち、その権力を当然の如く振りかざす馬鹿なのだから。先輩兵士に対して横柄な態度をとるのは勿論、勤務態度もろくなものではない。訓練をサボることもしばしば。


しまいには空きのあった分隊長の座を、祖父の権力で無理矢理手に入れたのだ。


こんな男が白馬で許されているのも、レイヴン大隊長の奮走があっての事だ。あの人も大変だ。融通の効かない師団長と我が儘な議会員に挟まれながら、波風立てぬよう、あれこれ手を回しているのだから。




バンクード隊がしばらく進むと、エバーレントの町の前で人だかりが出来ているのを目にする。


「どうしたんだ、こんな所で?」


バンクードが尋ねると壮年の男が前に出る。


「こっこれは騎士様!巡回ご苦労様です。」


「よい!何があった話せ!」


「そ、それがですね。昨日我々が森に入ったところ、隣町グローリの者が大怪我を負って倒れていまして・・・。聞けば町が野盗の襲撃を受けたと言いますので、騎士様に申し上げに行こうと相談しておったのです。」


バンクードは額に汗が滲む。すぐにレイヴン大隊長の頭を抱え悶える姿が思い浮かぶ。


「隊長!」背後に控えた部下が叫ぶ。


「ああ!武器を用意しろ直ぐに救援に向かうぞ!ベックはここに残り後発の部隊を誘導しろ!いくぞ!!」


「おお!」


バンクード隊は急ぎグローリの町へと向かう。



グローリへの道の途中バンクード隊は血痕を目にし立ち止まる。予想する出血量からこの跡をつけた者は生きてはいまい。そう思いながらバンクードは視線で血の跡追う。


「なっ!?」


バンクードは怒り震える。そこには若い女性と五歳程度の子供が倒れていた。女性の背中からは大きな刀傷を負っており命はないだろう、だが・・・。

馬を降り子供に駆け寄り息を確認する。息はある、だがあまりにも弱々しい。


「隊長!?」


「重傷者だ!ロッド癒しの術をかけろ!」


「はっ!!」


バンクードは一言発するとすぐに馬の手綱をとる。


「ロッド。その子を頼むぞ、俺は町に向かう!!」


「隊長!ここは冷静になってください。もうすぐ応援が来るはずです。合流してから向かった方が・・・。」


「ならん!一刻を争う!傷跡から襲撃を受けてから2、3日は立っている。これ以上遅れては助かる命も助からん!」


部下の静止も聞かずバンクードは走り出す。頭に血が昇っていた。腹が立つ、自分の甘さに。腹が立つ、名ばかりの騎士に。守るために騎士を目指した。それがこれか!


エビンス隊が連絡をたった日、俺達はその事を知っていた。その日、巡回から帰還した直後、エビンス隊が定時連絡をしなかった事をレイヴン大隊長と女性従士が話しているのをたまたま聞いていたのだ。あの時は馬鹿がやらかしたのだと仲間内で笑っていた、笑っていたのだ。


馬鹿は俺ではないか!


何故疑問が浮かばない、何故最悪を予想しない。


その為の力ではないのか、騎士になったのではないか!



バンクードは軍旗を手にする。青い下地に金で刺繍された三頭狼。誇り高い我等の美旗だ。


森林地帯を抜けバンクードが見た物は、無惨にも変わり果てたグローリの町だった。


バンクードは軍旗を掲げ、叫ぶ。


「我等、誇り高きアスラ軍第2師団第3歩兵連隊分隊長バンクードである!誰か!誰か生き残っている者はいないか!誰か!」


バンクードの声が響き渡る。しかし辺りは静まり返り物音一つしない。


「バンクード分隊長!」


少し遅れて部下が到着したようだが数が多い。どうやら別の部隊と合流したようだ。見慣れた顔がいる。


「バンクード!足が早いな。」


「オルッセル、お前達が来たのか。」


バンクードはオルッセルと軽い挨拶を交わすと周囲を見渡す。


「状況は?」


「分からん、俺も一度呼び掛けたが反応がない。生き残りはいないかも知れん。」


オルッセルは再び周囲を確認すると在ることに気づく。


「死体がないぞ?血の跡は消えてねぇてのによ。・・・それに何か嫌な感じだ。」


その時だった。カン!カン!カン!カン!!町中に鐘の音が鳴り響く。


「!?何だ!?何が起きた!」


狼狽える騎士達の前に、突如鉛色の騎士が現れる。


バンクードとオルッセルは背筋が凍りつく。目の前存在がどれ程の力量であるか理解したからだ。バンクードはオルッセルに目配せをして指揮をとることを伝える。オルッセルは戸惑うことなく剣を抜き放ちバンクードの前に立つ。


「推定ランクB総員配置につけ!!」


一子乱れぬ動きで騎士達は鉛色の騎士を取り囲む。


「後衛、周囲の警戒も怠るな!前衛は死にものぐるいで食らいつけ!!」


バンクードの合図と共に騎士達は動き出す。まるでそれは一つ生き物のように速く強く。

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