召喚士されし者 41・師範代、代理である
どうも、どうも。
先行き見えない世の中で、目隠し猿轡で今を生きる、えんたです。
いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます。
さて、相も変わらず、何とも言いがたい文ですが、お付き合い頂けたら幸いです。
では。
キリシマ拳刀術ナダ本部。
アスラ国内でもそこそこ知名度のあるその本部会館に、幼い声が響く。
「えーーーと、ユーキと言います。本業は召喚士です。怪我で休んでるフューズベルトの爺さんに頼まれ、今日から暫く師範代の代理をやりますので宜しく。」
第一室内修練場に静寂が訪れた。
俺の姿を見て、ポカンとする門下生達。
・・・・まぁ、そうなるだろうな。
事の発端は数日前。
シェイリアに相談を受けた時まで遡る。
「ユーキ様、ご相談があります。」
毛玉を抱えたシェイリアが話し掛けてきた。
最近、毛玉子竜こと[ギルデ・ギ・ゾンド伯爵]を見ない気がしていたが、生きていたのかお前。俺はてっきり、この間食べたソテーがお前だとばかり思っていたよ。・・・見かけは本当に旨そうなんだよな。
毛玉が俺の視線に込められた物に気づいたのか、ぶるりと身を震わせる。
因みに、子竜の名前はシェイリアが付けた物だ。それについて、俺は何も言う事は無い。てか言えない。
そんな毛玉伯爵を抱えたシェイリアが、真剣な顔で俺を見ている。
「最初に言っておきます。ユーキ様を責める気は毛頭ございません。」
「お、おう?」
「フューズベルト師匠が倒れました。」
「・・・・・はぁ?」
聞けば、先日俺が殴り飛ばした時以来、元々患っていた病状が悪化したらしい。他の指導役である師範代が全員怪我で治療院行きになっており、無理を通して門下生を指導していたのも原因の1つだとか。
・・・・うん。まぁ、あれだ。
俺のせいだな、うん。
そんな訳で、今俺はフューズベルトの爺さんの代理を務めるべく、キリシマ拳刀術の会館を訪れている。
門下生の一人が笑みを浮かべ話し掛けてきた。
「あーーーー。お嬢ちゃん?何処から来たのかな?お父さんは?」
前世のお父さんは地球にいるな。多分元気に禿げてるはずだ。
「何歳かな?」
「お家はどこだい?」
「飴ちゃん食べるか?」
「練習の邪魔になるからあっちいこうか。」
「はぁ、はぁ、ユーキちゃん。」
「師範の孫かなー?」
門下生達がわらわらと俺の回りに群がり、質問攻めにしてきた。1人怪しい奴がいるのが気になるが、まぁいいか。
それにしても、あの師範代達と言い、この門下生達と言い、あの爺さんと言い、見た目で判断し過ぎるだろ。仮にもこの世界で生きる先輩方がこれで良く生きてこれたものだ。
魔物を筆頭に、精霊だの神獣だの訳の分からない存在が跳梁跋扈する世界で、見かけだけで油断する甘さは命とりになりかねない。かく言う俺も、砂漠では酷い目にあった。あのサボテン野郎、次あったら根絶やしにしてやる。
さてさて、師範代として舐められっぱなしと言う訳には行かないな。取り合えず黙らせるか。
少し後ろに控えていたシェイリアに[やっちゃうぞ]と目で合図を送る。シェイリアはコクンと首を縦に振った。
俺は一番近くにいた門下生を掴む。
「ん?どうしっ━━━」
門下生の1人を宙に放り投げた。
空中を綺麗に一回転してから地面にキスをする。熱烈だ。
驚く門下生をよそに、俺は次の標的の門下生を掴まえる。
投げる。
掴まえる。
投げる。
掴まえる。
投げる。
投げる。
投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる。
一通り投げ終えた俺は、ヤヨイとアルディオを両脇に召喚する。
腕を組み出来るだけ凄んでみる。イメージしたのは世紀末の覇王様だ。
投げられた門下生達の反応はまちまちだ。
驚愕から目を見開く者、痛みに顔を歪める者、顔を赤らめ息を荒くする者、青ざめた顔でひきつる者、青筋をたて怒りを露にする者。
「ドン!!!!」
そんな門下生を前にヤヨイが勢い良く床を踏み鳴らす。
「主様の御前であるぞ!愚図共、直ぐ様頭を垂れよ!!」
殺気の入り交じったヤヨイの声が、門下生達を震え上がらせる。
まちまちだった門下生の顔は、ほぼ全員同じ表情に変わった。恐怖にひきつる顔だ。たまに恍惚した表情でヤヨイを見る者がいるが、まぁ気のせいだろう。
門下生は我先にと頭を下げる。
ん━━。どこぞの御老公みたいだな、俺。
「えーーーと。それでは改めまして、君達の指導を任された師範代代理、ユーキです。宜しく。」
満面の笑みと共に、優しい声で俺は言った。
「拳術の経験は無いので、君達に俺が教えられる事は限られています。精々、魔力操作による身体能力の強化くらいです。でもシェイリアから聞いた話から、君達は基礎鍛練が足らないそうなので組手をして貰います。」
門下生その1が恐る恐ると言った様子で、手を小さく挙げる。
質問かな?
