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召喚士されし者 46・2人の決意

「ユーキ様、師匠。その役目私にお譲り頂けないでしょうか?」


 シェイリアの嬢ちゃんがそう言って、おちびと爺さんの間に割り込んでいった。やりかねないとは思っていたが、本当にいくとは思わなんだ。


 でもまぁ、嬢ちゃんとっては良い機会なのかもな。






 一ヶ月前、おちびがキリシマ拳刀術家の師範代代理をやると言い出したとき、正直心配しか無かった。あんまり心配だったのでついていこうと思っていたが、初日から寝坊した。結局「まぁ、なるようになるか」と行くのを止め、俺は布団を被り直した。分かりやすく言うとサボった。


 そんな風に布団にくるまり、穀潰し生活をしていく事数日、俺はシェイリアの嬢ちゃんに文字どおり叩き起こされた。グーだった。


「いつまで寝ているんですかっ!起きなさい穀潰し!」

「キュピーー!!」

「いだだだだ。何だよ朝から、毛玉をけしかけるな。地味に痛いんだよコレ。」

「もう、お昼です!!」

「キュピピーー!!」

「あだだだだ。分かった、分かったから毛玉を退かしてくれ。コイツ鼻ばっか噛むんだよ痛い。」

「毛玉なんて名前じゃありません!ギルデ・ギ・ゾンド伯爵です!言って見なさいロイド!」

「キュゥーーーーーピィーー!!」

「やっぱ無理ねぇか、その名前。」


 叩き起こされた俺は、ソファーと言う名のベットから落とされた。


「やけに手荒だな。つーか爺さんの世話はいいのか?」

「とっくに治療院には行きました。勿論、他の兄弟子達の様子も見てきましたよ。」

「ご苦労様。で、暇になったから俺を起こしに来たのか?おちびのとこにでも行って来いよ。」

「いえ、そうではありません。今日は誘いに来たんです。ロイド、魔物狩りに行きますよ!」

「・・・・・はぁ?」


 嬢ちゃんは意味の分からん事を言い出した。

 そしてあれよあれよと着替えさせられ、気がついたら門をくぐり抜け、平原に出ていた。


「・・・・で、何の説明も無しにここまで来た分けだが。何なんだよ?」

「実戦ですよ。実戦訓練。キリシマ拳刀術、師範代に成る為の最期の試練です。」


 最期の試練?


「嬢ちゃん、いや、シェイリア。お前、それって。」

「はい。師匠からはこの試練を達した時、師範代の肩書きを与えると言われています。」


 この嬢ちゃん、シェイリアが闘いに触れたのはつい3ヶ月前程。自分の故郷を奪われたすぐ後、町の拳士に教わったのが最初だと聞いた事がある。それから彼女はひたすら体を技を鍛え続けた。弱音を吐かず、脇目もふらず、ただ愚直に努力を重ねた。何気にその姿を見ていた俺は、彼女が強くなるのは時間の問題だと思っていた。


