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召喚士されし者 5・始まる町と軍旗

「シェイリアちゃんーー!」


そう呼び掛けられ、栗色の髪を肩口で切り揃え、活発な雰囲気をだすその少女は振り返る。


「ゴールさん!お疲れさまです。お昼ごはんは今用意してますんで少し待っててください。」


ゴールと呼ばれた壮年の男は申し訳なさそうに頭をかく。


「わりぃな、なんか催促しちまったみたいで。何か手伝う事あるか?いっても料理運ぶくらいしか出来んのだが。」


「いいえ大丈夫です。力仕事で疲れているんですから、休んでてください。」


そう言いながらシェイリアは大釜で煮詰まったスープをかき混ぜる。芋と野菜を塩で味付けただけのスープのため、お世辞にも美味しいとは言いがたい。お玉で掬い味見をしてみると、大量に入れたアレク芋の風味が野菜の風味をこれでもかと打ち消している。ただの芋スープである。それに少々塩味が強い気がする。まぁ、汗水かいて働いたゴール達が食べるのだ、少々塩味が強くても大丈夫だろうと大釜に蓋をした。


「力仕事っても、俺らは大した事はしてねぇよ。ダメになった家の解体は、殆どあの鉛の騎士様がやってくれるしよ。精々俺らは解体前のボロ家から、使えそうな物引っ張りだして運んでるだけだしなー。」


「そうなんですか、やっぱりアルディオ様は凄いですね。」


ゴールはキョトンした表情をする。


「お?あの騎士様、名前があったのか・・・召喚士様が呼んだ 召喚獣と言うのは聞いていたが、アルディオ様って言うのか。・・・そう言えば召喚士様、ユーキ様は何処に行ったか知ってるか?さっきハンブルの爺さんが目を覚ましてな、礼を言いたいと聞かんのだ。」


シェイリアは顎に手をやり悩む仕草をする。少し考えた後、顔を上げゴールに向き直る。


「わかりました。場所はわかりますけど、召喚士様に口止めされてますので私が呼んできますね。あっ、あとスープは出来てるので皆によそって上げてくださいねゴールさん。」


「おいおい、俺は休んでていいんじゃないのか?」


「なんだかお疲れでないようなので、お願いしますね。」


シェイリアはエプロンを外し簡単に畳み片付けると、そそくさと仮テントに作られた食堂を抜ける。


召喚士の元へ向かいながらシェイリアは辺りを見渡す。


あの惨劇から三日が経った。道にはあの日ついた血の跡が今だ残っているものの、無惨に打ち捨てられていた死体はもう無い。


召喚士様の召喚獣アルディオ様のご助力のお陰ですでに一ヶ所にまとめて安置されている。この町のお葬式の形式として火葬するのが一般的なのだが、数が数なので準備に時間がかかっていた。


もう三日だ、ほかの作業をおいて先に済ませた方が良いのかもしれない。遅くても明日までには済ませたい所だ。ほうって置けば死霊系の魔物になる可能性だってある、最悪同じ町の仲間を魔物と呼び殺さなくてはいけなくなる。それだけは避けなくてはならないのだ。失いすぎた私達が立ち上がる為に、それだけは・・・。


シェイリアは考えを振り払うように頭をふるふると振る。そしてまっすぐ前を見ると歩を早める。ゆっくりと歩いていると余計な事を考えすぎる。今は召喚士様を呼びにいく事だけ考えればいい。後の事は皆で話し合って決めればよいのだ。


