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召喚士されし者 4・赤い幽鬼

 焼けゆく町を最も見渡せる広場に、20人程のならず者達がひしめき合っていた。男達は町中からかき集めた物資や金目の物を一ヶ所に集め幌へ詰め込む準備をしていたのだ。


 その中で8人という男達が配置され、最も警備の厚いその場所に彼はいた。


 背丈は160センチ程度と、この世界の男の平均より低い。体型はやせ形であるものの全体的に筋肉質であり、戦士と呼ぶにも十分であるだろう。身につけた胸部のプレートメイルはやや錆が在るものの、しっかりとした造りで鋼の重厚さは衰えを見せない。その男は愛剣を脇に置き、地団駄を踏む。


「おせぇ。」


 男の声は荒々しく暴力的な匂いを放っていた。回りの部下は顔色を青くしながら声の主の様子を窺う。


 総勢36人の野盗もどきの傭兵団「鬼の鎧」を率いる頭目、デル・トロは苛立っていた。何ヵ月も準備した計画が全く上手くいっておらず、未だに最重要に位置付けしたアレが手に入っていない。もともと計画では無駄な町人は殺さず、目当てのモノを手にいれトンズラする事を決めこんでいた。・・・にも関わらず現状はどうだ。


 目当てのモノが見つからず、町の探索に時間をかけすぎたおかげで、巡回中の国の警備とかち合い、殺してしまった。定時連絡が無ければすぐに倍の数が援軍に訪れる。そうなれば終わりだ。


 援軍に向かっている軍の連中に顔を知られるわけにはいかず、最悪の対処として町の人間を皆殺しにして面をわれないようにするしかない。


 最悪だ、何でこうなった。これではただの人殺しの集団だ。誇りある傭兵団にしたかったのに。ゆくゆくは国の正規軍に属し名声も金も女も望むがまま。そうなるはずだったんだ。


 国の警備兵とかち合う事など完全に想定の範囲外だった。あの人が手回しして下さっていたんじゃないのか!?くそっ!


 後戻りは出来ない、せめてアレだけは手に入れなければいけない。アレさえあれば、そう思いながら周囲を見渡し部下達の間抜け面を拝む。そうだ死ね死ね死んでしまえ、お前らなんかバカを雇ってやった恩に報いろ。俺はのしあがる、俺だけは!!


 デル・トロは静かにほくそ笑む自分の輝かしい未来を思って。



「ひぃぎゃぁぁぁ!!」



 突然の悲鳴がデル・トロの笑顔を奪う。強張る部下達の視線の先にそれは立っていた。


 鉛色の鎧を纏った巨漢の騎士。その丸太のような太い腕で部下の一人を引きづり、血に染まった大剣を肩に悠然と迫っていた。


「なっ、魔物か!?」


「ボス!!」


 部下が騒ぎたてる中、デル・トロは冷静を保っていた。すぐさま剣を抜き放ち敵との距離をはかる。人を指揮する事に関してこと才の無いデル・トロであったが、傭兵としての経験は間違いなく本物であり、この場においてもっとも正しい判断の出来る戦士であった。


 あの大きさ、トロールか?いや、トロール独特の刺激臭もない。知識に乏しいあの種族が鎧など纏うなど・・・。他の可能性を考えるならば、ジェネラルクラスのスクワイアゾンビ、か。


 だが・・・。


「ガシャン」騎士が引きづっていた男を持ち上げデル・トロ達を見据える。不味い!


「伏せろてめえら!!」


 鈍重に見えたその身体と裏腹に、騎士の腕は影も残さぬ一振りで人間と言う弾丸を投射する。


「ゴシャッア!メキャバキャッ!!」幾人かの男達を巻き込み弾丸は地面を抉り転がる。着弾付近に留められていた馬達が、縄を引きちぎり一斉に逃げ出す。


「っう、うわあああああ!!?」


「ひゃぁぁぁ!」


「ぎゃあぁッア!?」


 デル・トロ達傭兵団は一気に混乱の渦に叩き込まれた。


 統率を失った集団は脆い。騎士はバラバラと逃げ出す男達を切り伏せる。


 一振りで最低一人。瞬く間に男達は己の身体を二つに切り分けていく。


「慌てるな!散るんじゃない囲むんだお前ら!」


 デル・トロは咄嗟に指示をだすが反応するものはいない。


 くそっ。今の投射で相手が保有する力量を把握したデル・トロは泣きたい気持ちで一杯だった。マトモにやって勝てる相手ではないのは確実。今いる戦力をこれ以上減らしては勝ち目は無い。


 思考もしない魔物であれば俺の策が無くとも勝目も合っただろう。部下にはそれだけの経験は積ませている。たが目の前の化け物は違う。最初の投射は逃げ道を潰すため、馬を狙っていた。おかげで仲間を叩き潰された姿に、馬達は恐怖に勝てず、縄を引きちぎり逃げ出している。バラバラになった俺達を切り伏せる時も、逃げ惑う男達の誘導をしつつ逃げ道を潰しながら、確実に殺し続けている。


 いや、こうなってはもはや時間の問題なのだ。襲撃直後であればまだ勝ちの目は合った。的確に、適切に、連携をとれていれば。いくら実力のおぼつかないグズ集団であったとしても、埋められる戦力差だったのだ。この戦いにおいては。


 気を逃した、千載一遇の、たった一度きりのそのチャンスを。あとは待つしかない、崩され、砕かれ、切り裂かれ、死が自分に降りかかるのを。


 いやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌、嫌だいやだ!!死にたくない、まだ俺は死ぬべきではない。才はあるのだ、チャンスもあるのだ、アレを手にさえ出来れば、俺は正規軍の大幹部になれるのだ。スラムで盗み、殺し、ゴミとさげずまれたそんな俺が!あの澄まし顔した偽善者連中の上に立てるのだ。力が欲しいのだ、誰にもバカにされない。力が欲しいのだ、ひもじい思いをしない為に。力が・・・!