 だが。あまりにも早すぎる。


「シェイリア、大丈夫か?」

「はい?大丈夫ですよ。痛い所はありませんし。それよりも急ぎますよ。夕飯までには帰らないとならないんですから。」


 まぁ、言葉で言っても無駄だろうな。この子はそう言う子だ。

 はぁまったく。


「それで何を狩りに来たんだ?心の準備もしなきゃなんねんだけど。てか、試練なのに2人はありなのか?」

「ありですよ。元々1人でやる試練ではありませんか<ここの改行を消してください

 >ら。あと、対象を言ったら貴方逃げるでしょう?だから言いませんよ。」

「おい、待て、何を狩りに行くつもりだ、おい。」

「何が来ても貴方の知識なら大丈夫です。頼りにしてますよロイド。後ろをお願いします。」

「あぁ。・・・・いや、納得しないからな!?」


 そして、最初の獲物は因縁の相手だった。




「おおおおぉぉぉおおおぉ!!シェイリア!無理だろっ!一旦引こう!」

「問題ありません!1匹ずつ確実に仕留めていきますよ!」


 草原に紛れ、馬より速く大地を駆ける者。

 グラスボアである。


「群れだぞ!1匹や2匹ならまだしも、あれだけ多いとっ!」

「しゃんとしなさい!貴方なら出来ます。私は群れの頭を叩きますから、援護をお願いします!」


 そう言うとシェイリアは魔力を纏い、グラスボアの群れに飛び込んで行った。






「━━━━はぁ、まったく。やれやれだ。死ぬかと思った。」


 日が傾きかけた頃。何とかグラスボアの討伐を終え、ナダの街に帰って来た俺はオッサン臭い溜息をついた。


「何を言っているんですか?明日も頑張って貰うんですから、この程度でへこたれないで下さいよ?」


 どうやら、俺の平穏は暫くやって来ないようだ。




 それからも、俺はシェイリアの試練に付き合い、日帰りの魔物狩りに連れ出された。ゴブリンは勿論、グラスウルフ、ドルワーム、レッドウルフ、ロックバード、オーグベア、グラスプリザードetc・・・・・。気張って行ったり、肩透かしをくらったり、冷や汗かいて逃げ出したり、死に物狂いで立ち向かったり、俺とシェイリアは兎に角闘い続けた。


 いよいよ最後の試練対象に挑む前日。

 俺達は珍しく2人きりで飲食店に来ていた。理由は言うまでもなく、作戦会議である。


「明日で日帰り試練最終日です。」

「おう。まぁ、討伐出来たらの話だけどな。あっお姉ちゃん、酒くれ、やっすい奴水割りでっぶっ!?」


 シェイリアの蹴りが綺麗に顎に入った。パンツは白だった。


「じゃねぇ!!!いっっっってえじゃねぇかシェイリアァ!顎が割れて二枚目の俺の顔が三枚目になったらどうするつもりだ!」

「もとより百枚目くらいですから、問題ありません。それより!作戦会議を開くと言うのに酒を頼むとは何事ですか!ユーキ様に注意されたのを忘れたんですかっ!」


 ああそう言えば、前にもこんな事あったな。


「草原竜の時だよな、懐かしい・・・な?・・・つっても、ついこの間なんだよなぁ。お前等と会ったの。」

「・・・・そうですね。裏切って、埋めてやった時ですね。何だか随分前な気がします。ね、サリハンさん?」

「やめぃ。そのネタは引っ張るな。俺も思い返すとどうかと思う。」

「ふふふ。ですね?憧れの童話の主人公の名前でしたっけ。偽名にしてもあれは無いですよね。」


 珍しく俺に笑みを見せるシェイリア。俺は珍しい物を見る目で見てしまった。


「ん?何ですかその顔?不愉快です。」

「っあ?いや、悪いな。おちびといる時以外でシェイリアの笑う顔初めて見たな━━って思ってな。」

「むぅ・・・。そうですか?私そんな無愛想な感じに思われてるんですか?」

「まぁ、な。ああ後な、ギルデといる時も楽しそうだな。」

「そ、そんな事はないと思うんですが。」

「頬が弛みっぱなしだぞ。おちびの世話をしてる時と一緒だ。」


 俺が指摘するとシェイリアは自分の頬を弄り始めた。

 今更遅いだろうに。


「なぁ、シェイリア。前から1度聞きたかったんだけどよ、いいか?」

「はい?何ですか?」

「お前等は何処に行くつもりなんだ?」


 俺の質問にキョトンとするシェイリア。絶対に意味が分かってないな。


「おちびは━━━。まぁ、俺の予想だけど、探してるんだと思う。」

「探してる、ですか?」

「あいつは探してるんだ。何かになりたくて、何かをやりたくて。漠然としてるんだと思う。あいつ自身良く分かってなくて、だから探してるだ。言葉にも形にもならないフワフワしたもんを。だからあいつは止まらない。沢山見て、聞いて、触って、知って。危険だと分かってても、あいつはそれを知らないと自分の行く場所が分からないから・・・。」