「はい、そこの君!」
「はい!?あ、あの、師範代代理様殿!!基礎鍛練が足らないのに組手を行うのは何故でしょうか。あの、えっと、走ったりとか、腕立て伏せしたりとか、その・・・・」
しどろもどろになる門下生その1。
そんなに怯えんでも。
「理由は簡単だ。俺がそう言った効率の良い鍛練方法を知らないからだ。確かに筋力の向上は見込めないけど、組手なら実戦的な動きを短時間で体に覚えさせる事が出来るしな。必要だと思うなら自分でやるように。」
これも俺の経験からの結論だ。
何事も経験する事が大事だ。つけ加えるなら死ぬ気でやった方が尚良いのだ。ギリギリの中で学んだ事は忘れたくても忘れられない物になる。
「さて、君達には今から中庭の鍛練場に移動して貰う。」
「師範代代理様殿、修練場です。」
俺の間違いを指摘した門下生その2が、ヤヨイに蹴り飛ばされる。
「黙らぬか。愚図その2。主様が鍛練場と言えば、鍛練場なのだ。分かったな?分かったなら━━」
「「「「「「「ハイ!!!!!!!」」」」」」」
門下生達が声を揃え、力一杯叫ぶように返事をした。
「よろしい。主様、どうぞ続きを。」
「・・・・ヤヨイ、勝手に攻撃するな。あとな、俺だって間違えるんだからな?無理矢理通そうとするな。」
「御意でございます。」
目にも止まらない動きだった。コイツは先に釘を刺しておかないと危険だな。
「で、何だっけか。あ、あれだ。修練場だったよな?修練場に行って貰う。そこで俺の召喚獣達と組手を行う。」
門下生その2が手を挙げる。
質問か。
「はい、そこの君。」
「ハイ!師範代代理様殿。召喚獣とは貴女様の隣にいる者達ですか?」
「いや、他にもいるよ。来いっ。」
俺はガイゼルを喚び出す。
いつも通り俺に飛びつくと顔をこれでもかと舐めてくる。
「うっぷ。待て待てガイゼル、おすわり。・・・さて、以上3体の召喚獣が君達の相手をします。」
門下生その3が手を挙げる。
「はい君。」
「はい!師範代代理様殿!それは魔獣ではないんですか?獣人様も混ざっているようですが、あの、危険は無いんですか?」
「え?いや、気を抜いたら、死ぬよ。」
「「「「「「「「「!!??」」」」」」」」」
「はい、全員駆け足。ガイゼルに追いつかれたら、頭からバクリ行くぞー。」
一斉に駆け出す門下生達。
彼らに言葉は無い、ただ必死になりふり構わず駆ける。
そんな後ろ姿を見ているとガイゼルがすり寄って来た。そして俺の顔を覗き込み「バクリする?」と首を傾げる。
しないから。俺を何だと思ってるんだ、お前。
「ならば、尻を蹴りあげますか?」
「止めなさい。」
「御意でございます。」
後ろに控えていたシェイリアが近づく。
「ユーキ様、私そろそろ師匠と師範代達のお見舞いに行きます。・・・・・御手柔らかにお願いしますね?」
心配そうな顔で俺を見る。
「大丈夫大丈夫。死なないようにするから。」
最初こそ不本意な話ではあったが、師範代代理とか中々面白いかもしれない。折角任せてくれた爺さんの為にも、いっちょ頑張ってみるか。
さて、フューズベルトの爺さんが帰って来るまで、約一月。
どこまで強く出来るかな?
駆けていく門下生の後ろ姿を見ながら、彼らの一月後の姿を想像する。実に楽しみだ。




