召喚士されし者 39・キリシマの頂点
どうも、どうも。
いつも読んで頂いている方々、ありがとうございます。
最近、ディズニー映画のジャングルブックが気になっている、えんたです。
小説なんて言うのもおこがましい物ですが、小説って難しいですね。展開とか、なんか色々ね、本当に才能が欲しいです。では。
「・・・・・・・。」
シェイリアは俺の話を聞いて押し黙った。
正座しながら俺はシェイリアの様子を伺う。怒ってるような様子はないが、眉間に寄った皺が悩んでいる事を教えてくれる。
「主様の成す事に物を申そうとは愚かな。主様、この無礼者を処す許可を。」
隣で正座するヤヨイが物騒な事を呟く。
ヤヨイは俺に目配せをする。視線から殺気が溢れだしていた。
何とも物騒な子だ事。我が召喚獣ながら怒りの沸点が低い奴だ。
「止めろよ。怒るぞ。」
「はい。かしこまりました。」
俺の言葉を受けヤヨイは視線を前方に戻す。
先程の殺気は嘘のように消え失せていた。
切り換え早っ。
「はぁ、ユーキ様、話は分かりました。今回は師匠が軽卒だったと言わざるおえません。ですが、今後は多少は手心を加えて下さいね。」
「ん。分かった。けどそれで良いのか?」
「よい。」
背後から厳格そうな声がした。
振り替えると、壁の穴からシェイリアの師匠こと、フューズベルトの爺さんが顔を出した。ダメージは完全に抜けていないのか、その足取りはおぼつかない。
「よもや、ここまでやるとはな。長生きはするものだ。」
「師匠!お体は・・・。」
「いらぬ世話よ。シェイリアの妹よ、本格的にワシの弟子にならぬか?お主ならば開祖様に匹敵する武人になれるぞ。」
駆け寄ったシェイリアを払いのけ、フューズベルトが俺に迫ってきた。
「止めとく。その内死人が出そうだし。」
「抜かしおるわ。気が変わったら何時でもくるがよい。出来ればワシが生きてる内にな。」
「あいよ。」
「ふん、実にふてぶてしい態度だ。まぁ、先程の猫を被ったお主よりは、今のお主の方がマシだがな。」
━━━━っあ。妹設定忘れてた。
「さて、ユーキよ。我がキリシマ拳刀術は如何か、身につけたくならぬか?」
俺の目の前で、フューズベルトが演舞を披露してみせた。
場所はキリシマ拳刀術会館、中庭の修練場だ。
「なりませぬな。脆弱な人の技など。」
「師匠さすがです。」
俺の両隣で意見が別れる。
否定的なヤヨイと肯定的なシェイリアだ。
「・・・・ヤヨイ様が強い事は理解したつもりですが、いささか言葉が過ぎませんか?ユーキ様の召喚獣なら礼節を学ぶべきですよ。」
「いらぬ世話です。シェイリア様。礼節を持って相手をするべき者がいればそう致しましょう。ここには、主様以外おりませぬ故、何の問題もありませぬ。」
俺を挟んで2人が火花を散らす。
いずらいなんてもんじゃない。何これ、地獄か。
と言うか、ヤヨイの奴は帰すか。
「主様、せめて日が沈むまでは、このまま召喚して頂けないでしょうか。久方ぶりの俗世故、この目で見とうございます。」
「・・・・・うん。そっか。」
駄目だ。帰せねぇ。
俺が地獄を味わっていると、此方に駆け寄る足音が聞こえてきた。見れば、先程、師範代達を介抱した時にいた弟子その他だ。その手に1通の手紙を携えて走ってきたようだ。
「師範!お手紙です!!」
「全く、こんな時に何だ!馬鹿者!今客人を迎えておる、後にせい。」
俺、客人になったのか。
あーいや?もとから客人か?
しこたま暴れた後で、どうもしっくりこないな。まだ、[襲撃者]とか[道場破り]とかのが似合っている気がする。
「それがですね、キリシマ四家からの手紙でして!」
「・・・・・何ぃ?」
フューズベルトが眉を吊り上げる。
乱暴に手紙を受けとると、それに目を通してまた眉を更に吊り上げる。
「馬鹿者共が。まだこんな下らぬ事を続けておるのか。」
「師匠、何の手紙なのですか?」
「・・・・うむ。シェイリアよお主も知っておるな?開祖キリシマの技を継ぐキリシマ五家、我がキリシマ拳刀術を始め、キリシマ拳岩術、キリシマ拳竜術、キリシマ拳幻術、キリシマ拳風術。そのキリシマ四家がまた武祭を開くそうでな。これはその招待状じゃ。」
武祭とな?ほうほう、面白そうな話だ。
「それ嫌な話なのか?」
俺の問いにフューズベルトが口を開いた。
「これが普通の武祭であれば、何も言う事は無いのだがな。」
「普通じゃないのか?」
「部外者に聞かせる話ではないが、・・・まぁよかろう。」
レイベウロス・キリシマの技を継ぐキリシマ五家。
彼等は数年に1度武祭を開きキリシマの頂点を決めるそうだ。元々、各家の当主が集まって力比べをしていただけなのだが、時代と共に規模が大きくなり、最早身内だけのささやかな行事ではなくなっていった。
その状況を見かね、最初に手を貸したのがエルキスタ。アスラ国東部に位置する都市である。それ以来、武祭の会場を提供したエルキスタは、この武祭を都市の恒例行事に認定し、大々的に武祭を取り仕切り始めた。
この頃から武祭が本来の主旨から離れていく事になる。
祭りの規模が大きくなればなる程、人が増え、それに伴い金も動いた。武祭は莫大な金が動くイベントへと変わっていった。
当然、武祭に参加した者は祭りを盛り上げるエンターテイナーであり、その功績から多くの報酬が与えられるようになった。それが正当な報酬である事は違いないが、誇りの為に闘っていた元々の姿は完全に消え去ってしまったのだ。
現在、武祭はただの見せ物に変わってしまった。一部の試合では試合を盛り上げる為に演出がなされ、勝者はより大金を積んだ者がなる物になった。闘いの純度は低くなり続けた。
今やキリシマの頂点とは名誉な事ではない。武人としてそこに立つ事は恥なのだ。
金に踊らされ、金に溺れ、金に目が眩んだ愚か者の頂点。
それが今の武祭の、キリシマの頂点であるのだ。
話を終えるとフューズベルトは大きな溜息をついた。
「形骸化した、今の武祭は心を腐らせるだけだ。参加する意味すら無い。」
「師匠・・・・。」
・・・・んー、ものは考えようだとは思うんだが。そんなに悪くない気がするのは俺だけか。
爺さんやシェイリアの様子を見ると、この武祭を嫌悪しているようだ、真剣勝負こそ武人の誉れ的な考えがあるのだろう。
格闘ショーと割り切れば、そう悪い物じゃない気がするのだが。
それにしても武祭かぁ。
コロシアム的な所でやるのだろうか?
俺が呑気に武祭に思いを馳せていた頃。
武祭の裏で暗躍する影があった。
後に、その影が起こすとある事件に巻き込まれる事になるのだが、この時の俺はそんな事知るよしもなかったのであった。