シェイリアは召喚士ユーキの籠るユングの森へ向かう。その足どりは軽く、スキップしているようにも見えるほどだった。





ユングの森、そう呼ばれ近隣住民から先祖が眠る神聖な森として大切にされていたその場所に彼女はいた。真紅の髪をもつ彼女は一人森に佇んでいる。


木々に囲まれひっそりと静まりかえったそこで、真紅の彼女の背後に不穏な影が一つユラリと音もなく現れる。


影の大きさは有に彼女の倍以上あり、襲われれば一溜まりもないだろう。


一歩、また一歩と近づき、ついに牙の届く距離に詰められる。口を大きく開き今にも飛び掛かろうとする。


「ガイゼル、おすわり」


真紅の彼女がそう一声発すると、ガイゼルと呼ばれた獣は飛び掛かるのを止め、シュタッと腰を降ろす。


「やっぱり自分で召喚した奴は、どんだけ気配消しても分かるもんだな。」






真紅の彼女こと、俺ユーキ(元、黒須トウジ)は誰も寄り付かない森で召喚術を練習していた。因みにだが、ユーキと言う名前は俺が黒須トウジだった頃、好きだったゲームのヒロインの名前からとった物だ。せめてこの身体の少女の名前が分かるまで名乗ろうと思っている。


目の前でシャキッと背を伸ばし腰を降ろしている魔獣はガイゼルという俺の二番目の召喚獣だ。見た目は虎と狼が混じった、二本の長い犬歯をもつ大型肉食獣と言った感じだ。


見た目は極めてゴツく近寄り難い雰囲気を持っている魔獣であるのだが、性格はそれに反し、かなりの甘えん坊でワンコみたいな奴だった。隙あらば飛びつき、じゃれつき、ベロンベロン舐められるので、涎まみれにされる耐性は強くなったのは確実だ。


ほら、今まさに飛び掛からんと尻尾をブンブン嬉しそうに振っている。俺が「止め」と言ったら一瞬で組みしかれベロンベロン顔を舐めてくるはずだ。


さてこの三日、召喚術について新しく分かったことがある。


この三日で俺が召喚に成功したのは三体。鉛の騎士アルディオ、四足の魔獣ガイゼル、剴甲虫ムゥの三体だ。


当初俺は、召喚獣には具体的な意志が存在しないと思っていた。よしんば合ったとしても、それは機械的に判断するAIのようにプログラムされた意志、無機質なものであると思っていたのだ。っと言うのも、最初に召喚したアルディオは俺の命令があるまで動こうとしないのだ。それはもう、ピクリともしないのだ。たまに勝手に動いたか?と思うような事もあったのだが、どうやらある程度俺の心を読めるらしく、それを命令として受けとり行動したに過ぎなかった。


しかし、それらの考えは二番目の召喚獣ガイゼルを呼び出した事であっさり覆ることになる。ガイゼルにははっきりとした意志が存在したのだ。嫌なことは嫌だとそっぽを向き、嬉しい時は尻尾を振って、俺の制止もなんのその、顔を舐め尽くされたのだ。


ガイゼルのおかげでアルディオは機械人形でない可能性がでてきたのだが、アルディオはこの件に関して反応を見せない。やっぱり機械的なそれか?とも思ったが違う気がするのだ。言葉は発さないし、ガイゼルのように行動で示しているわけでは無いのだが、この話しをしだすと露骨に嫌そうな雰囲気を感じるのだ。召喚者として何らかの繋がりがあるからか、ただの勘としか言い様がないのだが、そう感じるのだ。


それで何となくアルディオという召喚獣を理解した気がした。彼は騎士なのだ、根っからの騎士で主人の剣で在ることに誇りを持っているのだろう。故にそれ以外の事には興味も関心も無いのだ。面倒くさいとも思っているかもしれない。仕事をするためだけに毎日を生きるブラック企業もびっくりの社畜騎士なのだ。


そんなわけで、社畜魂を持った騎士アルディオは命令すると何でもやるし、命令は遵守する事が分かったので、町復興に従事させることにしたのだ。命令されたあと働きにいく背中が嬉しそうに見えたのは気のせいではないだろう、・・・まぁ勘なのだが。


もう一つ大きな収穫があった。召喚術と魔力の関係だ。


まず召喚術には魔力が必要だ。これは神様代理人のシャリオが言っていたことで信憑性は高い。次にどの程度の魔力が、どのように消費されるかという問題だ。


わかったのは召喚時に消費される魔力はほぼ一定であるということだ。アルディオ、ガイゼル、ムゥこの三体の召喚時における魔力の消費量を感覚的に比較したところ大差がない事に気づいた。もちろんこの三体が例外である可能性もあるので絶対とは言いきれないが。