 ユーキの目を見た時からずっと感じていた。それは誰にでもあるはずの物。けれどユーキにはそれがまるで見えなかった。


「あいつはこれからも変わらない。探してる物が手に入るまであいつは走り続けるぞ。・・・俺は見てみたいんだ。あいつが何処まで行って、何を手に入れるのかを、よ。」


 きっとあいつは、信じられない所まで行く。

 俺に見せてくれる。


「シェイリア。お前には未来がある。たった3ヶ月程度で一端の拳術家になれる程の才がある。独りでも生きていける力がある。でもな、この先おちびに付いていったら━━━きっと遅かれ早かれ死ぬ。あいつは規格外だ、あれにまともに付いていったら、俺達は耐えられない。」


 ユーキは行けるはずだ。

 ずっと、ずっと遠くに。俺の手の届かないその先に。


「聞かせてくれ。何処まで行くつもり何だ?」


 シェイリアは目を瞑りゆっくりと呼吸をする。

 そして━━━━






 ズゥン。

 轟音が辺りに響き渡る。木々で囀ずる鳥達は逃げるように飛び立ち。森の獣達は危険を察し身を潜める。


 森の中、少し開けたその場所にそれはあった。

 大地を横たわる巨体な蛇、森の獣が恐れるそれは虚ろな目で虚空を見つめる。

 その大蛇の横で2人の男女が腰を降ろしていた。

 女は呼吸を落ち着かせ、ゆっくり息を吐いた。そして優しく語り始める。


「私は1度死にました。あの方が私に2度目の人生をくれたんです。だから、あの方の為に生きようと思いました。お役にたって、あの方が助けた事を後悔しないように。でも、今は違います。」


 女は虚空を見る。そこに何かがあるように。


「一緒にいたいんです。あの方と。」


 それだけ言うと女は立ち上がり、男に手を差し出す。


「行きましょう。きっと待ってます。」


 男はその手を握りしめゆっくりと立ち上がる。

 男は知っている、握りしめたこの手が、いつか当たり前で無くなる日が来るのを。そしてそれが決して遠くないことを。

 それでも、男は歩き出す。手を差し出した彼女と共に。


 紅い髪の彼女のもとに━━━━━━━






「っつーー事があったんだよ。だから嬢ちゃんは師範代だぞ。出場を許してやれよ。」


 そんなこんなで、出場を2人に全力で反対され涙目な嬢ちゃんの為に、恥ずかしーーい俺達の試練の一ヶ月をばらした。試練を突発し、師範代の肩書きを手にした嬢ちゃんなら、出場資格はあるんじゃないかな?と言ってみたのだが。


 これが結果だ。


「駄目ですぅ。怪我したら大変だから駄目ですぅ。女の子なんだぞ顎髭ぇ!!馬鹿ぁ!変態ぃ!穀潰しぃ!」

「そうじゃそうじゃ!ユーキの言う通りじゃぁ!シェイリアの柔肌に傷がついたらどうしてくれるんじゃぁ!お嫁にいくまでワシは許さんぞ!」


 猛・反・発。過保護共めが。

 つーか、おい爺い、お前試練わざと厳しくしたろ?確認とったんだからな、お前の弟子に。挑む気が起きないようしたつもりだろうけど、家の子は純粋なんだからな?行っちゃうだからな?俺を頼ってきてくれて良かったと思ったんだからな?知識って本当に大事だなってなったんだからな?つーか最期の蛇、マジで死ぬかと思ったんだからな?


「・・・・・と言うより、何恥ずかしい事ばらしてるんですか!この顎髭は!?剃り上げますよ、その汚ならしい顎髭を!!」


 やべぇ、なんか敵増えた。





 揉めまくる拳刀術家を尻目に、拳竜家の2人は互いを見る。


「なんか、出場はしてくれるみたいね。」

「そ、そうだね。出来れば赤毛の師範代は止めて欲しい所だね。」

「ラーゴでも無理?」

「あれに混ざってく自信は無いからね。」


 2人の目前で、微笑ましいとは言い難い光景が繰り広げられられていた。

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