 スッと自分の上に影が落ちた。見上げれば鉛色の騎士が大剣をを振り上げていた。


「くっ・・・!糞がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 デル・トロの抜きはなった剣はその生涯のなかで一番の一振りであった。


 ・・・しかし騎士には届かない。縦に切り裂かれ、二つに分かれたデル・トロはゆっくり崩れ落ちていく。


 絶望に沈むデル・トロの視界に赤い影が映りこむ。ゆっくりと揺れ動くそれは己れの知る生き物と違い、あまりに異質な雰囲気を漂わせていた。彼の知る言葉で表現するな、幽鬼のようだと。


「赤い・・幽鬼・・・・あぁ、アレが・・・。」


 意識はしだいに消えていく、たぎる野望も、儚い願いも、背負うべき罪も、歩んできた全てが嘘であったかのように、真っ白に、消えていく。





 死体の山の前に佇む赤い幽鬼がいた。今だ名の無いそれは溜息をつく。


 幽鬼は辺りを見渡しながら歩きだす。死体の回りに落ちる剣を見つけると、拾い上げまじまじと観察する。


「使えそうだな。」


 そう言うと幽鬼は死体から剣の鞘がついたべルトをはずし、自分の腰にまわす。鞘が長いのかズズズと引きずってしまい、仕方ないと項垂れた後、肩に斜め掛けする。


 幽鬼は再び辺りを見渡しポツリと言葉をもらす。


「やりずぎたかな、これ。」


 赤い幽鬼こと黒須(仮)は頭を抱える。


「アルディオに任せすぎたな、これは。皆殺しはやりすぎだろ・・・うん。」


 黒須(仮)はシェイリアに頼まれ野盗退治を引き受けた。しかし町中に散らばった野盗など捕捉できる術もなく取り敢えず走って探す事にしようとしたのだが。なんとなしにアルディオに「野盗の位置わかるか?」と質問したところ、分かると首を縦に振るので「じゃぁこの町にいる野盗退治、任せてもいいか?」と頼んでみたのだ。


 結果はこの通り。見事なまでに地獄が超地獄に進化していた。どうやらアルディオには人を感知する能力があるらしい。加えてある程度知能があるのか町人を見つけても攻撃する素振りはない。しかし、何を基準にしているか分からないので、今後は熟考して命令をした方がいいだろう。


 それにしても、召喚とは何なのだろうか?やっておいて何だが不思議極まりない代物だ。ポンポンこんな危険な奴を呼び出せるのが普通の召喚士なら、世の中大変な事になる気がしてならない。やっぱり召喚士の才があってのことか?


 黒須(仮)は転がる死体に目をやる。さて、間接的に殺しを行ったのだが葛藤とかを感じない。日本での平穏な生活から考えれば、目の前で簡単に人が死ぬこの光景に平然としているのはおかしい。


 それに言葉だ。俺は先程シェイリアと会話をしたのだが、口の開きなどから日本語を話しているわけでないことに気づいた。しかし実際、それでも俺は言語を理解し、あまつさえ発しているのだ。


 その二つの事から、俺は一つの仮説をたてる。この身体、赤髪の少女が本来持っていたある程度の能力や知識が、黒須トウジの人格に引き継がれている可能性だ。


 召喚術に必要だと思われる魔方陣の知識、言語に関する理解度、魔力操作の方法、漠然と才能があるからと言って、何となしに召喚など出来る筈はない。おそらく俺は無意識に彼女の知識を使ってそれらを実行しているのだろう。


 とすれば、俺がこうして平然と死体の山の前に立てている事も、内包している彼女の潜在意識が可能にさせている、と説明できるのだが・・・。


 もっとも彼女を感じることはこれっぽっちもないし、確定させる要素もないので、これは俺のただの妄想だ。


 ついでに言えば、かなり大穴な可能性であるが神様の代理人であらせられるシァリオのサービスという線も、微妙に無いこともない・・・か?


「・・・・・んー。まぁ、取り敢えず考えんのはこれくらいにして、シェイリア所に戻りますかー。」


 考えた所で答えはでないし、腹も減ってきた。俺はアルディオの肩に乗らせてもらいシェイリアの元へと向かう事にする。


「そういやあのリーダーっぽいの、なんか言ってたな・・・?」


 トウジは振り返り動かなくなった一人の男を見る。思い出しながら彼の最後に見た口の動きを真似してみる。


「あ・・い・・・ゆ・・き?かな?」


 トウジは早々に彼の残した言葉を解読するのを諦め前を向く。

 それにしてもアルディオは何時帰るのだろうか?

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