さて話がそれたが、召喚時における魔力消費量は変わらなかった。しかしそれはあくまで召喚における魔力消費量と言う話だ。そう、召喚獣には維持コストがかかるのだ。これには固体性能が大きく影響されると思われる。


アルディオとガイゼルの二体は維持コストに大差はなかった、性能的に考えてもこの二体はいい勝負なのだ。あえて差があるなら、速さならガイゼル、堅さならアルディオと言った所か。


それらに比べ三番目の召喚獣であるムゥは明らかに維持コストが低かったのだ。見た目的にも小さく維持コストが低くとも納得は出来るのだが、そうではない気がするのだ。と言うのも、この30センチにも満たない召喚獣ムゥは便利この上ない存在なのだ。


様々な効能をもつ糸をはき、軟体な身体を包む硬い甲殻を持ち、あまつさえ魔術を行使出来るのだ。魔術と言う物があるのは予想していたが、まさか召喚獣が見せてくれるとは夢にも思わなかった。まぁ、魔術と言っても簡単な物ばかりであり、微弱な癒しの術や植物の蔓をちょびっと操る術など、役に立つかと聞かれれば何とも言えない物なのだが。


とにかく便利な奴なのだ。こんな利便性の塊みたいな奴がこんな低コストで維持出来るのはおかしい、俺は最初そう思っていた。が、すぐに答えはでた。


簡単だった、ムゥは自分自身で召喚獣の維持コストの一部を肩代わりしていたのだ。一見すると、殻を被ったデカい芋虫なので気味悪がったりしていたのだが、自分の魔力を使って俺の負担を減らそうとしてくれた可愛い奴なのだとわかり、それ以来猫っ可愛がりしている。膝におくと柔らかい腹がプニプニと気持ちいいのだ。


また話がそれてしまった。この三日で多少なりとも召喚について理解を深められたと思うのだが、逆に分からない事も増えた。多分俺は色々な手順をすっ飛ばして召喚術を行使している。事故が起きる前に、一度ちゃんとした召喚士に話しを聞きたいものだな。


考えをまとめているとガイゼルが飛びついてきた。堪え性のない奴だ。駄犬目が。


「ユーキ様ー!!」


町の方角から少女の声が聞こえてきた。


「この声、シェイリアか?」


俺はガイゼルに強制命令を下し即座に離させる。この三日、シェイリアが俺を呼びに来たのは夕食の時だけだ。・・・何か合ったのか?


俺はシェイリアの声がした方へ向かう。あっ。


「ガイゼル帰ってよし。」


そう命令を下し帰還させる。ガイゼルの帰還を済ませると、背後の茂みがガサガサと揺れシェイリアが顔を出した。


「ユーキ様!ここに居らしてたんですね?」


「おう、シェイリア。どうしたんだこんなに早く?」


「すいません。鍛練のお邪魔をしてしまい申し訳ありません。大した用ではないのですが、ハンブル老が目を覚ましまして、是非にお礼をしたいと・・・。」


カン!カン!カン!カン!!突然、ユングの森に鐘の音が響きわたる。


「なんだ?」俺がキョトンとしていると、シェイリアは酷く慌てていた。


「どうしたシェイリア?」


「あ、いえ。鳴っているのは町の半鍾です。でも、」


シェイリアは俺を見るが、すぐに視線を反らし顔をしかめる。・・・まぁ何かしら合ったんだろうな。


「気を使わなくていいぞシェイリア。町にいこう。」


俺がそう言うと、シェイリアは満面の笑みを浮かべる。


「はい!ありがとうございます!」




俺達は急ぎ森を抜け町に戻ると、そこには見慣れぬ大きな旗とフルプレートに身を包んだ騎士の一団がいた。

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